ファーストステージ②
ニカが入った次の日の昼前――――
近くの公園にて。
「それで、先輩何やっているんですか?」
「何って、ゴミ拾いだけど」
ルイは至極当然とポリ袋を持ち、落ちていた空き缶を拾い、ポリ袋に入れた。
何処にでもある普通の噴水のある公園。
昼間からイチャイチャやっているカップルがいる辺り、リアル・ワールドと変わらない。
「ゴミ拾いって、治安維持は?」
「ゴミ拾いも立派な治安維持だ。公園が汚ければ、心が汚れるだろう? こうやってキレイにしとけば、バカな事をする人間も減る。犯罪を未然に防ぐのも治安維持だ。そして、それが俺達の仕事だ。ほら、お前もやれ」
ルイは軍手とポリ袋を渡した。
「何で、私が……」
ニカはトングでタバコの吸い殻を拾った。
「これが終わったら、人間の取り締まりを!!」
「だから言っただろう? そんな仕事は無いって、俺達の仕事はボランティア活動が中心だ。例えば子守好きの人間の手伝いとかな」
パラダイス・ワールドでは人間の欲望が形になる。そんな人間もいるのだ。
そして、そんな人間達の雑用をするのも、Fランク死神の仕事であった。
「それだけですか?」
「ボランティアを悪く言うな。色々やる事あって奥が深いんだぞ」
ルイはベンチに座ってくつろいだ。
「私には分かりません!」
「その内分かる時が来るから。それに、楽だぞ。ゴミ拾いって、たまに現金を拾ってさ~。勿論、届けないと罪になるけど、殆ど持ち主不明で、俺の物になるんだ。何もしなくっても、金、手に入るんだ。楽な事無いよ」
この世界に金があるのは、人間の中に守銭奴がいるからだ。
「そんなもんですか!!」
「そうだよ。そんなもん」
ルイはタバコをくわえて火を点けた。
「納得いかないです!!」
「はあ、まあ、そんなに言うなら、所長に頼もうか?」
「えっ、いいんですか!?」
「まあ、ボランティア活動が出来ないなら、仕方ないだろう。所長に頼んで、取り締まりの方に回すよ」
「ありがとうございます!」
「別に、礼はいらない。サヨナラだからな」
「何で、そんな事、会いに行きます」
「無理だ」
ルイは言い切った。
「何でです!!」
「お前、本当に何も知らないな。Fランク死神が人間の取り締まりに回った場合、100%捨て石、つまり、囮だよ。Fランクが増えないのはその為だ。Fランクが囮になってAやBなんかの上位ランクが手柄を挙げる。それが死神の社会だ。お前みたいに何も知らない愚か者が足を運べば、消滅は確実だよ。囮を使うとはそー言う事だ」
「納得出来ません!!」
「しなくていいよ。事実なのは変わらないんだから、それでも行くなら、話をつけるぞ」
「お断りします。先輩の紹介じゃ、ろくな事が起きない」
「気が変わったか、そりゃ懸命だ。理由が分かったらさっさと、ゴミ拾え」
「分かりました。拾います。じゃあ、先輩、終わったら手合わせを――――」
「断る。面倒くさい」
ニカが言い終わる前に、ルイが答えた。
「何でです! 私は少しでも早く上のランクに上がりたいんです!!」
「まあ、無理だろうけどな」
「やる前から決め付けないで下さい。これでも、ザン先生が褒める位の腕がるんです!!」
「ザン? あーあ、あいつな」
「上のランクの人を呼び捨てにしないで下さい」
「そうだったな。悪い悪い」
ルイは適当に謝った。
「大体、私が何でここにいるのかだって、理解出来ないのに!!」
「はあ、お前、筆記試験を何だと思っているんだ?」
「それは只の暇つぶしよ。体ばっか動かしても、仕方ないから、休憩を兼ねて」
「お前な、いいか。お前の筆記試験の点数。3教科全部足して、20点だぞ。誰が欲しがる?」
3教科とは簡単な国語、算数と一般常識である。
死神にも読み書きは必要で、適正テストが行われたのだ。
ルイはリフィルから、散々なテストを見せて貰っていた。
リフィルと2人で呆れたのは言うまでも無い。
「実力があれば、問題無いわ」
呆れるルイに対して、ニカは開き直る。
「大有りだ! 常識に欠けた奴を戦闘配備出来るか。だから、ここに来たんだ。お前は落ちこぼれ何だ。全く黙って、ゴミ拾え」
「嫌だ。大体、先輩は出世したくないんですか? 生活豊かになりますよ。待遇もいいし」
ランクによって、やはり、待遇も違って来た。
仕事の内容もそれだけハードになるからだ。
「興味ねーよ」
「その考えがダメ何です。そもそも私との手合わせすら、やる気も見せないし!!」
「無駄なエネルギーと時間を遣いたく無いんだ」
「違います。私に負けるのが嫌何です」
「何でそうなるかな」
「だって、私の方が実力上だから」
「その自信が何処から来る物なのか、一語一句丁寧に教えて欲しいもんだな。まあ、いいよ。そこまで言うなら、手合わせしてやるから」
ルイはタバコの火を消し、ポリ袋に入れると立ち上がった。
「今でいいか?」
ルイは準備運動を始めた。
「はい。先輩どうせやるなら、何か賭けませんか?」
「いいよ」
ニカの提案にルイは乗った。
「んじゃあ、俺が負けたら、1週間お前は俺のパシリな」
「先輩が負けたら……?」
「万が一負ける事があれば、知り合いに頼んで、お前を上のランクに上げてやるよ」
「Eランクじゃ無いですよね」
「んなケチはしないよ。何処でもいいぞ。BでもAでもな」
「本当ですか?」
「ああ、んかし勝てたらな」
ルイは強く言った。
「分かったわ」
ニカは魔法陣を出し、ランスを取り出した。
何処にでもあるノーマルなランスだが、柄の部分はピンクに塗られていた。
「先輩はどんな武器を使うんですか?」
「俺は使わないよ。先輩がハンデも無しにやったら、不公平だからな。お前の攻撃全部避けてやるから、当たったらお前の勝ちだ。時間は所長達が来るまで、つまり昼までいいか?」
そう言い、スーツのポケットに手を入れた。
「はい。分かりました。先輩そんなに余裕で、負けても知りませんよ」
「大丈夫。絶対負けないから」
「分かりました。んじゃあ、行きます。えいやー」
ニカは突き攻撃をした。
「ほら、来いよ」
ルイは子供のように笑いニカを挑発した。