それは1つの終わりであり始まり③
パラダイス・ワールドにあるとある町の、とある事務所。ここが主人公の活動拠点である。
事務用の机が5つ並べられ、近くにはソファにテレビと、くつろぎ空間も同じ所にあった。
とても仕事する環境にはなっていない。
「こら、ルイ起きなさい! 何時まで寝てるのよ!!」
スラッとした高い身長に、丁度いい体格。
ストレートな金髪、透き通ったキメのある肌に、二重の目に青い瞳、高く真っ直ぐな鼻と薄い唇。絶世の美女その言葉は彼女の為にある程の女性が、ルイと呼ぶ男を一生懸命起こしていた。名前はリフィル。
この事務所の一応所長で、1番偉いのはずだが、命令を聞かない男達に振り回されていた。
「うーん」
ルイはソファの上でうつ伏せに、クッションを抱いて寝ていた。
「はあ……」
ため息する姿も又、美しい。
その美しさの価値が分かる男がこの事務所にいれば、彼女のため息も減るだろうが、生憎ここにそんな男はいない。
目の前でのん気に寝ている男。
リフィルの今の状況を分かっているはずなのに、机の上に足を乗せて、我、関せずとゲームをやっている男。
そして――――
「リフィル所長、お醤油が切れたので、買いに行っていいですか?」
隣の部屋にあるキッチンで料理に腕を振るっていた男。
この3人であった。
リフィルのため息は減らない。
「所長?」
料理を中断して、リフィルの前に姿を現した。
二メートルは有にある巨漢、その体にあった筋肉質の体型。
髪の毛は剃り目つきが少し鋭く、右の頬に大きな傷と見た目少し怖い男。名前はロウ。
ロウは見た目とは違い、料理と掃除が好きないい男であった。
「ええ、いいわよ」
「ありがとうございます。それでは行って参ります」
エプロンを脱ぎ、ロウは事務所を出た。
「本当に困ったわ」
リフィルは爪を噛んでいた。
今に始まった事ではなく、事ある毎に起こしていたが、彼はなかなか目を覚まさない。
「仕方ない。レン。スタンガン貸して」
ゲームをしていた、レンと名乗る男を見た。
小さい体に少し細い体型。長くも短くもない青い髪に同じ色の瞳。
まだまだあどけない姿に少し色白な肌と細身の体は、見るからに、インドアな少年であった。
リフィルに名前を呼ばれると、レンはゆっくりリフィルを見た。
「……」
無言で机の引き出しを開け、スタンガンを取り出し、机に乗せ、又、ゲームを始めた。
「ありがとう」
リフィルは机の上のスタンガンを取り、スイッチを入れた。
「いい加減に起きなさい」
ルイの首筋に思いっきり電気を流した。
「あいたたたっ」
電気が体中を巡り、反射的に動き、勢いよくソファから落ちた。
「おはよう」
リフィルはスタンガンを背中に隠し、ルイの顔に近付けて挨拶する。
「あれ? 所長、もう朝ですか?」
のん気に聞く。
この事務所の中では普通の容姿をした青年だった。
少し高い身長に丁度いい体格。黒いスーツに黒い髪に黒い瞳。黒を強調する格好をしている。
顔立ちは整っていたが、少したれ目な目はやる気無さを感じる。
耳には右耳に4つ、左耳に3つのピアスを付け、オシャレには多少気を遣っていた。
それがルイと呼ぶ男であった。
「朝よ。ってか、もう昼よ」
時計の針は12時を指そうとしていた。
この世界にも昼夜は存在する。もっと言えば四季もあった。
それは人間が作った世界だから、人間がそれを望んだからだ。
「あっそう。もう一眠り」
「こら、寝るな」
耳元で大声を上げた。
「五月蝿いな。夢見させろよ」
「全く、本当にルイは珍しいよね。普通死神は夢を見ないのよ。ってか、ここが夢の世界だから、見る夢は無いでしょう」
死神に夢を見る概念は無かった。
疲れて眠る事はあっても、夢は見ないし、ここがその世界で見る事が出来なかった。
故にルイが特殊なのだ。
「見るんだから、仕方ないだろう。なあ、今、とってもいい所だったんだ。無茶苦茶可愛い女の子と仲良くなったんだぜ。ああ、勿体無い」
目の前に超絶美人がいるのに、すんなりと口に出す辺り、ルイと言う男はリフィルを異性として扱っていないようだ。
ここに、リフィルのファンがいれば、ルイは確実に殴られる、いや、殺されているだろう。
「はあ、可愛い女の子云々は聞かなかった事にして、ルイ。今日がどんな日か分かっているの!」
リフィルは持っていたスタンガンを握力で粉々に壊した。
ルイの発言を気にしていない素振りを見せ、かなり、気にしていた。
「知ってるよ。新人が来んでしょう」
ルイは大きな欠伸と一緒に話した。
「分かっているならシャキッとしなさい」
「シャキッとね」
気が進まなかった。
「ほら、迎えに行くわよ」
「行きたくねーよ。何で俺何だよ」
ルイは子供のように、駄々をこねた。
「仕方ないでしょう。あなたのパートナー何だから」
「いらねーよ。そんなの、もっと他に理由あるんじゃ無いの?」
「無いわ。ほら行くわよ。立って、立ちなさい!」
「はいはい」
ルイは重い腰をやっと上げた。
「もう、ネクタイ曲がっているし、スーツで寝るの止めたら?」
リフィルがネクタイを結び直そうと、手を伸ばす。
「いいだろう? 俺のお母さんでも、ましてや彼女でも無いんだ。好きにしてくれ」
ルイは手を払いのけ、自分で直した。
リフィルの顔が膨れる。
とことんリフィルを異性として扱わなかった。
「分かったわよ。もう、行くよ」
「へいへい、待ってろ」
ルイは引き出しの中にある鏡を出し、髪を適当に直し、ネクタイを見た後、同じ引き出しから、金色の懐中時計と真っ黒い手帳を取り出し、内ポケットにしまった。
「んじゃあ、レン行ってくるね」
「……スタンガン」
レンは壊れたスタンガンを見ていた。
「沢山あるからいいじゃない」
「……」
レンは俯いた。言葉にはしないが、落ち込んでいるのだ。
「わっ、分かった。経費で買うから、許して」
「……」
レンは頷いた。
「んじゃあ、行ってくるね」
ルイとリフィルは事務所を出た。
「……行ってらっしゃい」
レンは遅れて返事をした。