大罪の対価⑬
クリスタルが完全に無くなるまで時間がかからなかった。
クリスタルがあった所は、クレーターのように地面に大きな黒い穴が開いていた。
その中央にルイだけが立っている。
「けっ、クズが、粋がるからこうなるんだ。死神は死神らしくしてりゃいいんだよ」
足下に残った小さなクリスタルの破片を粉々に踏み潰し、まだ残っている雨水の含んだ土の中に埋め、完全に消滅させた。
ルイはタバコに火を付け空を見上げる。雨が降ったのはこの辺りだけ、後は晴れ渡っていた。
宙に浮いていた懐中時計は、ルイの所にゆっくりと降りて来て受け取った。
ルイはタバコを片付けると重たい足取りで、穴の外に出ようとしたが、途中で倒れた。
キラの毒は、ルイに取っても毒である。
消滅しなかったのは、強い能力者だから、それだけの違いで体への負担は計り知れなかった。
「うっ、又、この感覚を味わう何てな」
胸を締め付ける思いをした後、自嘲するとルイはゆっくりと目を瞑り意識を無くした。
クレーターの前に2人の男女がいる。キースとカナミであった。
「派手にやりおって」
キースが呆れながら言う。
「カナミ様。これが、ルイの本来の力ですか?」
長く付き合うキースですら、ルイの力の本当の姿を見た事無い。
それを知っているのは、ルイに力を与えたカナミだけである。
「まさか、こんなものではない。この世界を跡形もなく消し去る力だぞ。これはその一部に過ぎない」
(ルイの力が衰えておる。いくら、破壊の力を使ってもこの規模なら、こんな弱るはず無いのじゃが、やはり、ルイ)
カナミは考え事しながら、クレーターを見ると、リフィル、レン、ロウ、ニカがクレーターの中に入ろうとしていた。
「おい、不味いぞ。あやつらを止めねば、あそこはまだ、破壊の力が働いておる。力尽きるぞ」
カナミは必死にキースに訴えた。
「分かりました」
キースは一瞬にして姿を消し、次にはリフィル達の前に立っていた。
「悪いが、ここから先へは行かせません」
キースは大剣を出し、4人の前に仁王立ちした。
「退いてよ。あそこには、ルイがいるの」
リフィルが無理矢理向かおうとしたが、キースが大剣をリフィルの首スレスレの所に向けた。
「知っている。だから止めたのだ。これ以上進むようなら首を落とす。最も、入っても消滅は免れ無いがな」
「それがどうしたのよ。関係無いわ」
「会わない内に、生意気になったな。ルイの影響か?」
「ルイは関係無いわ! 退いてルイが中にいるのよ」
「所長、話しを聞きましょう」
リフィルが突っ込んで行こうとした時、ロウがリフィルの両腕を抑え、それを止めた。
「……その方がいい」
レンも頷いた。
「あの中はルイが放った破壊の雨が充満している。あれを納められるのは、カナミ様だけ」
「カナミ、誰よ」
リフィルは地団駄を踏み、喧嘩腰に言う。
「所長、落ち着いて下さい」
ロウの言葉にレンが大きく頷く。
「まあ、これだから、若い死神は無知でしょうがない」
「何ですって、私はこれでも40年は死神やっているわ」
「だから落ち着いて」
キースの挑発に上手く乗せられている。
「……僕は60年ちょっと」
「レンさんも答え無くっていいから」
「ロウさんはどの位ですか?」
ニカが興味本位で聞いた。
「私は、45年いって無い位です」
「みんなさん凄いです」
ニカは1人感動していた。
「そんな話しをしている場合じゃないでしょう」
ロウが突っ込む。
「あっ、そうだった」
「まだまだ若い。俺は、100年はここにいる」
「……ルイは80年弱」
レンが呟く。
「先輩より上って事! 先輩も凄いけどこの人も凄い」
「そんな歳何てどうでもいいわ。カナミって誰よ」
「カナミ様とは死神を、創り生んだ我々の長、帝です」
「えっ」
リフィルはそれを聞き、徐々に動きを鈍らせた。
「俺はカナミ様の命で止めた。今からこの地を基に戻す。それまで待て、分かったな」
「わっ、分かった」
リフィルはキースの威圧感から、前に進めなくなり、少しずつ顔を暗くし、落ち込んだ。
何も出来ず歯がゆいからだ。
しばらくするとクレーターが光り出し、その光りが穴を包む。
包んだ光りが晴れると、穴は修復され、もとの街の風景に戻った。
「もういいぞ」
キースの隣にすうっと、カナミがやって来た。
「ルイ」
リフィルが真っ先に走り出し、その後をロウとニカが追う。
「全く、相変わらず、人気者じゃのう」
カナミが微笑み、1人残っていたレンに目を向けた。
「主は行かぬのか?」
「いい。みんな行ったから」
「なる程、主、名前は?」
「レンです」
レンは跪き、カナミに敬意を持って接した。
「レンとな。覚えたぞ。立って頭を上げろ」
「はい」
レンは立ち上がり、カナミを見た。
「カナミ様こんな輩の名前何ぞ覚えなくとも」
「いいでは無いか、わらわの自由だ。それにレンは恐らく、キースやルイに近い男じゃ」
「それは一体どう言う意味です?」
「レン。主は生前の記憶を思い出しかけているじゃろう。じゃからここに残った」
「分からない。だけど、帝様が言うのであるなら、そうです。頭の中に見た事の無い風景や、覚えの無い人に呼ばれるのが浮かぶ」
いつも無口なレンが饒舌になったいた。
「やはりのう。リアル・ワールドに足を運んだ。影響じゃな」
「何故、それを……」
「ルイが気にかけておったから。もしやと思ったのじゃ。そうか、主がその大罪人か」
死神はリアル・ワールドの行き来を禁止されている。
禁止した理由は元々肉体を持たない死神に行き場所は無い。
しかし、足を踏み入れられない訳ではなく、死神にも人間にも影響が出る恐れがあるから、禁止しているのだが、レンはその禁を破り、Fランクの配属となった。
「うん」
レンは俯く。
「レンはどうしたいのじゃ」
「僕は」
「ルイのように記憶を持つが故に、辛い運命を背負う覚悟があるのなら、思い出すのも良いじゃろう。しかし、レンにその力が無ければ、全て失うぞ。これは脅しでは無い、事実じゃ」
「分からない……」
「そうか、なら、ゆっくり考える事じゃ、時間は沢山ある。焦る必要は無いからのう」
「うん」
レンは頷き、頭を下げる。
「では、わらわ達は帰るぞ。ルイと話しがしたかったが、この様子じゃ、無理そうじゃからな。出直すとしよう」
「はい。おおせのままに」
キースはカナミの手を握り、特技の瞬間移動を使い消え去った。
レンはルイの方を見た。
(僕はあの人を超えたい)
記憶を取り戻して力が手に入るだけなら、首を縦に振っていただろう。
しかし、対価を支払ってまで、レンは今の生活を失いたく無かった。
(だけど、まだいい)
レンはルイの所に走って向かった。




