大罪の対価⑦
街の中――――
「ほら、ニカちゃんこっちよ」
「はーい」
ニカはリフィルに振り回されていた。
「ニカちゃん。これも可愛いわね。着てみてよ」
荷物が沢山になっても買い続け、ニカに試着をさせていた。
(私は着せ替え人形じゃないし)
それだけで疲れていた。
「所長?」
「どうしたの。疲れた?」
「いえ、そんな訳ではなく」
楽しんでいる美女の目の前でそんな事は言えない。
「お金も心配いらないわよ」
ルイもだけど、この事務所内での無駄遣いが余りにも多い。
予算と給与は他の上位ランクに比べて微々たる物のはずだが、金の巡りがいいのは何故か、ニカは不思議でならなかった。
「そうでもなく、荷物が多くて、もう持てません」
「あっ、それもそうね。ニカちゃんの荷物沢山だわ。じゃあ、今日はこの位にしましょう。ニカちゃんに似合う服沢山買った事だし、スイーツ食べて帰ろう。美味しい所あるのよ」
「はっ、はい」
(結局、所長が楽しんだだけじゃん)
ニカは苦笑いを浮かべた。
「あれ? 甘いの嫌いだった?」
「いえ、先輩もそうですが、何でこんなに楽しめるのかな~って、思いまして」
「うーん。上手くは言えないけど、ここがパラダイス・ワールドだからかな~。死神にだって心あるでしょう? 必要無ければ、そんな感情も無かったと思うよ。でも、それがあるのは、この世界で死神は感情を必要としたから、この世界は人間が作りし世界で、何でも揃っていて、興味の尽きない世界になっているでしょう。心があるのも楽しむ為なのよ」
(先輩と同じだ)
「まあ、ルイに教わったんだけどね。ああやって、心の底から世界を愛しているから、見習ったの。まあ、それと同じ位私も愛して欲しいんだけど。あっ、着いたわ」
リフィルとニカは喫茶店の前に立った。
「色々言ったけど、この世界は死神ですら、絶望しちゃダメなのよ。昔の私みたいに」
「所長?」
「さあ、中に入ろう」
リフィルが扉を開けようとしたが、手が止まった。
「久しぶりだな。リフィル。会いたかったよ」
背後から声がした。
リフィルのいた空間だけ、クリスタルの部屋となった。
「キ、ラ……」
リフィルの声が恐怖で凍り付き、動けないでいた。
「まさか生きていたとはね。あの男の力か、まあ、いい。リフィル覚悟しておけよ。あの男も」
「うっ」
リフィルが後ろを振り向くと、男の姿は無かった。
「所長? どうしました? 顔色よくありませんが」
ニカが声をかける。
「ニカちゃん。ゴメン気分が悪くなっちゃった。帰りましょう?」
「私は構いませんが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ルイに会えばすぐ良くなるわ。もう、帰って来ていると思うしねっ」
「はい」
ニカは元気に返事をする。
二人は、そのまま、事務所に帰って行った。
リフィルとニカが事務所に戻るとルイとレンがゲームをしていた。
「なあ、この武器トレードしてくんない?」
「やだ」
「そこを何とか」
ルイはレンにおねだりをしている。レンはこの辺りでは有名なゲーマーであった。
ボランティアの一環でゲーム大会もよく開き、評判もいい。
ルイもゲームの中ではよく頼っているようだ。
「所長、ニカさん。お帰りなさい」
ロウが出迎える。
「只今。仕事どうだって?」
「ええ、無事に終わりましたよ。流石にのど自慢達が集まっていました」
今日の奉仕活動はのど自慢大会の音響と照明の仕事だった。
晴れ姿を見せるのが、好きな人間も勿論いる。それを叶えるのも死神の仕事であった。
「そう。良かったわ」
「それより、所長、元気ありませんが何かありましたか?」
「それだけど、私、ルイと話したいの。みんな席外してくれないかな。ルイ、いいかな?」
ルイは一瞬リフィルを見る。
今にも泣き出しそうなリフィルの姿を見ると、ルイはゲーム機の電源を切った。
「分かった。いいよ。つー事だ。宜しく頼むよ」
「分かりました。レンさん。ニカさん出ましょう」
「分かった」
「よく分からないけど、先輩が言うなら」
「では、行ってきます」
3人は事務所を出た。
「何処に行きます?」
「……ゲーセン」
「レンさん。2人の時ならまだしも、ニカさんがいますから、別の場所にしましょう」
「あっ、別にいいですよ」
ニカは気を利かせた。
レンはルイと同じように長い事死神をやっていたが、まだまだ子供だった。
「分かりました」
しばらく、事務所内にまで、声が響いていたが、徐々に無くなり、沈黙が襲った。
「全く、愉快な奴らだ」
ルイは笑っていた。
「ねえ、ルイ」
目で訴えている。
「分かってる。キラの事だろう?」
「どうして」
「キースから聞いた。復活したってな」
「じゃあ、やっぱり……」
「会ったんだな」
「ええ、私」
「怖いんだろう?」
「うん」
「所長、大丈夫だよ。又、倒してやるから」
「うん。でも、何故、蘇ったのか……」
「キースの話しじゃ、クリスタルの力らしいんだ」
ルイはタバコを出し、吸い始めた。
「あいつの能力に関しては俺より所長の方が詳しいはずだ」
「まあ」
「その力を基に死神の魂を取り込んでいた。その時に再生能力も手に入れたみたいなんだ」
「そんなの聞いた事無い」
「誰にも話して無いだろう。所長を捨て駒にするような男だ。恐らく、所長ですら、信じていなかったと思うぞ。でなければ、あの中で見捨てたりしないだろう?」
「そうね」
「あいつはその備わった再生能力であいつが残したクリスタルから蘇った。これは俺の憶測だが、あの部屋にあった鏡はあいつ自身で何だかの契約を交わして、いざと言う時の為に備えていた。時間がかかったのは、そこまでの再生能力で無かったから」
「だから、今、何だ」
「恐らくそうだろうな。全く、執念深い奴だ」
「ねえ、ルイ。あの時の事、もう1度聞いていい?」
「何だ?」
「何故、私を助けたの? しかも危険まで犯してここの異動だけに済ませて、私は死神を……」
「おっと、それ以上はタブーだ。言っただろう? 俺にも分からないって、ただ、助けなくっちゃ後悔する気がしたんだ。実際、助けて、俺は後悔してないよ。所長、不満か?」
「ううん。全然、私はルイがいるだけで幸せだから、だからルイ。いい加減」
「所長!」
ルイは正面にいたリフィルを床に寝かしつけ、リフィルを庇う形を取った。
その後ルイの背後にあった、窓ガラスが一気に割れ、2人の所に飛んできた。
「ルイ?」
リフィルは顔を赤くした。
「何でもいい。このどさくさに」
ルイの体をしっかり掴んだ。
「所長、何考えているんだ。起きろ、来るぞ」
ルイは無理矢理起き上がり、リフィルを起こして、リフィルの腕を握った。
(もう、何でこうなるのよ!)
リフィルはルイに連れられ、事務所を出た。
(でも、いいかも)
リフィルはこれから起こる事に何処か期待していた。




