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部屋に戻ると彼女はテレビを見ていた。
僕は彼女をこんな汚いボロアパートで僕みたいな男と暮らすのはいろいろと問題があるだろうと思い教会に帰ってもらおうと思った。
だけどどのタイミングで話を切り出そうか迷っていると彼女から話を切り出してきた。
「やっぱり私がここに住むの反対なの?」
「まぁな」
「……そっか、やっぱり私が『イノセントチャイルド』だから?」
『イノセントチャイルド』は医療機器『ライフ』の診断で20年も生きられない、子供のことを政府がそう呼称している。
彼女の表情が悲しげなものに変わった。
「いや、そうじゃない。柊、お前、歳は?」
「夏海でいいよ。16だけど」
「16の女の子が僕みたいなのと一緒に暮らして不安はないの?ほら、さっき見たいな事もあるし」
「さっきみたい?……アッ、この変態」
腕を組んでプイッと顔を背けてしまった。
「まぁ落ち着いて、今後こういうことがあるかもしれないのにそれでも大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないけど、まぁ今回のことは私にも1割ほど悪いところもあったわけだから次からは気をつける」
「1割かよ、僕も気をつける」
「じゃあ住んでもいい?」
「まぁあのエセ神父にもいままで育ててもらった借りがあるからしかたないか」
「やった〜、じゃあ改めてよろしく!」
こうして柊 夏海と言う女の子を預かることになった。
夏海が来た時点で僕がどう足掻こうと結局こうなってたのだろう。
だがこうなってしまった以上避けられない問題が出てきた。
「あのな、夏海、心して聞いて」
「ん?どうしたの?」
「今月の生活費が底を尽きた」
「まっさか〜冗談でしょ?」
「冗談でそんなこと言えるわけないよ、手持ちも通帳も底を尽きた。さっきのカレーの材料で全てなくなった」
「え?じゃ、じゃあ給料日まであと何日?」
「今日が18日だからあと1週間」
「い、1週間もどうやって過ごすの?」
「夏海が作ってくれたカレーで過ごすしか」
「バカ!無理に決まってんでしょ!あとちょっとしかないし仮に残ってても腐るよ!」
こんな調子でこの先2人で生活なんてできるかどうか僕も不安になってきた。
「あ!そういえば私のカバンにいざという時に使えって神父に言われてたものがあったんだ!ちょっと見てみる!」
そう言うとキャリーバッグをごそごそと漁り始めた。
僕と対面して話している夏海の後ろにあったのでそのまま後ろを向いている状態なのでお尻が俺の方に向いている。
ホットパンツ越しに下着のラインが浮き出てとてもエロい気持ち…いやいや、目の保養になる。
「これだ!」
「なになに、『困った時に使いなさい』よし、開けてみよう」
夏海が開けた茶封筒の中には2万円が入っていた。
財政難のくせにこんなことしてて大丈夫なのかと言う気持ちもあったがなんにせよ1週間は持つだろう。
「よかったー。このまま1週間水で過ごすことになってたよ」
「ほんとよかった。1週間後ってことは25日だよね?」
「そうだけど?」
「だったら遊園地連れてってよ!」
「いやだよ!なんで!」
「私ね、8月25日が誕生日だから。ねぇいいでしょ?」
「えー、でもせっかくの休みなのに…」
「私の裸見たくせに」
「あ、あれは不可抗力でしょ!?」
「そんな言い訳通用しません!でも、遊園地に連れてってくれるなら許してあげてもいいんだけどな〜」
「そんな無茶苦茶な!」
「いいんだよ別に、でも私口軽いからなぁ〜、近所の人に透さんに裸見られたって言いふらしてしまうかも〜」
「ま、まって!わかった!連れてってあげるから!」
さすがにそこまでされたらここら辺じゃ生きていけなくなる、と言うか社会的に死ぬ。
夏海の作戦にまんまと乗っかってしまう僕も僕だがまぁしょうがない。
「やったー!!じゃあなにに乗ろうかな〜。ジェットコースターは外せないしメリーゴーランドにも乗ってみたい!あと観覧車!」
彼女の目がキラキラと輝いて見えた、それほどまでに嬉しかったのだろうか。
こうしてみるとまだまだ子供だな。
何気に僕も心の片隅で少し楽しみにしていた。