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定食屋についた僕たちは席についてメニュー表を手に取った。
「とりあえずなににする?私はカツ丼」
「ちょっと待ってください……、うーむ……」
「優柔不断だね〜」
「いやー久しぶりのまともな飯ですから迷うんですよ」
「よし!じゃあ僕もカツ丼で!」
僕たちは定食屋のおばちゃんに注文した。
先輩の注文するスピードはいつもめちゃくちゃ早くていつも僕が待たせてしまう形になる。
これは僕が悪いのか先輩の注文スピードが異常に早いのかはわからない。
そんなことを思っていると先輩は両肘をついてまるで取り調べをする刑事みたいに話を始めた。
「じゃあなんで今日遅刻したのか聞かせてもらおうかな」
「そ、そんなにきになります?」
「だって君はいつもみんなよりも先に来て仕事を始めてたじゃない。それだけでも気になるのに上司にも理由を言いたがらないなんてそりゃ知りたくもなるよ」
「寝坊ってことにしてもらえませんか?」
「ダメ、だってただの寝坊なら理由を言えるのにそれを言わないってことはなにか大変なことがあったんじゃない?」
なかなか鋭いなこの人、探偵にでもなった方がよかったんじゃないか?
「う〜ん……、わかりました、でも誰にも言わないで下さいよ」
「そんなことしないよ。一度でも君の悩みを他人に話したことがあったかい?」
「ないですね。じゃあ簡単に言います。今朝僕が子供の頃お世話になっていた教会から女の子がきてウチで2年間住まわせて欲しいと頼まれたのです」
「うん、それで?」
「家を出る前にその子が来てこの事態にパニックを起こして遅れたというのがことの顛末です」
「なんだそういうことか、でも君はあれだね。突然の出来事を受け入れられないんだね」
「えぇ、まぁ」
「それだったら今日は定時で上がった方がいいんじゃない?」
「でも仕事が…」
「私が君の仕事引き継いでおくからさ」
「いや!さすがに悪いですよ!」
「気にしない気にしない、上司にもあとで言っておくからさ今日は定時で上がりなさい」
「本当にいいんですか?」
「あぁ!私と君の仲だろ?」
「ありがとうございます!」
「私から一つ忠告しておくよ。玄関を開けるときは気をつけてね」
定食屋でカツ丼を平らげた僕たちは田所先輩の負担を少しでも軽くするように仕事のスピードを倍にした。
定時になって家に帰る途中に先輩に言われたことが頭からどうしても離れなかった。