「じゃあなんなんだこれは!!」
「美琴、来客だ。」
「あん?」
さっぱりした屋敷に限って、意外と部屋数が多かったりする。まさにそれの典型がここの民宿だった。昨日まで人が泊っていた部屋を掃除しながら、美琴は父親の声を聞いた。
「お前のー、友達のー、お偉いさん!」
あぁ、
「政長か。」
ため息交じりに声を出した。
──────────あいつが来るときは、ろくな話題もってこねぇからな。
「親父、今行く。」
軋む階段を降り、玄関へ。開かれたドアの先には見慣れない少女と立っている幼馴染が立っていた。
「久しぶりだな、美琴。」
聞きたくもない声、なぜこんな輩が幼馴染なのか、と思うことは屡。
「あぁ、そのガキは?」
「未来からの客だ。」
「またか。残念だが、部屋はいっぱいいっぱいだ。他をあたってくれないか?」
そうすると、政長が肩に手をまわして声をひそめ、
「お前にしか頼めないんだ。これならいくらでもある。」
と、親指を人差し指を合せ小さな丸を作った。
「ほう、聞きなれた金額じゃあ受け付けないぜ。」
そういって、両者ともにやけながらミチコをチラ見した。
ミチコは気分が悪かった。
「御前ら、何もかも金で片付くと思うなよ。」
「思ってはいない。ただおまえのことを考えて──────ぐおっ」
政長のむこうずねにローキックが入る。
「じゃぁなんなんだよ!このサインは!!」
ミチコも同じように小さな丸を作る。
「なかなかいい足技だね!君、見込みあるよ。」
「うっるさいな!もう!今はこっちの話ししてんのよ!」
さらに丸を前に突き出し強調する。
「気荒な女の子は嫌われるよ。全く。とりあえずは、ここに居させてあげるから。ね、だから落ち着こう。」
息の荒いミチコに、美琴はそういった。動きにくい服装でよく動けるもんだ、そう確認した後、ミチコの腕をつかみ強引に中へと押し入れた。
「てんめっ!何すんだよっ」
「だから、ここにいたいんでしょ?」
「別にいたいわけじゃないし!帰れなくなちゃったの!」
問答無用、といいながら階段の奥へ消えていった。
「じゃあ、すみません椎さん。よろしくお願いします。」
「いや、遠慮することないだよ。ここは人を匿ってやるとこけぇ。きにすんなや。」
ほんとにいい家族だな。俺と違って。
政長はしみじみ思いながら宿を後にした。