「他でもねぇ、山城の国だ。」
不可解な金属音が城付近で聞こえたのを畠山義就と政長は聞き逃さなかった。「なんだ」と思って両者ともに振り返った先に見えたのはひらひらした布の下から長い足を見せている━━外見から言ったら━━見たことも無い少女だった。金属音と同じくらい不可解な格好に思わず驚いた義就と政長は、久しぶりにたまたま顔をあわせてしまい口論してしまったのにもかかわらず、顔を見合わせ、少女の下へ二人で恐る恐る寄り添いながら走った。
「ねぇ此処はどこ?」
と先に口を開いたのは少女だった。
「他でもねぇ。ちっぽけな山城の国だ。」
義就は答える。少女は顔を顰めた。「知らないなぁ」とぼそぼそ言いながら立ち上がった。
「貴様のその格好は何なんだ?」
政長も少女と同じように顔を顰めた。
「おー怖。答えるのめんどくさいからざっと説明するよ。うん。本当にめんどくさい。あたしはマチコ。7月生まれのO型ね。このカッコはね学校に行く為に着てるいわばユニフォームみたいなもんだよって見た感じ此処は昔だね?御前さんたちが着ているその服と一緒だよ。ほら、身分によってきっときているものが違うでしょ?尤も着てるものは相当高価なものみたいだけど。」
一息ついてハッとマチコは気がついた。血液型の発見はもう少し先だった(1900、オーストリアのカール・ラントシュタイナーが発見している。)。
「血液型ぁ?」
と、義就。案の定だ、とミチコは笑ってしまった。
「いや、つっこむのそこじゃねぇだろ。まぁよい。珍しいお客みたいだな。城下の細内の言っていた金属音はこれじゃないか?」
「ほう、あそこのおやっさんもたまには本当のことを言うんだな。」
「細内ぃ?」
義就が血液型を尋ねたときと同じ形相で反応した。どうやら異世代からの人間はミチコ以外にもいるらしい。ミチコは吃驚してしまった。それ以上に負けず嫌いの性格から「負けた。先着がいたか」、ということのショックの方が大きかった。
「でも今回のは手ぶらだな。ふふん。帰れなくなったとか?」
政長は笑いながら座っているミチコを見下して言った。彼女も負けじと睨み返したがどうにもこうにも勝ち目がなかった。所謂、図星。
「御前さん言っちゃいけないことを言ったね?」
義就が手を差し伸べてくれたのでそれをつたって立ちながら、冷や汗をかきながらミチコは言った。相手二人は苦笑していた。「ついてきなよ」と政長が言ったので汚れた尻をはたいて大人しくついて行った。