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きっと私は幸せです

作者: 茅羽はとり

吐く息が白くなり始めた今日この頃。

突然とっている講義が休講になった為、中途半端な時間に帰ることになってしまった私はたまに飲みたくなるなるなコーンポタージュスープの缶を買い、ただいま絶賛バス待ち中となっている。

朝とお昼の中間のこの時間に帰る人は少ない。

それはイコールバスの本数が減るということ。

そして基本的に大学というのは土地が必要な分ちょっと辺鄙な場所にある。

すなわちそれは、もともとバスの本数が多くないことを意味している。

結果、私は少なくない時間を潰さなければならないのである。


暖を取るためにコンポタ缶を両手で持ち息で冷ましながら口に入れる。

ちなみに私は猫舌なので冷まさず飲むとかダメ、絶対。

いつもなら音楽を聴きながら読書というのがお決まりパターンだげど、今は缶を持ってるので本を読めない。

音楽は聴けるけどいつもは騒がしいバス停が静かなのも珍しいので今はこのままでいいや。

いつもはあまり座れないベンチも今は独り占め、いい気分だ。

周りは静か、コンポタおいしい、なにこれ最高だ。

なんて思ってると隣に人がやってきた。

そうですよね、こんな素敵空間長くは続きませんよね。

いくら独り占めだからと言ってベンチのど真ん中に座るなんてしてないので、新たに来た人が隣に座るかなと思っていたのが、その人は立ったまま。

別段珍しいってわけでもあないけど、なんか視線を感じるというか・・・

というわけで、意を決して隣を見上げてみた。

そして私は目を丸くすることになる。

隣に居たのは背の高いイケメンさんだった。

好みはあるが10人に7人は彼をイケメンというだろう。

ちなみに私にはドストライクお顔です。

ただそんなことよりも私が驚いたのは彼の格好がTシャツにGパンだということだ。

いやいや別にそのTシャツがダッサイとかど派手カラーとか、Gパンが超短いとかずたぼろに破れてるとかそんなのはなくて、むしろなんでそんなシンプルな装いでそんなにかっこいいんだって言いたくなるくらい決まっている。

ただ今は冬なのだ。

私の吐く息が白くなり、コーンポタージュスープの缶が自販機に普通に並び始めている時期なのだ。

それなのに、ああそれなのに、なぜこのイケメンさんは真夏の装いをされていらっしゃるのか、しかもなんで私を見てるのか・・・

何か言えるわけもなく、だからといって顔を背けることもできない、はっきり言って私パニクってる。


「好きです、俺と付き合・・・・っくしゅん!!!!!」


・・・・・・・うん、そりゃくしゃみも出ますよ、この寒さですから。

あなた夏仕様だもの。

とりあえず私はパニクったまま、反射的に手の中にある暖、すなわちコンポタ缶を彼に差し出したのであった。

私の行動に少し驚いたように目を見開くと彼は照れくさそうに缶を受け取った。


「ありがとう。」


うん、さっきは呆気にとられていたけど、声も素敵だ。

私の好きな声、あと少し低めに喋ってくれた日には・・・・コホン、いかんいかん自分の趣味に思考が飛びそうになっている。


「隣座ってもいいかな?」

「あ、はい、どうぞ。」


別に私の許可を取る必要はないんだけど、それを言う必要はないですよね。

それにしても間近になるとますます彼の格好が寒く見えて仕方ない。

初対面の人にどうかとは思うけど、私は自分の巻いていたマフラーを彼に差し出すことにした。


「え?」

「・・・見てるとこっちまで寒くなるので、よければ使ってください。」


あなたの為というよりは私の視覚的効果の為に巻いてほしい。

彼は再び照れくさそうに笑って私のマフラーを首に巻いた。

・・・・夏の格好にマフラー・・・ごめん、余計わけわかんない人になってしまった・・・


「あのさっきのことなんだけど・・・」


コンポタとマフラーのおかげか少しだけ頬を朱く染めながら彼が口を開く。


「さっき・・・」


はて、さっきとはなんのことだろう?

なんかいろいろありすぎて・・・

マフラーを渡したこと、いやコンポタを渡したこと・・・?

そもそもなんで私は彼にコンポタをあげたのか、それは彼が真夏の格好でバス停に来て座らずに私を見ていて盛大にくしゃみをしたからだ。

ん?そういえばくしゃみをする前に彼は何かを言っていたような・・・


「好きです。」


そうそう、そんなことを言ったあとに盛大なくしゃみを・・・


「え?」

「俺と付き合ってください。」

「・・・・・罰ゲームですか?」


聞くと彼は目線をはずした。

うん、これ絶対罰ゲームだ。


「大変ですね、寒い中真夏の格好させられて見ず知らずの私に告白なんて・・・」


怒ってもいいかもしれないけどあまりに不憫すぎて怒りよりも同情が勝ってしまう。

もしかしたらこのバス停に私が来るまでずっとこの格好でどこかで待っていたのかもしれない。


「それは誤解だよ!!」


きっと生暖かい目になってたであろう私に向かって彼は声を荒げた。


「私怒ってないから大丈夫ですよ?」

「そうじゃなくて!!!」


そう言うと彼は一回大きく息を吐いて私をまっすぐ見つめた。


「確かに罰ゲームではあるんだけど、内容はこの格好をして好きな人に告白するってものなんだ。

君にとったら見ず知らずかもしれないけど、俺にとっては見ず知らずじゃない。

君は俺の好きな人なんだよ一花ちゃん。」

「あれ、名前・・・」

「好きな人の名前くらい知ってて当たり前だよ、道羽一花ちゃん。

一花ちゃんは知らないみたいだけど崎山教授の授業が一緒なんだ。」


確かに私は崎山教授の授業を受けてるけどこんな人いたかな?


「俺は塔月廉、一花ちゃんの一つ上の21歳。」

「はぁ・・・」


急に自己紹介されましても、そして普通に名前呼び出しフレンドリーだし・・・


「やっぱり一花ちゃんは優しいな。

一花ちゃんにとっては見ず知らずでしかもこんな格好してる俺なんかに飲みかけのコンポタくれたり、自分が使ってたマフラー貸してくれたり。

一花ちゃんのぬくもり暖かい・・・缶も永久保存したい・・・」


なんか最後ぼそぼそ言ってたけど何て言ったんだろ?

ていうかすごく幸せそうな顔してる。


「崎山教授の講義の時は早く来て一番前に座ってて、あ、だから俺のこと知らないと思うんだ。

俺はいつも一花ちゃんちょっとの後ろに座ってるし。

教授が資料配布するときとかも率先して手伝ったり、本当は教授と話したいことがあるけど他の人がいたりすると身を引いたりして優しいし。」


確かに崎山教授の講義は一番前に座って資料も配ってる。

でもそれは優しいとかじゃなくて、私は崎山教授の講義が目当てでこの学校に入ったわけだし、ゼミはもちろん崎山教授のゼミに入りたいわけで、だから今から顔を覚えてもろおうという打算的な考えなのだ。

身を引いたりっていうけど、ただヘタレで悪目立ちしたくないから必然的にそういう行動になってるというか・・・


「崎山教授が女性でよかったよ、もし男だったらどんな手使っても学校からいやこの世から抹殺してるとこだった。」

「え?」

「なんでもないよ?」


またなんかぼそぼそ言った気がしたけど、爽やかに否定されたら何も言えない、まぁ大したことではなかったんだろう。


「俺、本当に一花ちゃんのこと好きなんだ、付き合ってもらえないかな?」

「えっと・・・あの・・・」

「うん?」

「なんで私なんでしょうか?」


彼が私のことを知ってるのは本当のことみたいだし、罰ゲームにしてはここまでくるとたちが悪すぎる。

だからきっと罰ゲームではないんだろう、でもそれはそれでおかしいのだ。

なぜ私なのか?!

言いたかないけど、私は平凡だ。

身内や仲の良い友達にはかわいいと言ってもらえるくらいの顔だ。

なのに話したこともない私を一体どうやって好きになるのか、ありえない。


「なんでって聞かれると困るな。

さっきも言ったけど一花ちゃんの優しいとことか人に気を使えるとことか好きだし、でも俺以外には優しくする必要ないと思うんだよね、男って単純だからちょっと優しくしたらすぐ勘違いする生き物だし。

同性はまぁ仕方ないから許すけどそれでも必要以上には優しくする必要ないからね。

あとこうやって話すときちゃんと目を見てくれるとこも好き。

一花ちゃんの黒い瞳に俺が映ってるとか嬉しすぎる、他の奴なんて二度とその瞳に映らなければいいのに。

そうそう一花ちゃんが好きなこと話してる顔とかのふにゃりって感じな笑顔もかわいくていいよね。

あ、一花ちゃんの好きなマンガ、今度展示会するよね、一緒に行こうね。

俺もともとはあんまマンガとかアニメ見てなかったんだけど、一花ちゃんがそういう話できる人がいいって言うの聞いて興味持つようになったんだ、さすが日本のサブカルって言われるだけあって奥深いしおもしろいよね。

今度一緒にコスプレとかしてみる?興味あるって言ってたよね、あ、でもそんな姿他の奴に見せたくない、まぁ俺の部屋だけですればいいか、というか普段の姿だって誰にも見せたくないんだけどもうこのまま俺の家の住んでもらうべきかな・・・」


えー・・・・となんかいろいろ言われすぎて頭がついていけない。

ただ確かに私マンガ・アニメ好きないわゆるオタクです、友達も同類が多いです、けどなるべくその話は学外でするように友達とも心がけているのです。

だってどんだけ日本の経済をオタクが支えていても世間の見る目は冷たいものあるからね。

展示会も行く予定ではあったけど、なんか一緒に行くこと決定されていたような・・・

コスプレはしてみたいはしてみたいけど、てかイケメンのコスプレみたいかも。

この人ならあのキャラとか似合いそう・・・ってそうじゃなくて!


「まだまだ言い足りないくらいに俺は一花ちゃんのこと好きなんだけど、続ける?」

「イエ、ケッコウデス。」


これ以上は聞いても頭に入らない気がします、ただでさえたまに聞き取れてなかったりするし。


「じゃあ俺と付き合ってくれる?」

「えっと、それは・・・」


どうしたらいいのか本気でわからない。

私ごときにこんなイケメンさんが告白をしてくれた、きっとまたとない機会だ。

でも私はこの人のこと全然知らないわけで、そんな人とお付き合いなんてできるのだろうか・・・

てかそもそも好きとかの嫌いとかの感情も生まれてないのですが・・・


「俺ね、一花ちゃんが望むことなら何でもしてあげたいんだ。

例えば・・・」


そう言うと彼は急に距離を縮めて私の耳元に口を持ってきた。


「一花、好きだよ。」


・・・・・・・・・・・はうわっ!!!!!

て、て、低音ボイスで耳元で囁かれた!!

なんでなんで私が声フェチってしかも低音ボイスが好きって知ってるんですかっ!!!


「一花のこと誰よりも大切にする、何者からも守ってあげる、だから俺に囚われて。」


やばいやばい、言ってることが聞き取れない、ただただ声が、好みどんぴしゃな声が耳にダイレクトで聞こえてきて・・・


「一花、“うん”て言って。

俺と付き合って。」

「・・・うん。」


鈍った思考能力で発したこの一言が今後の私の人生が大いに変わることになるとはこのとき思いもしませんでした。




その後、いろいろありながら本当にしぶしぶ仕方なくという感情を隠すことなく廉さんのお友達に会ったときにお友達は教えてくれました。

あれは罰ゲームと言いつつも、廉さんが負けること前提でやったゲームだと・・・

他の人が負けたりしたら自分たちはどうなってたかわからないと。

そしてお友達さんたちは言いました、あれ以上私と話さずにいたら廉さんはきっと私を誘拐しただろうと・・・


イケメンで私のことを大切にしてくれる素敵ボイスを持った彼氏ができた私はきっと幸せです。


流行りのヤンデレを目指してみたのですが、これってヤンデレですかね?

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