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詐欺師と嘘 5


 スカイツリーが臨める高層ビル。その一番下の、オートロックの入り口の手前。

 部屋番号と呼び出しボタンを押す。無反応。あきらめてまたあとで出直す───わけなく、呼び出しボタンを連打した。ごめんねシリアスとか関係ないんだ。

『は、い』

 人差し指が痛くなって来た頃、苛々とした声でフルミが出た。カメラ映像に禄に目をやっていないらしい、敵意丸出しの声だった。

「こんばんは」

『は。え……ミカゲさん?』

「いきなりごめんね。寒いから入れてくれる?」

『わ、分かった』

 鍵が解除され自動ドアが開く。ありがとー、と声だけ残して中に入り、エレベーターで部屋のある階まで上がった。階につきワンフロアだが、フルミは玄関前にいた。

「……驚いた。本当にミカゲさんだ」

「急に来てごめんね」

「いや、急っていうよりあのインターフォンの連打が……本当にミカゲさん……?」

「いやほんとごめんね」

 驚きからまだ抜けきれないフルミに中に通してもらう。ジャケットは脱いでネクタイも外してはいたが、まだ喪服のままだった。微かにアルコールの匂いがする。

 部屋の中は前回と同じく、ある一部を除いて小奇麗に片付いていた。机の上にあった書類をぶちまけたのか、床に一部書類が散乱している。それに冷めた眼をやり、靴下のまま踏み付けてフルミはソファーに座った。そのことについてお互い何も言わない。ソファーの前のローテーブルには酒の瓶と飲みかけのグラスがあった。

「……大変だったみたいだね」

「え?」

「その様子見ると」

「……ああ。うん。まあ……ミカゲさんも、何で喪服なの?」

 答えず、真っ直ぐ見据え返す。ああ、と、脱力したようにフルミは笑った。

「来てたんだ。そっか……どうやって知ったの?」

「同級生から連絡が来て。そんなに出回ってはないみたいだけど」

「そっか。まあ、いずれは分かる話だし……ありがとう、来てくれて」

 それは焼香なのかこのマンションになのか、分からなかった。だから首を横に振って答えると、フルミはもうひとつグラスを出してそれにお酒を注いでくれた。

「まだ終わってもいないだろうけど。でも、お疲れ様」

「ありがとう」

 グラスは打ち合わせない。けれどお互い少しだけ掲げてからそれを口にする。度数の高いそれが喉を焼いていく。

「……相手がほしかったんだ。だから助かった」

「そっか」

「最初どこのどいつかと思ったけど」

「ごめん」

「いやいいよ。びっくりしたけど、なんていうか、うん……妙に気が抜けたから」

 力なく言われて罪悪感だけが募った。

「……あと一ヶ月でコウが目を醒ますと思う?」

「……どうしたの?」

「例えばだよ。どう思う?」

「……眼は覚ますよ」

 思ったことを素直に言うことにした。

「けど、それが一ヶ月以内かどうかは分からない」

「……だよね」

「どうして?」

「……俺、思うんだ」

「……」

「コウは」

うつむいた瞳からぽたぽたと水滴が落ちる。




「コウはもう、目を覚ましたくないのかもしれない」




 誰も言わなかったことを、ついにこの男が、言った。





再開致します。

願わくば、あともう少しだけ、お付き合いください。

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