08 『』
己とアイーシェは迷宮を抜ける為に進む。
何故だかわからないが頭の奥の方で獣性が吠えている。
それは支配権を奪うためではなく、何か訴えかけるようなものであった。
それと同時になにか言いようのない感情が湧きあがってきている。
「どうしたのですか?」
己の腕の中にいるアイーシェがこちらを心配そうに見ていた。
己の顔はアイーシェを怯えさせる。顰め面をしていてはそれを助長させるだけであろう。
「いや、考え事をしていてな」
「そう…ですか」
アイーシェはなにやら真剣な顔をして黙りこむ。
なにを心配しているのかを己が察する事はできなかった。
そして語りかけてその心配事へ考えがいかないようにするのが己にできることなのではと思ったがそれは断念する。
「ぐるぅうううううううっ」
己とアイーシェの元に現れる魔物の群れ。
己は戦意を漲らせる。獣性が狂おしい程に暴れはじめる。
壊せと。――と。
一瞬だけ思考が漂白される。己は一体何を考えていたのだろうか?
「きますっ!」
「っ!」
アイーシェの叫び声によって今の状況へと思考を引きもどす。
狼の魔物は統率された動きを持って此方へと迫る。時に壁を駆け、立体的な動きを見せる事でこちらを撹乱しようとしているのだろう。
だが、己にはその意図も動きも全てが見えている。
その全てを己は自身の力でもってねじ伏せる。
「グルゥアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」
獣性の力を借りうけて咆哮する。
一瞬だけ発露した暴力的な音は魔物の身を竦ませ動きを止める。
その隙を突いて踏み込む。腕の中でアイーシェが悲鳴を上げたのでしっかりと抱えこむ。
ドンッと空気を叩く音を伴って拳を前へと出す。
粉砕されて血霧を撒き散らす魔物だった肉片が壁へと叩きつけられる。
それを音だけで判断する。その間に己の体は既に横回転を始めている。
風切音が遅れて聞こえる。己の足が魔物へと吸い込まれていき、潰れる。
止まることなく一方的に魔物を殺していく。
「うそでしょう…」
アイーシェが呆然と声を漏らす。僅か数分で己とアイーシェを襲った魔物たちは全滅した。
己の中にある世界の意思がこの戦い方を知っていた。
そしてそれが己にしっくりと馴染んでいる。まるでこの戦い方が己の本来の戦い方であるのかと言っているかのようだった。
「さあ、このまま出口へと進もう」
「ええ…」
おそらく己の戦闘によって顔を青くしたアイーシェを気遣いながら己は揺らさないように迷宮の外へと向かっていった。
己の中で何かが大きくなっているのを感じながら。
それを表に出さないように。
ただ、空を求めて進んでいく。




