06 空
己とアイーシェは迷宮の外に向けて歩き出した。
腕の中のアイーシェは全身に力が入っており、脂汗もかなりの量が流れている。
仕方ないとはいえ己としては心外である。
とはいえ、何も言わないのが大人の対応と言えよう。少しでも気がまぎれるように己はアイーシェに外の話をせがむ。
「アイーシェよ、外の話をしてくれまいか?」
「え、ええ…。そうですね…何から話しましょうか」
己は少し悩んで、迷宮との違いを聞いてみる。己は迷宮以外の世界を知らないのだから比較していくのが良いのではないかと思ったのだ。
「迷宮との違いから話してもらいたい」
「迷宮との違いですか…?ああ、貴方は迷宮で生まれたから迷宮以外知らないからですね」
そう言ってアイーシェは納得し話を始める。
「まず、迷宮と違って空が見えます」
「空とはなんだ?」
「ええっと、迷宮で上を見上げると何がありますか?」
「天井だな」
「外には天井はないのですよ」
「では空が代わりにあるのか?」
「ええ、空は普段は青いのですが時間や日によって色が違います。赤くなったり、黒くなったり。そして空には雲という白いものが浮いています」
アイーシェの話を聞いて驚くばかりだ。
「雲とやらは落ちてこないのか?」
「ええ。さらに、空に浮いてるのは雲だけではないのですよ」
「ほう」
「太陽と月、星といった輝きを放つものも浮いているのです」
「輝きを放つ…ということは魔法か何かなのか?」
迷宮の壁も輝いている。それは魔力を光に変換して発光している。言うなれば光の魔法だ。
だが、己の推測にアイーシェは首を振る。
「おそらくですが魔法ではないと考えられています。太陽を追いかけた学者が居るのですが太陽はずっと輝き続けている。そして太陽を追いながら月も輝き続けていた、と。魔法であればそんなことをしていたら魔力がなくなってしまいます。だからあれは魔法ではなく違うなにか。もしかしたら神々が地上を見る為に作った道具なのではないかと推測されています」
ううむ、と唸る。
是非とも見て見たい。己はそう思った。
空の話はこれ以上初めて見た時の感動が薄れると思い、次の話にしてもらう。
「迷宮にないものと言えば、山、川、森ですかね」
「ほう」
「山は岩や土が盛り上がって空高く伸びる大地…ですかね」
「それは太陽や月ににぶつかってしまわないのか?」
「ええ、山の上よりも遥か高いところに太陽と月は存在するので大丈夫です」
「なるほどな」
「そして川ですが水が流れ続けている場所ですね」
「水が無くなってしまわないのだろうか?」
「ええ、空から雨が降るので大丈夫だと言われてます。雨というのは空から降る水ですね」
「空から水が降るのか!?」
「ええ、雲が空を覆い尽くすと雨が降ります」
「空というのは不思議なものなのだな」
「ええ、空は外の世界のもの全てに関わりがあると言われています」
「では森というのも関係があるのだろうか?」
「ええ。森には木がたくさん生えています。その木は水を吸って育ちます。それは空から降る雨によって育てられています」
己はまだ見ぬ空に想いを馳せる。
雲を、太陽を、月を、星を、雨を、想像してみる。
それは迷宮には無いものでどんなのものなのか見当もつかない。
だが、それを見たいと強く思った。
迷宮よりもそれはすばらしいと思ったから。
己は己の意思で、外の世界で暮らしていきたいと思う。
「なあ、アイーシェよ」
「なんですか?」
己はだからこそ腕の中にいる小さきもの、アイーシェに訊ねる。
「己は外で生きていけるだろうか?」
「…ええ。きっと大丈夫です」
己はその言葉を聞いて嬉しかった。そして空へと再び想いを馳せる。
そこには迷宮には無い何かが待っていると己は思った。




