ノワール、流れ着いた一匹の黒猫
ある夏の日のお話。
大きな大きな海からゆるりゆるりと小さな島に、
一つのダンボールが流れ着きました。
ダンボールはところどころ海の水に浸されていて、
くしゃくしゃしていたけれど、
かろうじて形を保っているようなものでした。
流れ着いたダンボールの中には、
タオルで丁寧に包まれた一匹の黒猫が、
すやすやと寝息を立てて眠っていました。
おきる気配がありません。
辺りに響くのは小さな寝息と、
それをかき消してしまうほどの大きな波の音。
時間はどんどん過ぎていき、
太陽の日差しが強くなって来た頃、
ようやく黒猫が眼を覚ましました。
猫は四角いダンボールの中に自分が居る事を知りませんでした。
なのでぐるぐる、ぐるぐると何回も回って見ましたが、
一向に景色は変わりません。
黒猫は太陽の日差しによって身体が熱くなっていったので、
疲れて動き回るのをやめました。
いつの間にか寝ていた黒猫が眼を覚ますと、
起きた時とは違い、日が沈む頃になっていました。
涼しい潮風が肌を撫でる感覚に気が付いて、むくりと起き上がると、
起きた時よりも優しい光が黒猫を包んだので、
黒猫は心地良さそうにみゃーと声をあげました。
返って来るのは不規則な波の音です。
ちょっぴり寂しさを感じながらも黒猫はやることがないので、
あくびをしてもう一度眠りに付く事に決めました。
もうすっかり外は真っ暗です。
そんなことなんて心配していないかのように、
黒猫の寝息はとても穏やかなものでした。
この先、黒猫はどうなってしまうのか。
それはこれからのお楽しみ。
【おしまい】