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No.6 信じられる可能性

「あのっ・・・、約束通り、『十字』のことについて、教えてください・・・!」

食事を終え、さっさと食堂から立ち去ってしまいそうだった2人に、わたしは何度目かのその質問を投げかけた。

「ああ・・・いいよ。そういう約束だったからね。」

食堂から出ていく寸前だった有逆くんが、足を止め、振り返る。

「・・・・・。」

イスから立ち上がっていた永斗くんは、無言で座りなおした。

音甘さんは黙々と食器を片づけている。

「十字っていうのはね、こういう力のことだよ。」

有逆くんが言ったその瞬間、テーブルに並べられていた食器が消えた。

「!!・・・なに・・・?」

「あ、アルキ様・・・」

見ると、音甘さんの手にあった食器も全て消えている。

「そんな簡単に十字を使わないでください。・・・ビックリしました。」

「だって、見せるのが一番はやいでしょ?」

「魔法・・・?」

「だから、『十字』だよ。でもまぁ、魔法だね。たぶん、その認識で間違ってない。」

目の前で、物が消えた。

たぶん、手品なんかじゃない。

これが、『信じられない光景』というものなのだろうか。

・・・そのわりに、わたしはなんだか反応が薄い気がする。

「食器は、消えちゃったんですか?」

「消えたっていうか・・・厨房に運んだだけ。」

「そう・・・ですか。」

「すみません、アルキ様。」

音甘さんはそう言って有逆くんに軽く頭を下げた。

「べつにネアのためじゃないよ。君は食器でも洗ってきたら?」

「そうですね。・・・失礼します。」

そう言って、音甘さんは厨房のほうへ入って行ってしまう。

有逆くんは、そんな音甘さんは見向きもせずに話を続ける。

「十字っていうのは、こういう魔法みたいな不思議な力のこと。または、その力を持っている人間のことだよ。」

「不思議な力・・・」

「そう。感じるでしょ?君なら、僕たちからその力を。・・・黒逆十字の存在感を。」

2人から感じるのは、とても大きな違和感を持った、サカサマの存在感。

出会った時も、そして今も、彼らは常に、その気配を持っている。

「これが、十字・・・?」

「そうだよ。これが十字。この『十字』が大きければ大きいほど、たいていのことはこの力でできちゃうんだよ。」

たいていのことはできちゃう力・・・

なんて都合の良い力なんだろう。

「あくまで、その者の十字の大きさによるが。」

永斗くんが言った。

「そうだね。本当に小さな十字では、なにもできないし。」

有逆くんは歩いてくると、食事をしていたイスに座りなおす。

「この力の由来としては、『魔女説』が一番有力かな。」

「魔女・・・?」

「そう。その昔、魔女と呼ばれる女がいた。その女は、自身のその力を『十字』をつかさどる力だと言った。・・・って話。聞いたことない?」

「・・・いいえ。」

少し難しめの童話のような話だ、と思った。

だが、聞いたことはない。

「その女は、2人の自分の娘に、それぞれ色違いの小さな十字架をわたした。長女には黒い十字架を、次女には白い十字架を。そして、2人の娘はその力を受け継いだ。」

「それが、黒十字と白十字?」

「そう。つまり僕たち黒十字は、黒い十字架を受け継いだ長女のほうの子孫ってこと。その説によればね。」

「子孫・・・。」

「だが、これはあくまでも一説だ。十字の由来に関する話なら、他にもいろいろとある。」

「でも、これが一番有力だよ。今ではけっこうな人間が、この話を信じてる。白正十字なんかは特にね。言ってみれば、宗教のようなものだよ。」

有逆くんの視線が、わたしの視線と重なる。

「そして、さっきの話には、まだ続きがあるんだ。」

そして再び、その『一説』を話はじめた。

「その女は、死ぬ間際にこう言った。2人の娘にむけて、『絶対に十字をひっくりかえしてはならない』と。そして、村人たちにむけて、『もし、自分の子孫に、十字をひっくりかえそうとする者が現れたら、なんとしてでもとめてくれ』と。それがその女の遺言だった。」

「ひっくりかえす・・・?・・・・・それって・・・」

2人から感じる、この怖いくらいに大きなサカサマの存在感。

ふと、永斗くんの耳に、黒い逆十字がぶらさがっているのが目に入った。

「・・・つまり、俺たちは、その遺言をやぶって、十字をひっくりかえした者だ。」

「・・・・・っ」

永斗くんと目があった。

「まぁ、実際にひっくりかえしたのは、僕たちじゃなくて、僕たちの先祖だけど。」

「・・・でも、どうしてひっくりかえしちゃいけないんですか?」

「さぁ。どうしてだろうね。」

有逆くんは言った。

「え・・・」

「この力は、十字をつかさどる力だ。それをひっくりかえせば、バランスがくずれる。」

永斗くんが言った。

「バランス・・・ねぇ。たしかに、十字をひっくりかえしたことで、バランスが変化しているのは確かだね。なにせ、十字をひっくりかえすことで、その存在感はかなり大きくなるのだから。」

「つまり、十字はひっくりかえすと強くなる・・・ってことですか。」

「そういうことだね。それが何故いけないのかはわからないけど。でも、魔女の『遺言』なんだ。」

有逆くんのほうを見ると、再び視線が重なる。

永斗くんのほうを見れば永斗くんの視線と重なるし、有逆くんのほうを見れば有逆くんの視線と重なる。

わたしは思わず視線を下にむけた。

「君は、違うよ。」

「え・・・?」

「僕たちは『黒逆十字』だけど、君は『黒正十字』だから。」

「ああ。お前の十字はひっくりかえってはいない。」

「わたしも、『十字』・・・なんですか?」

今までの流れから、なんとなく、そんな気はしていたけれど・・・

「しかも『黒正十字』。僕たちとは『敵』のね。」

「敵・・・!?」

「そう。敵。今の正十字は、僕たち逆十字の存在を許していないから。正確に言えば、逆十字の存在を許していないのは白正十字で、黒正十字はその方針に従っているだけなんだけど・・・」

「どうして?」

「白正十字が、熱心な魔女信者だからかな。とにかく、僕たちと君は、『敵』だ。」

「敵・・・・・。」

実感がわかない。今わたしの目の前にいる人たちが、わたしの『敵』?

でも、なんとなく怖い響きだと思った。

「でもね、黒逆十字ぼくたちが十字をひっくりかえしたのにも、ちゃんと理由があるんだよ。」

「十字をひっくりかえした、理由・・・」

きっとそれは、大きなものなのだろう。

「白逆十字の暴走を止めるため。」

永斗くんが言った。

「白逆十字は、とにかく力を求めている。今ある力よりも、ずっと大きな力を求め続けている。」

「白逆十字は、そんな大きな力を手に入れてなにを・・・・・世界征服、とか?」

「まぁ、簡単に言えばそういうこと。」

否定されると思ったのだが、有逆くんは肯定した。

「力のある者が世界をおさめたほうが、この世の中は上手くいく、そう言って十字をひっくりかえしはじめたのが白逆十字。それを止めるために、同様の力を手に入れようと十字をひっくりかえしたのが黒逆十字。」

「・・・つまり、逆十字と正十字は敵同士で、黒逆十字と白逆十字も敵同士・・・?」

「うん。そういうことだね。」

「・・・・・そして、わたしと、あなたたち2人も・・・」

「そういうころになるね。ついでにネアも。あれも一応、黒逆十字だから。」

ふと、視線を上げてみた。

有逆くんは笑顔だった。

・・・表面上だけの笑み。

「大丈夫。僕たちは白逆十字とは違って、そこまで残酷なことはしないよ。」

「・・・多少ならすると?」

「どうだろうね。」

その笑顔が怖い。

「・・・大丈夫だ。・・・・・させないから。」

永斗くんが言った。

「わたしも、全力で阻止させてもらいますからっ。」

厨房から戻ってきたらしい音甘さんもそう言ってくれた。

「なんか、僕だけ悪者わるものみたいなんだけど・・・。」

「あまりリア様にイジワル言わないであげてください、アルキ様。」

「べつにイジワルを言っているつもりはないんだけど・・・ねぇ、梨暗?」

「え、ええと・・・」

イジワルじゃないなら本気だということだろうか。

それはもっと困る。

「わかったか?・・・十字のことについて。」

「あ、はい。一応、少しは・・・」

「そうか。・・・心配しなくても、俺たちはおまえをどうこうする気はない。」

「はい。わかってる・・・つもりです。」

「・・・そうか。」

そう言って、永斗くんはわたしから目をそらそうとする。

「あのっ、」

わたしは思わず引き止めた。

「・・・このペンダントのことについても、教えてもらえませんか?」




壁に掛けられた時計を見ると、午後9時を少し過ぎたところ。

わたしは屋敷に用意された自室のベッドの上で寝転がっていた。

「寝る・・・?」

なんとなく、つぶやく。

「眠れるの・・・?」

もう一度、時計を見る。

「・・・綺麗・・・。」

自宅の自室と同じ位置に掛けられた時計。

だけど、家にあるシンプルな時計とは違って、この部屋の時計には色彩の美しいステンドグラスがほどこされている。

「眠るにはまだ早い・・・か・・・。」

細い金色の針は、9時4分を示している。

わたしは首もとのペンダントに視線をうつした。

「これは、おばあちゃんが、わたしにつけてくれた物・・・」

おばあちゃんが、亡くなる寸前に。

「これは、『十字の象徴』・・・?」

永斗くんの言葉を思い出す。

これは、十字の象徴。

十字の人間は必ずつけていないといけない物。

魔女の長女が黒い十字架を、次女が白い十字架を持っているように、わたしたちも十字架を持っていないといけない。

十字の力を支え、サポートし、そして、力が暴走しないように制御してくれる物だという。

一度つけたら、滅多なことがない限りはずれないらしい。

「黒い十字架の、ペンダント・・・」

永斗くんの十字の象徴は、黒い逆十字のイヤリングで、ただ2本の線が交わっただけの、余分な線が入っていない形の十字。

十字のデザインはそれそれの『家』によって違うらしく、『真風家』の十字は、もっとたくさんの線のが黒逆十字に絡まっているデザインらしい。

「おばあちゃんが、くれたもの・・・」

わたしの十字の場合、ペンダントにはたくさんの『伏せ線』が入っているため、どんなデザインなのかはわからないという。

『伏せ線』とは、十字の上にゴチャゴチャとたくさん刻まれている線のことで、主に、その象徴のデザインを隠すために使われる線らしい。

この線を十字の象徴に刻むにはとても大きな力が必要らしく、こんなにたくさんの伏せ線を刻むには、よほどの十字でないと無理、ということだそうだ。

「おばあちゃんが・・・」

ちなみに、十字というものは必ずしも遺伝するものではないらしいが、遺伝する確率のほうがかなり高いという。

そして、子供に遺伝していなくても、その孫に遺伝している場合もあるとか・・・

「それって、つまり・・・」

お母さんはそうでなくても、少なくともおばあちゃんは、十字であった可能性が高い。

いや、きっとそうだったのだろう。

「それに・・・」

どうやら、かなり大きな十字だったらしい。

「・・・・・ってことは、」

つまり、わたしも?

白逆十字は、『わたし』を見つけ出すためだけに学校に火をつけた。

そして、黒逆十字の2人がわたしはここに置いておきたいのだって、きっとわたしにそれだけの・・・

「わたしって、けっこう利用価値があるのかな・・・。」

大きな力を持っている可能性、それが利用価値。

「それは、存在価値とも言えるのかな・・・。」

わたしの、存在価値。

わたしだけが、あの日生き残って、ここに存在していられる理由。

「・・・なにを考えてるんだろう、わたし・・・。」

変なことを考えるのはやめよう。

そんなことを考えたって、きっと、まだ答えは出ないはず。

「それにわたしは・・・2人の言葉を信じたわけじゃない。」

話の内容が信じられないというわけではなく、ただ単に、あの2人が信用できない。

今は、まだ。

「でも・・・」

今は他に、信じていいモノがなかった。だから、

「信じなきゃいけないんだよね。・・・形だけでも。」

そうしなきゃ、前に進めない。

何も信じられなくなってしまう前に。

「・・・会ってからまだ3日目のあの2人を・・・?」



でも、それはきっと、


できないことでもないだろう。


ノートに書いてある文があまりにもわかりにくかったので、かなり書きなおしました。

説明文って難しいですね。・・・つかれた。


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