No.5 メイドさんとのAfternoon
番外編みたいな感じ・・・かもしれません。
カットしようかとも思ったのですが、必要なエピソードが入っていたので・・・。
わたしが遠十学園へやって来たその日、永斗くんも有逆くんもどこかへ行ってしまって暇なわたしは、自分の部屋でメイドさんと一緒に過ごしていた。
「あの、真風さん、」
「ネア、でいいですよ。名字で呼ばれるのは慣れませんし。」
「あ、じゃあ・・・音甘さん。あの・・・・・、この家って、広いですね。」
「えっ?あ、はい、そうですね。」
「なんだか迷子になりそうです・・・。」
さっき、音甘さんに一時間ほどの時間をかけて屋敷を案内してもらった。
でも、どこに何があるのか、全く覚えられそうにない。
「そうですね・・・リア様が十字に覚醒されてしまえば、簡単に覚えられるんですけど・・・」
「十字・・・・・音甘さんも、やっぱり、その『十字』なんですか?」
「はい。エト様やアルキ様ほどの十字ではないですが、わたしも黒逆十字の人間です。」
それで、あの2人と同じ、サカサマの存在感を感じるのだろうか。
「十字って、一体・・・」
「お2人がお帰りになりましたら、お話しますね。・・・それと、もしリア様が迷子になられても、この家には十字が3人もいますから、大丈夫ですよ。すぐに助けに行きます。」
「あ、はい。・・・ありがとうございます。」
「でも、リア様のお部屋は一番わかりやすい場所にありますから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思いますよ。」
「そうですよね。・・・そういえば、音甘さんの部屋はどこにあるんですか?」
さっき、屋敷を案内してもらったときに、永斗くんや有逆くんの部屋は教えてもらったが、そういえば、音甘さんの部屋は教わらなかった。
「わたしの部屋ですか?わたしの部屋は・・・C塔3階の、一番奥です。」
「え!?なんでたくさんある部屋の中から、そんな一番玄関からはなれた部屋を・・・」
しかも、3階といえば最上階だ。
「アルキ様が、そこしかダメだと。」
「有逆くんが、・・・ですか。」
「そうなんです。あの方、一見優しそうで、学園でも女子から人気あって、とにかくモテるんですけど、中身は本当にイジワルなお方で・・・」
「あ、それなんとなくわかります。」
わたしも一昨日、有逆くんのイジワルは体験している。
「でも、根は優しい方なんですよ。・・・たぶん。アルキ様も、エト様も・・・、2年間暮らしていてわかりました。」
「2年間・・・?」
「はい。実は、わたしがここにお仕えするようになったのは、お2人が高等部に入学される少し前、たった2年前からなんです。」
「てことは、今は2人は高等部2年生・・・?」
「そうです。リア様よりも2つ上ですね。」
そう言って音甘さんは、ふと、壁に掛けられている時計を見上げた。
「いつのまにか3時を過ぎてました。食堂に行きましょう。」
音甘さんは立ち上がって部屋のドアをあける。
食堂の場所を覚えていなかったので、わたしは慌てて追いかけた。
食堂に着いて、わたしは音甘さんに言われるまま、入口から一番近い位置にあるイスに座った。
テレビのドラマやアニメなんかに出てきそうな食堂。
長いテーブルの両側に、ずらっとたくさんのイスが並べられている。
住人は、わたしを入れても4人しかいないのに、こんなにたくさんイスが必要になるときがあるのだろうか。
「ちょっと待っててくださいね。」
音甘さんはそう言うと、厨房のほうへ入って行ってしまった。
「・・・・・。」
言われたとおり、わたしは黙って音甘さんを待つ。
すると、
ガガガガガガガガガガガガ
厨房のほうからすごい音がきこえた。
「な、なんの音・・・?」
少し不安になりながら、それでもひたすら音甘さんを待つ。
「・・・・・暑い・・・」
次第に汗をかいてきた。
今は7月下旬。
さっきまでいた自分の部屋は冷房がきいてきて涼しかったのだが、ここはかなり暑い。
だから、厨房から出てきた音甘さんが運んでいるものを見たとき、きっとわたしの目は輝いていただろう。
「かき氷!」
「はい。お待たせしてしまってすみません。・・・あ、だいぶ汗かかれてますね。あとでシャワーをあびましょうか。」
そしてわたしは、音甘さんと2人でかき氷を食べたのだった。
「わ・・・・・広いですね。」
銭湯・・・というより、洋風なつくり。
この洋館のようなお屋敷の雰囲気にあったお風呂だ。
「ちょっと浅いですけど、泳ぐことだってできちゃいますよ。」
そう言って音甘さんは、イタズラっぽい笑みを浮かべる。
その言葉になんとなく地味にテンションが上がってしまったわたしは、お風呂につかるとバシャバシャやりはじめた。
「わーい・・・ほんと広いですよね。屋内プールみたいっ・・・」
「そうですね。」
音甘さんは自身の体に巻いたタオルをきつく抱きしめるようにしてお湯につかった。
なんとなくそれを不思議そうに見ていたわたしに気付いたのか、音甘さんは苦笑いを浮かべながら言った。
「・・・実はわたし、背中に大きな傷があるんですよ。」
「え・・・」
「けっこうひどいんで、・・・やっぱり、気持ち悪いですから。」
「そんなことないと思いますけど・・・なんの、傷ですか・・・?」
わたしがたずねると、音甘さんは少しの間だけ沈黙して、
「そのうち、わかると思いますから。」
と、そう言った。
メイド服を着ているときは左右結んでいる髪をおろした音甘さんの姿は、少し違う印象を受けた。
「あれ、着替え・・・」
お風呂から出た後、着替えようと思ってカゴに手を伸ばしたのだが、なぜか着替えが消えていた。
下着やタオルはあるのだが・・・
「あ、せっかくですから、これを着てください。」
そう言って音甘さんが持ってきたのは・・・
「え!?これを・・・・・ですか・・・!?」
「はい。」
「で、でもこれ・・・」
「サイズもおそらく合うはずですよ。」
「でも、」
「いいじゃないですか。さぁ、リア様・・・」
「そろそろ、お2人がお帰りになるころですね。」
そう言いながら、音甘さんは食堂のテーブルに手際良く料理を並べている。
「あの・・・音甘さん・・・」
わたしは、そんな音甘さんの横につっ立っていた。
「音甘さんって、人にコスプレさせるのが趣味なんですか・・・」
「そんなことはないですよ。ただ、クローゼットにあまりにもリア様にピッタリなものがあったので、絶対に似合うと思いまして・・・」
料理を並べ終わると、音甘さんはテーブルの上を見渡した。
テーブルの上には、豪華な食事たちが並んでいる。
4人分にしてはかなり多い。
「リア様の身長、わたしと同じぐらいですし、サイズもあうんじゃないかと・・・思った通り、とても良くお似合いですよ。」
「・・・・・それでも、この格好はちょっと恥ずかしすぎます。」
基調とした黒の生地に、白とホットピンクのレース、そこらじゅうに結ばれたリボン・・・。
音甘さんの着ているものよりもかなり可愛らしいデザインだが、それでも、音甘さんの着ているものと同じ種類の服だ。
「大丈夫ですよ。似合ってますから。」
「そ、そういう問題じゃ・・・」
『ガチャッ』
扉の開く音。
「ほら、お2人が戻られたようですよ。」
「えっ・・・!」
「お出迎えしないと。」
「ええぇっ・・・!!」
「お・・・おかえりなさいませ・・・(?)、永斗くん、有逆くん。」
「・・・・・?」
ただ目を見開いたのは永斗くん。
「メイドさんが・・・2人いるね。」
そう言ったのは有逆くんだ。
「おかえりなさいませ、エト様、アルキ様。」
音甘さんもそう言うと、扉を閉める。
「・・・・・お前、なんでその格好・・・」
「でも、似合ってるよね。」
「そうでしょうアルキ様。このメイド服、絶対リア様に似合うと思いまして、着てもらってみたんです。」
「無理矢理着せられたんです。」
顔が熱い。体が熱い。ていうかものすごく恥ずかしい。
レースにリボンにフリル、なんかヒラヒラしてるモノ、しかも黒にピンク・・・
こんなの着たことない。しかも人前・・・!!
きっとわたしの顔は、耳まで真っ赤になっている。
「・・・・・可愛いよ?梨暗、似合ってる。永斗もそう思うでしょ?」
「・・・・・。」
永斗くんは無言。
一瞬、頷きかけたように見えたのは、たぶん気のせい。
「夕食にいたしましょうか。今日はリア様の歓迎もかねて、たくさん作りましたので。」
「あ、ありがとうございます。・・・でも、その前に着替えたいです。」
「そうですね。・・・もったいないですけど、メイド服で食事をとるのは慣れないと面倒ですから・・・。わたしも行きますので、お2人は先に食堂へむかってください。」
「実はそのメイド服、アルキ様がわたしにくださったものなんですよ。」
わたしの部屋へむかう廊下の途中で、音甘さんが言った。
「そうなんですか・・・?」
「はい。わたしがそんな服似合わないことを知っていながら・・・嫌がらせですよ。」
「そう・・・なんでしょうか・・・。」
「そうですよ。でも、リア様に似合ってよかったです。差し上げますね。」
「え・・・い、いりません。」
「・・・・・とりあえずでいいですから、貰っておいてくださいよ。・・・着なくても、いいですから・・・。」
もしかして、音甘さんがわたしにこの服を着せたのは、ある意味の気遣いからだったのかもしれない。
と、いうのは考えすぎだろうか。
でも、わたしはこの家で、なんとか楽しくやっていけそうな気がしていた。
まだ、このときは。
これでノート一冊分が終わりました!
今10冊目なので、今書き終わってるところまで打ちなおすだけでも、
まだかなりあります・・・。
でも、頑張ってさっさと打ちなおして、No.52以降の新しい話が書きたいです。