No.3 私ノ選択
朝起きると、ケイタイにメールが届いていた。
「誰・・・・・?」
ケイタイを開き画面を見ると、そこには親友の名前が表示されていた。
「・・・!!優理ちゃん・・・・・!?」
急いでメールを開くと、そこにはこう書いてあった。
『昨日、いろいろあったみたいだけど、とにかく梨暗が無事でよかった!!
わたしは偶然風邪で学校休んでたおかげで助かったけど、
・・・・・紗夜は助からなかったけど、わたしたち2人はこれからもずっと親友だよ。
本当に、梨暗が無事でよかった。
これってキセキだよね。
あ、なんか長くなっちゃってごめん。
できたら返信くれると嬉しいです。』
「そうだ、優理ちゃんは無事だったんだ・・・。」
優理ちゃんだってつらいはずなのに。
優理ちゃんのメールはどこまでも前向きだった。
「・・・・・。」
わたしは一言だけ返信すると、部屋の窓のカーテンを開けた。
そういえば、この部屋は2階である。
昨日のあの2人は、どうやってこの窓から部屋に入って来たのだろうか。
そんなことを考えながら下へおりると、リビングにお母さんがいた。
「お母さん・・・?」
わたしが声をかけるとお母さんはハッとした顔をして、
「梨暗っ!?あ・・・・・朝ごはん用意するわねっ・・・。」
と言いながらバタバタと台所のほうへ行ってしまう。
壁に掛けてある時計を見ると、もう9時45分すぎ。
今日は水曜日なので、普通なら学校で授業をうけている時間である。
わたしが、お母さんがさっきまで座っていたテーブル前のイスにすわると、お母さんがさっさとトーストと目玉焼きをのせたお皿を持ってきて、わたしの前のテーブルに置いた。
「・・・食欲なかったら、残してもいいからね・・・?」
「ううん、大丈夫。お父さんは仕事?」
「・・・うん。今日くらい、休んでくれてもいいのに・・・」
「ううん、いいの。わたしは大丈夫だから。」
するとお母さんは、わたしをじっと見つめて言った。
「梨暗・・・大丈夫って・・・本当に?昨日はずいぶん遅くまで起きてたみたいだけど・・・・・。それに・・・、梨暗、知ってる・・・?昨日の火事で、」
「うん。知ってる。ニュースで見た。でも、だからといって、わたしにはどうすることもできないし、ずっと落ち込んでても仕方ないでしょ?それに、優理ちゃんも、同じこと思ってるみたいだし。」
それを笑顔と一緒に言えたのは、ある意味キセキだったのかもしれない。
「梨暗・・・・・ごめん・・・。」
わたしの言葉を聞いて、お母さんはポロポロと涙をこぼしはじめた。
「・・・なんでお母さんが謝るの・・・?それに、お母さんが泣いてちゃ意味ないよ。」
「・・・うん・・・そうね・・・。」
本当は、大丈夫なはずない。
この朝食だって、全部食べられるかどうか、正直あやしかった。
なんとか全部食べ終わり、することもなくソファに座っていると、食器を洗っていたお母さんが話しかけてきた。
「学校、再来週の月曜日までは、市内の小、中、高、全校休校だって。再来週からは、夕美北中学校に通うことになるって。転入手続とかは、全部むこうがやってくれるみたい・・・。」
「あっ、」
その言葉で、わたしは昨日の2人との会話を思い出した。
「そのことなんだけど・・・あのね、お母さん、わたし・・・」
少しためらってから、それからもう一度、口を開く。
「遠十学園に、入ろうかと思って・・・。」
するとお母さんは思ったとおり、とても驚いた顔をした。
「いきなりどうして?そんなお金、うちには・・・」
「特別編入させてくれるって。入学金もいらないって。」
「それは、他の子・・・、昨日学校を休んでいた子たちもいっしょに?」
「えっと・・・・・。」
特別編入させてくれるのはわたしだけ、なんて言ったら、きっと不自然に思われるだろう。
かと言って、本当のことを言うわけにも・・・。
「いろいろ事情があって、1人だけしか編入を許可することができないらしくて・・・、それで、わたしが選ばれたらしいの。わたしもよくわからないけど・・・。」
とりあえず、そう言ってみた。
「そう・・・。あなただけが・・・・・ね・・・。」
・・・信じてくれたのかどうかはわからないが、とりあえず話を続けることにした。
「編入すると、学園で暮らすことになるけど、たまには家にも帰れると思うし・・・いいでしょ?」
お母さんは、じっとわたしを見ている。
「なんで、遠十学園に入ろうと思ったの?」
「それは・・・。」
火事の真相を知るために・・・、なんて言えない。
「えっと・・・そう、このペンダント・・・、このペンダントのことと、おばあちゃんのことをよく知っている人が、学園にいるらしくて・・・。それで、その人と、話がしてみたくて・・・。学園に編入すれば、いつでもたくさんおばあちゃんのこと、聞けるでしょ?わたし、知りたいの。おばあちゃんのこと・・・。おばあちゃん、不思議な人だったし、きっとなにかいろいろあると思うの。はずれなくなっちゃった、このペンダントのことも・・・。」
半分くらいは、嘘じゃないはず。
「そう・・・。」
お母さんは一度目を閉じて、
「・・・本当は、それだけじゃないんでしょう?」
と、そう言った。
お母さんは、わたしをじっと見つめてくる。
それから、再び口を開いた。
「梨暗が、そこまで言うなら・・・。でも、本当にいいの?優理ちゃんとも、別の学校に行くことになるのよ?」
「あ・・・・・。」
そうだった。
わたしが遠十学園へ編入してしまったら、おそらく夕美北中へ行くだろう優理ちゃんとは、ほとんど会えなくなってしまう。
でも・・・――――――
「それでも、いいの。」
わたしはそうこたえた。
「・・・そう。じゃあ、夕美北中には、そう連絡しておくわね。」
お母さんは、お皿を拭き終わると、電話をとった。
「わたし、ちょっと出かけてくる!」
わたしはそう叫ぶと、急いで支度をはじめた。
しばらく自転車を走らせていると、夕美中のある通りへと出た。
わたしは自転車からおりると、その道を歩き出した。
わたしは今、優理ちゃんの家へむかっている。
優理ちゃんの家に行くのなら、他にも道はあるのだが、あえてこの道を選んだのにも、ちゃんと理由があった。
一歩進むごとに恐怖感がつのっていくのを感じながら、わたしは歩いていた。
学校の校門前には、人がたくさん集まっていた。
警察の人もたくさんいて、どうやら学校は立ち入り禁止になっているらしい。
わたしがまず驚いたのは、あんなに大きな火事だったのに、一晩で火が完全に消えていたことである。
人がたくさんいるため、校舎の様子はよく見えないが、ここから見る限りだと煙も出ていないし、消防車もとまっていないので、おそらく火はもう消えたのだろう。
次に驚いたのは、学校のまわりの家や建物に、全く被害がなかったことだ。
体育館や、運動場にあった倉庫なども全て焼けてしまっているのに、学校のすぐ隣にある家は、何の被害もなさそうな状態だった。
わたしは、人ごみの中をかきわけて道を進んだ。
その途中、生徒たちの保護者と思われる主婦たちの会話が耳に入ってきた。
「火事のとき校舎内にいた生徒の中に、1人だけ助かった子がいるんですって。」
それはきっと、わたしのことだ。
「生徒も教師も、他の人は全員焼死したのに、1人だけ助かるなんて・・・おかしいわよね。しかもその子、無傷だったらしいじゃない?」
「そうなの!?・・・そういえばこの火事、放火だって噂じゃない。その子が火つけたんじゃないの!?」
はっ とした。
そうか。
1人だけ助かったというのは、他の人から見れば、そういうふうに見えるんだ。
「きっとその子が、わたしの子を殺したのよ!!」
「ちょっと、あまり大声だしちゃダメよ。もしかしたらその子や、その子の保護者が来てるかもしれないわよ?」
――――――制服で来なくてよかった。
他の学校の生徒も見に来ているので、私服ならきっと気づかれない。
それにしても、まわりに被害が出なかったのは、不幸中の幸いというか―――・・・」
「そうですね・・・。遺体の回収も、全て一晩で済んだようですし・・・。普通なら、一晩で、なんて不可能ですよね・・・。」
遺体。
その単語を聞いた瞬間、抑えていたはずの感情があふれそうになった 。
わたしは人ごみをぬけると、もう一度自転車に乗る。
そして、再び優理ちゃんの家にむかった。
「梨暗っ!?どうしたの?」
インターフォンを押してしばらくして、慌てて玄関から出てきた優理ちゃんが言った。
「ちょっと、優理ちゃんに話したいことがあって・・・。」
「来るならメールしてくれればいいのに。とりあえず、中入る?」
「うん・・・お邪魔します。」
優理ちゃんの部屋は、いつも綺麗に片付いている。
「そのへん、てきとうに座っていいよ。」
「ありがとう。・・・お母さんとお父さんはいないの?」
「うん。外出中。なんか飲む?持ってこようか。」
「ううん、いいの。」
優理ちゃんがベッドを背もたれに床に座ったので、わたしも横に座った。
「で・・・・・話したいことって?・・・昨日のこと?」
「それもあるけど・・・あのね、優理ちゃん、わたし・・・」
優理ちゃんは、わたしの顔をのぞきこんでいる。
「遠十学園に、入ることにしたの。」
「え・・・・・」
そっと優理ちゃんの顔を見上げると、目を見開いてわたしを見ていた。
「その・・・だから、学校いっしょに通えなくなっちゃうけど、でも・・・」
「どうして・・・!?」
優理ちゃんは、強い口調でそう言った。
「なんで・・・遠十学園・・・・・!?」
「えっ・・・・・優理ちゃ・・・」
「あ・・・・・。」
すると、優理ちゃんは、ふと気がついたようにわたしを見つめて、
「ごめん・・・突然そんなこと言うから、驚いちゃった。」
と言って、小さくため息をついた。
「あ・・・その、いきなりこんなこと言ってごめん。でも、遠十学園で、どうしてもやりたいことがあって・・・。」
「わかった。」
「え?」
優理ちゃんの顔には、強めの笑みがうかんでいた。
「梨暗が決めたことだもんね。・・・学校が別々になっちゃうのはさみしいけど、わたしがどうこう言えることでもないし。」
「ありがとう・・・。学園で暮らすことになるから、なかなか会えなくなっちゃうかもしれないけど・・・。」
「大丈夫。わたし、毎日メール送るから。」
「・・・うん。わたしも。」
わたしは、ほっとしていた。優理ちゃんが賛成してくれて。
そして、とても嬉しかった。優理ちゃんが言ってくれた言葉が。
わたしは、来たときとは正反対の気持ちで、優理ちゃんの家を出たのだった。
彼女は、1人悩んでいた。
親友が、よりにもよって、あの遠十学園に行くというのだ。
「やっぱり、あの2人が・・・。」
窓からは風が入ってきていて、カーテンが揺れている。
「あの2人に、梨暗はわたさない・・・。だって梨暗は、」
彼女は、カーテンを開いて窓から外を見下ろした。
そこには、彼女の大切な親友の姿がある。
「わたしたちのモノなんだから。」
風が、彼女の髪を揺らした。