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No.20 雑談としての会話と

短編です!


「ねぇ永斗、さっき梨暗の食べかけのオムライス、食べてたでしょ?」

「…それが、どうかしたか」

「別になんでも」

有逆はベランダの塀にもたれかかったままこたえる。

部屋とベランダを隔てる大きな窓ガラスは全開になっていて、部屋のソファで横になっている永斗とも十字を使うことなく普通に会話をすることができた。

「永斗も出てきなよ。夜風、気持ちいいよ」

「…俺はいい」

「永斗はいっつもそうだよね。せっかく来たんだし、もっと楽しめばいいのに。絶景だよ?」

「……」

永斗には有逆の誘いに乗る気は全くないようだ。

「…まぁいいけど。それよりすっかり夜だけど、どうする?」

有逆は永斗から視線を外し、ベランダから望める絶景を見ながら尋ねた。

「今更帰るのも面倒だろう」

「…そうだね。ここの別荘に来るのも久しぶりだし。明日の早朝に戻ればなんとかなるよね」

トントントンッ

扉をノックする音がきこえて、有逆は再び視線を部屋に戻した。

「どうぞ」

「失礼します」

そう言って扉が開き、一人のメイドが入ってくる。

「永斗様、有逆様、ご夕食をお持ちいたしました」

「ありがと。そのへん置いといてくれる?」

「かしこまりました」

メイドは料理をテーブルに並べると、頭を下げて部屋から出て行った。

「そういえばあのメイド、普通の人間だったっけ?」

「そのはずだ」

「ふーん…」

遠十家に仕える人間にも、十字に携わるものとそうでないもの、両者が存在する。

そしてやはり、両者で自分たちに対する対応も、なんとなく異なるのだ。

「…永斗ってさぁ、自分の部屋でもベッドじゃなくてソファで寝てたりしてない?」

「……ソファじゃなくてベンチの日もある」

「なにそれ」

「………」

「それじゃ疲れとれないでしょ。ベッドで寝なよ」

「ソファのが寝やすい」

「……ああもう」

有逆は部屋に戻ると、全開だった窓を閉めた。

永斗はそんな有逆に、ソファで横になったまま、視線だけを向ける。

「『今は意志を尊重する』か。お前の言葉は矛盾だらけだな」

「聞いてたんだ」

有逆はいつもの笑みを浮かべて、永斗が横になっている向かいのソファに座る。

「その話を持ち出すなんて、永斗って意外と意地悪だよね」

「お前に言われたくない」

「そう?」

いつもより、笑みが濃くなる。有逆は、楽しそうだった。

「気分次第ってことだよ。それより、これ」

どこからか一枚の資料を取りだした有逆は、向かいあったソファの間に置かれた小さなテーブルにその資料をほおり出す。

「ああ」

永斗はそれを見て頷いた。

「とりあえず、様子を見るしかないかなって思うんだけど。編入も許可しちゃったし。……まぁ梨暗は、驚くだろうけど」

「そうだな」

「明日から新学期かぁ…何事も起こらないでいられるわけなんてないって、わかってはいるけど…」

「面倒だな」

「だよね」

そう言って有逆は席を立って、夕食の置かれたテーブルに向かう。

「とりあえず食べよっか、永斗」

「ああ」



明日から新学期。

何事も起こらないでいられるわけなんてない―――梨暗だってそれは理解していた。

はずだった。

次から新章!


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