三章 敵国との衝突
二ヶ月以上放置しましたが、一応続いています。
気紛れ更新は相変わらずですが、HPを作ったもので……。
そこでは黒飴 時雨と名乗っております。
三章 敵国との衝突
現在、ここアースガルド帝国は、シュバルツガルド王国とグランディア王国の攻撃を受けている。
都心部には攻撃は来ていないのだが、前線の真っ只中では今日も多くの人々が犠牲になっており、事態は悪化していく一方。
シュバルツガルドは無骨で巨大な量産型『黒機』――通称、『ナイト・ゴーント』を主力に。グランディア王国はシュバルツガルドと協力して仕上げた『八咫烏』をバックアップに動員し、勢力をじわじわと広めている。
我が国にも、相馬五月雨と言う技術者との協力を得ることに成功し、新たな量産機――『ヴァルキュリア』を開発した。
しかし、感受性の強い女性しか乗れないとの事で、軍は女性パイロットの早急な育成と訓練に熱を入れ始めたようだ。
我が国の勝利を、国民はただ願うしかない。
そこまで読み終え、時雨は鼻を鳴らして新聞を放り投げた。
ベッドに仰向けになって寝転がり、溜息を一つ零す。
「どこに行っても、マスコミってのは屑だな。ジャーナリストってのもこんな卑屈なことしかやらんのかねぇ……せめて、何が出来ることは無いだろうかって締め括って欲しかったよ、アホくせぇ」
時雨は、軍から与えられた自室にいた。
スプリングがよく効いたベッドに、PCや携帯端末などが置かれたデスク。最低限のテーブルにソファーだけの、素朴な部屋だ。
クロゼットには、あの趣味の悪い服とここでの私服、それに予備の軍服が収められている。
生活には慣れてきた。何の因果か、あまり日本と文明は変わらず、むしろ機械技術はこちらの方が遥かに進歩している。
軍内部には馴染めないが、それでもフランやローラン達とは上手くやれているし、ここの王子――ロッテとも交友が持てた。これで、大分融通が利くだろう。
そしてようやく、当初の問題に取り掛かれる。
(……俺は、どうやったら戻れるんだ?)
無機質な天井をぼんやりと眺めながら、思考してみる。
あの時――『停めて』とあった。
『止めて』ではない。『停めて』とあったのだ。
調停、バス停……まぁ、咄嗟に思いつく限りではその程度だが、停めると言う文字を使った言葉といえば、大体それが代表格だ。
仮に調停だとして、やはり戦争を調停すれば良いのか。
――だとしたら。
「――この戦争を終結させる」
これが、一般解答。
前向きでとてもくだらない解答。
「もしくは……メッセージ送った張本人見つけて、とりあえずぶちのめす。んで、元に戻してもらう」
これは、捻くれた解答。
後ろ向きで、しかし人間らしい解答。
「それか……いっその事、全てを受け入れここで暮らす」
言うまでも無く、無気力極まりない解答。
「……ま、とりあえず目先の事だな」
立ち上がって、ソファーに投げてあった軍服の上着を肩に引っ掛ける。
――今日は、軍と民間の代表が集う会議だ。
――会議は、ずっとこんな具合だった。
「今ここで総攻撃を掛ければいい! そうすれば、裏切ったシュバルツガルドや卑小なグランディアの国の連中なぞ、ゴミのように踏み潰せる!」
「しかし、大丈夫なのでしょうか? 軍備は進んでおりますが、正面から衝突するほどの力は……」
「役立たずが! 我々を守るのが軍の仕事だろうが!」
「す、すみません! 何分、才能ある人材を育てるには時間が……」
「大体、軍が悪いのさ! また、こっちにまで敵が来ていたそうじゃないか! 僕たち市民の安全は軍が保障するんだろ! 馬鹿か! さっさとしろってんだよ! いつになったら安全に暮らせるんだ!」
「そうですわ。全く、軍の魯鈍さもここまでくれば芸術ですわね。私達貴族も、数人軍に加わっていると言うのに、才能を生かしきれていないなんて……ホント、嘆かわしい」
市民の代表が一人、貴族の代表が二人、軍の代表は時雨とフランの二人。
質の良い軽食や飲料が円のテーブルに並んでおり、フランは怒鳴られてひたすら悔しそうに俯いている。
時雨は無遠慮に軽食を口へ運びながら、半眼で全員を見やった。
――どいつもこいつも、馬鹿ばっかりで。馬鹿カーニバルでもするつもりなのだろうか。
「おいアンタ、無関係な顔するなよ! アンタも軍の代表だろうが!」
時雨はフランの机においてあったレモネードを拝借すると、市民代表とやらの小奇麗な顔にそれをぶっ掛けた。
目に入ったのか、顔面を押さえて、代表さんは惨めに床の埃を巻き取っていく。
「うわあああああああああああああ――――っ!? 目、目が……! 痛……くそ、なん――――」
それ以上、言葉は続かない。
時雨に全力で踏みつけられ、肺に行こうとした空気を全て吐き出してしまったからだ。
「……何逆上せてんだよ、役立たずが。守られてるだけで戦争が終結すりゃ、そりゃ楽だよな。お前ら、実質ストレス発散する口実が欲しいだけなんじゃねぇのか?」
その言葉に、貴族達は鋭い視線を向けてくる。
女性の方がこちらへ近寄り、儀礼用のサーベルを腰から抜いて突きつけてきた。
「あ、貴方! それは我が家の事を知っての事ですの! 我々は、この国の為に尽力した者の子孫で、この国を憂い、文句を言うのは当然――」
時雨はその切っ先を掴む。無論、血が流れ出すが、動揺したのは貴族だけで、時雨はどうでも良さそうに呆れた声を出した。
「あー優生学って奴か? 賢い者の子は賢い? ハッ、流行らねぇよ、ダセぇな。そのパターンはな、代々劣化していくもんなんだよ。親が権力を持ったから、自分も偉いと勘違いしちまってる。能力は凡でも、多少色の付いた評価をもらえるからな。恵まれた環境で育ったら、そりゃ学力は馬鹿でもそこそこにはなるだろうよ。だから、品質が劣化して行ってる事に誰も気付かねぇ。王政が滅んだ理由って、それに当たると思わねぇか?」
「愚か者! 私は違いますわ、己の才能だけでここまで――」
「愚か者はそっちだろうが、この劣等女。『我が家を知っての事か』って今さっきお前が言ったんだぜ? 面白ぇ冗談だな、オイ。何が己の才能だ? 家の後ろ盾がありますよって自己アピールされた後にやられても、見っとも無いだけだぜ?」
そこで、男の貴族がこちらに近付き、胸倉を掴み上げてきた。
「しかし、進展が無いのも事実だろう。どうしてくれるんだ! 今この間にも、死んでいく者がいるのだぞ!」
「じゃお前、次に死んでくれるか?」
「な、何……?」
胸倉を掴み返し、挙句に首を締め上げていく。
「なぁ……。今死んでる大半が軍人なんだそうだ。何でだろうな。国に一番尽力してる奴らが死んでるのに、何お前らはのうのうと生きて、死ぬかもしれないそいつらを馬鹿に出来るんだ? ふざけた話だよな。お前らは口を開けば自分の安全か家の事なんだろ? 貴族の仕事は着飾ってサロンで踊る事か? ……そうじゃねぇだろうってんだよ! 国が惜しいなら、例え生身でも敵に向かって必死に戦うだろうがッ!! 何テメェらの腐った物差しでこいつを測って馬鹿にしてんだよぶっ殺すぞッ!! ミサイルに縛り付けて、人間爆弾にでもしてやろうか!? ああッ!?」
苦しそうな貴族の顔に一発拳を咬まそうと思ったが、腕を引かれた。
――フランだ。
叱られた子供のように俯いたまま、首を横に振る。
「離してくれ、時雨……私が悪いんだ。戦艦を指揮して、固有の『神機』まで持ちながら、まだ打開策が見当たらない。地道な方法しか――」
腕を放し、転がる男には見向きもせず、時雨は彼女に向き直り――
「――ほひゃ!?」
涙の後が残る紅く高潮した頬を掴んで、ぐりんぐりんと回し始めた。
「ひゃ、ひゃめろ! ひふれ! ひゃめろほいっへ……痛っ!?」
手を離して、その赤い鼻っ柱にデコピンをくれてやる。
恨めしそうにこちらをみるフランへ、いつもの笑みを浮かべて時雨は笑い掛ける。
「お前は良くやってるよ。あの頼りない部下を統率し、事務処理から新人の育成まで、ほとんど寝ずにやってるのを知ってる。隈なんか作って、こんなに小さな体で頑張ってんだろうが。あせらず地道にやる事がどんだけムズいか、このボケどもには一生理解出来ないだろうがな」
時雨は転がっている連中に視線を向け、不適な表情を浮かべたまま銃を抜いた。
「……俺はな。親しい連中の事しか眼中にねぇんだ。質か数か、どちらを多く救うのか。簡単だよ、質に決まってるだろ? ぶっちゃけ、他の連中なんてどうでもいいしな。……お前ら、俺の意見に少なからず反発を持ってたろ? そこが下らないんだよ」
鼻で笑いながら、続ける。
「人間ってのは、言い変えりゃ悪魔なんだよ。考える事を与えられてからな。そうだな……善悪の観念的に言えば、法を守る事が善として、法を破りゃ悪だ。だとしたら、お前ら全員悪だよな。俺も勿論そうだ。だってそうだろ? 永遠の命を望む事も、法律が可笑しいと否定する事も、長生きしたいと言う事も、愛と言う存在すらも、国によっては悪になっちまう。天使ってのはな、身内にも容赦しねぇ。誰でも平等に裁く。人間には絶対に出来ないよな。けど、悪魔は違う。その時々の感情で動く、飽きっぽい刹那主義だ」
自分の紅茶を空いた手で引き寄せて、更に続ける。
「下らないって言ったのは、無理して天使のフリをしたがるからさ。こぞって、馬鹿みたいに正義を主張する裏で、はみ出し者を追放して法を守ろうとする。しかし、それにも裏道があって、金を渡せばどうのこうの……。そりゃ矛盾だらけにもなるだろ、悪魔が天使の皮被ってるだけなんだからよ」
「……何が、言いたい?」
「分かんねぇか? んじゃストレートに言うわ」
トリガーを引いて、紅茶のカップを粉々に粉砕してみせる。
「……テメェら全員、今すぐ失せろよ。ここは建設的な意見も出さずに愚痴言い合う場所じゃねぇだろうがッ!! 天使の皮被ってたいなら今すぐ反論して見せてみろよこの腰抜けどもがッ!! そうでなきゃ、他人に迷惑掛けないように、自慰みたいに延々と内輪で粋がってろ! 専門の軍にどうこう出来ない問題がここで片付くと本気で思ってんなら、今すぐに何か出してみろ! 偉いんだろうがよッ!! どうなんだっつってんだッ!!」
気まずそうに顔を見合わせる三人だったが、時雨の迫力に押され、逃げるように部屋を出て行った。
と、オペレーターから通信が入る。
携帯端末を取り出しボタンを押すと、立体ホログラフが浮かび、桜色の髪をした無表情な少女と回線が繋がる。
『こちら、アリサ・ブリュンヒルデ。話は聴いてた。時雨、グッジョブ』
「おお。俺マジカッコいいだろうが。もっと誉めてくれていいぜ」
『きゃー素敵。ちょーイケメン。結婚してー』
「棒読みかよ、寒いぜオイ……」
『後でご褒美に金平糖あげる。万歳三唱プリーズ』
「わーい、やったー! ……これでいいのか?」
『録音した。時雨さんマジ天使』
「いや、そこはマジイケメンにしとけよ。天使だなんて薄ら寒ィ……」
そこはどうでもいいのか、アリサはフランに向き直った。
『で、フラン艦長。どうする? 前線からヘルプなう……』
――なうって……。
フランは目元を袖で擦ると、意を決した良い表情で、高らかに宣言した。
「無論、救援に行くぞ! 出撃は少数精鋭で、私と時雨、それとローランだ。ノストラダムスを時雨のアイギスに搭乗させろ!」
「おいおい……勝手に決めんなよ」
「すまないが、一番安全なところだ。……頼むぞ、時雨」
「分かったよ。んで、どうした? もう泣かないのか? 俺の胸で泣いていいんだぜ?」
「……馬鹿者が」
苦笑し、フランは通話を切って端末をこちらに寄越してくる。
「……さあ、一仕事だぞ!」
「ああ」
時雨は笑みを浮かべながら、走り出したフランの後を追うのだった。
前線では、危機的な状況に陥っていた。
「おい、敵はどうなっている!」
『て、敵……感知できません! ステルス信号もまるできか――――』
刹那、また一つの命が消える。
爆散した前量産型神機――『フィルギア』の機械片を浴びながら、黒い甲冑のような機体が姿を現し、再び消えた。
「くそ……! 何なのだ、あの機体は! 一機だけで、この艦隊を――」
と、通信にノイズが混じり、仮面を付けた――女性の姿が映された。
「だ、誰だ!?」
その質問に答えず、女性はただ尋ねる。
『何故、争いをするのですか?』
「な、何……?」
『争いを広げて、どうなるのですか? 勢力が台頭し、潰し合い、また生まれる。その繰り返しを、なぜ是としているのですか? 何故、そこから何も学ばないのですか?』
「ええい、今は戦時中だ! 己の欲しい物が拮抗している以上、争うのは当然だ!」
『……そうですか』
辛そうな声に驚いたが、相手は敵。
敵は、討つ。
実弾の機関銃を縦横無尽に撃ち、ただ応戦しようとした。
しかし――
『さようなら』
刹那に、その機体も真っ二つになってしまう。
姿を見せた黒い機体の手には、一振りの無骨な刀が握られていただけだった。




