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十章 オリオンを捧ぐ ~前編~

後、修正を加えます。

描写不足なので、付け加えたら前書きを消そうかと思います。

 人は精神的に追い込まれると、とんでもない事をしでかす。

 しかし本人はそれが普通で、故におかしくなどない結論だと思い込むが、他人の言葉に耳を貸さないと、普通ではいられなくなる。

「お、お止め下さい、ロッテンシャルル様! 住人の避難が――」

 普通は、人々の平均だと言う事。時には異常が必要な場合もあるが、何故――今だったのだろう。

 現在のロッテンシャルルは、一言で言うなら狂っていた。

 数々のイレギュラー。度重なる苦情と問題。そして――時雨の離反。

 精神面でも肉体面でも、彼は脆かった。結果、狂ってしまっただけの事。

 もう誰も頼る事無く、狂ったように笑いながら、街中のエネルギーを集めて放つ光の剣――『カルブリヌス』をグランディアに放とうと、馬鹿な真似をするまでに。

 彼を突き動かしているのは、妹を守る事と、自国の勝利。他に何も考えられない。

 大より小、とか。そんな理論とかは既に念頭になく、単純に優先順位にそれだけしか映らないだけ。その他多数なんて、自分達が生きる供物にでもなってしまえば良いと。

「……そうだ、かはっ、はははははははは――――っ!! どうしてこの俺様が、自分のことしか考えない愚民を重んじなければならない! 奴らを念頭に置かないなら、この兵器で他を粉みじんにすればいいんだ!」

『カルブリヌス』。その存在自体が隠匿されていた、最悪の兵器だ。

 自国を一端、滅亡の危機にまで追いやった、あらゆるエネルギーを糧とする兵器。電気だろうが、人の生命だろうが、街に潜めて張り巡らされた集積回路上のエネルギーを搾り取り、思いのままに放つことが出来る。

 ちなみに、シャルロットは幽閉している。この醜い現状など、麗しく可憐な瞳に映させてはいけないのだ。

「この汚らしい死骸などもそうだな。元が見苦しい所為か、死んだらその見苦しさが跳ね上がる。弾の方が勿体無いか」

 先程の小喧しい男を撃ちぬいた拳銃からは、細い硝煙がたなびいている。血に塗れた大理石を踏み付けながら、『カルブリヌス』の発動時間を確認した。

「……後十五分、か」

 暗い室内に、その声はどこか寂しげに響いた。



 ブリッジに集まった軍人らを眺め、フランは声高に告げる。

「『カルブリヌス』が発動したのなら拙い! 我々は市民の安全地帯誘導を最優先とし、後は最寄の安全地帯に飛び込め!」

「艦長は!」

「私は『オリオン』で出る! 高エネルギーに反応して、狼が数匹出現したからな! ローラン、お前も来い!」

 彼の答えを待たず、フランは格納庫へと駆け出した。

 狼に関してなら、彼女――ジークリンデも協力してくれるはずだ。

 あの小さな戦闘機で、あれだけの技術と勝負強さを持つ人材は、滅多にお目に掛かれない。傭兵というからには、金と信用の商売だと断定できるので、頭数に数えておく。

 少数精鋭でいい。無駄な機体を出して、避難所への誘導が遅れたとあっては、本末転倒である。軍隊は、国民を護る為にあるのだから。

「艦長、一体……何が起こっているんでしょうか」

 歩幅の違いで、フランと並んで走るローランの足取りは軽い。私語は慎むべきだが、口を開いたローランの気持ちも分からなくはないので、黙っていた。

「……王は最近、少し思いつめていました。でも、あんな事をする人じゃなかった。妹思いの、良いお兄さんで……」

「それだよ、ローラン」

 走りながら、自分の考えを彼に述べていく。ローランは熱くなりやすく、一般人に近い思考回路をしているので、彼の考えを聞きたかったのもある。が、やはり自身も不安だったのだ。誰かに何かを言わなければ、混乱していたかもしれない。

「守るべきものが、逆に足枷となってしまっているんだ。誰かを守ろうと一人で空回りし、挙句に一番守りたかったものを傷つける」

「ええ。シャルロット様はそれを望んではいないでしょう。それでも王は……グランディアを焼き払う気でしょうか」

「多分、な。だが、そんな非人道的な物はあまり使わせたくない。狼を撃退した後、止めるぞ。……お喋りはここまでだ。先に行け!」

「はい! ――御無事で!」

 凄まじいスピードで回廊を駆け抜けていくローランの後を追い、フランも走る。

 迫りくる嫌な予感に、速く速くと背中を蹴飛ばされながら。



 急激に収束していくエネルギーを、時雨は捉えていた。

 アイギスの脱着式兵装装備型――タイプ『鈍重高速超火力ヘカトンケイル』に搭乗し、ディスプレイを六つ展開する。

 その一つを咲耶達に繋げて、時雨は声を張り上げた。

「馬鹿みたいなエネルギーが収束してやがる! 何か知らんが、このままじゃグランディアが吹っ飛ぶぞ!」

『ちょっ!? 何それ!? 隔離世はどうなるの!?』

「隔離世はまだ大丈夫だろうな。あれほどの熱量を放出するなら、地上と空中用にしか砲身を動かせはしねぇ。それこそ、滅茶苦茶な規模の台座がいるからな、海に向けれるなんて器用な代物は作れねぇよ」

『……じゃあ、グランディアは』

「ま、心配すんな。向こうには哉ちゃんがいるし、俺も行くからな。お前らは、念の為に障壁の出力を強化してくれ」

『分かったわ。気をつけてね、時雨!』

「へいへい。んじゃま、ほどほどに頑張るわ」

 実にやる気のない返事と共に通信を切り、哉徒と繋ぐ。

「へい、ダイジョブかよ?」

『精神的にヤバいけど、まぁ元気だよ。それより――』

「ああ、そっちがヤバいみてぇだな。何があったよ。軍隊っぽく頼むぜ?」

『アホか、普通に話すぞ。……正体不明のカルブリヌスと言う物が作動している。分かるのは名称のみだが、恐らくは兵器の名前だ。街の方では緊急避難命令が出ていて、そこにカルブリヌスの名は出てこなかった』

「まぁ、カルブリヌスっつったらアーサー王の持ち物じゃん。秘匿にするってのは、住人に何らかの悪影響を及ぼす感じじゃねーかって思うんだが」

『……アーサー王までいるのか、この世界』

 なんだか、ウンザリしたかのような哉徒の声。ヤツは普通を好んでいた人間だったので、常識を粉々に破壊されている今の状況が面倒なのだろう。気持ちは分からないでもないが、今は考えるべきじゃない。

「城の動向に注意しとけ。それと、こっちの回線を絶対にばらすな。そして、俺の演技に合わせろよ?」

『……その横にある金髪と変な仮面でなんかするのか? ほら、種運命やら無印で出てきたような……。シリーズに一人いるだろ?』

「いや、パッと思いつく中でXは出てなかったと思うぜ? や、どうでもいいんだがな。そんな感じだから、いっちょ頼むわ」

『ヤダね。折り合いみて絶対にばらしてやる』

「そっちの女装も全世界ネット配信でいいならやれよ」

 刹那に通信を切られ、時雨は溜息を吐きつつ、隣のアイリスを見る。

「……で、お前だよ。つかオイ、さっきからだんまり決め込んでんじゃねぇ」

 俯いている、青髪をした小柄な少女。

 銃口を向けてから、どうにも彼女を取り巻く雰囲気が違うように感じる。恐怖再燃フラッシュバックでも無いだろうし、では何なのだろう。

「哉徒の携帯通して、外部サーバーにハッキング出来た。そりゃネットの規格が違うから、対処法も無いわな。んで、引き出したんだぜ? ……ノストラダムスは、二人いるってな」

 そう、これは隠匿された真実。

 ――ノストラダムス姉妹。未来予知を司る、宇宙の観測者。

 血を別けた姉の方に、突出した能力が継がれてしまい、妹は用済みになるところではあった。

 しかしながら、短期間の未来が予測できるのも、戦闘においては優位に立てる。姉には遠くを見渡せ、何かを手繰る凄まじい力があったのだが、現在はどこかで眠っているらしい。

「妹には事実を知らされていないと書いてあるが、そりゃ違うな。テメェは知ってたはずだぜ。瞬間記憶能力者だろ? 未知を忘れずに映像として、一瞬で脳裏に刻み込む。まぁ、未来の状況を見るのに神経使って、普通は喋れねぇし、そう考えりゃ妥当だ」

 幼い頃、姉と離れ離れになる前の事を、彼女は確実に記憶しているはずだ。生まれついて予知が出来たと言うのは、生まれながらにして記憶を持ち、且つそれを映像として脳裏に刻んでいると言う事に他ならない。

 が、時雨の言葉を返したのは、少女とは思えない凛とした声だ。

「問い詰めても無駄だよ、牙折れた獅子よ。この娘は眠っている。先程の問いには、私が答えるとしよう」

 呆気に取られる時雨を他所に、アイリスだった少女が雄弁に語る。それは丁寧な物腰だが、圧倒的な上下差を感じさせるものであった。

「そう、この娘は知っていた。訊かれれば答えただろうが、君を信頼する事しか念頭に無かったようだね。それと、その存在に良く気づいたね。私からご褒美をあげよう。知りたがっていた事を教えようか。君をここに誘ったのは、ノストラダムスの姉だよ」

 肩をすくめ、更にアイリスは続ける。

「君は私が手塩を掛けて育てていた駒の一つだ。が、あの偽者如き女狐が君をこんなところに飛ばしてしまったよ」

「……つまり、だ。俺らはテメェの玩具だと? 何様だテメェ」

「ああ、御座に胡坐を掻く者……で、よろしいか? 陳腐な言い方をすれば、神だ。そして、君を愛している」

「っぜぇんだよ!」

 拳を容赦なく放つが、見えない何かに弾かれて、それは止まってしまう。

「そう言うところがいい。もう一人にはない反骨精神が、堪らないよ」

 恍惚の表情を浮かべる自称神を殴り倒してやりたかったが、それよりも気になるもう一人の玩具。

「もう一人ってのは……哉徒か?」

「ああ、そうだとも。しかし、ねぇ。君を分相応にも好いてしまった者がいる。今からその者を殺す。見ているがいい」

 そう言って、操作してもいないのにヴィジョンが浮かび上がる。

 急いでいけば間に合ったかもしれないその場所には、巨大な砲とフランが操る神機――『オリオン』が映っていた。

「テメッ……まさか、この会話も!」

「そう、時間稼ぎさ。本当に頭の回転が速い……君の運命を捻じ曲げて、本当に良かった」

「あ……?」

 その言葉の意味を深く考える時間すら、時雨には与えられず、自称神の芝居がかった語りは続く。

「私の神としての能力は、狂わせる事さ。さて、君はどう足掻く……? 私を満足させれば、彼女は殺さないでおいてやろう。では、また……」

 言い残して、崩れ落ちるアイリス。

 なるほど、神の意識を受け止める器として、アイリスは充分だ。処女で、神がかり的な能力を所有しているにも拘らず、抵抗が無い。多分、何らかの理由で接触を図る事が出来ないのだろう。

 今頃になって出てきやがるその犯人に舌打ちしつつ、哉徒との回線を繋げる。

『どうした?』

「あの弓を持ってる機体を全力で守れ! 頼む!」

『……離れてんな。クソッ、間に合わなくても文句言うなよ!』

 哉徒なら、多分何とかしてくれる。

 こうなったら、小芝居をしている暇も無い。アーサーがおかしいなら、その弱点を――

 

 ――助けて、あげて。この星を、この人達を、この命を。


 既知感が唐突に時雨を襲う。


 ――停めて……戦争を。悲しみの連鎖を。悪神の鎖を。


 それは、彼にとっての始まりで。切っ掛けでもある、文字の並び。


 ――私が今、助けるから。


 ディスプレイに浮かぶ、その文字を見た。

 

 刹那、目の前には――辿り着きたかったその場所が、あるのだった。







 迫りくる狼を切り伏せつつ、メラフリノスを旋回させる哉徒。

 時雨が言った指示を完遂するには、まず五十キロ離れた場所まで行かなければならない。

 舌を打ちつつ、パックのジュースを――

「後、一つか……!」

 手繰り寄せ、半分だけ飲み干し、アクセルペダルを一気に踏み込んだ。

 時雨に搭載してもらったショックアブソーバーが利いているのか、内部衝撃は皆無に等しい。ただ、これはものすごくエネルギーを喰う為、普段はオフにしている。今は……緊急時だ。

「間に合えよ……!」

 黒い流星は、夕焼けに変わりつつある空を駆け抜ける。

 と、更に通信が舞い込んできた。時雨が、ニィと笑いつつ、何かのファイルを転送してくる。

『哉徒、予定変更だ! 携帯差し込んで、そいつの指示に従ってくれや!』

「後で何か奢れよな!」

 軽口で返しつつ、先程まで鬼気迫っていた表情の時雨を思い出し、疑問がわく。が、今はねじ伏せておいた。後でいい。後で、訊こう。

 スロットに携帯を差し込むと、フローレンスがディスプレイに現れ、地図を展開した。

『御主人様、城に向かいましょう! 二階のこの部屋に、少女がいるはずです!』

「よく分かんないけど……会えばいいのか?」

『会って連れ去り、城の地下室にいるひょろい男へと見せ付けるそうですよ!』

「それ犯罪だろ!? ったく……あの馬鹿時雨ぇ!」

 全速力で城へと機体を進め、城壁近くで急停止をする。

 と、機体は石垣に突っ込んで城を崩し、結果、四階の屋根に突き刺さる。

 携帯と刀を手にとって、哉徒はそのまま地面へと飛び降りたのだった。

迷ってます。と言うか、これからの展開も今までの展開も随分と悩んでます。

そして、死亡フラグが立ち掛けたフランを死なすか死なせないか……ど、どっちがいいと思います?(訊くな

あー……どうしよ。

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