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七章 『隔離世』と敵の存在~後編~

機械録の新録が始まりましたが、こっちがメインです。

更新頻度も、こっちの方が高いでしょう。多分……

「――と言う訳で、オレの立場は比較的不安定なんですよ」

哉徒はそう締め括り、敵ではない事、時雨を殴りに来ただけと言う事を伝え終える。

ついでに自身の立場も明言し、女性ではない事も強く言って聞かせておいた。哉徒にとっては、それが最優先だったりする。

代わりに、磐長と咲耶に呼ばれていた女性が、この世界における戦争的状況を教えてくれる。

現在、国は三つ。ここ――グランディア王国、同盟関係にあると言うシュバルツガルド王国。そして、敵であるアースガルド帝国。

時雨はアースガルド帝国で技術者をやっていたが、今はこの『隔離世』で機械開発に携わっている。目的は不明だが、『紅の虚』と言う希少鉱石を時雨は欲しているようだ。

咲耶や磐長は、第三勢力であるゴーレム等を討伐する為、停戦協定について話し合っているらしい。

そこで、哉徒に疑問が生じる。

「そのゴーレムは、どこから来るのですか?」

問いは、首を横に振られて返される。

「分かりません。ただ、やって来てはエネルギー機関を破壊しようとしていますね。最近はゴーレムだけではなく、狼に似た何かが出現して……」

「狼?」

哉徒がゴーレムと遭遇したのは一度だけ。フローレンスの指示で額の文字を破壊し、沈黙させたあの戦いだけだ。

時雨の事だ、弱点はとっくに知っているだろう。しかし、狼なんてどこにも見当たらなかったが。

磐長は長い緑色の髪を弄りながら、何か考える仕草をしている。癖なのだろうか、礼儀作法をそつなくこなしていた彼女には違和感のある挙動だ。

「んー……そうですねぇ。宙を駆ける力を持った、二十メートル前後の狼です」

「や、やたら大きいですね……」

「んで、そいつが出現し始めたのが、大きな時空の歪みが出現した時からだ。お前、たぶんあれで飛ばされたんだろ?」

起きていたか、時雨が起き上がりながらそう言う。痛むのか、背中を摩りながら。

時雨の言う時空の歪み――あの空間転移の事を言っているのだろうか。だとしたら、妙な話だ。

「オレの国では、未確認生命体と呼ばれていたのは、巨大な黒い羽虫でした。大きな音が鳴った後、オレの故郷にも様々なものが出現するようになったんです。ここの――『土機』、とか。狼とかゴーレムとかは見たことが無いですね」

「……あー、なーるほど。虫はこっちの世界でも見かけるようになった。あの音、多分だが時空の境界線を揺さぶる効果があるんだろうぜ。最近他の国で多いだろ? 偵察機が戻ってこないって事件。恐らく、地球むこうに飛ばされてるぜ」

「そうなのか?」

「そうすりゃ、辻褄が合うわな。お前がどうしてここに来れたのかも、それで片がついちまう。とすりゃ、拙いな」

「何でだよ」

「時空が歪んで、地球とここが繋がって行く。頻発するほどに距離は近付き、規模も大きくなっちまう。って事は、だ」

顔に不敵な笑みを貼り付け、何でもなさそうに時雨は確信染みた推測を口にする。

「――ぶつかるぜ? ここと地球」

「「「……はぁっ!?」」」

驚きに目を見開く三人に時雨は苦笑し、磐長が淹れてくれていた哉徒の茶をひったくる。

「アホか。あれだけの距離を繋いじまうほどの虫食穴ワームホールだ。規模が音が鳴るたびにデカくなってるとすりゃ、ぶつかるのも時間の問題だろ」

「……打開策はあるのか?」

哉徒は他の二人に比べて、冷静だった。何か問題に直面した瞬間、時雨は何らかの答えを出している。

いつもそうだった。ぐだぐだ悩んでいる哉徒に発破をかけ、浮かぶ選択肢を全て提示してくれていた。だから哉徒も、飯を作ったりとサポートを繰り返している。

云わば司令塔。

そんな時雨は、いつもの不敵な笑みを浮かべなおし、更にそこへ悪戯っぽい笑みを重ねた。

「あるぜ。まず一つ、どっちかの星を木っ端微塵にしちまう事」

――ぶーっ!

飲んでいた茶を噴出す哉徒。流石に咲耶と磐長はそうしなかったが、流石に驚いていたようだった。

咳き込み、哉徒は得意げな顔で笑っている時雨を睨んだ。

「何でいきなり究極的な破壊行為なんだよ!」

目から鱗どころの騒ぎではない。

しかし、考えれば……いい手段かもしれない。ぶつかる片方が無ければ、そもそもぶつかるなんて事は懸念しないでいいのだから。

冷静になったこちらの表情を見て、時雨は頷く。

「まぁ、虫食穴が繋がったとしても、飛んできて残骸だ。この方法が確実っちゃ確実だわな。手順としては、親しい人物を戦艦に乗っけて、時空間で転送してもらう。んで、次に出現した虫食穴へと核かマ○ロス○ャノン並みの奴を投げ込めば、お終いだ。楽勝過ぎて吹くだろ?」

「だ、ダメに決まってるじゃない!」

けどまぁ、咲耶達は黙っていないだろう。時雨や哉徒と違い、大勢も大切だと彼女達は思っているのだから。

時雨は頷き、続ける。

「んで、メンドクサいが……音の発信源を捉え、破壊する。これがまず挙がるわな」

「ふーん。どうやって探るの?」

「知るかよボケ。まぁ最後に……某宇宙戦艦的なアレで新天地を求め、旅に出る」

「現実的じゃないな」

「ああ、絶対に御免だね」

鼻で笑い、時雨は鋭い瞳を磐長へと向ける。

「んで……だ。その虫はゴーレムを攻撃しなかった。しかも、ありゃあ……この世界のもんだろうな。哉徒、お前なら分かるだろ?」

頷く。

磐長姫や此花咲耶、新撰組メンバーまで見てきた。日本での神話や幻想世界が混じり具現化した世界で、ゴーレムは異端ではない。

狼もそうだろう。北欧神話だったか、災厄の狼は哉徒だって知っている。虫は……なんだっけ。まぁ時雨がいうなら、何かいるはずだ。

「誰かが操ってるって事か?」

「しかも、明確な敵意を持って、だな。裏で糸引いてる奴がいるってこった」

この世界のブラックボックス。

時雨の話を加味して、出てくるのが一つの国名である。

「……シュバルツガルド」

そう、まだ見知らぬ地。

同盟相手にも姿を滅多に晒さないという、謎多き暗黒の王国。

「それだぜ、哉徒。連中、アジトすら分かっちゃいねぇし……何より、俺との接触をさけてる」

『――それは、貴方が忌むべき存在だからですよ』

唐突に、今の今まで黙っていたフローレンスが電子音声を響かせる。

哉徒の懐から響いたそれを取り出し、畳の上におく。すると、一人でに女性の姿をとり、一礼した。

「どうも、貴方のようなクソ野郎は覚えていらっしゃいませんよね。初めまして、『名無し』です。貴方が昔、計画書を破棄した、あの『名無し』に使われていた、サブユニットですよ」

興奮気味にまくし立てるフローレンスだが、意味は良く分からない。哉徒と他三人は首を傾げ、時雨のほうを見……目を見開いた。

口を開け、唖然としている。どんな事でも想定内のように、驚く事は決してしなかった。いや、その姿を人前で見せなかったのだ。

すると、今度は哉徒の方を向き、フローレンスは吼えた。

「御主人様、かたきですよ? 貴方が殺したいと、ずっと願い続けた野郎が目の前にいるんです! 何でそんなに簡単に割り切れるんですか!? 貴方の愛しい人がこの男によって世界から弾き出されたのは事実なんですよ!?」

「そ、れは……」

「……貴方は、中途半端なんです。悲劇ぶりたいだけだったんでしょう!? 誰かに優しくされて当たり前とか思ってたんでしょう!? 自分が悲しいからって、全てを弾いていたんでしょう!? どれなんですか! 中途半端に人を遠ざけて、中途半端に優しさを待ってて! 筋なんか通せてないじゃないですか!」

人間として、それは当然とも言える心理だ。

人に優しくされたい。誰だって、そう言う願望は心に秘めている。独りで生きていたいと願った人物でさえ、優しさにほだされるのだ。

ある意味では人間らしい哉徒だ。時雨よりも、親しい人を大切にする反面、関係のない人物にはとことん冷酷である。

「この野郎を殺すのに貴方は覚悟ができていなかった! これ以上、失いたくなかったんでしょうね! 臆病者! 昔の男に未練抱えてる甘え腐った女にそっくりですよ!」

その通りで、哉徒は動けなかった。

――そうだ。口では殺すとのたまいながら、時雨を失う事が怖かった。親友、だったから。この手でなんか、殺せない。

が、次の瞬間、鈍い音が和室の中に響いた。

時雨が――フローレンスの頬を容赦なく打ん殴ったのだ。

「痛……っ!? な、何を……!」

「いきなり出てきて何をペラまわすかと思えば、そんな事かよ。そうか、あの機体があったのも思い出したぜ」

初めて隔離世に行く際、監視するように飛んでいた黒の機影。あれはコイツだろう、『名無し』のフォルムは『アイギス』に良く似ていた。

憤る彼女を目で諌め、時雨は続ける。

「哉徒を知ってんなら話が早いわな。俺やこいつは、子供の頃に一度、人から弾かれちまってんだ。生で経験しないとわかんねぇんだよ。知った風な口利いてんじゃねぇ!」

「あ、貴方は私を捨てようと……!」

「機械に感情なんざねぇんだよ! テメェはそう設定されただけの、都合のいいキャラクターだ! そう記憶と知能をインプットされただけの擬似的な知能が、この俺様の親友をけなしてんじゃねぇッ!! 俺は機械が好きだ。けどな、素直じゃねぇ機械なんざ真っ平御免なんだよッ!!」

「だ、から……私を、破棄……」

「当たり前だろうが。ありゃ、俺の最高傑作アイギスをより際立たせる為に作った、正反対の機体だ! で、全部かよ。分からない事があるなら今聞くぜ? ねぇなら…………」

時雨は懐から銃を抜き、哉徒の携帯電話へ向けて銃口を向ける。オートマティックのそれは、かなりの口径だ。当たれば、木っ端微塵だろう。

「……後始末だ。ま、俺が企画したもんだしな」

安全装置を解除し、時雨は犬歯を剥いて笑い、その引き金を――

「お約束だねぇ、王子様よ」

苦笑しつつ、時雨は銃口を哉徒に向けた。携帯電話を、哉徒が庇っているのだ。

文句を言い掛けて、フローレンスの口が止まった。

哉徒の目が、あまりにも真剣だったから。そして、あまりにも……綺麗だったから。何も、言えなくなる。

溜息を吐きながら、時雨は鼻で笑い、哉徒の行動を一蹴する。

「退けよ。主人に楯突く機械なんざ笑いもんだ、作った俺が死にたくなる。こんな暴言吐くような奴、庇い立てすんな」

「……謎が分かった今、彼女は、生まれたんだよ」

「あー……いや、成る程。お前の言わんとしてる事は分かるぜ?」

時雨との邂逅。それを済ませたフローレンスは、これから何をするべきかも定まっていない。確かに、生まれたままの状態か。

けれども、だからと言って……

「テメェが庇い立てする義理はねぇよな」

その言葉に、フローレンスは震えた。

今まで、死と言う概念をあまり重く捉えていなかった。機械である彼女なら、それは仕方ないかもしれない。

だが、触れてしまったのだ。殺す、と。もう触れ合えなくなり、何も話せなくなる。一人ぼっちに、また戻るかもしれないのだと。

今なら、哉徒がどんな気持ちで時雨と付き合っているのか分かる気がする。

きっとそれは複雑で、それこそ乙女心のような。けれども、それを表に出さず、堪えようとしても滲み出てしまう。苦悩を……確かに、人よりも多く抱え込んでいるから。親友にも話せていない事実も、まだ彼にはある。

それすらも包むように、哉徒はフローレンスを改めて抱き寄せた。

「…………ご、御主人様?」

――ワケが分からない。

あんな暴言まで吐いて、散々醜い行為を重ねたのに。何で……?

目を白黒させるフローレンスに、大胆な行動に目を見開く磐長と咲耶。

時雨はただ一人、呆れたような笑いを浮かべていた。

「英雄様は気が多いってか? おいおい、どうしたよ。男なら生涯、一人の女性を愛しぬくとほざいていた哉徒御大はどこいったんだ?」

「馬鹿野郎、そりゃ男の甲斐性だよ。んで、お前がこいつの生みの親なんだろうが……今は、オレの物だ」

抱き寄せられる手に力が込められる。その度に、思考回路が熱を帯びて行くのが分かった。

「あんまり物扱いしたくないけど、ああ確かに機械かもな。だったら今はオレの物だ。勝手に壊そうとすんなよ、親友様の所有物だぞ? オレは物を大切にするからな、一生一緒だ。例え壊れてもな!」

熱烈なラブコール、もうそうとしか聞こえない。

磐長は顔を真っ赤にしながら聞いているし、咲耶にいたっては目をぐるぐると回して気絶してしまった。時雨はそう言う本が並べられていた事を知っているのだが、生で現場を見ると違うのだろう。

銃は収められる。嘆息を長々と吐き出し、時雨は哉徒に向け笑いかけた。

「んで、ミスター女たらし」

「違うけど、なんだよ」

「その女を落とす手腕を見込んで、ちょいと行って来て欲しい所があんだよ」

哉徒の放った拳を弾いて、時雨は真剣な表情を作る。

「……シュバルツガルドか?」

「違ぇよ、アースガルドの方だ。動向がサッパリわからねぇし、行って来てくれや」

「……ああ」

「そこの端末をこっちに置いといてもらう。ブラックボックスな部分がありそうだし? ああ、別にとろうとか思っちゃねぇよ、んな顔すんな」

「で、一人でか?」

「そうさな……」

何か携帯電話を取り出し、操作を終えたと思ったら銃でそのシンプルな携帯をぶち抜いていた。発信記録を残さないためだろう。

「今から指定するポイントに行ってもらう。期限は三日。もうそろそろ、周期的にゴーレムが現われっから、そいつらを救う形で頼むぜ? 明日の明朝、出発な」

「ああ。……いいか、フローレンス?」

「はい。信じてます」

「任せとけよ」

笑う哉徒は相変わらず可愛らしかったが、何故だろうか。フローレンスは今、哉徒に頼もしさと……男性らしさを感じていた。

フローレンスがメインヒロイン的な感じなっております。

が、ヒロインは未定なんですよねぇ……。ぶっちゃけ、物ですし(オイ

あくまでも、哉徒視点が本筋です。

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