表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/36

六章 再会 ~後編~

時間のある時に文を加えようかと。

短いですが、これで。

トップギア、アクセルベタ踏みでロケットスタートを決めた哉徒は、そのまま『隔離世』への道を全力で突き進んでいた。

あらゆる景色が線のように横を通過していく。早過ぎて常人なら目は利かないのだが、哉徒はそれを苦にせず、ただ黙って飛行している。

そんな主人の様子に、無論フローレンスは驚いていた。電話直後の激昂こそないものの、先ほどよりも確実に怒りが増している。そして、空気が冷たくなるのを感じていたからだ。

『ご、御主人様!? 落ち着いてください!』

「オレは落ち着いているさ。……あの野郎、絶対に殺す」

フローレンスの言葉を叩き返し、哉徒は操縦桿を握る手の力を強めた。

機体は最高速度のまま、海の境界線を越え、レーダージャミング域――通信が途絶える事から、そう呼ばれる『死海領域』に突入した。

自機はおろか、敵ですら障害物などのデータ処理が利かない今、哉徒の取っているアクセル全開は有効的ではある。何せ、そんな領域を全速力でぶっ飛ばす機体を打ち落とす迎撃システムなんてほとんど存在していないからだ。

しかし、そうなれば機体が直接討ちに来るのは当然。

目の前に現れた薙刀持ちの日本甲冑。想像以上の急接近に、敵機と勘違いしたのか。それとも時雨が自分を試しているのか。おそらく後者だ。

なので怯む事無く、哉徒は突撃を敢行する。

『無茶です! 死にますよ!』

「勝算しかないから問題ない。見てろ」

全速力を維持してきた機体の電源を、あろう事か哉徒は躊躇いもせず切った。そして、奴らの撃ってきた弾が左翼に直撃。ダメージは無いが、煙を吹いた。

『ちょ!?』

無論、推進力の電源も切っているので、急減速し、失墜していく黒の機体。

追撃しに来たのだろう、上空には甲冑が群れている。――ここだ。

マニュアルモードで急発進し、変形。出力最大にしておいたレーザーを抜き撃つ。ここまで、三秒もない。

機動性はあまり無かったらしく、纏めて撃墜できた。戦闘機の形になり、再び上昇してからアクセルを踏み入れる。

異常な行動であっただろう。何せ、フローレンスの電子頭脳が一瞬フリーズしたのだから。

しかし哉徒は顔色を一つも変えていない。出来て当然と言わんばかりの平静さでコンソールと景色を眺め続けていた。

『……信じられません。どうして、こんな事を……やはり、死ぬおつもりですか?』

「あいつをぶっ飛ばすまでは死なない。行くぞ」

再加速していく機体。

――死なない。そう哉徒が言ってくれたのは、フローレンスとしては最上の喜びだった。

けど、あの糞野郎に会って……そしたら、どうなるのだろう。

彼を突き動かしている原動力は、あの糞野郎をぶん殴りたいが為。この異世界に来たのも、ただそれだけの理由。それを失ってしまったら、今度こそ……哉徒がどうなるかなんて、分からない。

そんな事を考えている間に、更に数体の機体が前に――

「実力が見て分からないらしいな」

哉徒が呟くと同時に、勢いはそのままで変形。レーザースイッチを入れていない刀で巻き打ちの如く回転しながら相手を切り伏せ、変形してから再びトップスピードに。通り魔も真っ青な瞬間芸だ。

そのスピードを保ったまま、『隔離世』の領域内に進入する。

『隔離世』は地下といっていたが、場所までは分からない。しかし、目を凝らせば、確実に出入り口の形跡は見つかるものだ。

海中を潜行するプランが浮かんだが、瞬時に破棄。敵機が潜んでいるだろうし、そもそもこの機体は水中戦を想定していない。よって、没。

ソナーで探すのが一番確実ではある。しかし、その場合は水面に接していなければならず、同じ理由で却下。

ここは発想を変え、水をどうやったら除けられるか。そこに着目する。

音速で飛行して水面を割るのもいいが、リスクが高い上に狙撃される可能性も飛躍的に上がってしまう。ミサイルでは爆破が波によって軽減されて意味はない。

選択したのは、高密度のレーザーで周囲の爆散を狙う事。同じ一点にレーザーが集中すれば、終着点以外にも余波が生まれ、一時的ではあるが波をも凌駕する。残存エネルギーが気に掛かるが、他に手段もない。

右のレバーを上、右上、上と操作し、左のコンソールを触る。エネルギーを銃口へ一点集中、余力なしで全力全開。

『チャージカウント開始。……五十、六十、七十四、八十二、九十五、百。エネルギー臨界点まで、残り十秒です』

「助かる」

臨界突破してエネルギーが逆流、もしくは放散する前に、撃たねば。


しかし唐突に、哉徒の目的はご破算となる。


――だが、知っていた。



海面から出てくる、白い巨人。

身を隠すほどの純白の盾を持ち、曲線を描いたようなフォルムは洗練されていて、まるで機械の女神でも見ているかのような錯覚を目にする者に覚えさせる。



――奴は自分の行動くらい、読んでいると。長い付き合いだからこそ、こうなるだろう事を知っていたに違いない。


海水を弾いて煌く様は、まるで白光。ゆっくりと上昇してくるその様は、太陽のように。


――そう確信を持てる。


位置を合わせるために降りてくる自分の機体は、さながら夜だ。


そして今――陽光アイギス夜闇メラフリノスが対峙する。


通信が強引につなげられ、髪を染め直していたのか、黒髪の少年が目の前で破顔した。

『よォ。相変わらず女々しい面してんな、お前』

それは、あの頃とあまりにも変わらなくて。

ムカつく言葉も、舐め腐った態度も。髪の色を除く全てが、あの頃のまま。

自分なんかよりもずっと頭がいいくせに、それを悪ふざけと趣味にしか転用しない大馬鹿野郎――高宮時雨のままだったのだ。

だから、覚えた感情は怒りよりも懐かしさ。そんな自分が不甲斐無くて、知れず奥歯をかみ締める。

「テメェ……! オレの女殺しといて、よくもそんな口が利けたな」

憎しみを確認するように、自分に言い聞かせるように。その言葉は心の中で尾を引く。

――忘れてはならない。オレの人生を玩んで、滅茶苦茶にしたこいつに……復讐する!

が、そんな哉徒の標的である当の本人は、清々しいくらいに飄々としていた。

『アホが。俺は健康優良児だぜ? 口くらい幾らでも利けるってんだよボケ』

「意味が分かってないなら、そのまま沈んでろよ」

銃口を吐き付け、そう脅す哉徒。

だが、それをせせら笑うかのように、おどける時雨。

『おいおい、怖いねぇー。可愛い顔が台無しだ。久々に会ったんだし、積もる話でもしようや』

「オレはお前との関係にケリを付けたかっただけだ。それが嫌なら、命乞いでもして見せろよ」

本気の言葉にも時雨は肩を竦めるだけで、吐かれた溜息がどうでもいいと明言していた。

と、何か思い出したかのように時雨は呟く。

『ああそうだ。お前に言ってなかったけどよ、俺……あの女、殺し損ねてんだ』

「……冗談は止せ」

葬式も執り行われた。彼女の友人しか集まらなかったが、それでもあの儀式に意味が無かっただなんて、言わせない。

「死んだんだよ。お前が……嗾けた、大型ガス車の大爆発事故によってな」

『だから、死体も見つかっていなければ、痕跡だって残っちゃいない。そりゃそうだ、生きてるんだからな。それに、そもそもあの女……人間じゃなかったんだぜ?』

「証拠はどこにある」

『お前、そいつの両親やら戸籍を調べたこと……あるか? 血の繋がりの無い親でも、葬式くらい出るだろ』

「……きっと、冷たかったんだ。だから、オレが……!」

『ああ、はいはい。まぁ疑問に思った優しい俺がわざわざ調べたんだって。……戸籍も親も無い、不気味なくらいに真っ白な過去が出てきたんだぜ? ウケるだろ? 借金なんて背負ってる奴が、何もねぇわけねぇんだよ。この夢想野郎が、いい加減都合のいい夢から目ぇ覚ましちまえ』

――多分、こいつが言うんだ。当たってるよ。

心の中はそう呟いているのに、頭で理解したくない。

なぜなら、怒りをぶつけている時雨が無実だったら――


――この感情は、どこへ向く?


それが分からずに、駄々をこねる子供のようにかぶりを振る。

「嘘を吐くな、だったら金はどう借りるんだ! 俺との時間を嘘だったとでも言う気かよ!」

『あいつも本気だったろうさ。けどな、もうあいつはいない。それを話そうと思って呼んだんだがな……こっちの世界に、引きずり込まれちまったんだ。悪かったな』

不敵な表情は崩さず、時雨は遅刻を詫びるようないつもの軽薄さでそう謝ってくる。

聞いた話では、こいつは悪くない。

けれども――けれども、だ。気持ちが、それを理解してくれない。

『あーはいはい、女顔に似合わねぇ頑固さだなオイ。相変わらずコンプレックスらしいなぁ』

「……そうだ、忘れかけてたよ。テメェ時雨ッ! また俺の秘密のところでアレを言いやがったな!」

『いいだろうが、俺も惚れ掛けたぜ。あんなシンデレラがいたなんてな。なぁ、カナちゃん?』

「死ねぇええええええええ――――――――ッ!!」

理性とか情緒とか、そんなものは諸々消し飛んだ。勢いと怒りの前では、どんな感情も屈服せざるを得ないと、哉徒はそう肌で感じる。

容赦なく放たれた光芒は白い機体を掠めて海面に衝突し、それを跳ね上げる。僅かに見えた岩部分は不自然で、偶然にしろ何にしろ、そこが怪しいと確信できた。

『アブねぇな、そのマク○スもどき。こっちの機体じゃなさそうだが、日本製か?』

「後で聞いてやる。とりあえず、このレーザーでテメェらのアジトを破壊されたくなきゃ……」

ビーム刀を抜き、正眼に構えさせる。

「――白黒、ハッキリさせようぜ」

『ハッ、頭脳で俺に勝った事なんてあったか?』

「テメェこそ、オレに体を使った事で勝った事なんてあったかよ!」

加速し、白い機影へと斬りかかる。

正面に振るい、首元まで剣先が下げられた瞬間に最大加速。恐ろしいスピードのコンビネーションで突きを繰り出す。

しかし、盾でその一撃を往なす時雨は上手くこちらの懐に潜り込み、蹴りを見舞う。小さいメラフリノスに、かなりの衝撃が走り抜けた。

「チィ……体格差は歴然か」

『おっと、もう降参か?』

「馬鹿扱け、次は――!」

栄養パックを収納ケースから取り出して、口に含みながら加速。

少し距離が開くが、時雨はすかさずそれを詰めて来る。だが、それが狙いでもあった。

格納されていた物質を宙へと放る。高い日に照らされ、乱反射するそれは――耐高熱の強化プリズム。

その意図に時雨も気づいただろうが、もう遅い。

「蜂の巣ッ!!」

抜き撃たれたレーザー。

プリズムに届けば、もう逃れられない。多岐に反射を繰り返すプリズムによって、相手は傷を間逃れない。

だが、時雨は冷静だった。背後から攻撃を仕掛けるなら、陽動かビット、もしくは反射しかないと最初から予測していたからだ。

(まぁ確かに、高速回転してるあれの反射を避けるのはキツいけどな……)

そのレーザーを、そもそもプリズムに当てなければいいだけの話だ。なら簡単で、方法もそれこそ多岐にわたる。

選んだ一つ。巨大な盾を即時展開させ、更にビーム障壁と振動波を起動。高圧縮されたビームは霧散していき、それを見て時雨は更にビットを飛ばしてみる。アイリスがいないので自分一人で複数の事を同時に進行せねばならないが、やってやれない事は無い。

がしかし、精彩を欠くその動きを見切れない哉徒ではない。

「ケリを付けてやる……」

容赦なくミサイルを送る。実弾兵器はこれと実弾パックだけだが、威力は申し分ない。

レーザーの放射を止め、懐からその実弾パックをセット。長銃ライフルの形態のまま、それを間髪入れずに放つ。

白い機体が避ける前に弾がぶち当たる。そう――哉徒自身が放ったミサイルに、だ。

『なっ!?』

ヴィジョンカメラの前で炸裂させたので、これは目くらましになる。

動けずにいる時雨だが、撃った瞬間に哉徒はすばやく別の行動に移っていた。銀色の刀身を取り出し、レーザーのスイッチを入れる。瑠璃色に染まる刀を、哉徒は投げて――戦闘機の形態にシフト。

超高速で白い機体の背後へと旋回し、そのまま空中を駆け上がり、脳天で再び人型に変形。丁度、やってきた刀を掴んで、白い機体に刀を差し向ける。

――その寸前で、刃が止められた。

「……オレの勝ち、だな」

『ああはいはい。カッコいいカッコいい』

投げやりなその態度に腹が立ったが、もうこいつは動かないだろう。

白黒が着いた事で、何か……何かが、抜け落ちた気がした。ある種の清清しささえ、芽生えてしまう。

「んで、お前なんでこんなところに?」

『そこに話が戻るのかよ……。まぁいいや、来いよ。隔離世に案内してやる』

「……向こうの連中に変なこと話してないだろうな」

『まぁ信用しとけよ』

「今までの行いを鑑みて発言しろ」

激しい不安に襲われながらも、哉徒は先行する時雨に続いて海中へと沈んでいく。

哉徒は気づかなかった。あれだけ憎んでいた時雨を前にして――フローレンスが、一言も喋らなかった事を。


――彼女がどんな気持ちでいたかも、気づけないまま……機体は進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ