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第一部 機械録 ~The Legend of Facters~ 開幕  序章 異世界からの遭遇者

「嗚呼……」

この丘から、

森から、

川から、

海から、

空から、

青い星から、

――宇宙から。

生命の断末魔が聞こえる。

物理的には聞こえない声が、少女の脳裏に木霊している。

醜悪な怨嗟の声、無念だと悔しがる声、理不尽さに嘆く声、失うことの悲しみを知った者の声、焼かれていく大地の声。

混ざりながら、それはノイズにならず……悲劇を謳う。

「助けて……」

華奢な少女の小さな口から、声にならない声が零れる。

億にも及ぶ願いが、星空に見守られる丘の上で悲痛に響く。

少女の細い手が虚空を撫で、慈悲を手繰らんとおぼつかない足取りで探っていく。

「お願い……」

星が一筋、彼女の為に流れ落ちる。

「停めて……戦争を……」

――燃え尽きていった星。

少女は、一億五千八百六十二万回にも及ぶ祈りを捧げ――――倒れた。

「あり……がとう……」

星の導きは、真摯な彼女の願いを――聞き届けた。

願いは、その世界を超えて、一人の青年へと――鍵を乗せて。

――けれども、彼女は知らない。

鍵を渡された者が、どんなに酷い茨の道を歩むのかを。

それは、今――充足している生活を送っていた青年にとって、どれだけの理不尽であるのかを。



第一部 機械録 ~The Legend of Facters~ 開幕


序章 異世界からの遭遇者



太陽圏唯一の大気がある星、地球。

独自の文化と高度な機械技術で世界有数の大国に伸し上がった国――日本では、十月を迎えていた。

そのとある都心に、ご機嫌な鼻歌が雑踏に紛れて聞こえる。

都会のビルの森。その間を行き交う風と人の波。

スーツ姿の男女が忙しなく歩いているその中を、上機嫌なスキップにより高速で駆け抜けている一人の青年がいた。

周囲は彼に奇異な視線を向けているが、彼は構わなかった。注目されているのは慣れているし、他人がどうしようと、自分に干渉しなければどうでも良い。

それよりも、高揚する気分に思わず言葉が零れ出た。

「ああ~、待ち焦がれてた完成の日よ~! ひゃっほぅ! 帰ったら早速カラーリングしてやるぜぇ……!」

――正直、気色が悪いこの少年。

名前は高宮時雨。私立の高校に通う、三年生。

気色悪いとは言ったが、見てくれは決して悪くない。

整った凛々しい顔立ちに、バレエダンサーでも志しているかのような美しい肉体。身長も高めで、見た目はかなりの好青年だ。

だが、コンビニの商品の袋を手にした彼は、凛々しい顔立ちを崩し、美しい肉体をくねらせている。まさに骨抜き状態である。傍から見れば、これは通報して良いレベルだ。

そんな時雨は、推薦でその付属している大学に早々とエスカレーター式の進学を決め、趣味に没頭する毎日を送っていた。

彼の趣味とは、機械弄り、メカアニメ鑑賞など。

一般的――と言うより、世間体で見れば、時雨はオタクと呼ばれる者の一人になる。分類別に呼称するならば、メカオタクなのだ。

ただし、オタクが一般的に好む『萌え』と言う単語は要せず、『燃え』と呼ばれるその言葉を重要視していた。

大概の機械モノは、ヒロインが主人公を騒動に巻き込み、勝手にヒステリックになって行って、挙句主人公の足を引っ張り、その後のうのうと結ばれる。

――ふざけた内容だと思う。

更に、決まって時雨が好きになるキャラクターは、主人公とは絶対に結ばれないキャラクター――俗に言う、サブキャラなのだ。

何故なら、彼女達の方がよっぽど健気だからだ。登場シーンが少なく、心の闇が垣間見えていないだけなのかもしれないが、それでも十分に魅力的である。

だが、主人公は目が腐っているらしい。目の前で頑張っているサブキャラをうっちゃって、ただ事態を引っ掻き回しているだけのヒロインをどうにかしようと、哀れに奔走するのである。

そして、そんな作品のお決まりのパターンは、喚くヒロインに主人公が手を差し伸べ、都合良く友情パワーとかラブパワーとかを発揮し、悪の親玉を討ち滅ぼす。

――下らない。ご都合主義が、そんなロボットを動かせる時代に蔓延るものか。

ファンタジー世界ならいざ知らず、燃料が切れたロボットが愛で動くわけが無く、友情も然りだ。

リアルを追求していけば、合理性、確率性だけが残り、そこに感情の入る余地など、残されてはいないはずなのだ。

ところで、彼は今、設計図をパソコンで組み立てている。

戦闘機と人型の可変を備える兵器で、かなりリアルな設計がなされてある。上手く行けばアニメの白い化け物よりも強くなるかもしれない。

武装に関しては、古臭いものから最新の兵器まで、ありとあらゆる武器に対応できる、汎用モデルとなっている。

武器の設計はまだだが、エネルギーに関しては全てに対応可能。電気から正体不明のエネルギーまでもを想定した変換機とエンジンコアは、会心の出来だと自負している。

機体名は――『Aiguis』。

実家に一人暮らしをしている時雨は、意気揚々と鍵を開けると、さっそく玄関を施錠し、自分の部屋に篭る。

部屋には、プラモデルや雑誌が整然と並べられている中、モデルガンや木刀、模造刀などの武器も並んでいた。

本物志向の設計をする為には、自分で使い勝手のよさなどを調べる必要がある。

剣術を道場で学び、射撃場で銃の腕を磨いて、どうすれば動きやすいか、どうすればあらゆる物に対応出来るかを研究したのだ。

時雨はパソコンを立ち上げながら、買ってきたジュースなどを開けて、宴会(一人)の準備を整えていく。

六十二文字のパスワードを数秒掛からず打ち込んで、起動。少し時間が掛かる。

その時間がいつもなら苛立ちを誘発するのだが、今日に至ってはどこと無く心地よい。事実、時雨の顔は達成感に満ち溢れている。

陳腐な起動音と共に、パソコンの完全起動が完了。その刹那に、聞くだけで不快感が三割増しになるあのエラー音が室内に響いた。

「……おいおい」

真ん中に表示された文字。

『調停者よ』

その言葉に、思わず鳥肌が立った。

「って、厨二クセぇなぁ。つーか、クラッキングされたのかよ……マジウゼぇな」

一人暮らしになると、独り言が多くなる。これは寂しさかららしいが、普段特に感じない。無意識の深層に多分あるものだろう。

とりあえず、データ内部に残されているはずの形跡を探したのだが、それらしい跡も見当たらない。

――変だ。

情報を完全に消し去ることは出来ない。こちらはファイルに個別ロックまで掛けている、ハイスペックのパソコン。セキュリティも万全だし、クラッキングすれば何重にも跡が残るはずなのだ。

「逆探知も出来やしねぇ……何なんだこりゃ」

忌々しげに呟き、時雨は開けたペットボトルのコーラを一口含んだ。

と、画面の文字が変わる。今度は英語だ。

『Please,you typed "SAVE".』

「は? 助けてくれって打つのか? いや……向こうが助けて欲しいのか? 頭沸いてんじゃねぇのか?」

やけに丁寧語だが、どうしたものだろうか。と言うより、この状況を何とかして欲しい。こっちを助けろ。

この異常事態に、最新のセキュリティーソフトは全く反応していない。この野郎、金払ってんだぞ。

内心で愚痴りながらもその表示を無視し、設計図を開いて――

――って、

「無い! 設計図が無くなってやがる! 高校一年の頃から案を練ってたあれが無い! 俺のアイギスが……! クソッ、クラッキング野郎か。……あの芸術作品をよくも!」

燃え滾る怒り。およそ二年半の努力が全て水泡と帰したのだ。それが正常の反応だろう。

「これで良いんだろうが!」

尻尾を掴む為にも、手掛かりがいる。ウイルスでも何でも、発信源を辿らなければ。

――高速で、表示されていた単語のキータイプを終えた。

次に、また違う画面が現れる。

今度は日本語だった。それも、一単語。日本人なら誰でも知っている、子どもの頃によく使う言葉。

『ごめんなさい……』

「あ?」

画面に表示された言葉は、時雨を呆気に取らされるのは十分だった。

――と、

「おいおい、冗談だろ……?」

画面が徐々に輝きだす。

電源を切ろうとも、それはまるで太陽のように輝き、更にそれは強くなる。

――馬鹿な、リアルでこんなのは在り得ない! 確率的にも全く無い! 何なんだこれは!!

混乱していく脳。

咄嗟に壊してやろうと、改造モデルガンを取り出して空になるまで連射するが、効果は全く無い。

「ざけんな! 何なんだよこりゃあ!」

苛立たしさと共にマガジンを装填したところで、脳裏に響く声。

『停めて……』

「テメェが止めろボケ! くっそ……んだよ、これ……!」

急に眠気が襲い、時雨はモデルガンを握り締めたまま、意識を失った。






「かつて、この国には戦争が起きていました」

明朗とした少女の声。

淀みを知らず、ただ真っ直ぐな声は、悪意を知らぬ無垢なものである。

シンプルなステンレスの机とリノリウムの床、大きな電子ボードを眺めているのは、何かを朗読している少女と同じ年頃の少年少女達。

壁に埋め込まれてあるボードの前には、一人の成年女性が立っている。教師だろう。

「過去の栄光を取り戻さんとする、ここアースガルド帝国の属国であるグランディア王国の反乱によって、大規模な戦線が敷かれました。我らは機械――『神機』を使い、中でも随一の腕を持った英雄ローランや戦乙女の活躍によって、また打ち滅ぼすことに成功しました」

「……続けて」

「はい。その後、アースガルド帝国は二つに別れ、シュバルツガルド王国が生まれました。しかし、シュバルツガルド王国はグランディア王国の残党と手を組み、再びこの地へと攻めてきたのです」

「結構です。流石ね、アニーさん」

「えへへ……」

褒められた少女は、照れたような仕草をして、その白く柔らかそうな頬を染めた。

他の生徒が微苦笑する中、教師である茶髪の女性が指揮棒を片手に説明を開始する。

「そう。人型や可変型などの、我が国の機械兵器シリーズは『神機』と呼ばれているわ。ちなみに、シュバルツガルドの機械を『黒機』、グランディアの機械を『土機』と呼ぶの。仰々しいけどね」

そう言い終えた瞬間、鐘の音が巨大な建物の全域を駆け巡る。授業終了の合図だ。

合図と共に、遊びたい盛りである少年少女達は一斉に教室から飛び出していく。

止めても無駄だと分かっているのか、教師の女性は何も言わずに、苦笑するだけ。

と、電子ボードが一瞬揺らめき、また刹那にオレンジ色をした長髪の少女の姿が映し出される。

白を基調とした軍服で、小さな身を包んでいる少女。ロングスカートは動き易くする為か、前の部分が膝の上辺りまでしかない。代わりに、膝までは白いニーソックスと黒いブーツが覆っていた。

長い睫毛に閉ざされた瞳が開いていく。

――ラピスラズリのような美しいブルーの瞳。

幼い容姿とは裏腹に、その双眸からは年季を感じる。その所為か、雰囲気がとても落ち着いており、軍人に相応しい厳格さまでもが滲み出ていた。

グラスに注がれた赤紫色の液体を呷り、少女は顔色を変えずに足を組んだ。

『元気か?』

その光景を見て教師の女性は溜息を吐き、グラスを指差す。

「……昼間から葡萄酒を飲むのは――」

『これはただの葡萄ジュースだ、心配するな。それより、使えそうな人材はいるか?』

「いないわ。これといった才覚が現れた子も、ノストラダムスの啓示を受けたと言う子もいない。やはり、彼女の気のせいだったようね」

『まぁいい。どこからかは知らないが、新しい設計図も流れてきた。差出人不明、設計者は相馬五月雨。グランディアの文字だが、これは名前も外見も『神機』だった』

「何なの? それは」

聞くと、少女は口の両端を釣り上げる。

『オールウエポンマスター、と言った感じだな』

「は?」

『ほぼ全ての武装が装備出来る。その上、装備に関して言えば、高出力のスラスターにバーニア、燃費の良い新型動力も考案されていた。上手く使えば、海の中でも陸でも空でも、潜在能力を存分に発揮できるだろうな』

「それって、凄いんじゃない? 海中戦が出来るのは大きいわね」

『ああ。多分、設計した奴は頭のネジが飛んでるよ、こんなの常人が作れるはずが無い。全てが眩暈がするような正確な数値で打ち込まれていて、専用のOSや合金の配合率まで徹底的に作られている。正気なのかを問いたくなるよ。それでいて、同じ数値で設定したシュミレーターでちゃんと動いたのだから、尊敬するしかない。だが、複雑過ぎて誰も乗れはしなかったがな』

「意味が無いじゃないの」

『だから素養のある奴を探せと言っている。多分、エリートでも無理だろうな。恐らくは、これを設計した人物なら動かせるだろうが……』

そう言い終えると、少女は執務椅子から降りた。

「お出掛けですか?」

『ああ。今日は空が綺麗だからな。この空が赤と黒で染まる前に、眺めておきたいのだ。じゃあ、また連絡する』

画面が切り替わり、先程の授業内容が映し出された電子ボードへと表示が変わる。

刹那に予鈴代わりの鐘が鳴り、鳥達が一斉に羽ばたいていった。

その軌跡を見上げ、目線で追いかけながら、教師の女性は溜息を吐いた。

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