プロローグ
気ままに書きます。
「男性で趣味がカフェ巡りって、珍しいですよね。あ、そういうこと言うのもこのご時世あれなのかな……それにしてもマナブさんって、とてもかっこいいですよね」
沈黙を破った彼女の声はしりすぼみになっていく。頼んだフラペチーノをずずずっと吸いながら、コーヒーチェーン店のどことも変わらぬ内装に目を泳がせた。某マッチングアプリでマッチして二日。池袋での暇つぶしに連絡したところ、すぐに会えるということで、とりあえず呼んだのが間違いだった。
プロフィール写真はおそらく、濃いめのメイクをしたあげく加工アプリで美化したものだろう。目の前にいるは線で描いたような輪郭の頰がたるみ、そばかすなのかシミなのか鼻先の毛穴が丸見えで、マスカラが偏っているからかまつ毛にごみでもついているかと思うくらいの20代女。
これでは性欲に飢えたチンピラに差し出すとしてもこちらの品格を疑われそうなものだ。顔は枕で隠せばなんとかなるが、胸さえなければ抱く意味もない。
「……えぇ、休日はよく。こうして仕事の合間なんかにも」
アイスティーの氷をからり、と回しながら答える。こうしてかぁ、色んな方にお会いされてるんでしょう? かっこいいですもんねぇ、と。俺は万人受け用に作っている笑みを浮かべながら、それでも何か面白いネタを掘り出せないものかと思案する。
「な、なんか暑いですね……」
気まずさに汗をかいたのか、羽織っていたカーディガンを脱ぎ始める。ふと、オフショルであらわになった左肩に、うっすらと、本当にうっすらと龍のような絵が見えた。
「刺青、ですか?」
「っ」
瞬間、女の顔から血の気が引く。さっと左肩を掴む右手がかすかに震えていた。
「今どき珍しいものでもないでしょう? 消しちゃったんです?」
「え、えぇ、まぁ……」
──女の趣味が悪ければ喧嘩も弱いわけだ、と思う。
それは昨年、小さな揉め事を起こしたチンピラグループのマークであった。東京一帯を指導する若葉組に対抗して、炎のドラゴン。素行の悪さにただただ一悶着起こしただけで、組が火消すことなく普通に警察の世話となり、あっけなく解体された。
この女は自分を守ってくれる男を、居場所を探すために、必死なのかもしれない。
「写真詐欺はやめた方がいい。それに、どんな男が居るか分からないマッチングアプリなんてなおさらだ」
いつものぶっきらぼうな口調に戻した途端、女は、はっと顔を上げた。
「男にトラウマを持たなかったのは幸いだが、少しは同性の友達でも作ったらどうだ?」
メイクやファッションなど、少しでも会う機会があれば指摘くらいされるし、何となく目で見て流行が何か分かるだろう。一方、女は何を言っているか分からない、といった表情。
「あ、あの……」
「知り合いが新宿でカフェバーを経営している。店主は女だ、安心しろ。そこで色々聞いてもらうといい……あと、良い男の口説き方もな」
名刺を渡すには危険なので、メモ用紙に検索しても出てこない、そのカフェの住所を書き記す。店主にはあとでメールをいれよう。
「ほら」
「あ、ありがとうございます……」
時刻は18時。そろそろあいつの店が開く。スマホでしっかり時間を確認する素振りを見せると女は感じ取ったのか、もう解散しますかとか細い声で言ってきた。そうしようと言いながらせっせと席を立ち、もう二度と会わない女に捨て台詞を吐く。
「まだアプリを続けるなら、俺みたいな顔の良い男はやめた方がいい。じゃあな」
一瞬ぽかんとしたあと、女は初めて安堵の笑みを浮かべた。自分で言いますか、と。
まあ、あのグループのリーダーはお世辞にも二枚目顔ではなかったので、大丈夫だとは思うがな。
読了、ありがとうございました。




