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第四話囲い込め

ルミナリア王都。白亜の城、その最奥。玉座の間に、重い沈黙が落ちていた。

「……魔物を、食べる?」

低く響く声。玉座に座るのは、ルミナリア王。壮年の男。鋭い灰色の瞳。その前に跪くのは、リシア。

「はい、陛下。毒素を完全に無効化し、魔力を活性化させました」

「副作用は」

「確認されず」

王の指が、肘掛けを静かに叩く。

「魔物減少と魔力停滞は、国の根幹問題だ」

側近が口を開く。

「もしその男が魔物を“資源化”できるなら……」

「国家戦略級の存在ですな」

沈黙。王はゆっくりと立ち上がった。

「欲しい」

それは単純な一言だった。

「囲い込め。王都へ招け」

「……拒否した場合は」

リシアの問いは静かだった。

「説得しろ」

「それでも拒めば」

王の目が細くなる。

「逃がすな」

空気が重く沈む。

「危険因子にもなり得る」

リシアは一瞬だけ目を伏せた。

「……御意」

一方その頃。南方の荒野。アレンは雷鳥を解体していた。青白い羽根。雷を帯びた肉。

《神饌調理》の光が走る。静電気が霧散する。

「……燻製もありだな」

焚き火を調整する。その時。空気が、わずかに震えた。気配。複数。統率の取れた足音。

「……早いな」

振り返らない。

「包囲完了!」

森の縁から騎士たちが現れる。十名以上。中央に、リシア。

「アレン」

「何だ」

「王都へ来てもらう」

「断る」

即答。

「これは命令だ」

「俺は騎士じゃない」

沈黙。風が荒野を抜ける。

「待遇は保証する」

「興味がない」

「研究対象にはしない」

「信用できない」

リシアの眉がわずかに動く。

「君は危険だ」

「腹が減ってるだけだ」

「国家に属さぬ力は脅威になる」

アレンは雷鳥の肉を布に包む。

「なら、脅威でいい」

騎士たちが剣を抜く。金属音。

「副隊長、命令を」

リシアは静かに言った。

「……生け捕り」

次の瞬間。騎士が踏み込む。だが。アレンの姿が、消えた。

「なっ――」

背後。柄で一撃。騎士が崩れる。無駄のない動き。殺さない。急所は外す。だが速い。二人、三人。あっという間に戦線が崩れる。

「包囲を維持しろ!」

リシアが斬り込む。鋭い一閃。アレンが受ける。金属が火花を散らす。

「本気か」

「当然だ」

「殺す気はない」

「私もだ」

打ち合い。重い。だがアレンは一歩下がる。森へ向けて跳ぶ。

「待て!」

追撃。だが。地面に転がる雷鳥の羽根。アレンが指を鳴らす。

《戦神の加護》。

残留していた雷属性が爆ぜる。閃光。轟音。土煙。

「くっ……!」

視界が白む。その隙。アレンは森へ消えた。静寂。煙が晴れる。騎士たちは立ち上がる。死者なし。気絶数名。リシアは剣を収めた。

「……逃がした」

悔しさはある。だが同時に確信。彼は本気ではなかった。

「副隊長、追撃しますか」

森の奥は深い。魔物も多い。夜も近い。リシアは首を横に振る。

「撤退」

「しかし――」

「無駄な消耗はしない」

彼女は森を見つめる。

「必ず、また会う」

森の奥。アレンは静かに歩く。呼吸は乱れていない。

「……面倒だな」

だが口元が、ほんの僅かに上がる。久しぶりに、少しだけ楽しかった。戦いも。あの騎士も。

「次は山岳地帯か」

遠くで雷が鳴る。世界は確実に動き始めている。王は彼を欲し。騎士は彼を追い。神は静かに笑う。そしてアレンは。今日の晩飯を考えていた。


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