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第二十話帰還

魔王城を出る時、誰も刃を向けなかった。

魔王は玉座から立ち上がり、静かに言った。

「また来い」

「食材が尽きたらな」

「尽きぬよう育てる」

「偉いな」

それだけだった。握手も、誓約書もない。

だが均衡は成立した。

魔王の魔力は安定し、魔族の暴走は止まり、人間領への侵攻は凍結された。リシアは横で静かに歩く。

「……終わったのか?」

「一応」

「曖昧だな」

「料理はそんなもんだ」

森を抜け、国境を越える。王都が見えた。

城門。兵士たちが敬礼する。

「副隊長殿!」

「……戻った」

そして視線はアレンへ。

「英雄殿」

「やめろ」

城へ。玉座の間。王は静かに待っていた。

「結果は」

「戦は起きません」

リシアが答える。

「魔王は?」

「料理を覚えた」

王は数秒止まり、

「……そうか」

小さく笑う。

「国は動かぬ」

「助かる」

「だが一つ聞く」

王の視線がアレンへ。

「お前はどうする」

「旅だ」

「戻らぬのか」

「戻る理由がない」

「爵位も領地も与えられる」

「鍋が置けない」

沈黙。

やがて王は頷く。

「好きにしろ」

「干渉は?」

「せぬ」

「ありがたい」

「ただし」

王はリシアを見る。

「副隊長の処遇は別だ」

リシアは背筋を伸ばす。

「覚悟はできています」

「三ヶ月の同行。独断行動。魔王城侵入」

「はい」

「結果は国家安定」

王は軽く息を吐く。

「副隊長リシア」

「はっ」

「三ヶ月の特別外遊任務を命じる」

「……外遊?」

「護衛任務だ」

王はアレンを見る。

「干渉はせぬ」

「だが観察はする」

アレンは肩をすくめる。

「面倒だな」

「諦めろ」


リシアの口元が僅かに緩む。王都の外れ。朝。

荷は少ない。剣と鎧。包丁と鍋。

「どこへ行く」

リシアが聞く。

「南」

「理由は」

「火山地帯に珍しい魔物がいる」

「料理目的か」

「基本だ」

門を出る。王都が遠ざかる。背後に巨大な国。

前には広い世界。

「……また追われるかもしれんぞ」

「その時は逃げる」

「私がいる」

「干渉するなよ」

「護衛だ」

少しの沈黙。

「なぜ置いていかなかった」

リシアが問う。以前のように。アレンは前を見たまま答える。

「今は循環してる」

「……意味が分からん」

「一人で回す必要がない」

風が吹く。草が揺れる。旅が始まる。国家の均衡も、魔王も、王も関係ない。ただ、魔物を狩り、料理し、食べる。

「今日の飯は?」

「道中で決める」

「計画性がない」

「即興が料理だ」

並んで歩く。距離は半歩。近すぎず、遠すぎず。

王も干渉しない。魔王も攻めない。

世界は回る。

そして――

料理人の旅は、続く。


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