序章2 日々
朝になれば、織枝が鐘を鳴らす。
子供たちは中庭に集まり、体を動かしてから机に向かう。
「魔術はね、術式を組み立てて初めて形になるの。力だけでは扱えず、意味を持たないのよ」
織枝は紙を媒介とした簡易魔術を描きながら子供たちに語りかける。
強大な魔力を持つ魔物に対抗するために生み出された技術。
それが――魔術。
人の魔力は乏しいが「術式」という技術を開発し、魔術を構築し巨大な力に変えることができた。
その中でも簡易魔術は微量の魔力でも発現することができ、人によって効果は様々である。
雛汰と子供たちは真剣な顔で、簡易魔術の完成を眺めていた。
簡易魔術は微量の魔力でも発現することができ、人によって効果は様々である。
織枝が描いた簡易魔術からは、無数の糸が飛び出し、キラキラと風に揺れるさまを見た子供たちの中には、見惚れて綺麗と口に出す子までいた。
その言葉に織枝は微笑み、魔術はとても美しいことを子供たちに教えることもこの授業の一つであった。
悠明は真剣な顔で紙に織枝の簡易魔術を見様見真似で描き、魔力を込める。
すると小さな閃光が走り、ぱちりと火花が散った。
子供たちから歓声が上がり、織枝も誇らしげに微笑んだが当の本人は気恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
一方、雛汰も同じように簡易魔術を描いてみたが、何も起こらない。
どんなに試みても、術式を描くことができない。
子供たちがざわめく中、織枝は静かに雛汰の肩に手を置いた。
「焦らなくていいのよ、雛汰。力の形は人それぞれ。今は難しいだけで大きくなればきっとうまくなるわ」
その言葉に雛汰はうつむきながらも、小さく頷いた。
雛汰の眼には今にもこぼれそうな涙があふれたが、悠明に視線を向けると自分以上に悲しむ顔があったので、涙を堪えれた。
日が暮れると、皆で食卓を囲み、質素な夕餉を分け合う。
笑い声、時に小さな口喧嘩。
庵はささやかで、けれど温かな家族の形をしていた。
庵のみんなが寝静まる頃、徐に寝床から起き上がった悠明は雛汰に声をかける。
「いつか・・・僕が・・・」
言葉に詰まりながらも自分の思いを口にする悠明は珍しく、雛汰は黙って耳を傾けた。
「雛汰やみんなを守れるように強くなるね」
内向的で自分の思いを口にするのが苦手な悠明の言葉に、雛汰は最初こそ驚いたが、悠明の決意が嬉しくてとても誇らしく思った。




