『栗拾いの姉弟と鬼の屋敷と速記勝負』
あるところに姉と弟があった。二人は、山へ栗拾いに行ったが、拾うのに夢中になっていて、離ればなれになってしまい、姉は何者かにさらわれてしまった。弟は、姉の名を呼んで探し回ったが、どこにも見当たらない。山の奥のほうへ探しに行ってみると、姉がかぶっていた手ぬぐいが、木の枝に引っかかっていた。弟は、姉が目印に引っかけたのだろうと思って、そのままずんずん行くと、山奥に似つかわしくない大きな屋敷があって、青い門のそばの木に、姉の着物の片袖が引っかかっていたので、弟は、ここに姉がいるのだと思ったが、青鬼が門番をしていて入れない。弟が、青プレスマンを青鬼の前に投げると、青鬼は、青プレスマンを拾い、うれしそうに小躍りした後、青プレスマンを持ったまま寝入ってしまった。弟は、寝ている青鬼のわきを抜けて、門の中に入った。
さらにずんずん行くと、赤い門があって、赤鬼が番をしていた。弟が、赤プレスマンを赤鬼の前に投げると、赤鬼は、赤プレスマンを拾い、小躍りして、どこかへ行ってしまった。弟は、たやすく、門の中に入ることができた。
さらにずんずん行くと、大きな屋敷があって、玄関に姉のぞうりが脱いであった。弟は、姉を呼ぶと、屋敷の奥から姉が出てきて、よくここまで来てくれた、ここは鬼の家なのだが、私はさらわれてきてここにいる。今は鬼が留守にしているから、早く隠れて、暗くなったら一緒に逃げよう、と言うので、つづらの中に隠れた。
夕方になると、鬼が帰ってきて、人間が迷い込んだようだが知っているかと、姉に尋ねた。姉が、知らない、とうそをつくと、鬼は、うそをついてもわかる、と庭へ降り、このススキの葉には、この屋敷の人間の数だけ露がつく。お前のほかに人間がいることがわかるのだ、というので、姉が見てみると、なるほど、ススキの葉の中に、二枚だけ、露がついていた。
鬼は、あちこち嗅ぎ回っていたが、つづらに気がつき、開けてみると、弟が入っていたので、引っ張り出した。姉は、隠していてすまない、それは私の弟だから、命は助けてくれ、と懇願し、鬼は、それなら、勝負をして勝ったら許してやる、と言って、速記勝負をすることになった。弟は、速記の心得などなかったが、鬼のプレスマンには、姉が、あらかじめ芯を二本入れて、詰めておいたので、鬼は一文字も書くことができなかった。鬼は負けを認めて、山ほどのサンゴやら玉やらを、大八車に載せて、くれた。姉と弟は、家に帰る道すがら、山に寄って、栗を拾って、大八車にいっぱい載せて、家に帰った。
教訓:一文字も書けなかった場合、問題文の文字数分だけ、ミスをとられる。