表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

第二話ーお試し恋人契約発動!勇者の選択

訓練とは名ばかりの羞恥プレイ耐久イベントが終わり、日が傾きはじめたアモーレ王国。


陸はようやく自室のベッドに倒れ込んでいた。

頭から恋の汗をかいた気分だった。


「……この国で一日過ごすだけで、寿命が一年縮む……気がする」


布団があたたかい。

けれどそれ以上に、彼の脳裏には、アリアナの告白の言葉がリピートしていた。


「ずっと、もっと一緒にいたいと思ってますの。……好き、ですわ」


(……あれって、“模擬”だよな? 本気じゃないよな……?)


胸の奥が、妙にざわついていた。


その時――


「失礼しますわ♡」


ノック無しで入ってくるお約束の侵入者。

もはや恒例、ドレスを夜着に着替えたアリアナ姫が、ティーカップ片手に登場した。


「お願いだからそろそろチャイムとかインターホン的な文化を導入して!? 毎回入室がゲリラ戦すぎる!!」


「本日最後のプログラムですわ♪」


「もう今日は閉店しましたー! 明日にしてくださーい!!」


「だ・め・で・す♡」


強制営業再開。


陸はシーツを被ってダチョウのふりをしたが、当然スルーされた。


「さて、陸様。いろいろイベントをこなしてきましたが――私はあなたに、ひとつ正式な提案がありますの」


「正式な……?」


アリアナはふぅと軽く息をついて、そして真面目な瞳で見つめてくる。


「私と、“仮の恋人契約”を結びませんか?」


「はぁ!? なんすかその期間限定キャンペーンみたいな提案は!!」


「説明いたしますわ」


アリアナは、ティーカップをソーサーに置き、手帳を取り出す。


「アモーレ王国では、“恋人候補が現れない勇者”には、試用交際制度が認められておりますの」


「交際に試用期間ってどういう文化!? 恋愛を家電か何かと勘違いしてない!?」


「私と貴方が“仮の恋人”として一年間行動することで、国民への好感度向上、恋愛力の安定、魔物の出現率減少など、さまざまな恩恵がありますのよ」


「それ、つまり“仮の恋人にならないとモンスターが出てくる”ってことだよね!? プレッシャー重すぎんだろこの国!!」


「なお、一年間の契約期間中に**“ドキドキ度”が一定値を超えた場合**、本契約に自動昇格となります♡」


「ドキドキ度ってなんだよ!? 心拍計でも付けられるの!? いやもうそれ恋の国じゃなくて恋愛監視社会じゃん!」


だがアリアナの目は本気だった。


「……でもです、陸様。これは、私にとっても試練ですの」


「……試練?」


「私は、王女としてではなく、ひとりの女の子として、あなたに向き合いたい。だからこそ、この一年間……ちゃんと、あなたに“恋してる私”を知ってほしい」


その言葉に、冗談めいた空気がふっと消えた。


「私はね、陸様。模擬”って言って告白したけど――本当は、嘘じゃなかったのですよ。」


沈黙。


陸は一瞬、言葉を失った。


(マジかよ……ずっと冗談半分だと思ってたのに……)


「私、あなたに会ってから、ずっと楽しかった。無茶苦茶な人だと思ったけど、でも――その真面目さも、優しさも、ぜんぶ、素敵だったから」


「無茶苦茶なのはあなたの方ですけどね……」


目をそらさずに言うその顔は、今日のどんな訓練よりもまっすぐだった。


「……正直、まだ気持ちの整理はついてない。俺、元々恋愛なんか……どうでもいいって思ってたし、前に進むのが怖いし……」


「……でも?」


「でも――一年間だけなら、仮の彼氏役くらい、やってやってもいい」

――モンスターいっぱい出て来たり狙われやすくなるのも嫌だし……


「――っ!」


アリアナの顔がぱあっと花のように明るくなる。


「では! 勇者様、ただいまより! “お試し恋人契約”の発動ですわ♡」


「いや名前のインパクト強すぎるんだって!!」


「まずは明日の朝、“恋人モーニングコール訓練”からスタートですわ!」


「朝イチでドキドキさせる気満々だなこの王女ぁぁ!!」


* * *


こうして、“試用期間”という名の恋愛デスマーチが始まった。

王女・アリアナと勇者・陸、二人の“仮”で“本気”の関係が、ここから幕を開ける。


(やれやれ……この国で生きるには、ツッコミ力と心拍数のコントロールが命だな……)

 

「月までハート型かよ……」

 

窓の外に浮かぶ、ハート型の月を見ながら――

陸は、ようやく少しだけ笑った。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ