第二話ーアリアナ姫と手料理地獄!勇者に捧げる愛の味?
勇者として異世界に召喚されて二日目。
早瀬 陸のスケジュールは、恋愛イベントでみっちりと埋まっていた。
「いてぇー、昨日は散々だった。
お陰で筋肉痛だぜ。」
「朝は“見つめ合い訓練”。昼は“お姫様抱っこ筋トレ”。午後から“二人乗りペガサスで恋の飛行散歩”ってなんなんだよこの国は!?」
午前中にアリアナ姫を抱きかかえて王城の中を五往復。
明らかに恋よりも筋トレの比重が重い。
「……恋の勇者っていうより、姫様がパーソナルトレーナーのただの筋トレじゃね?」
ボソッと漏らしたその一言を、隣にいたアリアナがしっかり拾った。
「ふふっ、それだけ私の“気持ち”が重いということですわ♡」
「それは恋じゃなくて物理的な“負荷”の話なんだよぉぉ!!」
疲れ果てた陸の魂を癒す時間――
それが、昼食タイムだった。
王城の豪華な食堂で、執事たちが用意した高級フルコースを……と、思いきや。
「じゃーんっ☆」
「……姫様、そのポーズはなんなんですか……?」
「今日の昼食は、“私の手料理”ですわ!!」
両手を広げて誇らしげに立つアリアナ。
その手前に置かれたテーブルには、数皿の料理らしき何かが並べられていた。
――料理……らしき…?
「なんだこれは……」
陸は思わず呟いていた。
皿①:焦げて黒光りする球体
皿②:ピンクに染まった謎のシチュー
皿③:……光ってる
「こっ、これは……料理なのか?」
「もちろんですわ! 恋の勇者様のため、徹夜で練習しましたの!」
――徹夜で? それでこの見た目!? 逆にどれだけの試行錯誤を重ねたんだ!?
というか一体なにをどうしたらこうなるんだ!?
「ちなみに、皿③は“恋するハートのマジカルゼリー”ですわ♡」
「おい、ゼリーがうっすら発光してるぞ!? お前これ料理じゃなくて錬金術じゃねーか!!」
「姫である私が命を込めて作ったものですのよ……♡」
「くっ!……」
そう言われてしまうと、断れない。
陸は震える手でスプーンを手に取り、皿②――ピンクシチューをすくった。
「なんで……シチューから……バニラの匂いがすんだ……?」
一口。
――胃が、拒否した。
味覚に走る甘み、塩味、酸味、そして説明不能の何か。
まるでスイカバーをカレーに溶かして、そこにヨーグルトを足して、ついでにパプリカの精を召喚したような味だった。
「うごおあああああああああああ!!」
「ど、どうかしまして!?」
「口の中で第三次恋愛大戦が起きてるッ!! 甘さとしょっぱさが血で血を洗うラブ&ウォー状態だ!!」
「うふふっ、複雑な味こそ恋のスパイスですわ!」
「それは胃薬が前提の発言だからな!? 恋を語る前に保健所通してくれ!!」
だが、アリアナは本気で喜んでいた。
「勇者様が食べてくれて、嬉しいですわ。実は私……王族なのに、料理だけは全然ダメで……。でも、陸さまのために頑張ったんですのよ」
その言葉に、陸はスプーンを止めた。
少し俯いて笑うアリアナの姿は、いつもの高飛車で暴走気味な姫とは少し違って見えた。
「……料理のセンスは、正直壊滅的だけどさ」
「……ッ」
「でも、ちゃんと気持ちは伝わったよ。ありがとう、アリアナ姫」
陸が微笑むと、アリアナの顔がカァッと赤く染まった。
「そ、そんな笑顔で言われたら……その……はしたないですわよっ!」
「いや言い出したのお姫様じゃん!?」
「し、しかも! その……その微笑みは! “心を奪うスマイル”! 禁断の恋愛スキルLv1ですわ!」
「は? 初耳だけど!?」
「“スマイルスキル”は、王家公認の恋愛初動技ですのよ! 使えば3ターン相手がドキドキしますの!」
「なにターンて、ターン制なの!?
恋愛がバトルロジックになってるこの国、やっぱどうかしてるって!!」
* * *
その日の午後。
陸は胃薬と水をかかえてうなされながらベッドでぐったりしていた。
「恋の味って……想像よりずっと危険なんだな……」
ふと窓の外を見ると、アリアナが庭でメイドと一緒に“料理の再訓練”をしていた。
木の枝にハンバーグを突き刺して焼いてる。
「方向性が違う! マシュマロ焼いてるんじゃないんだから、それ料理じゃなくてもはや何かの儀式になってる!!」
陸は思った。
この姫と、真っ当に恋愛するには――
胃も、神経も、鋼でなきゃ無理だと。