第三話ーアリアナは城で作成を練る
一方その頃――アモーレ王国・王城中央塔、戦略会議室
「はぁ……陸様の他の恋の応援をするのも私のお役目ですが、最近陸様は毎日のようにあのラーメン屋に通って、私への対応はお座なりになってきてる気がしますわ。」
アリアナ=フォン=アモーレ王女、第十七代目継承候補にして現在“勇者の恋の契約者(仮)は会議室で項垂れていた。
「今まで陸様に振り向いてもらうための作戦は色々と試してみましたがどれも失敗続き」
――第一フェーズ、恋の魔法で気になる殿方をメロメロに!:謎の魔力暴走により爆発して失敗!
第二フェーズ、ペガサス飛行訓練所にて転倒からの偶然の密着!:陸様がペガサスに轢かれ失敗!
第三フェーズ、少し刺激的なナイトドレスで陸様の寝室に侵入!:叩き出され失敗!
「このままではいけませんわ!」
その彼女が、漆黒の会議机をバンッと叩いて立ち上がった。
「姫様、戦略の呼び名がすでに恋愛というより戦場です。あと“偶然”と“作戦”は両立しません」
彼女の前に座るのは、侍女のメイリィ(年齢不詳、王城恋愛戦略科所属)。
メモ帳を取りながら静かに言った。
「うぅ……でも……勇者様、最近わたくしと一緒にランチもしてくださらないんですのよぉ……
は!まさかこれは、倦怠期というやつですか!」
「それは姫が、食事中にずっと勇者様のほっぺに米粒つけて『勇者様のほっぺたについた米粒、いただきますわ♡』や『お互い食べさし合いっこしましょ♡』などとやってるからでは……?
それと婚約もしていない仮恋人契約に倦怠期なんてものはございません」
「愛情表現ですわよっ!? 庶民の間ではよくある愛の儀式って参考書に……!」
「姫様、それ絶対変なラブコメ漫画の読み過ぎです」
「むぅー」
アリアナは頬をふくらませ、パイプ椅子のような王座にふてくされたように座り込む。
「いいですの、もう……。次の作戦は静かに、優雅に、でも確実に。
――“忘れられたふりをしてからの再接近作戦”で行きますわ」
「姫、それ“かまってちゃんムーブ”って言うんですけど……」
「やってみなければ勝敗はわかりません!」
王女の恋愛大戦略は、いま新たなフェーズへと突入しようとしていた。
* * *
その頃、城下の《黒月亭》。
「……煮干しの焦がし具合、むずかしいな」
ミィ=ルナは、火加減を微調整しながら、鍋の香りを確かめていた。
今日の限定メニューは“焦がし煮干しの泣き笑い塩ラーメン”。名前だけ聞くとギャグに見えるが、実は相当にこだわった一杯だ。
「ちょっとだけ“苦み”を足すことで、全体の甘さが引き立つ……っていう実験。まぁ、あんたの好みに合えばいいけど」
カウンターには今日も常連の青年、勇者・陸が座っていた。片手には小さな羊皮紙。
「……ん? 何見てんの、それ」
「これ? 姫様からの……なんか手紙みたいなもん。“明日は予定あるので、王城の中庭にてランチを”って」
「ふーん。行くの?」
「行く……けど、断りに」
「へえ、そうなんだ」
ミィはそう言いながら、火を止めた。
器に注がれたスープから立ち上る湯気の向こうに、彼女の視線が泳いでいた。
「……ま、王女といちゃつくより、ラーメン作ってる女のラーメン食ってた方が、いくらか人間味あるって気づいたんでな」
「ふっ……それ、ほめてるの?」
「ほめてるよ」
小さな会話。それは恋じゃない。
でも恋のまえにある、友情のような“何かに惹かれる予感”だった。
その時、屋台の向こうからドスドスという足音。
「おい!姫様の恋敵がやってるラーメン屋というのはこちらか!」
現れたのは、屈強な騎士服の男。アモーレ王国騎士団の一員だ。隣には、小柄な少女騎士がいた。肩には銀の紋章。少しだけ厳しい目つき。
「え……ちょっと何?ラーメン屋なのはそうだけど、恋敵!?私が?」
「おいおい、一体何事だよこれ!」
突然の騎士の訪問に驚く陸とミィ
「王女様から言伝を預かっている!
『明日の昼の時間!王城中庭にて、勇者様の胃袋をかけて、料理勝負を行う!勇者様の愛が欲しければ王城中庭に来られたし!』以上だ!」
突然の王女様からの果し状
「なんだそれ!この明日の王城にてランチをって言うのはそう言う事なのか、
てか胃袋かけてってなんだ、勝手に人の胃袋かけんな!」
「へ〜ちょっと面白そうじゃない」
「え、意外にも乗り気!?
おいミィ、別にこんな勝負に乗る必要ないんだぞ」
「一応こんなラーメン屋やってても料理人の端くれだからね!料理勝負となっちゃ黙ってられないよ、それに……」
チラリと一瞬陸の方を見る。
「ん?どうした」
「なんでもない!とにかく!その勝負受けて立つよって姫さんに言っといて」
その言葉を受けて騎士達は立ち去って行き
ミィも何か変なスイッチが入ったのかやる気を出していた。
* * *
――その夜。王城の塔にて。
「……勇者様、明日来てくださるかしら……」
窓辺でアリアナは少し不安そうに呟いて、羊皮紙に何かを書いていた。
「次の手紙は……明日のランチ楽しみにしといて下さい、勇者様の為に愛情たっぷりの“お弁当を自作しました”って方向で攻めましょう。明日は恋の胃袋を掴むのですわ……!」
「姫、それたぶん“胃袋が犠牲になる”パターンです」
「うるさい! 私だって、料理くらい……!」
メイリィが背後でため息をついた。