008 アルセノア魔術学院 入学試験
1週間後…
「おーい! エゼルくーん!」
手を振りながら駆け寄ってくるフィアの姿は、まるで朝日に照らされた小動物のようで、なかなか目に鮮やかだった。
「やっと来たー! ……あれ? 早かったね?」
「別に、早くはないだろ。約束の時間ちょうどくらいだし」
「ふふっ、そうだけど……なんとなく、エゼルくんならギリギリに来そうって思ってたから」
なんだその偏見。
「リナももう来てるよ。受付、あっちだから一緒に行こ!」
フィアに連れられ、学院正門のすぐ脇に設けられた仮設の受付所に向かう。広場には、十代半ばくらいの少年少女が数百人程度集まっていた。ざっと見た感じ、男女比は半々。全員が緊張と期待に包まれた面持ちで、受付の順番を待っている。
(これが……この時代の魔術師の卵たち、ってわけか)
俺たちは受付を済ませ、参加者用の番号札と試験の簡易スケジュール表を受け取った。
受験者は番号順に呼ばれ、学院前の広場に設置された《魔力結晶球》へと一人ずつ立たされる。
透明な球体の中に手をかざすことで、魔力量が可視化されるらしい。
どうやら、進化したところもあったらしい
「えーっと、これから魔力測定を行います! 手を球にかざして、魔力を流してください! 結晶の色と輝きで、魔力量がわかるようになっています!」
学院の試験官らしき男が、大声で説明を始めた。
「わたし、ちょっと緊張してきたかも……」
フィアがそっと俺の袖をつまんできた。つままないで。
「リナも平気そうに見えて、顔がちょっと硬いぞ」
「……別に、緊張してない」
と言いつつ、リナの視線は微妙に泳いでいる。
(まあ、普通は緊張するか)
「受験番号19番、フィア・ストラウゼさん!」
「ひゃっ、もう呼ばれた……! いってきますっ!」
フィアは深呼吸を一つしてから、勇気を振り絞るように結晶球の前へと歩いていく。そして、両手をそっとかざした――
次の瞬間、透明だった球体が淡く輝き始め、青白い光が内側から満ちていった。
「魔力量……Aランク相当!」
「わっ、ほんと!? よかったぁ……!」
歓声とともに戻ってくるフィア。彼女は安堵の笑みを浮かべながら親指を立ててきた。可愛い。
そのあともしばらく続いて....
「93番。リナ・エルセリアさん!」
リナが無言で前へ出る。結晶球に手をかざした瞬間――
結晶球が鮮やかな緑色に染まり、周囲が一瞬、静まり返る。
「……っ!? 魔力量、Sランク……!」