005 出会いは突然2
「さあ? どうせどっかの貴族のガキかなんかだろ?」
俺が肩をすくめながらそう言うと、囲んでいた男たちの顔が一斉にしかめられた。まるでプライドを踏みにじられたかのように。
「俺たちは、ガイゼル家の跡継ぎなんだぞ!」
「……ガイゼル? 知らないな。初耳だ」
「この野郎、なめやがって!」
怒号と共に、六人の男たちが一斉に右手をこちらに向ける。
「てめぇごとき、消し炭にしてやるよ!」
「炎の心臓よ、我が掌で脈打て──紅蓮の火球!」
一糸乱れぬ詠唱。炎が右手に集まり、圧縮され、そして一斉に解き放たれる。
轟然と飛来する五発の火球。直線軌道で俺に向かって一直線に──
「キャアアアアアッ!」
少女たちの悲鳴が響いた、その刹那だった。
――ドオオオオオォン!!
路地裏に炎が炸裂し、凄まじい衝撃波と熱風が辺りを吹き抜ける。石畳が焦げ、煙が立ち上る。普通の人間なら、形すら残らないだろう。
「フン、俺たちの邪魔をするからだ……!」
自信満々に言い放ったその時だった。
もやが晴れ、煙が薄れ──その場に立っていたのは、無傷の俺だった。
「……なっ!?」
「う、嘘だろ……? ちゃんと当たった、はずだ……!」
男たちの顔が青ざめる。動揺が空気を伝い、手の震えすら伝わってくる。
だが、俺の関心は別のところにあった。
(……え? いやいやいや、今のなに?)
俺は首をかしげた。たしかに炎は派手だったが──
(あんな自信満々に詠唱までしといて……普通に俺が普段から展開してる【常時防御魔法】で完全ガードって、マジか)
まるで肩透かしを食らったような気分だった。少女たちも口をぽかんと開けたまま、信じられないものを見る目で俺を見ていた。
そんな中──男たちはなおも詠唱を始めようとしていた。
火球、第二波。
(……まぁ、これが続いても退屈なだけだし、ちょっとお灸をすえてやるか)
「──紅蓮の火球」
俺が小さく呟くと同時に、右手に魔力が凝縮され、真紅の光球が生まれる。
次の瞬間。
ズドンッ!
俺が放った火球が地面を抉り、男たちの足元に炸裂した。
「「ヒィッ……!」」
爆風に吹き飛ばされた取り巻きたちは、情けない声をあげながら尻もちをつき、へたり込んだ。
静まり返った路地裏に、俺の声だけが響く。
「──まだ、やるか?」
目を細めて問いかけると、男たちは顔を引きつらせて一歩後ずさる。
「お、覚えてろよっ!」
リーダー格の男が捨て台詞を吐き、我先にと走り去っていった。