004 出会いは突然
「……待てよ。アルセノアって、確か――人間族の領地だったよな?」
俺は眉をひそめる。
そうだ。この地名に聞き覚えがある。いや、間違いようがない。
俺は状況を整理するために目覚めたあの裏路地に戻ってきていた。
とりあえず、状況を整理しよう。
① 世界は平和になっていた。
② どうやら俺は人間の領地に来てしまったらしい。
③ でも何故か、魔族も普通にいる。
この三つが、今のところの確定情報だ。
三番目については、さっき裏路地まで戻ってくる途中にすれ違った連中から感じた魔力の波動でわかった。
まあ、世界が平和になったってんなら、人間と魔族が一緒にいてもおかしくはないか。
「ねえ、君たち。この街、初めて? よかったら案内してあげようか?」
――軽薄そうな男の声が、背後からかけられた。
振り向くと、そこには二人の少女と、チャラついた男が六人ほど。
どうやら少女たちは、ナンパにあっているらしい。
ひとりは金髪に蒼い瞳、十五か十六歳くらいの、活発そうな少女。
もうひとりは白髪に淡い緑の瞳で、同じくらいの年齢。見た感じ、おとなしめの性格だろう。
「いえ、大丈夫です。ご丁寧にありがとうございます」
金髪の少女が、礼儀正しく断った。
しかし男たちは引かない。リーダー格の男が一歩前へ出る。
「まあまあ、そんなつれないこと言わずにさ~。いいじゃん、ね?」
「結構です」
金髪の少女はピシャリと言い放つ。なかなか芯の強そうな子だ。
……とはいえ、しつこいな。助けてやったほうがいいか?
でも面倒ごとは――
「せめてさ、連絡先ぐらい交換しようよ?」
「結構ですって言ってるじゃないですか」
「まあまあまあ、そう固いこと言わずに――」
「やめてやれ」
さすがにしつこすぎる。俺は声をかけた。
「……あ? なんだてめぇ」
「邪魔すんじゃねえよ」
男たちの取り巻きがギロリと睨んでくる。
まったく、どこの時代にもいるよな。こういう手合いは。
「ハァ……。いるんだな、平和になってもこういうバカって」
俺にケンカ売る奴なんて、四千年前にはいなかったぞ?
「てめぇ、俺たちが誰だかわかって言ってんのか?」
「さあ? どうせどっかの貴族のガキかなんかだろ?」