003 大通り
コピーした服にさっと着替え、俺は通りへと足を踏み出した。
「……おお……」
思わず、そんな声が漏れた。
通りの両側には屋台がずらりと並び、瑞々しい野菜、香ばしい肉、煌びやかなアクセサリーや布がところ狭しと並んでいる。それだけでも十分に目を見張る光景だったが、何より俺の目を奪ったのは――人の数だ。
右を見ても、左を見ても、前も後ろも、人、人、人。
とにかく、途方もない数の人間が、賑やかに、そして楽しげに行き交っている。
その全員の顔に、曇りはない。
誰もが、生きていることそのものを楽しんでいるようだった。
「……平和になったんだな……」
俺はぽつりと、呟いた。
この一角しか見ていない。
それでも直感が告げてくる。この場所は、もう戦いに怯えなくてもいい。
血が、涙が、祈りが――無意味に散ることのない世界。
(やっぱり、転生してよかったな……)
そんな風に思いながら、人の波に紛れて歩いていくと、やがて通りの端に辿り着いた。
そこで目に入ったのは、一枚の大きな地図。
上部に、でかでかとこう書かれていた。
――ようこそ、アルセノアへ。
「アルセノア……?」
小さく口に出して、その名を反芻する。
どこかで聞いた名前だ。だが、まさか――
「……待てよ。アルセノアって、確か……人間族の領地だったはずだよな? 」
俺は思わず眉をひそめた。
そうだ。この地名に、間違いない。