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デスサイズ!  作者: えなか
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第1話 死神の。

この物語はフィクションです。

実際の人物団体とは一切関係ありません。

誰かが考えた。


この世界で、我々の人生で、1番の幸福とはなんだろう。


一日の労働を終え柔らかなベッドと布団の隙間で眠りにつく時?

それとも焼肉の香ばしい脂が舌の上を踊る時?


………いや、答えは出ていた。

とても単純。明快。誰もが1度は考え、望む。

物欲より承認欲より睡眠欲より食欲より。

それはずっと優れていた、勝っていた。


「子孫繁栄」である。


さらに言うのならば繁栄の為に必要な行為そのものだ。

我々はその行為のために生きている。

過去も未来も変わらない。


では、その行為を1度も経験せずに死ぬとしたら…


………それは一体どれほどまでの不幸だろうか。


瞼が開く音がした。







鮮やかな画面から、チラチラとブルーライトが俺の瞳を刺激した。

ヘッドホンから流れる音楽は、どうも心を躍らせ過ぎたようだ。無意識にも体を揺らし、足先でリズムをとってしまう。

氷で冷やされたコップにコーラを注ぎグビリと飲み干す。

喉が焼けるように痛いが、それもまたいい。

コントローラーを握る手に汗が染みてきた。

本番はこっからだぜ☆ひゃっほーい。

俺の幸せが始まると思われていたその時、突然電子音が鳴り響く。


「プルルル………」


家電がなる音がヘッドホン越しにも聞こえてくる。

しかし俺は、これを無視することに決めた。

何故ならば、この電話は俺の意思に反してかかってきたもので、俺が望んでいたものでは無い。今俺はたまたまこの音を聞いてしまったが、風呂に入っていたかもしれないし、トイレで腹を痛めていたかもしれない。もしそうならば、この電話に出ることは出来ないのだ。この電子音は耳には届かなかった。

至福のひとときを邪魔されたくない俺は、そう思い込むことにした。


いつからだろう…こんなにひねくれてしまったのは。

小学生の頃の俺…美蕾奏みらい かなでは絶対にこんな風ではなかった。一日に1回は女の子と話すような彩り豊かな日常が………あった気がする。高校生1年生にもなり、随分残念な日々を過ごす様になってしまって…


「ピンポーーン」


また、電子音が部屋に鳴り響いた。


またしてもヘッドホンを貫き、俺の鼓膜を震わせる。

しかしこちらは、無視をするようなものでは無い。

3日前にアメゾーンで頼んでおいたプラモデル達が届いたのだ。これは俺が望んでいたものであるため、無視など到底できないのだ。俺はヘッドホンを机に置き、ドタドタと早足で部屋を出る。

インターホンに出る必要もないと判断した俺は、興奮を噛み締めて鍵を開ける。


ああ、今俺はなんて幸せなんだろう。

そう思い、扉を開けた。


扉の前には、はち切れそうな筋肉を布で包んだ配達員の姿などなかった。

そこには配達員の代わりに、少女がひとり。

灰色がかった桃色と、黒い艶やかな色が混ざった、独特な色のツインテールをした少女が、そこにいるのは当たり前だ、と言うかのようにちょこんとたっている。体に合わない大きさの鋭い大鎌を持ち、漆黒のゴスロリを纏った少女は、どうにも配達員には見えなかった。というか何だこの人、なんで人の家のチャイムを鳴らしといて、無言なんだ…


目と目が合う。一息置いて彼女は口を開いた。


「私は、冥界より参った死神……名はリリスだ。お前の死期を知らせにきた。」


「あ、今お母さんいないんで…」


そう言って俺は扉を閉める。

小学生から使っていた伝家の宝刀である。近所の人の挨拶も、謎の飲料水を売り付けてくるおばあさんも、この必殺の一撃で撃退してきた。


……しかし、 扉の隙間に足を滑り込ませられ、扉を封じるのを阻止されてしまった。


「待て、お前に話がある。大事な話だ、よく聞け。」


彼女は真摯に俺の目を見た。その瞳に、どうも吸い込まれるように、魅了されてしまった。


俺は扉を開けた。


「いや、…死神って、そんな、ゲームじゃあるまいし、本当にいるわけが無いじゃないですか。ハロウィンなら、もう終わりましたよ?」


「はぁ、間抜けめが。」


少女はため息混じりに吐き捨てた。


「死神も神だ、私はそれを証明できるぞ。貴様らの世界で言う履歴書のようなものを私は持っている。お前の分のだ。この世でお前しか知らないことを私が言えば、信じてくれるか?」


「いやいや、世界で俺しか知らないことなら貴女にわかるわけ…」


彼女は手に持っていた薄っぺらい紙を読み始めた。


「ええと……ふむふむ、中学高生活の1番の苦い思い出は、2年生の時に隣の席の女に放課後暇?と尋ねられ、勢いよくうん!と答えたが、それは自分に向けてのものではなく実際は自分を挟んだ向かい側の友達に向けて放たれた一言でありとんでもない羞恥を晒した、か…随分滑稽だな、」


「ん……...?」


「ええと……1年生の時に間違えて出席番号がひとつ後ろの女子の上履きを履いてしまい、それが発覚して変態靴泥棒としてクラスラインで晒されたショックで一月学校を休んでいた時、勇気をだしてゲーム実況チャンネルを開設するもチャンネル登録者が半年間0人のままで心が折れチャンネルを削除する……これは可哀想だな…」


「え………?」



「ん、小学5年生の時、上級生の体操着を…うわっ、キモ。本当にお前は愚かだな。全人類の軽蔑の対象になっても驚かない…」



「あれ、……….?」


「……そして小学4年生の…」


「もうやめて!わかったから!信じるから!もうライフゼロだから!完全にオーバーキルだから!」


「はぁ、これでわかっただろ。私は正真正銘本物の死神だ。」


彼女は俺を見下すように、憐れむように、あきれながらいった。


「……はい。わかりました…許してください…。」


俺は渋々、彼女を肯定した。というか強引にさせられた。


今の一連の流れで彼女が本物であると完全に信じきってしまう。この少女は、本物の死神なのだろう。


いつの間にか体制を崩していた俺は、地面に膝をついていた。


「でも、死神さんは…」


「リリスだ。」


死神的少女は俺の言葉を遮って言う。


「リリスさんは…どうして我が家に来たのでしょうか?」


彼女は俺の手を引き、ゆっくりと立ち上がらせながら言った。


「安心しろ変態靴泥ぼ…間違えた、美蕾奏みらい かなで

。」


「いや間違えるなよ!履歴書にしっかり書いてあるでしょ!」


「安心しろ奏、お前に嬉しいニュースだ。」


「嬉しいニュース…なんでしょう…..?」


彼女は優しそうに微笑んで言った。


「予定では、明日お前は事故で死ぬ。」


「人生史上最悪のニュースじゃねえか!満面の笑みでそんなこと言うな!」


俺はまた崩れ落ちた。


「まぁ、気を落とすなよ、奏。お前はラッキーだ。何故って、お前の元へ配属された死神が、この私だからだ。」


「へぇ、…」


俺は心無い声で返事をする。


「いいか、よく聞け、人間は幸福を感じている状態でなければ体から魂が離れん。要するにお前がこのまま、滑稽で愚かでくだらない人生のままくたばってしまえば、上に献上する魂がないということだ。」


「ほぇ、…」


這いつくばった俺は下から見上げるようにして彼女を見る。


「そこでだ、お前にひとつ提案をしてやろう。……いいか?死ぬ前にお前ののぞみを一つだけ叶えてやる。私クラスの死神ともなれば、叶えてやれん願いなど到底ない。」


「願いを…叶えて……」


俺は目が覚めたように飛び起きた。


「願いを…死ぬ前に俺の願いを一つだけ叶えてくれるってこと?」


「あぁそうだ。お前の願いを何でも一つだけ叶えてやる。私に叶えられない願いなどない。」


「えっと、リリスさんはそんなに偉いというか、凄い死神なんですか?」


「まぁな。お前は最上級のワインを飲んで死んだ死刑囚の話を聞いたことがあるか?」


「あ、あるかも…」


「それは看守の慈悲でも、神の恵みでもなく、私のおかげだったというわけだ。この私の活躍を知らない死神はいない。」


リリスはフッと鼻で笑いながら言い捨てた。


「おおー、それはすごい…のか?いや、人間界でも有名な話だからすごいんだろうけど、いまいちピンと来ない、というか…...。」


「ほぅ、私の凄さをわかりやすくいうなら…か、そうだな、お、これならどうだ。私はなんと冥界で上から7番目の階級だ!」


「上から7番目…ちなみに死神って、何階級あるの?」


「全部で8階級だ。」


「下から2番目じゃねぇか!」


もしかすると、いや、何となく雰囲気で察したような気がするが、コイツ…ポンコツなのでは?だが、悪いヤツには見えなかったので、一旦家の中に入れることにした。


リリスは勝ち誇ったような表情で俺を見つめて言う。


「私クラスになると、叶えられない願いの方が少ないということだ。ほら、死ぬ前に叶えたいお前の願いを言え。」


「え、ええと…」


俺は考える。

俺の………願い。

俺の心からの、本当の願いって、なんだ?


「ちょっと、考えさせてくれ、」


そう言って俺は自分の部屋に行き、ベッドにダイブした。


嫌なことがあった時は、いつもそうしていた。

そうやってなにかを考えていたのだ。ひとりで。


俺は………


俺が瞼を閉じてうずくまると、後方から声が聞こえた。


「何だ、寝るのか?眠れないなら自分の罪を数えて眠りにつくんだな。」


「拷問じゃねえか!数えるのは羊だろ!」


俺は飛び起きた。


「はぁ…願いか、願いって言ってもなぁ、…。」


そう言ってみたが、答えは既に決まってた。恥ずかしくて言い出せなかったと言ってもいい。


「本当になんでもいいんですか…?」


「わからないやつだな…何でもだと言ってるだろう。」


もったいぶる俺を焦らせるようにリリスは吐き捨てた。


「さぁ、早く。お前の願いを聞かせろ。」


唾を飲み込み、瞳を閉じる。3秒ほど、選ぶべき言葉を考えた。

そして、俺は真摯に、簡潔に言った。



「死ぬ前に…童貞を…卒業したい。」


彼女を見る俺の目は、きっと輝いていただろう。将来を夢に描く少年のように。未来を奏でる音色ように。


俺の真摯な…というか紳士な願いを聞いたリリスは笑いながら言った。

「フ、フフ、低俗な欲望…全くありきたりだな…..。」


俺はまた唾を飲み込み、ゴキュリと喉を鳴らした。


「いいだろう…その願い、私が叶えてやる。」


「えっと、…付け加えてもよろしいでしょうか?…条件とか。」


俺は下からの態度で言う。


「いいだろう。言ってみろ。」


彼女は見下すように見つめてきた。


「その…どうせ卒業するんなら…したい相手がいるというか…」


「ほう…..。」


「今、同じクラスで、小中同じ学校だったなぎさ雛笠渚ひながさ なぎささんで卒業させてください!」


「ほう……。」


「………………」


「……………………………………キモ。」


無慈悲にリリスは呟いた。


「ええ、なんでもいいって…」


「いや、私も神とはいえ感情はあるというか…そういうの本当に言う人いるんだってちょっと、というかかなり引いてるところがあるが…」


オホンと咳を鳴らしてリリスは言う。


「承った。その願い叶えてやる」


死神的少女はその大鎌を振りまわし、ビシッとポーズを決めると、勝ち誇ったように笑った。


こうして俺は、死神…リリスと奇妙な出会いを果たしたのだった。











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