第2話「ファンタジーの住人」
第2話です。新キャラ出てきます。自己満で書いてます。
この感じ。似てる。洞窟で目覚めた時の奴だ。体中を襲う倦怠感と不安は、目を開けるのを躊躇させる。だが、それでも開けないと行けない。自分に安寧は無いのだと嫌でも分かる。
「……はぁ……ここは?……部屋?」
辺りを見渡せばワンルームの西洋風な作りをした一室。折れた腕は包帯が巻かれ、テーブルの上にはマガジンと銃が置いてあった。
「治療してくれたみたいだ。だが一体誰が?」
この腕の状態では銃のホルスターを付ける事はできない。敵、では無いだろうが味方とも限らない。腰のマガジンホルスターを装着。銃を後ろのベルトに挟んで、マガジンをホルスターに収納した。
ドアにトラップの類いが仕掛けられてないかを確認し部屋を出る。部屋を出ると廊下で、そこは古民家のような所だ。見た感じかなり大きな建物だ。廊下の窓から外を見ると、貴族が紅茶を嗜むような綺麗な庭園がある。
T字の通路さしかかると、右の通路から足音が聞こえてくる。カツカツと音を立てるこの音は恐らくヒールだろう。息を殺し壁際に隠れしばらく待つと、曲がって来た瞬間に。
「動くな。」
相手の額に銃を向ける。失礼も承知だ。だが、突如異世界のような所に飛ばされて訳の分からない怪物に襲われ腕をへし折られたんだ。次は右腕を折られるのはごめんなだ。
「えっと……目が覚めたのですね?」
少し困惑した顔で少女は眉を落として笑う。私が持っているのが何か分かってないようだ。何よりも驚いたのは彼女の格好。なんと言うか……豪華だ。これが本物のドレスと言うものなのだろう。小さい頃漫画で見たヴェルサイユの何とか言う漫画に出てきた服装そっくりだ。恐らく、目の前の彼女は敵では無い。だが、一瞬彼女は固唾を飲んだ。
「いきなりこんなものを向けて申し訳ありません。何分、オーク?恐らくなんて言われてるものかは分かりませんが、左腕をへし折られるので。」
「やはり貴方様でしたのね。オーグを倒した御方は。初めまして。私は、アリス・クロフォード。この館の主でございます。」
黄金とも思えるその金髪。そして吸い込むような緑色の瞳。特別目を引いたのはその耳だ。エルフ耳?とでも言うのだろうか。コスプレの類いでは到底再現できないリアルのファンタジーの住人。
「よろしければ、お話を伺っても良いかしら?一応忘れないで欲しいのが、助けたのは私と私が管理する領民達です。それくらいのお返しは、貰っても良くってよ?」
「もちろんですよ。ちょうど私も色々知りたいなと思っていましたから。」
私達は中庭に移動し、先程窓から見た庭園にやって来た。外から見ても綺麗だったが、内側から見るとレベルが違う。そしてその庭園の中心には丸い高級そうなテーブルと2つの椅子。イメージ通り、貴族は中庭で紅茶を啜るらしい。
そして何より驚いたのは、アフタヌーンティーと言う奴だろうか?それを準備する執事。しかもイケオジだ。綺麗に整えられた髭に、洒脱に着こなすタキシード。これが本物と言う奴だろう。まぁ、王道とでも言うのだろうな。
「どうぞこちらに。」
「ありがとうバトラー。さぁ、座って。」
「ど、どうも。」
「さて、貴方の名前を伺ってもよろしくて?」
紅茶とティーカプを片手に持つその姿に、思わず固唾を飲んだ。驚愕と言うよりも見蕩れていたに近い。改めて目の前の相手が他とは違うと言うのを嫌でも実感する。
「セツナ・ムラサメ・ドリゴニックヴァーミリオンと申します。」
嘘だ。クロフォードとか言うちょっとカッコイイ名前に当てられ偽名を使ってみた。セツナ・ムラサメなんて名前負けし過ぎているし、これくらいがちょうど良いだろう。
「ぷッ!アッハハハ!!貴方、面白い冗談を言うわねセツナ。ドリゴニックヴァーミリオンなんて咄嗟の嘘にしても面白すぎるわ。」
「え?ちょ、ど、どう言う……」
「既にセツナ様のお名前は拝見しております。お荷物の中に、身分を証明できるものがありましたので。そして、ドラゴニックヴァーミリオンは王家の性です。」
恥ずかしい。良く考えればテーブルの上に私の手帳が無かったじゃないか。どうしてそんな単純な事も気が付かなかった?諜報員として何たる失態だ。良く考えれば、分かることだ。見ず知らずの私を拾って治療までしたのだ。荷物は一度預かるだろう。終始相手のペースに乗せられていたわけだ。そして相手が名前を聞いたのも、恐らく本当に身分証通りの人物かどうか図るためだ。
「貴方を試すようなことをして悪かったわね?でも、そのジョークはあまりにも面白かったわよ。にしても、この手帳……面白い素材ね?それに、この似顔絵……何の絵の具を使ってるのかしら?洋文字は読めるのだけれど。」
要文字……英語の事か?恐らく文字に関しては私がいた世界と同じ。だけど、似顔絵と言っている辺り、写真と言ったものが無いのだろう。
「それは、私がかつて所属していた特殊な組織の身分証ですね。公的にも使えますし、それがあると色々と便利です。」
「似顔絵、と言うより……もっと発達した技術の何かではないでしょうか?それにしても良くできている。画家などは皆欲しがるでしょうな。」
よくある奴だ。現代の物をすご〜いする感じ。王道だ。まぁ、今の話を聞く限り文化レベルは中世期に近いのだろう。こう言う反応を見るのは少し新鮮で面白い。スマホがあればもっと凄いされてたんじゃないか?
「一応先に言っておきますが、作り方は分かりません。組織から発行されたものなのですし。私の組織は何分秘密が多いですから。」
「なるほど。あぁそうだ。それと、これは何かしら?」
そう言ってアリスが置いたのはタバコ。青と白のパッケージのハイライト。
「タバコと言うものですよ。ストレスや色々が抑えられる私にとっては必需品みたいなものです。」
「使い方とかはあるのかしら?」
「一本吸っても?」
「吸う?別に構わないわよ。」
私はタバコを一本取り出し、口に咥える。あれ?火が無い。タバコだけでは何もできない。ライターはどこだ?私は身体を弄りライターを探す。すると、横からマッチで火をつけた執事がタバコの先端に火を運んでくれた。流石執事。気が利く。
「どうも。」
火を貰い深く吸い込む。喉に走るガツンとした感覚。肺いっぱいに溜め込まれたニコチンとタールは私の中にある不安を中和してくれる。そして吐き出す瞬間……やはりこれは麻薬の一種だと嫌でも分からせられる。辞められる訳では無い。
「ケホッコホ……煙いし……臭いわねソレ……」
「吸ってる側からすればそこまで気になりませんよ。臭いも慣れて臭いは思いませんし。むしろ良い匂いだなと思います。」
頭がリフレッシュされた、ようやく考えがまとまった。それを切り出して良いものか……いや、名誉挽回だ。先程のドラゴニックヴァーミリオンとか言う恥ずかしい話を忘れさせてやろう。
「もういいんじゃ無いですか?これ以上、知らない振りをしなくても。」
「……なんの事かしら?」
「では言わせて貰います。恐らく貴方達は、私が異世界から来たと言う事を分かっているはずです。」
そこから私は順を追って説明した。違和感の1つとして、タバコや手帳が取り上げられてるのに銃だけはテーブルに置いてあったこと。部屋を出た後、廊下や屋敷には使用人が他に誰もいなかった事。これだけ大きい屋敷だ。仮に執事がそこのバトラーさんだけで回るのだろうか?銃を向けた時、笑顔を取り繕っていたがほんのわずか焦りの表情見えた。恐らくこの武器の効力を知っている。そして出会った時に言った「私と私が管理する領民達」それなのにこの中庭来る道中他の執事やメイドと合わなかった事。執事やメイドも領民に含まれる。タバコの使い方を聞いた時、執事のバトラーさんが私に火を渡して来た事。吸ってもいいか?と聞いた時、どうぞ。と、まるでこの物を知ってるかのように答えた事だ。最後ので疑心から確信に変わった。
「恐らくですが、屋敷内からでもこの庭園はよく見える。隠れて私を監視しているのでしょう。」
「お見事。正解よ。」
やはりな。この女只者ではない。友好そうに見えて考えは私と同じだ。目の前の敵が安全かどうかを見極める為に探りに探りを入れて来る。このエルフ。相当頭が回る方だ。
「お話を伺っても?」
「50年ほど前に、貴方と同じ転生者がこの世界にやって来た。タバコや手帳は彼等が教えてくれた文化よ。だけど、唯一分からなかったのは貴方が持っているそれね。」
「銃の事ですか?」
私はテーブルの上に銃とマガジンを置いた。恐らくこれの事だろう。話を推測するに私の以外の転生者が居て、その転生者達が過去に持っていた持ち物の1つが「タバコ」と「手帳」なのだろう。
「武器の類いなのは分かったわ。オーグの体内から、それ……なんて言うのかしら?その小さな玉?と同じ物が検出された。試しに使ってみたら、爆発みたいなデカい音と腕に衝撃が走ったわ。おかげで今夜の晩御飯はニワトリね。」
テーブルに肘を乗せ、顎に手をついてアリスは続けて言う。
「私がそれを貴方の手元に置いたのは特典かと思ったからよ。知ってるかしら?異世界から来た転生者は、もれなく神から特典を貰ってこの世界に来てるの。優れた魔法、優れた身体能力、または古代の道具と呼ばれる物が与えられるの。その特典は到底私達じゃ扱える代物では無いわ。だから持ち主返したのよ。実際使ってみてあんなの怖くて扱えないわ。」
「勘違いしないで欲しいのが、私は魔法を与えられてもいないし、優れた身体能力もありません。人並み以上ではあると思いますが、あくまで人間の範囲です。そして私が持っていたあの銃は古代と言うよりも最先端の道具です。」
「なるほどね。」
今の話を聞いて分かった事がある。この世界は確かに私がイメージするファンタジー世界。そして、過去にも私以外の転生者が居るという事。文字や言語は私が知ってるものと同じ。過去の転生者が持っていた持ち物がこの世界では普及している。だが、それよりも大事な事がある。
「私の処遇はどうするんですか?腕の治療をして貰ってます。私も無闇やたらに銃を向けたりはしません。」
「私的にも怪我を放り出すほど狭量ではありませんわ。ですが、他の領民は貴方を追い出せと言っています。」
「お茶まで用意して治療までして頂いてます。こんなことを言うのは気が引けますが、仮にそちらがその気なら私は何人だろうとやる所存です。」
言わば宣戦布告。来るなら来いと言う意味だ。それはそうだ。公安とCIAの2つの組織に所属し、二重スパイとして活動している。こんな所で怖気付くほどの胆力なら私ははなからこんな仕事はして無い。常に腹を括って生きて来たのだ。
「アリス様。セツナ様はあのように仰って言ってますし、ここは1つ試して見てはいかがでしょうか?」
バトラーさんが耳打ちでアリスさんに何かを言う。それを聞いた彼女はニヤリと笑い、何かを決めたようだ。
「ベイルを呼びなさい。アリスさん、今から来る相手と戦い実力を示せたのなら……貴方の面倒はクロフォード家が見ましょう。」
断る事はできないな。生き抜くためだ。やってやろう。さぁ、相手は誰だろうか?
「お呼びですかアリス様。」
「えぇ。貴方なら実力は申し分無いわ。……この転生者と戦えと?」
「初めまして。セツナ・ムラサメです。」
「……ベイル・アルフレッド。」
凄い可愛い耳だ。兎?丸い尻尾がある。獣人と言う奴だろう。エルフに獣人。ますますファンタジーらしい。
テーブルの食器や紅茶はバトラーさんが片付け、私達は中庭で対面に向かい合う。不良漫画で言うタイマンと言う奴だ。辺りには私達を囲うように様々の種族の使用人達がぞろぞろと姿を現した。交番勤務の時、繁華街の喧嘩でよく見た光景だ。唯一の救いはカメラを回してない事だろう。
「始める前に、その腕の怪我は不公平だ。」
ベイルが私の所にやって来ると、包帯を巻いてる左腕に触れて何か唱える。
「ヒーリング」
一言そう唱えると、腕の違和感が消えた。折れた骨が元に戻ったような感覚。包帯を外すと、痛みは消えて違和感は無くなっていた。最初からこれをやってくれ。あのエルフ……わざとだな。
「正々堂々だ。怪我人を相手にするなんて騎士道に反する。」
それだけ言い残して彼は元の位置に戻った。そして間にバトラーさんが入る。
「この勝負クロフォード家執事長。バトラー・カリスが仕切らせて頂きましょう。武器の使用は禁止。素手のみとさせて頂きます。では……始めッ!!!」
開始の合図が鳴る。それを聞いた瞬間、ベイルは飛んで一気に距離を詰め飛び蹴りを放つ。
「ッ!?」
体勢を半身にして蹴りを躱すが、とんでも無いキレだ。獣人と言うのは元となった動物の部分が発達すると言うが、流石兎。跳躍力、そして蹴りの威力。テコンドー選手とは比べ物にならない。
「アリス様からの直々のご指名だ。負ける訳には、いかんッ!!!」
閃光のような蹴りの連撃。この蹴りを受けたらまた骨を持っていかれる。躱す以外の選択肢は無い。
「流石兎人。獣人の中でもより脚力が発達した種族の蹴りは格別ね。蹴りだけで言えば、貴方が倒したオーグの比では無いわ。……ごめんなさいねセツナ。」
アリス・クロフォードは非常に頭が回る。魔法を使わないで腕の治療をした事や、ベイルをぶつけて来た事。この女は、あらやる物事を全て自分の有利に進めようとしている。その為にいくつもの布石を打ってくる。魔法や特別な身体能力が無い以上、種族差でベイルの方が圧倒的に有利だ。
「クソ!あの腹黒エルフが!」
「貴様ァ!アリス様の事を馬鹿にするな!」
ますます蹴りが激しくなっていく。そして、頬を掠った刹那。プシュッ……と、血が溢れた。キレが増した?
「腹黒エルフだと?……アリス様は頭脳明晰だ!撤回しろ!」
まるで刃物のようだ。ギリギリの所で交わすが、至る所が斬られているような灼熱感が走る。右左前後ろと動き回りながら何とか急所だけは守っている。
「ぐぅ!?……嫌味ですよ嫌味。分からないんですか?もしかしてバカなんですか?アホなんですか?動物って人より脳みそ小さいですもんね!」
「おい貴様……アリス様の事に加え、我が兎人を馬鹿にするかァ!!二度とその口が聞けないようにしてやる!!」
更にキレがましていく。まるで剣だ。剣が脚に引っ付いてるような感覚。こんな化け物見たこと無い。蹴りで木を砕く達人はいても、木を蹴りで斬る名人はいなかった。
「……おい、あの転生者……ボロボロだぞ……」
「酷いわね。全身から血を流してるわ……」
「おいベイル!早くソイツぶっ倒して楽にしちまえ!」
そうだ!早く早く!……うるせぇぞファンタジー脳みそ共が。神様がいるなら中指を立てたくなる。種族差と言うのはどうしても埋めることができないスペックの差。ガラケーとスマホだったら皆スマホを手に取るだろ?……だけど、充電の持ちはガラケーの方が良いんだよ。
「終わりだ!転生者ッ!」
ギュンッ!とベイルは回った。本当に終わらすつもりだ。終わらすと言うのは気絶では無い。殺すつもりの意味だ。ベイルが放ったのは後ろ回し蹴り。踵でコメカミを撃ち抜こうとする技。
だがそれを……
ガシッ!!!
「捕まえた。」
「なッ!?」
グググッ!と力が入る。火事場の馬鹿力って奴か?いつもより力が入ってしまう。
「兎ってのは、確かに脚力発達してる。その代わり、身体が小さい。小さければその分心肺昨日も小さく、長期戦に長持ちしない。」
軸足をかけてベイルを転がすと、マウントポジションをとって両肩に膝を置いた。
(両手が動かない!?)
そして……
ドガッ!!!!
拳を振り下ろす。
「ンガッ!?あ……あ、あり、す……さ」
ドガッ!!!!!!
拳を振り下ろす。
そして
膝十字固め。
「もっかい言ってみろよ。アリス様ってな!」
「がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
アキレス腱固め
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」
そして、勝負の決着はついた。ギャラリーは誰も声をあげることができない。こんな泥仕合、誰が想像したのだろうか?泥臭く、残酷で……的確に体を破壊していく者を。
「は、はひゅッ……あ、あしっ、あ、あひ……あひがぁぁぁ!!!」
「酷すぎる……」
「はぁ?酷いですか?笑わせないでください。こちとらこの世界に来て2回もしにかけてるんですよ。死にたくないから必死に生きようとして何が悪い!この兎だって、私を殺そうとしたじゃないですか?」
異世界は甘くない。王道の展開にはならない。圧倒的な力を持って、余裕綽々で相手を制圧する。そんなことができるのは、チート能力を与えられたものだけだ。
「動揺してる所悪いわね。私は、彼女の言う事が間違えてないと思うわ。何の能力も与えられず、武器である銃を取り上げられて、種族差と言う絶望的な状況を覆した彼女は賞賛に値するべきだと思うわ。約束通り、貴方の面倒を見ます。……ベイルの治療を。解散しなさい。」
使用人達は魔法でベイルの脚を治して担架で運び消えて行く。残されたのはセツナとバトラーとアリス。
「まずは勝利おめでとう。」
「どの口が抜かすんだ?」
「セツナ様。お嬢様の眼前で、そのような口調を控えて頂きたい。」
「次はバトラーさんがやりますか?」
「よしなさいバトラー。私は構わないわ。まずは治療を。」
ヒーリング。便利な魔法だ。これがあれば、何人の仲間が救われたのだろう。爆発で巻き込まれた仲間達や、拷問で死んだ仲間達。私以外にも何人も居た。これがあれば、救えたのかな。
「ようそこクロフォード家へ。貴方を歓迎するわ。」
新キャラ紹介
名前 アリス・クロフォード
性別 女
身長 162cm
体重 50kg
種族 エルフ
名前 バトラー・カリス
性別 男
身長 180
体重 75kg
種族 人間
名前 ベイル・アルフレッド
性別 女
身長 165cm
体重 54kg
種族 獣人(兎人)