はなす
「はい終わり。塞がるまで動かないでよ。」
「分かった。」
麻井の手で発信器は取り出された。リヒトーの太ももの中に入っていた発信器は指でつまめるくらい小さな物だ。
「これどうする?」
傷口が開かないようシートの上で安静にしてズボンがまだ履けないため毛布で下半身を隠しているリヒトーの前に麻井は取り出した発信器を見せる。
「ここから離れる時に捨ててくる。」
「壊さないの?」
「壊さない。奴らがそれを頼りに自分を追いかけてくるのなら壊さず何処かに置いておけば少しは撹乱する事ができる。」
「了解。ここに入れて置いておくね。じゃあ王子様を呼んでくるねー。」
発信器を小さな布にくるんでそれをリヒトーの横に置いた後麻井はシーダのいる所に向かって行った。
◆◇◆◇◆
「リヒトーは大丈夫だった!?」
少し離れた所でリヒトーと麻井を待っていたシーダは麻井がやって来ると真っ先にリヒトーの安否の確認をする。
「大丈夫。発信器は一つだけ。それを取り出せたから居場所を探られる手段を減らせた。後で適当な所に捨てるってさ。体の方も信じられないくらい好調そのもの。」
「そう。良かった。」
それを聞いてシーダは安心した様子で表情を和らげる。
「で? あの事、リヒトーにはもう言ってあるの?」
シーダの都合に構わず麻井がそう言うとシーダは先ほどよりもさらに重い表情を見せる。
「…まだ。」
「早めに言いなよー。リヒトーが拐われたのはあんたの責任でもあるんだ。」
「分かってる。」
「本当に? あいつにリヒトー拐われたのに。説得力ないなー。」
麻井にそう言われて言葉を詰まらせるシーダ。それでも麻井から目を逸らさない。
「あんたが責任取らなきゃいけない。あんたじゃなきゃ駄目だ。他の誰かじゃ駄目。リヒトーを生かした責任を取れ。」
真剣な眼差しでシーダを見据える麻井。
「分かってる。」
それでもシーダは麻井から目を逸らさなかった。拳を握り今度はシーダが麻井を見据える。
「リヒトーがどう思おうと俺は責任を最後までとる。」
体感時間は長く。
実際の時間は短く。
二人はお互いを見据えていたが、やがて麻井の方が体を動かして視線を逸らす。
「だったらいい。分かってるならいい。」
そう言って再びシーダの目を見る。今度は見据えず、話をするためだけに目を合わせる。
「リヒトーの所に行ってあげなよ。」
「うん。」
麻井の許可を得られたシーダはすぐにリヒトーの所に向かう。
◆◇◆◇◆
リヒトーがぼんやりと上を見ているとシーダがやって来た。
「大丈夫リヒトー?」
リヒトーの隣に座り心配そうに見つめてくるシーダ。
「問題ない。傷口が塞がったらすぐに動くつもりだ。」
「…分かった。」
シーダとしてはもう少しリヒトーを休ませたかったが、発信器があった以上追っ手が来る前にすぐにでもここから離れなければいけない。それを分かっているためシーダは渋々リヒトーの言う事を聞いた。
「それで? あんた達これからどうするつもり?」
戻ってきた麻井は二人にそう聞く。
「あたしは帰るけど、あんた達に帰る場所はあるの?」
「そこは大丈夫。帰る場所はちゃんとあるよ。」
「ならいいけど。じゃあね。これで会うのは最後かも。」
シーダの言う帰る場所に記憶の無いリヒトーは全く心当たりなどなかったが口を挟む間も無く麻井は立ち去っていった。
「自称親友と言うには淡白な奴だな。」
麻井の姿が見えなくなった後、リヒトーは起き上がる。
「そういう人だから君の友人になれたのだと思う。それに麻井はリヒトーの事を心配していたよ。」
「確かにそうかもしれない。」
リヒトーが毛布をどかして近くに畳んで置いてあったズボンを手に取ろうとした時、シーダは声を荒げた。
「待って待って! 着替えるのちょっと待って!」
慌てて両手で目を覆い後ろを向くシーダ。
「ある程度塞がった。少し歩く分には問題ない。」
傷口が完全に塞がっていない事を咎められていると思ったリヒトーは傷口から感じる痛みを無視してズボンを履きながら言い返す。
「そっちじゃない! そっちじゃない!」
「じゃあ何なんだ。」
人前で着替えるリヒトーに対してシーダは静止をかけたのだが、リヒトーには一切伝わらなかった。