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しんさつ

「さて。これからどうするか。」


記憶がないリヒトーには行く当てがない。


「麻井のところに行こう。」


リヒトーの呟きにシーダは即座に答える。


「人の名前か。誰だ?」

「医者だよ。麻井(あさい) 弥曇(やくも)っていうんだ。医者で君を助け出した後異常がないか診てもらう約束をしてたんだ。」

「よくそんな奴と約束を取り付ける事ができたな。」

「前に君から知り合いとして紹介されたんだ。麻井はあちこち移動する事が多いから俺達と隠れて会っても怪しまれないって。」


そう言ってシーダは歩き出した。


「ついて来て。向こうに車を停めてあるんだ。」

「お前が運転するのか。」

「うん。安心して。ちゃんと運転できるから。」


リヒトーはシーダの言う通りついて行くと少し古びている荷台トラックが停められていた。荷台の方には荷物が積まれている。シーダは荷台にスポーツバッグを置き毛布を取り出すとリヒトーに渡す。


「疲れてるだろ。麻井の所に着くまで寝てて。」


シーダはそう言って助手席がある方の扉を開けて入るよう促す。

少し間を置いた後、リヒトーはトラックに乗り込み助手席に座り扉を閉める。

リヒトーが乗ったのを確認するとシーダもトラックに乗り込み運転席に座り扉を閉めると車を発進させる。

しばらくの間お互い無言でトラックの振動に身を揺られていたが、そのうちリヒトーは目を閉じて眠ってしまった。



◆◇◆◇◆



リヒトーは夢を見た。断片的で短い夢を見た。


何かと戦っている自分自身。

泣いているシーダ。

そして笑っている陽斗。



◆◇◆◇◆



車が止まった事を察知したのかリヒトーは起きる。夜が明けて外がすっかり明るくなっていた。


「着いたよリヒトー。」

「…そうか。」


リヒトーは夢の内容を覚えていた。しかしそれをシーダに伝える気はない。夢の内容が失った記憶と繋がっている確証がなくただの夢だと思ったからだ。

車から降りたシーダとリヒトーは歩き出す。着いた場所は別の廃墟がある街だった所だ。シーダがあたりを見回して何かを探している。


「えっと。赤い屋根赤い屋根。…あった。」


シーダの目線の先には色褪せた赤い屋根の二階建ての建物。


「ここに麻井がいるはずだよ。」


そう言ってシーダが扉を開けて中に入る。

リヒトーも警戒しながらシーダの後に続く。

二人が奥へと進み、シーダが屋内で一番奥の扉を数回ノックして開けると誰かが窓際に立っていた。


「お待たせ麻井。」


シーダの呼びかけに反応して誰かが振り返る。

足首まで隠れる長いスカートにぶかぶかのスウェット。

肩まである髪を紐で一つにまとめている。

シーダが麻井と呼んで振り返った彼女こそ麻井 弥曇だ。


「来たね。ちゃんと攫われた姫を助けられたんだね。」


おちゃらけた様子で話しかけてきた麻井はリヒトーの方をジロジロと見ている。


「お前が麻井か。」

「そうだよ。何言ってるのリヒトー。」

「麻井。実はリヒトー記憶を失っているんだ。」

「…え。まじ?」


驚きで目を見開く麻井にシーダはリヒトーをここに連れてくるまでの経緯を話す。

話を聞き終えた麻井は唸り声を上げる。


「えー。記憶喪失って。信じられないなー。」


そこまで言って麻井は意味深に微笑む。


「じゃああたしがあんたに金貸した事も覚えてないの?」

「知らん。」

「そんなー。後で倍にして返す約束したんだよあたし達。」

「嘘をつくな。」 

「え。や、やだなー。親友のあたしがあんたに嘘をつくわけ」

「嘘をつくな。」

「…はい。嘘です。ごめんなさい。」


リヒトーの視線と言葉に耐えきれなかったのか麻井はあっさりと白状をした。


「なんでバレたのかなー。記憶喪失なんでしょ。」

「記憶がなくてもお前が嘘をつくのが下手な事は顔を見れば分かる。」

「記憶がなくても相変わらず。せっかくお金がもらえると思ったのに。残念。」


反省の色のない麻井を見てリヒトーはかなり不安を感じた。


「おい。こいつ大丈夫なのか?」

「う、腕は確かだってリヒトーが言ってたから大丈夫だよ。」


そう言いつつもシーダも不安そうだ。


「まぁいいや。そこの王子様から治療費貰ったし真面目に仕事するよ。リヒトー服脱いで。診察するから。」


そう言われたリヒトーだが、麻井に疑いの目線を向けるだけで服を脱ぐそぶりを見せない。


「心配しなくてもいいって。変な事しないから。」

「…おかしな動きを見せたら容赦はしない。」

「うっわあたし信用されてない。記憶喪失って不便だなー。」

「お前の行動に問題があったから不信感を抱いているんだ。」


少々揉めたがなんとか診察を始める事ができた。

シーダはリヒトーが服を脱ぐ前に部屋の外に出ていき扉の前に立っている。

対面時のやり取りのせいで麻井の腕にかなりの不安を感じていたリヒトーだったが、自分の体を真面目な顔つきで診察している麻井を見て手腕に関しての不安は少し薄れた。


「ん?」


診察を進めていくうちに麻井はリヒトーの太ももにうっすらとではあるが傷跡らしきものを見つけた。


「…まさかね。」

「どうした?」

「いや、その。念のために。」


麻井は近くに置いてある仕事道具が入っている鞄から小さな機械を取り出すとそれをリヒトーの太ももに近づけると機械から音が鳴った。


「…あの、リヒトー。言い難いんだけど、がんばって言うわ。」

「何だ?」

「あんたの体に多分だけど発信器が埋め込まれてる。」

「…何だと?」


発信器と聞いたリヒトーは真っ先に追手達の事が思い浮かんだ。最初は何も思わなかったが、自分の体に発信器が埋め込まれていると知った今は例え視界の悪い暗い森の中であろうと追手達が発信器の反応を辿って自分の事を追いかけて来れたのだとリヒトーは思い至った。


「その発信器はいくつある?」

「えっと。太ももにある一個だけだね。」


麻井は機械をリヒトーの体のあちこちに近づけるが太もも以外で音は鳴らない。

リヒトーは落ち着いた様子で発信器の数の把握をし、発信器が埋め込まれている太ももを見る。


「えー。どうすんのこれ。」

「すぐに取り出せ。」

「え。」


リヒトーは躊躇なく言い切った。

それに対して麻井は顔を引きつらせる。


「いや、でも。手術しないと取り出せないって。ここじゃできないし。」

「その言い方だとお前の手で取り出す事は可能だと捉えるぞ。」

「…まぁ、太ももならそこまで複雑じゃないけど、衛生面的にここはちょっと危ないし、麻酔がない。」

「場所は移動すれば済む。麻酔はいらない。道具はあるか?」

「えっと。刃物とピンセットなら。でも縫合はできないよ。」

「剪定士の回復力なら縫合しなくても何かで抑えておけばすぐに塞がる。他に問題点は?」

「…記憶がなくても変わらないあんたの精神。」

「問題なさそうだな。場所を移してさっさと取り出してもらおうか。」


そう言ってリヒトーは服を素早く着て外に出ようとする。


「…いやー。ひくわー。」


そう言いつつも麻井は荷物をまとめてリヒトーの後に続く。

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