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おきて

彼女が目が覚めてまず見たのは知らない天井。

起き上がると彼女は自分が清潔なベッドの上で眠っていた事に気がつく。見渡すと部屋にある家具はベッドだけ。扉と鉄格子がはめられている窓以外目立ったものがない殺風景な部屋。

彼女が着ている服は花柄の白いワンピースのような寝巻き。


状況を把握しようと彼女はベッドから出て扉を開けようとしたが鍵がかかっているのか開かない。

次に鉄格子がはめられている窓に近づいてみるが、鉄格子は頑丈で彼女一人ではとても壊せそうにない。


どうやってここから出ようと彼女が考えていると扉が開く音が聞こえた。

彼女は扉の方に視線を向けると部屋に入ってきたのは男性。そして男性の後ろには護衛がニ人控えていた。


「おはよう季花(りか)!」


季花。

それは自分の名前だと彼女はすぐに気がつく。しかし、その名前で呼ばれる事に彼女は強い違和感を感じた。

嬉しそうに彼女の名前を呼び彼女に抱きつこうとしてくる男性に彼女は覚えがない。しかし彼女は直感的に感じた。


こいつは敵だ。


「誰だ。」


伸ばされた腕から逃れ距離をとった彼女がそう言うと男性は悲しそうな表情を見せる。


「…やっぱり覚えていないんだね。」


口ぶりからして彼女の事を知っていそうだが、彼女自身は男性に覚えがない。


「僕は陽斗(ようと)。信じられないかもしれないけど、君の婚約者なんだ。」

「…は?」


男性、陽斗の言葉に彼女は目を見開く。


「君は記憶喪失なんだ。事故にあって大怪我をして。それが原因で記憶を失ってしまったんだ。」


真剣な表情で話す陽斗。

それに対して彼女は冷ややかな気持ちを隠しながら陽斗に話しかける。


「ここはどこだ?」

「ここは病院だよ。」 

「お前は何をしにここに来た?」

「何って、お見舞いだよ。今日は梨花の好きなお菓子をたくさん持ってきたんだ。後で一緒に食べようね。」

「外には出られないのか?」


その質問に陽斗は表情をこわばらせる。


「医者が言うには君はまだ安静にしなくちゃいけないんだ。だから外に出るのはもう少し我慢してほしい。」

「…そうか。分かった。」


陽斗の様子がおかしい事を彼女は見逃さなかった。


「おっといけない。お茶を用意するのを忘れてたよ。すぐに用意するから待っててね。」


陽斗はそう言って部屋から出て行き扉を閉め鍵も閉める。

陽斗が立ち去ると彼女はベッドの上に寝転がりここからどうやって逃げ出そうかと考えていた。

扉には鍵がかかっている。窓には鉄格子。部屋にあるのはベッドだけ。彼女が身につけているのは寝巻きと下着のみ。抜け出せる手段がない。


さらに陽斗の言う通り彼女は記憶の一部が欠如している。


それは彼女自身よく分かっている。むやみに動くのは得策でない事も分かっている。

それでも彼女は一刻も早くここから抜け出したかった。

何故かは彼女自身まだ分からない。しかし行かなければならない所があると本能が訴えかけている。


どうしたものかと思いベッドから起き上がり窓の外を見る。

窓には鉄格子がはめられているがなんとか外の様子を見る事ができた。近づいて外を見ると部屋は高い階層にある事に気がつく。

窓から地上を見下ろしていると窓の端で何かが動いているのが見える。鳥かと思い視線を向けるとそこにいたのは一本の腕。腕が窓に張り付き力を込めると窓にヒビが入る。

それを見て彼女は驚いたが、声は出さず窓から離れる。

すると彼女が離れた事を感じ取ったのか腕はさらに力を込めて窓が割る。そしてすぐに鉄格子まで移動すると鉄格子の一部を掴み握り潰す。

扉の外から走ってくる人の足跡を複数聞き取った彼女は時間がないと判断し鉄格子を掴み引っ張り破壊の手助けをする。


「季花!」


陽斗が入ってきた時には鉄格子は壊れ彼女が窓を割り飛び降りようとしていたところだ。

それを見た陽斗は慌てる。


「季花。そこにいたら危ないよ。戻るんだ。」


そう言ってゆっくりと彼女に近づいてくる。

陽斗の後ろに控えている人達は身構えている様子。指示があれば今すぐにでも彼女を捕まえようとしている。

彼女は下を見下ろす。陽斗の言う通りこのまま高層から落ちれば大怪我をするだろう。しかし、彼女に恐れはなかった。自分ならばこの程度問題ないという自信があった。


彼女はそこから飛び降りた。

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