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1-5 講師

"What is the weed? A plant whose virtues have not been discovered."

 美しく華やかな式場。


 入試成績が優秀な順に入場していく。


 S組 → A組 → B組 → … →


 煌びやかな制服。

 女子生徒はドレスを模したワンピース型、男子生徒は貴族の正装に近いブレザー型。

 ネクタイやリボンがクラスによって変えられており、一度見るだけでどれほどの成績をとっているのかが大体わかる。

 さらに、上位3名には指輪が与えられており、首席の生徒も分かるのだ。


 今年の主席はガドル王国第二王子、ジェラルド=フォン=ガドルだ。


 黒髪に王族特有の紫色の目。

 目つきが悪く、機嫌はお世辞にも良さそうとはいえない。


 周りにいる上級生たちは拍手をおくる。

 学年ごとに制服に入る刺繍の色が違うため、何年生かはなんとなく分かるのだ。

 また、クラス替えはテストごとに成績順で行われるため、彼らのネクタイやリボンは彼らの実力を証明しているのだ。


 たとえ末席のH組であろうと、この学校に入学できた時点でエリートである。

 彼らもまた誇らしげに拍手で迎えられる。



 空気が変わったのはその後だった。


 「おい、今年は3人だってよ。」

 「惨めね。」

 「諦めて他の学校へ行けばいいのにね。」


 こそこそと聴こえるように陰口を言うのは上級生も入学生も、先生すらも同じだ。


 何も言わなかったのは不機嫌そうに無言を貫いていた第二王子と、教師の中でも異色を放つある一団だけだった。

 しかし、それぞれ別の理由があった。


 (…無駄な制度を。)


 第二王子は不合格者を出さないという学園の方針をバカらしいと思っていた。

 選抜して優れた人間を育てたいのなら最初からそうすればいいと。

 元々、誰でも入れる学校は他に設けているのだ。

 王家が定めたものとはいえ、()()()()()()()()()()()()()に創設された制度を好ましく思っていなかった。

 よって、彼らに対する感情は侮蔑ではなく哀れみだった。


 対して教師の一団はまた別の視点をもっていた。


 「んー、多分ここにいるっす。」

 「本当か?」

 「信じられませんけど、ここの制度ならあり得ますね。」

 「やだよぉー!だって、それの担任しなきゃなんでしょう?無理ですよ、絶っ対。無理無理。」


 この一団は興味をもって彼らの登場を見つめていた。

 楽しみかどうかは反応が分かれるが。


 そして出てきたのは3人の生徒。


 前から順に、アリス、ランバート、ジゼルだ。

 出てくる順は入試の成績順である。


 嘲笑、侮蔑、心ない言葉が飛び交う中、彼らは席に着く。

 皆が制服である中で、実習服、それだけでも目立つ上に汚らわしく思われるだろう。


 そして入学式が始まった。


 「あの子っすよ。まぁ、見りゃわかりますけど。」

 「マジか、スッゲーな。」

 「確かに、迷宮をひとつ攻略してます…。誰と潜ったかは知りませんが、頬の傷程度なはずがありませんね。相当、修羅場を潜っているはずです。」

 「いやーーー!やだよぉ。そんなの、そんなのって。シロートの面倒だから見てもいいって言ったのに!学園のバカ!もうやだ。私は隠れるからねっ!ぜぇったい、守ってよね!」


 他の教師陣からはかなり離れている上、密かに遮音結界を構築しているから誰にも聞かれていないとはいえ、かなりの言い草だ。

 そして、かなり驚いている。

 最後の人は泣きべそをかいている。


 「まぁ、そこらの奴らの攻撃なら死んだりしないすね。当然ですけど。」


 そう考察するのは若い優男。

 ジゼルに話しかけた試験官だ。


 「…おい、アイツら全員の実習服、ただの服だった筈だよな?」


 徐に言うのはガタイのいい男。

 表情が豊かで、喜怒哀楽をはっきり表すタイプだ。


 「私はそう聞いてますけど。」


 童顔で小柄な女の子といってもいいような女性。

 しかし、その手には大きく重い剣が握られている。


 「ありゃ、学園の支給している実習服を上回る一品だぞ。改造してやがる。自力で魔法付与したんじゃねぇか?」


 驚いた表情でその服をジーッと見ている。


 「マジっすか。そーいうの俺の範疇じゃないんで気づかなかったっす。」

 「武器とか服とかどーでもいいから。私を守るって約束してよぉ。無理だよぉ。私が痛いの嫌いって知ってるでしょ!!」


 若い優男がそう言っている間に長身の麗人というような見た目をする女性がポカポカと殴りながら訴える。


 「学園の支給品を上回るって言うのはどう言うことですか?アレ、一般に出回ってるものの中じゃかなりイイヤツですよね?」


 「ありゃ、使っている素材の量が半端じゃねぇんだ。学園のは流通している素材をかなり買い占めているとはいえ、そもそも魔物を狩れる奴が少ないだろ。」


 小柄な女性が尋ねると、男は答えた。


 「あぁ、なんか知らないすけど、みんな馬鹿っすからね。」


 優男がチャチャを入れる。

 かなり毒舌だ。


 「俺らを含めて、魔物を狩るのが当然な人間は、素材を売る前に先に自分で使うだろ。だから出回らないんだ。」


 「付与魔法の使い手が増えないのってそれが原因っすからねぇ。」


 笑いながら優男はいう。


 「彼らの実習服は彼らが狩った素材で造られているということ…()()()()()みたいですね。」


 そして小柄な女性は笑顔になった。


 「いーーやーー!だって、おかしいじゃん!ずっと服の魔法を維持してるとか、異常者としか考えられないじゃん!うぅぅ。あんなのどうにもならないもん。担任いらないじゃん!すぐに退学とか嘘じゃん!学園のバカー!うわぁぁん!」


 変わるがわる色んな人をポカポカ叩きながら泣き叫ぶ女性。


 「…今なんて?」

 「嘘、だろ。そんなことできんのか?」


 泣き叫びながらも、実は一番観察力に長けている女性は、他の人じゃ気づけないようなことまで一瞬で気づく。


 「魔力隠匿の形跡が見えるよぉ。もう完全に実践経験者じゃん。もう無理。辞退しよーよ!」

 

 一番核心に迫るのはいつも彼女なのでバカにできない。

 臆病さは裏返せば慎重であるということ。

 誰よりも危険性や危うさを察知できる。


 以降もずっと会話が続いた。

 誰ひとり、入学式を見てはいなかった。



 入学式に参加しているアリスは周囲の目線にビクビクしていた。

 向けられる感情にいいものはないため、気持ち悪くて仕方なかった。


 「おい、アリス、しっかりしろ。って、ジゼル、テメェは何を…。」


 ランバートはアリスが気を保てるように声を掛けつつ、最近分かるようになってきた殺気をビンビンに放つジゼルにびびっていた。


 ジゼルは入学試験の時に話しかけてきた試験官を目の端に捉えてからは、そちらを見ないようにしながらも、厳重に警戒していた。その優男は他の人間と話しており、彼らもなかなかに強そうだと感じていた。


 超苦労人、それがランバートの気質だ。


 話しかけられたジゼルはチラッと2人を見て言った。


 「…乱れてる。気合を入れ直した方がいい。」


 そう言われた2人はハッとして服へ注ぐ魔力へと集中した。


 アリスはもう、周りの視線など気にならなかった。

 彼女の頭の中は魔力の制御でいっぱいになった。



 「新入生代表挨拶、ジェラルド=フォン=ガドル殿下。」


 入学式は粛々と進んだ。


 「季節の訪れを感じる今日この日、国立ツヴァイフェル学園の入学式を迎えることができ、とても嬉しく思います。3年間の学園生活はあっという間でしょう。しかし、我々にとってかけがえのない3年間となると確信しております。そして、この大切な3年間をこの学園で過ごせること、心から嬉しく、光栄に思います。学園という特殊な環境下で心配なこと、不安なこともたくさんあります。しかし、それも楽しみながらこの3年間精進し、王国のために働けるように実力を身につけていきたいと思います。上級生方、教職員のみなさま、これから学園に携わってくださる皆様、どうぞよろしくお願いいたします。そして、今日まで私たちを育ててくださった方々、たくさんの人々に感謝をし、新入生代表挨拶とさせて頂きます。ありがとうございました。」


 定型文をしっかりと読んだ第二王子に笑顔はなかった。

 義務だからやったという雰囲気が拭えない。


 多くの人がその視線に射抜かれ体を硬直させただろう。

 第二王子の視線にはそんな力があった。


 そして式は続く。


 しばらくして入学式も終了し、退場が命じられる。


 退場もS組からである。


 尚、アリスとランバートは魔力の乱れを指摘されてから魔力の制御に集中しているため、気づいていない。


 そして、 I 組が退場する前に上級生が退場し、教員もほとんど撤収した。


 「 I 組の退場です。教員の指示に従って移動してください。」


 そして、その一団は彼らの前に立った。


 「行くぞ。」


 大柄の男が端的にそう言う。


 しかし、アリスやランバートは気づいていないし、ジゼルは後ろにいた優男に警戒心を向けていて、仲間と思われる彼らに従っていいのかと思案していた。


 「そんなに警戒しなくても今は何もしないっすよ。とにかく移動して、それから話すっすよ。」


 警戒されているのを自覚した優男は両手をあげてそう言った。


 「………」


 長身の女性は黙って優男を殴っている。

 しかし、彼らの中で共有している念話ではこう言っていた。


 『なななな何をやってんの!!けーかいされてんじゃん!なんでよ、なにしたのよ!無理!!』


 ジゼルはそれをジッと見てから黙って席を立ち、それに従うそぶりを見せた。


 小柄な女性はランバートとアリスの目の前に立って、2人の顔をジッと見つめた。


 「こっちの2人は気づいてませんね。すごい集中です。」


 ニコッと笑ってから彼ら2人を持ち上げて腕に乗せた。


 「若人の集中を途切れさすのは良くないですよね。」


 そして、そのまま移動を開始した。



 「ここがお前らの教室だぜ。教室はあるが空調が悪いから自分でなんとかしとけ。」


 適当に言って入室させる。


 黒板と教卓が設置してあり、机と椅子が3つ並んでいる。

 ロッカーも30ほどあり、広い空間だ。


 ジゼルたち3人は机に座らされ、彼らは教壇に立った。


 「そーっすね…」


 優男はそう言うと突然、3人に向けて魔法を放った。


 無詠唱、炎の魔法。

 ゴウッと風を切り一瞬でジゼル、アリス、ランバートのもとに到達する。


 その瞬間、ランバートが結界を発動させ、炎は結界に阻まれた。

 そして、アリスによる水で炎は鎮火した。


 ランバートとアリスは、周囲の音が気にならなくなるほど魔力の制御に集中していたため、不自然に膨れ上がった魔力に気づき、反射的に防御をしたのだ。


 「へぇ。意外っすね。2人がそこまでできるとは…。お見事っす。」


 優男が目を細めて言った。


 それに対してジゼルは不機嫌さをあらわにする。

 ジゼルは魔法に対して何も対処しなかった。


 ランバートとアリスは冷や汗をダラダラ流している。


 「嘘だろ、というかここどこだよ。」

 「すみません、全く気づいてませんでした。」

 「…初日から教員が相手とは。」


 彼らは既に厳戒態勢。


 「それにしても、つまんないっすねー。もっと慌てたっていいっすよね?」


 「攻撃する気がなかった…」


 優男がジゼルにそう問うと、イライラした様子でジゼルはそう返答した。


 「殺気が足りなかったっすか?」


 「わざとらしい殺気だった。」


 「そりゃ、俺もまだまだっすね。」


 ジゼルと優男は会話をするが、優男は飄々としているのに対して、ジゼルは警戒をしている。


 「そこまでだ。」


 もう1人の男がそう言った。


 「先程の攻撃は謝罪しよう。これが通例なんだ。最初から攻撃を当てるつもりなどないが、危機感をもってもらうためにな。だが、正しく対処されたのも、見抜かれたのも初めてだ。…お見事。」


 ジゼルと優男の間に立って話をする。


 「俺たちがこのクラスの担任をする、実戦講師の現役冒険者パーティー、"ウォッカ"だ。俺はリーダーのグレン。パーティでは武器の管理を主に壁役をやることが多い。そっちの男がジーク、うちの攻撃魔法の使い手だ。そっちの小さい方がリラで、近距離戦が得意な重量級アタッカー。最後のひとりが、うちの回復・支援役のルツィだ。で、水魔法を使った嬢ちゃんがアリス、結界を張ったのがランバート、で、ジークと仲悪そうなのがジゼルか。」


 簡潔に自分のパーティの人間を紹介し、生徒の名前を確認する。


 「…"ウォッカ"って超有名なSランク冒険者パーティじゃねぇか。この学園で授業をしているのは知っていたが…。」


 ランバートは衝撃を受けている。


 「なんでこんなすごい人たちが私たちの…?」


 アリスは困惑している。


 「……?」


 そして、当然の如くジゼルは知らない。


 「なんで、という疑問に答えましょう。簡単に言うと私たちが冒険者だからです。ご存知かもしれませんが、I 組の生徒は数ヶ月以内に学園からいなくなります。故に、仕事量が少ない実質名誉職なのです。実戦の授業も1ヶ月に1コマくらいしか設けられていませんし、私たちは自由な時間が確保されています。しかし、高給の私たちが担当クラスを持たないのは印象的によろしくありません。なんなら、そうしないと給料が下がります。従って、一番楽とされるこのクラスの担任なんですよ。」


 見た目ではアリスよりも若く見えるリラが丁寧に説明する。


 「こちらも色々聞きたいことはありますよ。その服のこととか、色々です。」


 リラはニコッと笑う。


 「いつも退屈なんっすけど、今年は悪くないって思うんす。…毎年ここの生徒は人生を諦めてる。それに協力しようって気は俺たちも起きないね。だけど、今回は違う。その子の影響かもしれないけど、だいぶいい顔つきをしている。…だから、敵対することはないっすよ、ジゼルちゃん?」


 ジゼルは余計に眉間に皺をよせ、舌打ちをした。


 「…敵対はしたくなかった。」


 「俺もっすよ。」


 ジゼルとジークはなにか分かり合ったような雰囲気を醸し出していた。


 「じゃあ、ジゼルさんに最初に聞きますね。あなたの目的は"迷宮"で間違いありませんか。」


 リラが尋ねるとジゼルは驚いてから頷いた。

 

 「なぜ…」


 「ジゼルさんが迷宮をひとつ踏破していたからです。…その様子、知らないみたいですね。首に金色の輪が見えるでしょう?これが踏破した迷宮の数です。迷宮をひとつでも踏破しないと見ることすら適いません。」


 ジゼルはリラの説明を聞いて、自分の首と彼らの首を見る。


 「…3つ?」


 「そうですね。私たちは3つ踏破しています。この学園の森の中にもひとつありますし。よかったら案内しますよ。代わりといってはなんですが、私たちを貴方が踏破した迷宮に案内してくれたら嬉しいですけど。」


 ジゼルはリラの言葉に頷いた。


 「交渉成立です。」


 リラもニコッと笑った。


 「これ以上雑談しているわけにもいかない。一応、オリエンテーションだ。学園の仕組みについて話す必要がある。」


 アリスとランバートは会話についていけず呆然としていたが、グレンにそう言われて席について話を聞く体制になった。


 グレンはアイテムボックスから本を取り出し話し始めた。


 「これから学園内で使う設備はこの教室、食堂、講義室、実験室、併設の闘技場や魔法訓練場、国立図書館だな。講義室を使うことは殆ど無いと思ってくれて構わない。食堂は今度案内しよう。基本的に授業はこの教室で受けるか、森で受けることになる。訓練をする施設の使用許可は、まあ、I 組にはおりないと思っておけ。食堂のメニューは無料。好きなもんを食べていい。職員室はおそらく行くことはないだろう。俺たちの待機場所はこの部屋の隣だ。授業は組まれているが、自習と実戦が極めて多い。稀に講義が組まれているが、まぁ、奴らは適当に潰すだろうな。もしくは、嫌がらせに授業でもするか?」


 笑いながらグレンは説明する。


 「実戦は俺らが担当する。殺しはしねぇが適度にビビらせろ、これが学園からの指示だ。退学に追い込むひとつの布石だな。それでも退学しない奴が暗殺と事故死で学園を去る。だが、勘違いするな。俺らは真面目に講義をしていた。それに奴らが勝手にビビっただけだ。俺らは奴らが短期間で確実に強くなれるように指導した。お前らにも同様にするつもりだ。だが、そこでビビって絶望すりゃ、そこまで。喰らいついてこなきゃ、誰も強くならん。まぁ、全てはお前ら次第ってことだ。」


 グレンはアリスとランバートを見据えてそう言った。


 「それくらいは俺らも分かってるつもりだ、です。」

 「…わ、私も、お膳立てされた戦闘で強くなれるとは思っていません。」


 「…そりゃぁ、態度で示すんだな。」


 グレンの言葉に2人は頷いた。


 「さて、オリエンテーションの続きだ。次が、入試の成績発表。いるか、これ?」


 「規則ですからやってください。それに、さっきからぶっちゃけすぎですよ。いくらなんでも。」


 グレンの態度が適当になっていることにリラは釘を刺す。


 「わーったから。で、入試の成績…ジゼルからだ。」



ジゼル=ルモニエ (女)

-----------------------------------

魔力量測定 4

攻撃火力測定 0 (火属性魔法)

治癒・回復魔法親和性測定 5%

物理攻撃力測定 73

結界耐久力測定 1

-----------------------------------

植物治癒試験 0/100

魔法座学 2/100

魔物生態学 0/20

魔法史学 0/20

魔法理論 2/40

魔法理論証明 0/20

一般教養 10/100

社会情勢 0/40

王国史 0/20

政治経済 0/20

小論文 0/10

数学 10/10

-----------------------------------

席次 1007/1007



 「はっはっは。逆にすげーよ、この成績は。見事だ、ぐふっ、ほんとだぞ。」


 グレンは大爆笑しながら教卓を叩いている。


 「はぁ、実はな、俺らは座学の解答用紙をさっき受け取ってな、こいつ、このルツィに見せたんだ。すると、どうだ?一般教養は兎も角、魔法関係は満点以上の好成績だそうだぞ。今までこいつが黙ってたのはそれを見てたからだな。ルツィは臆病で騒がしいが、誰よりも慎重で観察眼に優れ、物知りだ。臆病だからこそ、敵を誰よりも理解しようとする。超有能な奴なんだ。」


 グレンは嬉しそうに自分の仲間を紹介する。


 「当たり前のことしただけだし。まぁ、それほどでもあるけど。」


 敵にならなそうだと分かってからは意外と冷静に彼らを見ていた。


 「あなたね、敵にならないなら私のことちゃんと守ってよね。私はただの後衛なんだからね。そして、褒め称えてよね。」


 そして、とにかく痛いのが嫌いらしい。


 「世間知らずだが、世間の知識以上に魔法の知識に優れている。今の常識は間違っている部分も多い。だからこの点数なんだ。ついでに言えば、ペンが掠れて読めなかった部分も減点されている。」


 グレンは説明をした。


 「で、ジークは攻撃魔法のテストから男女別考査に分かれるところに立っていたのだが、そこであまりにも手抜きをするから気づいたんだと。迷宮攻略済みなのは分かってたらしいし、いくら弱い魔法でも10以下はありえん。それこそわざと手を抜いたとしか思われないだろうな。」


 「上手だったと思うっすよ。ただ、あまりに常識を知らなすぎっす。魔力量測定装置をどう騙したのかは知らないっすけど、4なんて赤子の下限レベルっすよ。ここを受けるような年齢じゃ50くらいが平均っす。あまりに常識を知らないのは敗因だと思うっすよ。」


 ジークがジゼルに説明をするが、ジゼルは眉間に皺を寄せて不機嫌そうだ。


 「この学園の試験方式で本来の強さ弱さを見れるとは思っていませんが、流石にこれは手を抜きすぎですね。実力を見せすぎてはいけないという方針なのは分かりますが、悪目立ちします。他の2人のテストは筆記は合格ラインを超えていましたよ。ランバートさんは魔法理論が苦手のようですね。貴族なだけあって社会情勢に関する問題にはしっかりと答えられているようです。アリスさんも丁寧に勉強しているのがよく分かります。社会情勢には疎いようですが、問題ありません。社会情勢を知っていなければならいのは貴族と国に仕える人くらいですから。」


 ランバートとアリスに成績を手渡して、よかったところをフォローする。


 「問題は実技でしたね。一度に出せる火力を大事にしているこの学園ではこの成績では合格にならないのでしょう。特にアリスさんは魔力量が少なめです。しかし、先程の魔法を見るに制御はとても上手だとルツィは評価していました。私は魔法について詳しくありませんが、ルツィが評価するなら本物だと思います。ランバートさんは支援魔法との相性がいいのですね。この学園では男性に支援を求めません。ですが、それはこの学園、国での価値観です。冒険者として国境を超えて活動するようになれば、全く気になりません。その才を大事にしてください。」


 「おいおい、なんか教師みたいなことやってね?すげーな。」

 「グレンさんの仕事っすよね?」


 リラの言葉にグレンが賞賛をするが、それは彼の仕事である。


 「さて、2人は魔物を倒しましたか。それとも、付与も素材もジゼルさんのお下がりですか?」


 リラはにっこり笑っているが、目が笑っていない。


 「いや、俺たちも倒した。お膳立てじゃねぇが色々教わっちまったが。付与も練習してできるようにした。」


 ランバートが気圧されながらもそう言い、アリスは小さく頷いた。


 「そうですか。ならいいです。付与がまともにできるような練習となると、かなり倒しましたね。いくら、迷宮から出てきてしまうような表層の弱い魔物とはいえ、先入観に囚われずに倒せたなら及第点でしょう。」


 リラは静かにそう言った。


 「あ、あの、質問してもいい、ですか?」


 「えぇ。」


 「さっきから言ってる迷宮ってのはなんだ?」


 ランバートはリラに質問した。


 「迷宮とは魔物が生み出される場所です。現在、討伐されているのは迷宮から溢れ出てきた表層の魔物です。そして、迷宮にはたくさんの魔物と素材があります。迷宮は地下に向かって広がっており、深い層ほど強い魔物がいて、最下層までいくと攻略が認められます。迷宮にはそれぞれ特徴があり、ここの近くにある迷宮は魔法による大火力によって倒されるという特徴が見られます。そして、それらを攻略すると強さが一段階上がるんです。まぁ、迷宮を攻略すること自体がトレーニングで、最後の魔法陣でそれを形にする、というのが正しいと思います。正体はまだ掴めていませんが、魔物を生み出す根源ですので、なんらかの意志が存在すると考えています。」


 「で、では、ジゼルさんはそのとても強い魔物がたくさんいる迷宮をひとつ攻略している、ということですか?」


 アリスが恐る恐る質問した。


 「そうですね。彼女が攻略したのがどこだかは知りませんけど、迷宮を攻略した人とそうでない人には強さに大きな隔たりがあります。彼女はこちら側の人間、ということですね。」


 「王国はそれを知っているのか?」


 「知りませんね。私たちもわざわざ言いませんし、そもそも迷宮に近づくほど魔物の遭遇率は上がります。そこまで近づけないんですよ。今の王国兵士では弱すぎて。あなた方が魔物を倒したように、実際に弱い魔物を倒す方法はたくさんあります。正面からなんて馬鹿らしいでしょう。なのに、それしかしない。だからこそ、弱い魔物にも死者をださねば勝てないのです。そんな彼らが迷宮の存在を知ったとして、信じますか。仮に信じたとしても確かめられないでしょう。そして、これらの常識が蔓延る世界では魔物に挑む者なんて少数です。これが魔物を倒せないカラクリです。」


 リラは丁寧に説明して、ふっと溜息をついてからこう言った。


 「…グレン、ジーク、なにしているんですか?」


 「いや、付与の内容と常時発動についてだな、意外と難しいことじゃないんだって思ったら、もっと聞きたくなってしまった。意識するためにわざわざこんな付与を施すとは。これで寝てる時までとは思わなかったぜ。」


 「俺もショックを受けたっす。まさか、迷宮を単独攻略しろなんて遺言を残すなんてどんな育て親っすか。それでここまで社会との交流なしって、常識がぶっ飛んでるっすよ。ジゼルちゃんの授業内容、常識の勉強の方がいいんじゃないっすか?」


 グレンは興奮しながら、ジークは笑いながらジゼルの周りで屯っている。


 「やっぱよ、俺らも学べることありすぎるぜ。俺らとマジの戦闘やってみね?パーティと1人ならなんとか勝てるかも心ねぇが、個人の力じゃどうなるかわかんねぇ。殺す気なら話は変わるが、訓練のつもりならかなりいい勝負になると思うんだ。なんなら、こっちの2人も限界まで追い込む戦闘訓練でも組めばいいだろ。頭使えば既に低層の魔物は倒せんだ。魔物を倒したって訓練にはならねぇだろ?」


 グレンはそう説明した。


 「それはその通りですね。学園からアレをたくさん借りましょう。魔物も狩れるなら以降は自分たちで付与してもいいですし。それなら安心して限界を試せますし。」


 「改造は必要だぞ?痛みは消す必要ねぇ。…ルツィ。」


 「いくら天才魔法使いな私でも痛いのは嫌なんですよぉ。嫌ですよぉ。…でも、天才だからできちゃいますけど。」


 「…さすがだな、ルツィ。ってことで明日からはキツイだろうが、みっちり扱いてやる。楽しみにしてろ。」


 グレンは大笑いしながら教室を出た。


 「今日はオリエンテーションだけだったので解散っす。俺も対策を考えよっと。」


 「そんな適当に…。明日も楽しみにしてますね。」


 そう言って冒険者パーティ"ウォッカ"は全員が教室を後にした。

今回のタイトルはアメリカの哲学者ラルフ=ウォルドー=エマーソンの言葉。


"What is the weed? A plant whose virtues have not been discovered."

日本語訳「雑草とはなにか。まだ価値が発見されていない植物である。」


I 組の生徒はまだ価値を見出されていない生徒なのです。

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スピンオフ短篇


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ある日ジェラルドは何気なく尋ねた…
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