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0-3 学校

"Everyone has talent, but ability takes hard work."

 魔女が死んでから5年の月日が過ぎた。


 15歳になったジゼルは迷宮を踏破した。


 その迷宮は100階層にも及んだ。


 初めは日帰りで攻略していたものの、ついに1日では辿り着けない深さまで進んでからは、そこで暮らしながら攻略するようになっていた。


 自分が安全に攻略できる階層まで戻って、魔女の残したものから結界術を学んで、魔物が闊歩する迷宮で睡眠をとった。


 食料も魔物を狩って食べた。

 本来、毒となる魔物も処理をすれば安全に食べられることがわかった。意外にも、魔物の栄養価は高かったようである。


 水は植物から摂った。

 薬草の知識は魔女から嫌というほど教わっていた。


 迷宮は、自然物である。

 安全で平坦な道など存在しないが、山暮らしのジゼルからしたら、いつもよりちょっと歩きにくいだけだった。


 怪我をすれば自ら傷口を焼き、縫い、薬草を煎じた。

 体には勲章ともいえる傷が残されていた。


 頬は煤けて、引き締まった筋肉に生々しい傷痕。

 千切れたように短い髪。

 ボロボロの衣服に何度も作り直した綺麗な武器。

 耳飾りに腕輪と指輪。


 一般的な女性とはかけ離れた姿。

 しかし、何故か人を魅了する雰囲気が醸し出される。


 Gisele Lemonnier(ジゼル=ルモニエ)、1人の少女は迷宮を踏破した。


 100階層にある大きな扉を開けると、そこが迷宮最後の部屋であることが不思議とわかった。


 大恩ある魔女の気配がした。


 数年ぶりに感じるその気配は心地よくて、ジゼルは力を抜いた。


 ジゼルが無意識的に魔法陣の上に立つと、魔法陣が光り、起動した。

 魔法陣が起動すると、ジゼルの中にある何かが整理されていくように感じた。

 ジゼルの中に溜まった経験が力が形ある何かに変わろうとしていた。


 暫くして魔法陣の光は消え、魔法は消えた。


 ジゼルの眉間に3つ目の目が開き、目を閉じるとそれは消えた。

 しかし、3つ目の目が捉えた世界は変わらず知覚している。


 部屋を進みドアを開けると、研究室のようなものがあった。

 研究内容を理解できたわけではないが、ジゼルは少し落ち着いた。


 気づくと眠ってしまっていたようで、どのくらいの時が過ぎたのか、目が覚めた。

 ジゼルは周りにある手記を読んだ。


 100階層のこの部屋は人工物らしいと。

 初めて踏破した人間が創り、さらに経験を能力へ変換できるような魔法陣を取り付けたらしいと。

 最後まで踏破するために鍛えた注意深さによって知覚を大幅に広げるような能力がつく可能性が高いと。

 似たような迷宮が世界には少なくとも9つあると。


 ジゼルを育てた魔女はその9つを踏破しているようであった。


 魔女は何度もここへやってきているようであった。


 ジゼルはひと通り部屋を見てまわると、ベッドの骨組みがある部屋で魔物の毛皮を利用して眠った。


 暫くして、ジゼルは英気を養えたとして迷宮を後にした。


 帰り道は得た能力もあって楽に進むことができた。

 段々と弱くなっていくこともあって、苦労は少なかった。


 何度か休憩をとりながら迷宮の外へたどり着くと、数年ぶりに家に帰った。


 (真ん中の目を開けると最大限見える、それを消しても8割方見える、意図的に閉じると見えなくなる…。)


 ジゼルは迷宮の帰り道で新しく得た能力の確認を行っていた。


 自分の手札を理解していないと勝てるものも勝てない、そう教えられていた。


 さらに、切り札は伏せるもの、とされていたため、確認が終わってからは封印している。


 ジゼルは、再び魔女の遺言を読む。


 (迷宮を攻略し終わったら好きにすること…)


 ジゼルは悩んでいた。

 好きにするとは何をすることなのか、なにをすべきなのかわからなかった。


 それから、迷宮の奥深く、100階層で能力を使わずに鍛え続けた。


 切り札を、実力をいかに見せずに倒すのか、に主眼を置いて、たくさんの倒し方を考え続けた。


 基本的に人工で作られた安全地帯では過ごさず、寝る時すら危険地帯にいた。

 たまに迷宮の外に出て調味料をとりながら、生活をしていた。


 それから半年ほどで調味料が尽きた。


 (好きにすること…)


 自由になってから半年、考え続けていたジゼルは、ようやく方針を決めた。


 (調味料…。あとは、他の迷宮。)


 ジゼルは魔女が迷宮をたくさん踏破したなら、自分もそれをしようと考えた。


 (強くなければ生き方も死に方も選べない。)


 魔女の教えをもとに更に強くなろうと考えた。



 ジゼルは15歳にして、人里に下りたのだった。


 ジゼルは前に魔女と訪れたときと同じようにフードで顔を隠して山から来たように思われないようなルートで里に下りた。


 しかし、その様相は以前と異なっていた。


 「少年、その素材と交換したいって?」


 ジゼルはその問いに頷いた。


 魔女と来たときと同じところに素材を持っていった先で問われた。


 「カードは?」


 ジゼルは首をかしけげる。


 "カード"なんて聞いたことがない単語だ。


 「じゃぁ、ダメだな。資格がない上、身元が分からない奴の素材なんか買えないね。」


 手でシッシと追い払われる。


 理解できない言葉の中で、取引できないことだけは理解できた。


 (どうしたら…。)


 実際のところ、ジゼルは取引などしなくても生きていくことはできる。

 迷宮踏破のために迷宮に篭っていた数年間は調味料などなかったし、それでも生きてこられたのだから。


 しかし、そうすると決めてしまったために、ジゼルは困惑してしまっていた。

 ただでさえ、人里という慣れない場所にいるのだ。

 ジゼルはあまりの魔境ぶりに迷宮の方がマシだとすら思った。


 「餓鬼、そこ邪魔なんだよ、退け。」


 大柄の男がジゼルに向かってそう言った。

 ジゼルは当然男のことに気付いていたが、邪魔だと思われていることは分からなかったため避けるのが遅れた。


 「おっさん、この薄汚ねぇ餓鬼なんだ?」


 大柄の男は袋をカウンターに置きながらその人に聞いた。


 「カードもないのに素材を交換しようとしたんだよ。身元も保証されてない奴のなんて、どこの盗品かわかったもんじゃない。」


 困ったように、ジゼルを睨みながらそう言った。


 「カード持ってねぇとは、どんだけ時代遅れなんだ?数年前には必須になって餓鬼どもなら王都かどこかで学園に通って取ってる頃だろ?」


 大柄の男は本当に驚いているようだった。

 カウンターで男の持ってきた素材を確認しながら話を続ける。


 ジゼルは2人の話を聞くが、所々分からないことが多い。


 「身元も証明できない子供なら通報するのが当然だろうが、面倒でな。」


 「だな。大事になるのもマズい。ったく、無責任な親だぜ。」


 ジゼルは困惑しながらもそこで呆然とするしかなかった。


 「なら、次のアレで王都送りにすりゃいいんじゃねぇか?明日だろう。」


 「確かに、それがいいだろうな。」


 ジゼルは魔女以外の人間がしている会話が新鮮で興味深かった。


 「少年、明日来る馬車で王都へ行きな。金はいらない。そこでどこかの学校を卒業すれば取引ができるようになる。学校つっても無料のところは少ねぇが、誰でも受け入れてるところはある。ってことだ、話をつけてやるから今日は帰んな。んで、明日の早朝、ここにもう一度来な。」


 ジゼルは全てを理解したわけじゃなかったが、とりあえず頷いた。


 「わかった。明日の朝にまた来る。」


 ジゼルはその場所を去り、山を登って魔女の家に着いた。


 (学校…ってなんだろ。)

"Everyone has talent, but ability takes hard work."

「誰もが才能を持っている。しかし、能力を得るには努力が必要だ。」

マイケル・ジョーダン

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