3-4 神秘
Effort is always rewarded.
If there is unrewarded effort, then it cannot yet be called effort.
改訂前「3-8 神秘」が改訂の繰り上げに伴ってナンバリング変更されています
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学園対抗戦の行われている会場の観戦施設、男は挙動不審に周囲を見回していた。
ゴウゥゥゥ
大きな爆発音を聞いて森の方を振り向いた。
「!? あの人、何やってんだよ……。」
急いで彼は駆け出した。
現在は学園対抗戦の魔法部門の的当ての予選兼昼休み中……。
魔法の爆発音が鳴っても、誰も気にしない。
まして、誰も近づかない魔物の蔓延る森になんて、興味のかけらもない。
♦︎♢♦︎
「はぁ、はぁ……、なんか、すごい音しなかったか? うわっ。」
ジェラルドは空を見て、呟いていると、彼が捕まっていた土の出っ張りが消えた。
彼はフッと落下し、
「土魔法ステッピングストーン 変化!!」
ランバートの必死の魔法でジェラルドは落下を食い止め、ランバート自身も手を離して、そこに着地。
アリスも同様に着地して、「維持」と詠唱をした上で、それを繰り返した。
「そんな暇があるならさっさと詠唱しろよ。」
3人は落とされた穴をよじ登っている。
魔物を何匹か倒した後で、それらの攻撃を防ぎながら、地道に登っているが、まだ中腹にも至っていない。
「障壁……バリア」
ランバートは下からの魔物の魔法攻撃に障壁で対応する。
この土穴の面全体には、彼らの師匠によって魔法がかかりにくいような仕掛けがなされている。
普段なら、数分維持されるような魔法も数秒で解けてしまう。
故に、彼らは常に詠唱して魔法を維持しながら、登っているのである。
「まあ、確かにはじめよりは魔法の持続時間もマシになってるし……登るペースも上がってるけどよ。」
♦︎♢♦︎
白髪の男へ、ジゼルを加えたウォッカによる波状攻撃がもう3分以上も続いていた。
前衛のジゼルやリラ、グレンはすでに何回かダメージを負っている。
(でも、もうそろそろ、それも限界だよ。あの装置にだってダメージの限界はあるんだ。)
ルツィは泣きながら、距離をとりつつ、回復魔法の準備をしていた。
訓練で使用していた、身代わり人形の実践版……魔石を改造して造った強化版にダメージを転送している。その魔石は手元にあるものと、拠点にあるもので、合計3つ。部分的に破壊されていっており、既に1つは完全に大破している。
「ん゛〜〜♡そこらの魔物より気持ちいぃ〜 いい魔法してるねぇ。殴りも悪くない。身がちぎれる感覚……」
恍惚……、頬が上気して白髪の男が呟く最中にも、攻撃が加えられている。
「でも……そろそろ限界かなぁ。寂しいなぁ。」
走って攻撃を仕掛けるリラを指差すと、左腕が吹っ飛んだ。
先程までとは異なり、その腕からは大量の血が吹き出していて。
「殺しちゃうのは、もったいないかな……」
グレンを指差すと、グレンは魔法による竜巻によって、ふっ飛んでいった。
歯も何本か抜けているようにみえる。
「でもなぁ。追い詰めたらもっといい魔法、くれるかなぁ♡」
眉を寄せて、空いた口からはよだれが垂れる。
そんなとき、男の真後ろから気配を完全に消したジゼルが切り掛かった。
「君は……本当に気配を消すのが上手いね。どうしてかなぁ」
そのまま真横に吹っ飛ばされて、肋骨を2本負傷した。
尚、支援のルツィを除くと、ジゼルがもっとも負傷が少ない。
それでも、既に、ダメージ転送は不可能になっている。
「うーーーーん、やってみようかぁ」
その瞬間、大気中に漂う魔力が男を中心に渦巻いていく。
その異様な状況に全員が臨戦体制になる。
(ナニコレナニコレ…気持ち悪い。)
男から十分に離れたルツィでさえも、その感覚を得ていた。
しばらくして、そこら中で小さな魔法が乱発していく。
「嘘、だろ……」
属性も、種類も全く関係のない魔法が、そこら中で乱発してく。
無作為に発生するそれは、もはや広域災害。
全員が、それに対して対処するものの、大して時間のたたないうちに、全員が倒れ伏した。
「あーあ。もう終わりか。」
つまらなそうな声がそこに残された。
♦️♢♦︎
「なんだ……これは。」
やっと穴から脱出したランバートとアリス、そしてジェラルドが呆然とした。
木々が倒され、近くの机は全壊している。
「おいおい……、嘘だろ。」
目の先には、倒れた師匠たち。
ジゼル
グレン
ジーク
リラ
「へっ」
アリスの目は潤み、かたまってしまっていた。
負け知らずの、圧倒的に強い師匠たちがボロボロの姿で倒れている。
ガサガサという草を踏み鳴らす音がして、そちらを見ると、近づいてくる人影があった。
もしかしたら……と、そんな期待を込めて目を向ける。
人影が近づいてその姿が明らかになっていくうちに、その希望は絶望へと変わっていく。
その男は、片手にルツィを乱雑に持っていた。
「ルツィ…さん」
声にならない声をあげたアリスは、腰を抜かした。
ランバートは腰を抜かしていないまでも、動けずにいる。
「………あ、あなたは……、」
ジェラルドは茫然自失ながらも、何か覚えがあるようで、つぶやいている。
「ああああああああああっ!」
ガサガサガサと猛スピードで叫びながら走ってきている人影が急ブレーキをかけて、急に止まるから、砂埃がたつ。
「なにやってるのっ!? 」
開口一番に長髪の男に叫ぶと、その長髪の男が反応した。
「別に。」
「『別に。』じゃないでしょっ!この周りの人たちはホーブがやったんでしょ?」
小柄だから、大きな肉食動物にキャンキャン吠えてるチワワのようだ。くるくると表情を変えながら、モノマネを交えて、伝える姿はどこか可愛らしさを感じさせる。
「やった。」
「『やった。』じゃないでしょっ!」
デジャヴを感じさせるやり取りだ。
「もうっ! ちゃんと治してあげないとご飯あげないよっ!!」
「やだ。困る。」
「そう、困るでしょ。だったら早く治して。」
「わかった。」
ため息をついて数秒、倒れている人らの体から傷がすぅっと消えていく。
(……嘘。こんな綺麗な魔法、初めて……。)
口をぽかんと開けたアリスは、つぅっと無意識にも涙を流していた。
「治した。」
「よし。なら、この鍋を温め直すから、火を用意して。」
よく見れば、短髪の彼は、両手で大鍋を持っている。
こくこくと頷いた白髪の男は先ほどとは全く印象が違う。
「お、おい、お前、知ってるのか?」
短髪の男の乱入により、緊張が緩み、金縛りが解けたようで、ランバートが隣のジェラルドに聞く。
「あ、ああ。あの、人。何度かしか見たことがないが……、魔術師団長のホーバードどのと、その補佐のスワインどのだ。」
彼の説明は続く。
「魔物を1人で大量討伐する伝説をもつ、最強の魔術師にして、多くの魔術師の目標……。俺も、この人の戦い方をずっと真似していた。」
「え……、お前の戦闘法の起源ってこの人なの?」
「ああ。城で一番強いといわれてたのはホーバードどの、だからな。」
ランバートはジェラルドの答えに怪訝に眉をひそめる。
「いやいや、師匠たちを倒して、その上で治してしまう人、そんな強い人が、あんな乱雑な戦い方をするわけがないだろ」
「いや、意外と、そうなのかもしれないぞ」
「グレンさん」
やっと立ち上がったらしいグレンは歩み寄って続けた。
「俺たちとの戦闘中、そういった戦い方をしていたからな」
「じゃあ、あの戦い方は強いと……」
ジェラルドは迷い猫のような目でじっとグレンを見つめる
「残念だが、それはない。あれは、絶対的な実力者のみに許された傲慢な戦闘だ」
「あれを真似て皆が戦っているんなら、ああなるのも致し方ないっつぅか、魔物討伐の失敗の原因、大方彼にあるっていっても過言じゃないんじゃないっすか」
続いて、ジェラルドも起き出した
「だったら、なんでそんな戦い方……」
「要は、遊んでいるんだ。性癖、といったほうが正しいかもな、あれは」
グレンを始めとして、みな気づいていた。
手を抜かれた上で、生かされていたこと。
攻撃をさせて、その攻撃を受けることを楽しんでいたこと。
「……多分、それだけじゃない気がするっすけどね」
「もーー、泣かないでくださいよぉ、私たちみんな無事ですから」
リラはいつの間にか起きて、アリスを宥めていた。
「あの戦い方をするだけあって、相当な腕前みたいですね。ルツィさんも相当な腕前ですけど、これはそれ以上です」
同じく起き上がっていたジゼルは徐に頬に触れてハッと驚き、魔法で水球をつくってハッとした。
「傷が……」
水鏡で見た自分の顔にあったはずの古傷が消えていた
ルツィの治癒では古傷が回復することはなかった。
「お前……」
それを見たジェラルドは思わず惚けた。
そこにいたのは絶世の美少年……
元々、顔立ちは良かったが、古傷の修復により、色に加えて、つっぱっていた皮膚が修復されて、肌艶も良くなった。
「古傷まで治せるんですね……ってことは」
それを見たリラは服の中を確認しだした。
「確かに、消えてます」
仲間を見て、目をぱちくりした。
「やっぱり、俺どころか、ルツィが使っている魔法とも格が違うみたいっすね」
「というか、ルツィはまだ起きないのか!?」
グレンの言葉にそういえばと思い出す。
あのうるさい奴が騒いでいない。
あまりにスムーズに話が進むもんだから忘れていた
「ルツィさん!?」
「ええええええっ! おい、ひとり起きてないじゃんっ! ホーくんっ!」
会話を無視して食事の準備していた若い男、スワインが騒ぎを聞いて叫ぶ
「……ちゃんと治した」
現れたホーバードは子供が大人に言い訳するみたいに不貞腐れていった
「治ってないじゃん」
「あれは、好きで寝てるだけ。関係ない」
「え、そうなの?」
その会話を聞いたグレンたちはジーッとルツィを見る。
寝転がっているルツィが心なしか、冷や汗をかいているように見える。
じぃーーーーーーーー
………
ジィーーーーーーーー
………
グレンたちは互いに目で会話をして、リラが前へ進む
「せぇーーーーーーーーのっ」
静かに武器を振り上げて一気に振り下ろした
リラの武器、一応、刃のついていない方だったが、相当な重量である。
刃がついているかどうかなどおまけみたいなものだ。
だって鈍器だもの
その武器が落ちる前に、ルツィは転がって避けた。
「なななななな、何するのんっ! このルツィたんが 倒れているというのにっ! 」
「まあ 倒れてたな」
「倒れてましたね」
「倒れてたっすね」
「倒れてた」
上から、グレン、リラ、ジーク、ジゼルである。
「いつまでも狸寝入りしてっからだろ」
「何言ってるのさ 後衛で支援のこのルツィたんが 怪我するなんて、 まぁまぁないことなんだから 休ませなさいよっ」
彼女のいうことは事実である
彼女が万一にも倒れるということは、パーティーの死に直結する。
ここまで生き延びているパーティーということは、つまりルツィの負傷はそうない。
「ルツィたんをもっと大事にしてぇぇぇーーーーー」
ルツィの扱いはいつも通りである。
「ジーク、さっきのはどういうことだ?」
「さっきってなんすか?」
グレンの問いにジークは首を傾げた。
「あの男の戦い方の話だ。性癖以外に理由があると言っていただろう」
「ああ。でも、確かなことじゃないっすよ。ただの勘っす」
Effort is always rewarded.
If there is unrewarded effort, then it cannot yet be called effort.
努力は必ず報われる。
もし報われない努力があるのならば、それはまだ努力と呼べない。
- 王貞治 -
【新キャラ】
Swain スワイン 由来: 若さ・元気
Hobard ホーバード 由来: 高い・光り輝く
【余談】
最近、小説が投稿日ギリギリになっています。やばいです。
あと、3章長くなりすぎてる。他の章と比べてもってのもあるし、あと、予定よりも長いくせに、まだ終わらない。
軽い気持ちで書き始めたのになぁ。
……というか、新キャラ出すつもりなかったのにな。まあ、思いついてしまったので仕方がない。
2023/07/04
3章の話数の多さには執筆速度の低下による各話の文字数(内容量)低下がありました。
従って、改訂に伴い、これらを一括整理しました。
こちらの話も分量少なめなので、更新日になった際は次の話と合併することになると思います。
[New] 2023/07/20
新部分追加
「グレン」が「グエル」になっていることに気づきショックを受ける
※某男前主人公強奪男とは名前が違うのです