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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イキリスト・オンライン〜イキれ! この大地と共に!〜

作者: 竜頭蛇

初めて書くVR MMOです!

短編ですが、よろしくお願いします!


「今回の一位は裏切りイカさんです!!」


イキリ、イキラレル生粋のイキリストたちが集うVR MMO--

イキリストオンライン。

このゲームの男性アバター限定レースイベント『クソ息子--目指せプリティダディ(裏社会のボス)』予選を終えた私--裏切りイカは嘆息していた。


このレースでの私の走っていた先頭集団に私以上にイキれるイキリストがいなかったからだ。


しかし私はこのレースを全くの無駄や価値のないものとは思わない。

なぜならまだこのレースは()()()()()()()からだ。


それというのもずっと中盤で維持しているイキリストがまだ走っているゆえだ。

彼ーータカメケンコウソウはただ予選通過をしてこのままイキらずに終わるような人間ではない。


そう、この名誉も何もないはずのこの中間集団の中で彼はイキり散らすのだ。


イキリストはイキることを何よりも大切なことだと思っている。

だからこそ生粋のイキリストである私はここでタネも仕掛けも検討がつかないこのイキりを目の奥に焼き付ける必要がある。


イキリは自信と向上心を与えてくれるのだ。

ことさら他の全てを上回った状態でしか可能ではない裏切りスタイルのイキりは、私に向上心以上の圧倒的達成感による多幸感まで呼び起こす。


タカメケンコウソウ、彼がもし裏切りスタイルのイキりを繰り出すというのならば、私にとってそれは至上の喜びであり、新たなイキリのインスピレーションだ。


おおよそこのイキリをこの両目に抑えることは、無限の可能性を内包する私の人生の貴重な時間を割くだけの価値がある。


それに普段からタカメケンコウソウのイキリを目に収めている私でもこのイキリは一味違うという予感させてやまない何かがあるのだ。

お互いのイキリをぶつけあい優劣を競う私たちイキリストの中でも、誰にも思いつかないイキリを思いつく異端の彼には『こいつはできる!』と思わせるものが確かに存在する。


「何ぃ!」


そしてタカメケンコウソウは私のその期待に答えるように想像だにしない行動をゴール直前になって繰り出した。

彼は止まったのだ。

この予選通過が決定するこの局面で。


信じられない光景だ。

なんの意味があるというのか私にはまるでわからない。

彼の目の前のゴールのカウンターでは、予選通過者の枠が刻一刻と減っていく。


そして、タカメケンコウソウは残り通過者人数が1人になった時点で、背後を振り向いた。

彼のつぶらな瞳は今まさにゴール前にたどり着くだろう参加者を見据える。

私の脳裏に電撃が走った。


タカメケンコウソウ、奴は予選通過の最後に間に合うはずだった人を煽り散らして、イキろうとしている!

なんてイキリ方だろうか。

もはや悪魔的発想だ。

最小の労力で人の尊厳を弄ぶレベルのインパクトのあるイキリをする。


あの脳みそまで筋肉で構築されていそうなプロレスラーのような図体をしておいて、なんという冴え切った策略を思いつくというのか。

誰にも予想はできまい。


ゴール前の参加者などあまりのことにもはやイキるのも忘れて、「ぶち殺してやるよおおおお! くそボケがあああぁ!」素を晒してキレ散らかしている。


「これは決まっていたことだ。俺は確定された未来に行かせてもらう。わずか1の差で通過権を手に入れられなかったこの事実悔しかろおお!」


「この肉ダルマがよお、PK集団にPKされちまええ」


「そんな雑な伏線を張ったとしても俺にはきかん!」


タカメケンコウソウはキッパリとそういいおくと、迷わずにゴール線の向こう側に飛び込んでいく。


「なんというイキリだ!」「まるでイキりのブロードウェイに現れたミューズだ!」「俺にはわかる、あいつホンモノだ」


レースの終わりのテロップが流れると、口々に皆、あのイキりを称賛し始めた。


低い声の響きから想像できないような強い言葉を使ったイキリ、全く普段の私の前で見せている無垢の権化のような姿からは想像がつかない。

普段は近い間柄だがやはり彼こそ、イキリにおいて私に並び立つ存在だ。


ー|ー|ー


最近は集団で名が知れたイキリストをPKする集団ーー絶対にイキリストを殲滅し隊という集団が現れているため、運営側が疲弊したイキリストを一箇所にとどめておくわけにはいかず、予選が終わると私たち参加者はすぐにPK禁止エリアである始まりの街を強制送還された。

PK集団はイキリストにちょっかいをかける連中なので気に食わないが、わざわざ先程の会場にまた出向いて行くほど特別な感情は持っていない。


奴らを相手にするよりはここで予選で手に入れたアイテムを整理した方がマシだ。

私が黙々とアイテムを選別していると大きな影が近づいてきた。

おそらくタカメケンコウソウだろう。


「なあ、イカ今暇か?」


「アイテム整理している」


「じゃあダメか……」


「いやダメとは言っていない。私は暇してアイテム整理やってるだけだからな」


「じゃあいいな。まあ許可が出なくてもあたし、…じゃなくて俺に取ってここ最近で一番大事なことだからまあイカが断ってもゴリ押しで相談する体に持ち込んでたけどね」


「はあ、そんなことだと思ったよ」


実力を認めているタカメケンコウソウからの相談な上、二ヶ月ぶりということで気分は満更でもなかったが、それが気づかれることは名に裏切りと刻まれ、人の裏を書くことをポリシーにしている私の信条とは相反するので上部だけは「しょがないなあ」と言った気怠げな感じで返事を返す。


「で早速だけど、その相談したいことなんだけど、実は明日気になる人に二ヶ月ぶりに会う機会があるんだよ」


「ああ、なるほど。もうなんかわかったぞ」


「え、じゃあなに?」


「……多分明日その気になる人との距離をどうすればいいのかって感じだな?」


「そうそう! そんな感じ! 察し良すぎ、エスパーじゃん」


「ハハァン! 私みたいな大人に任せればホモの1人や2人の心を察することなんてお茶のこさいさいよお!」


「さすが福祉の大学に通う二十歳!」


私の実年齢は本当は二十歳じゃなくて十七歳だが、前イキるために嘘をついてしまったのでそれ以来私はこいつの前ではサバよみを続けている。

タカメケンコウソウが私以下とわかれば、バラしてもいいが、5ちゃんの賢者たちに教えられたとか何かでこいつは異様に情報漏洩には硬いのでなかなかその日は遠そうだ。


「でその気になる人の外見はどんな感じなの?」


「背が高くて、胸がデカくて、ケツがデカくて、色白」


人柄を想像するために外見を尋ねると、彼と肌の色以外全く同じような見た目のガチムチな男の特徴が上がった。

概ねタカメケンコウソウと同じ根明そうな性格をしていると言ったところだろう。


「なるほど。相手の感じはわかったわ。距離近づけるなら自分がやられて嬉しいことしてみるのが一番いいと思うぞ」


「たとえば?」


「うーん、たとえばねぇ。ハグとか?」


「ハグ! いいね。明日早速アッタクしてみるか。名付けて見敵必殺ハグ作戦」


「気になる相手なのに敵なのかよ」


「じゃあ見友必殺かな」



ー|ー|ー



タカメケンコウソウと話した翌朝私は通学路をダッシュしていた。

これは特別な事情があってというわけではない。

私はいつも登校の時には走って間に合うギリギリの時間に登校するからだ。


このことに関して、罪悪感は一ミリも湧かない。

私は常々からイキリに関わることはできるだけ効率化したいとおもっており、登校は最たるものだったからだ。

ただこのゆるい刻限までに間に合えばいいなど、イキリのイの字も存在できないほどのイキリガイのなさだ。

イキリはギリギリの制限と見る人間がいて初めて成り立つのだ。


二つともなければ、それは私の人生においてただの無駄だ。

どうせ誰も私の登校を見ても驚きもしないので、整備された道路から飛び出て木々が生い茂る森を走っていく。


ここを突き抜けて学校の柵を森の木を踏み台にして乗り越えれば、ちょうどHR5分前に学校に到着。


イキリをしていたのならば、道路沿いの通学路を進むことになり、この時間ではつけないが、やはりイキリたい。


そんなことを考えながら正面玄関に向かうと向かい側から、小柄な女生徒が歩いてくるのが見えた。

大きな目は真っ直ぐこちらを見据え、彼女の背後で揺れるポニーテイルはまるで彼女から溢れ出る快活な雰囲気を具現化したように見える。

私とはまるで対極にいるような陽気が溢れ出ているような少女。

私に用があるように見えるが、私とはまるで接点が存在しないはずだ。

HRに間に合うようにそそくさと横を通り過ぎようかと思うと「浦木りかさんだよね?」と女生徒が尋ねてきた。


「そうだけどーー」


音源は目の前にいる人間以外にはいない。

「なぜ私の名前を?」という疑問とともに、相手の主導権を握られぬために驚きを隠さなくてはという気持ちがもたげる。


「見友必殺! とう!」


返事をするや否やいきなりこちらに向けて、女生徒は抱きついてきた。

あまりのことに構える間もなく、あわや女生徒は私の胸に着弾した。

痛みが走るかと思ったが、衝撃が抑えらていたせいか、むしろ逆に相手の柔らかさが伝わってくる。

こいつは俗に言うハグというやつだ。

昨日会話したガチムチの男の言葉がフラッシュバックする。


「あたし、|十和田育<とわだいく>、よろしく!」


女生徒ーー十和田は今のハグしている状況に関しては一切言及せずに自己紹介を初め、私はいきなりすぎるその行動にまたもやタカメケンコウソウの姿がフラッシュバックする。

おそらく十和田の見た目が正反対だというのにこんなことを思うのは、彼女の行動と私の助言が一致するのもあるだろう。

だが目の前の小動物のような少女とはあまりにも接点がなさすぎる。

おそらくたまたまの一致だろう。


それよりは今はハグしてきた十和田への対応がさきだ。

私はいつも主導権を自分が握っていなければ落ち着かない性分なのだ。

この状況は好ましくない。

何か相手の裏をかくような行動が必要だ。


「よろしく、十和田さん。もう言わなくてもわかってると思うけど私は浦木りか」


「……!」


彼女の行動に突っ込まずにあえて自己紹介を行い、さらにこちらからもハグを仕返した。

流石にとっぴな行動をする彼女もこれは想像していなかっただろう。

私の胸に思い切りめりん込んでいる彼女がみじろぎしたのが何よりもの証拠だ。


「最高だよ! りかちゃん! 同じ気持ちだなんて!」




ー|ー|ー



あのあと私は始業1分前だと気づきダッシュして教室に向かい、なんとかHRに間に合った。

VRで鍛え込んだ身のこなしに最近やっと現実の体が追いつき立体走法ができるようになった故の賜物だ。


学校が終わってイキリストオンラインにログインしてから校庭であった女生徒、タカメケンコウソウと似ても似つかぬ姿だがやっぱり奴に似ているような気がしてきた。

だがあんな小動物みたいな見た目をした子が彼のガチムチのプロレスラーのようなアバターは絶対に作らない気がする。


「よ、昨日ぶり! ああ、今日はいい日だ! 天気が俺を祝福しているよ!」


「えらく機嫌いいね。ハグ作戦成功したの」


「成功も成功! 大成功よ! ハグし返されて両思い確定。朝のことなのに、あの豊満な胸に包まれた時のことを今になっても思い出すわ。ムフフ、幸せ♡」


「……!」


いかん、あの小柄美少女の行動とここにいるプロレスラーの報告が一致している。


もしかして、あの子このタカメケンコウソウの中身だったりして。

いやだがあまりにも一致が多すぎる。

辻褄が合いすぎるのだ。

私の経験上、これは私の脳みそが辻褄が合うように仕向けている可能性が高い。たまに有名人が最近自分がハマっていることに関して言及しているのを見て、「私認知されてる!」とかなるあれだ。

一旦冷静にならねば、私は常に裏をかくイキリスト裏切りイカだ。

自分の脳みそでさえ、主導権を握られることを私は許さん。


「ああ、あの人の胸いい匂いがした。それにあの凛とした中に可愛らしさのある少年じみた声も最高だった。抱きしめる手の力加減からこっちを気遣う優しさが溢れてたのもよかった……」


おそらく私のことではないとわかっているが、褒められたように感じて内心でちょっと嬉しくなってしまっている自分がいるのが恥ずかしい。

さっき半ば確信してしまったことと友人がいないため褒められる機会が極端に少ないのが原因だろう。


頬が熱い。


なんだかタカメに見られたら負けの気がするので、彼から見えないように顔を隠す。


学校のあの子ーー十和田とタカメケンコウソウの繋がりがわからないと何度もこんなドキマギした気持ちになるんだろうか。

これは心臓に悪いし、まるで他人に主導権を握られているようで私のプライドがそのことを許せない。

はっきりさせなければ。


「そんなに印象いいんなら次会う時に友達になってくださいって言ってみたらどう?」



あれから1日が立ったが結果はわからなかった。

それというの今日十和田は学校に来なかったのだ。

学年は同じだが、クラスが違うのでなんで休んでるのかはわからないが、タカメケンコウソウもログインしていないので何か繋がりを感じざるを得ない。


学校を休んだり、ログインしないことなど特段別に珍しいことではないというのに、どうしてこうも気になるだろうか。

自分が常になくソワソワしているのを感じる。

どうにもこのままほっとくことができなかった。


現実にいる十和田には周りからしたら見ず知らずの私が干渉できるはずがないので、置いておいてタカメケンコウソウのことについて昨日のことを調べた。

掲示板によるとタカメケンコウソウは昨日周りにワザ○プを利用したイキリをしている時に、乱入してきたPK集団にPKされてしまったらしい。

コメントによるとそれ以降ログインしていないためにPKの件で噛ませにされて、塞ぎ込んでいるのではないかと書いてあった。

あの快活な男に対して、それはないだろうと言いたいが。

もしあの男の中身が傷つきやすい女の子だと考えると、そのことも否とはいえなかった。

十和田と出会ったのは前回が始めてだ。

タカメケンコウソウと似通った快活な少女といった印象以外知らない。

彼女がどんなことを大切にして、どんなことに傷つくのかも一切わからない。

噂を完全に否定はできないのだ。


もしタカメケンコウソウが落ち込んでいるので有れば励ましてあげたい。

ログインさえしてくれればなんとかできる。

なんの根拠もないが私の心はそう強く確信していた。

そのためには不安要因を排除する必要がある。

イキリストを狙う集団をどうにかしなくてはならない。


私にはあいつが必要なのだ。

あいつがいなければイキリストオンラインに来てもろくに会話もなしに終わってしまう。

あいつなしのイキリストオンラインなどありえない。



そのことを自覚するとPK集団に対して沸々とした怒りが湧いてきた。



イキリを侮辱するような行為に、イキリストなら襲撃していいと思っているような傲慢な態度。

私は彼らの全てが気に入らない。



絶対に彼らを殲滅して、私は必ずタカメケンコウソウと再会する。


そのために果たし状で奴等を一網打尽にする準備をしなければ。


ー|ー|ー


果たし状


PK集団の諸君、ごきげんよう。


PKが成功して大変機嫌いいと聞いた。


喜ばしい限りだ。


君たちの喜びに免じて今日午後21時に私が血祭りにしてあげよう。


ちなみにその間君達は私に一度もダメージを負わせることができない。


怯える賢いPKの君には祝福を、イキリたって挑んでくる君には死を与えよう。


好きな人数で午後21時のバランガ沖に来るがいい



ー|ー|ー



行儀の良いことに21時前の5分前にはゾロゾロと果し合いの場所ーーバランガ沖にゾロゾロと人が集まり始めた。


その中でも一際異彩を放っている人間が目に止まった。

あまりに周りから浮いているのだそいつは。

他の奴らと比べてあまりにも特徴がない。

初期アバターの平均顔に一番プレイヤー使用率が高い武器、一番プレイヤー使用率が高い防具。

まるで周りに全力で紛れるために拵えたような外見だ。


見たかぎり他の人間にはこいつ以上に異常性や、何らかの主張や意思を感じさせるような格好をした人間はいない。

おそらくこいつがリーダーと見ていいだろう。


私がイキリ散らすためにはモブを全員半殺しにして行動不能状態にしたところで、このリーダーにメタクソに圧勝しなくてはならない。

このイキリを侮辱する不埒者をPKすれば、少しでもタカメケンコウソウに会える確率が上がるのだ。

私はあの人と共に遊びたい。


そのためにもすぐに私のイキリを始めなければいけない。

すでにこの場にはその準備が整っている。


あとはイキることがどういうことであるのかを身をもって相手側に味わってもらうだけだ。

イキリストオンラインの正しい遊び方を身をもっておしえてやろう。


「私は君達にイキる暇を与えずに完封して見せよう。しっかりとそこで私のイキ様を見ているがいい」



「てめえ! 生きる暇も与えずだとふざけんじゃねえ! こっちの方が人数が多いし、有名なイキリストも1人狩ってんだよ、この頭のいかれたイキリヤロー!」「まあまあ落ち着いてください。彼も意固地なってイキってるだけですので」


「人数が多いのは確かに有利だな。だがすぐに人数を減るのだから何も問題はない。それとーー」


ちょうどこのフィールドの際にいるPK集団に向けて突っ込む。


「ーーお前らはあいつを狩ったんじゃない。ただ邪魔をしただけだ」


こちらが動くとは思っていなかったのか、少し怯んだ様子を見せると「イキるんじゃない! 囲め!」とリーダー格の男が号令を出して周りのにやけ顔の連中が動き出した。

かかった。


「「「ぎゃあああああああ!」」」


左右から近づいたPK集団のモブどもは地面から突き出した土の杭に撃ち抜かれて、HP1の瀕死状態ーー行動不能状態になっていく。


「あれは最難関ダンジョンの一つであるダンジョン『イキリスギの森』にある罠『土茨』だ。近づくな! 近づくと瀕死状態に持っていかれて何もできなくなる。あいつ、たかだかイキるために罠だらけってもっぱらの評判のダンジョンから罠をとってきたのか。こちらの想定を裏切るほどのイキリプリだ……」



リーダー格の男が言った時にはもうすでにPK集団は一気に半数ほど行動不能に落ちている上、犠牲者の近くにいたもののほとんどが、瀕死状態から回復させるために犠牲者に近づいて、その真下に場所を移動する罠の仕様に気づかずに瀕死状態に落ちいている。

PK集団の中で最難関ダンジョン攻略に乗り込んでいる人間はあのリーダーを含めて1人もいないのだろう。

言葉からしてものだけは特定できているのでネットで公開されている最低限の情報は知っているようだが、奴が知っているのはそこまで。

『具体的にどうなるか』伝えられていないため、自分勝手な行動をモブがとって集団が崩壊しかけているのがその証拠だ。

最難関ダンジョンを攻略することができるものがいないことは、この中の誰もイキリストではないと言うこと。

どうやらこの戦い一方的なものになりそうだ。



「大勢の利を維持するために狼狽えるな! 近づかなければそれで良いんだ!」とリーダー格が吠え、周りのモブ達も流石にその言葉に従った。

人は何かの命令に従う時、疑問を持っている時に隙が生じる。

今私の目の前にいるモブはリーダーの命令に対して、疑念が生じて、隙ができていた。

その隙を見逃すような私ではない。


「見ろ! これがこの場において頂点にあるもの(イキリスト)の姿だ!」


私はその隙を利用し、イキルために土茨に近づき、出てくる土の杭を避けながらその場で踊る。


「ふざけるな! 貴様ァァ!」


毛の先も私はふざけていない。

私はむしろ本気以上に本気だ。

なぜならこれを可能にするには、本来避けられないはずのトラップを避けるほどの鋭い反射神経、移動する罠の位置を把握する記憶力、同時に複数のことを多重並列処理する能力、全ての能力がフルに必要だからだ。


正直限界ギリギリだが、さらにイキリストである私はその先をいかねばならない。


「貴様、私が踊っているのに精一杯で攻撃する余地がないと思っているな! その期待、裏切らせてもらう!」


「何いい!?」


「ぎゃあああああ!」


地面から飛び出す土の杭をPK集団のモブの方に飛ばすように、進路を調整して動き、数を殲滅していく。



一応のところ失敗する可能性も十分あり得るので、一度だけダメージを無効にする身代わりの護符というアイテムをつけているが、敵も数も少ないのでこいつの出番はなさそうだ。



「だめだ! こいつはバケモンだ!」「圧倒的すぎる!」「手に負えねえ!」


そう推測を立てるとまさかの事態が起きた。

PK集団のモブが逃げ始めたのだ。

土杭を避けた後に踊りを思わず止めてしまうほど衝撃的なことだ。



「イキってる場で退場する? 貴様らそれでもイキリストオンラインのプレイヤーか! イキられたらイキリかえす、格上がいたとしても噛ませになったとしてもイキる! それを反故にするなど……イキ恥晒しどもがああああ!」


流石の私もこれには怒りを禁じえなかった。



こいつらはイキることの意味を汚したのだ。

イキるとはその場で一番優れているもの、人の目を魅了しているものだけに認められるただ一つの輝かしい宣言なのだ。

自分が一番優れていると思っているものしかいないイキリストプレイヤーがイキられて、逃げるなどということはあってはならない。

イキリストプレイヤーの中でも自他ともにイキリの第一人者と認められているイキリストのこのわたしがイキリを侮辱した人間を許すせるわけがない。


「フン!」


足をかざして、土茨起動させると同時に愛剣「アイアムNo. 1」を取り出し、出てきた杭をフルスイングする。


「「「ぎゃあああああ!」」」


PK集団の逃げようとしたモブどもが、砕けて飛んだ杭の破片の餌食になり、瀕死状態になって倒れていく。

哀れなクソどもが、これが終わったらイキリ教習所に噛ませとしてぶち込んでやる。



「僕以外全員倒したから調子に乗るなよお、裏切りイカ!」


リーダーの怒声が響いてふっと冷静になって周りを見渡すと、周りのモブどもで立ってる人間は1人たりとも存在しなかった。

どうやら先の一撃で全員戦闘不能にしてしまったらしい。

頭に血が上って、正常な判断がついていなかった。

もしかしたらリーダーも戦闘不能になってイキリが行えない状況に持っていかれていたかもしれないので危なかった。


「お前の所業を見てわかった! イキリストには世の常識の中で生きていない害悪だ! 僕が出る杭は全力で叩きのめされるという社会の常識を教えてやる!」


この男の言葉からは常識ということにひどく執着していることが伝わってきた。

常識の以外のことはする人間には何をやっても良いというひどく暴力的な考えが透けて伝わってくる。

見た目からして異様だとは思っていたが、ここまで一貫しているのには流石に思想の歪みだけでは説明できない。


この男はおそらく一度同じ領域にいないと思わせない限り、執拗に私やタカメケンコウソウなどのイキリストを狙い続けるだろう。

もともとイキるつもりではあったが、このことを知ったことでまたイキらなければならない理由が増えてしまった。

願わくばこれで改心してイキリの素晴らしさに気づいてくれるといいが。



「お前はどこまでも正しい。その普通をどこまでも追い求め、反するものを抹消しようとする社会の模範を示すような態度。社会からしたらどこまでも必要なものだ。だがここはイキリストオンライン。社会の常識はここでは全く通用しない。ここでの常識は全てのことにおいて、イキることだ! お前はイキることから逃げたその時点でどうしようもなく間違い、敗北している!」


「訳のわからんルールを僕に押し付けるな! イキることではなく、最終的にこの場に立っていたものが勝者なのだああああ! あのイキリストを葬ったやり方で僕はお前を捻り潰す!」


「今お前はどうしょうもないかませの条件を満たした」


同じやり方でやる。

それは敗北者の思想だ。


相手はイキリの時に発動させた罠を綺麗に避けて、タカメケンコウソウにちょっかいをかけた時にしたとされる突きを放ってくる。

確かこの時タカメケンコウソウはイベントモンスターに蹴りを放つ途中だったらしい。

しかしこいつの突き、遅いな。

所定の位置までゆったりと移動すると奴の突きのスピードに合わせて、蹴りを放った。


「あの時のイキリストと同じ動きをしたな、間抜けが! 死ねええええ!」


突きがこちらに放たれると同時に奴の下から杭が飛び出した。


「クソこんなところにも罠が! 僕に勝たせる希望をもたせて裏切ったなあ、裏切りイカあああ!」


「私がイキリで発動させた罠だけ綺麗に避けることに集中して、まだ発動していない罠をないものと仮定して動いたな。言っただろう、イキることから逃げたやつは敗北すると。私がお前の動きにあわした時点でイキリストならば、イキリが始まっていることーー誘導されていることに気づく。だが最初からイキるつもりのないお前はあれをただの蹴りだと判断して私を侮った。イキる上で敗北してはならないイキリストであれば絶対にしない所業だ。もう一度言う。お前はこのゲームで唯一絶対の敗北者だ」


瀕死状態で動けない奴はこちらを見上げることしかできず、何も反論できずにただ唇を噛み締めていた。


「スタート地点に立っていないお前はPKをしたとしても誰1人として勝利できていない。それどころかむしろ敗北し、恥を晒している。今私がここでイキリストの正しいあり方を見せてやろう」


私は愛剣を取り出し、息を吸い込んだ。


「お前ら差し置いて私こそ最強! 最高! アイアムNo. 1!」


「グウウウウ!」


私が愛剣に彫られた『アイアムNo.1』を見せつけつつ残心のイキリを決めるとくぐもった声をあげて、リーダーはログアウトした。

それからそれを見ていたモブたちもどんどんとログアウトして退場した。

きっと彼らにもイキリの素晴らしさが伝わったことだろう。


遠くから見物している奴もいるしタカメケンコウソウにこのことが伝わればいいが。



ー|ー|ー



「ええ、ですからして皆さん中だるみには気をつけるようにーー」


PK集団を殲滅してから一週間ほどたち、今は金曜日の放課後だ。

一週間の間に色々な謎が解明された。

あのあと、青い顔をしたタカメケンコウソウがログインして、腐った牛乳を飲んで食中毒にかかりダウンしていることとその影響で学校に行けず友達になろうと言い出せなかったことを報告してきた。

それだけいうと普通に体調が悪いようで、彼は不便だからとそそくさと私に連絡用のメールのアドレスを渡すと腹を押さえてログアウトした。

昨日の時点で普通にログインできるようになっており、完治した今日「友だちになってください」と言うと報告してきたが、私がタカメケンコウソウのリアルだと疑いをかけている十和田との接触はまだない。



やはり同一人物だと言うのは杞憂だったかなと、カバンを手に取って教室を出ると大きな瞳と活発そうなポニーテールの少女が真っ直ぐにこちらを見つめて近づいてくるのが見えた。


十和田だ。

その容姿が前よりも少し痩せているせいか、体の線が細くなっており、快活な少女というよりも華奢な少女という方が近いような印象を与えられる。


印象も違うこともあるが、友だちになろうと言うと昨日決めたことが思い出され、少し緊張してきた。

強く意識していたわけではないが、この子と友だちになるということが私の中でそれほどにはとても大切なことになっていることがわかった。


「久しぶり、浦木さん! 突然だけど、友だちになってくれませんか!」


十和田は近づいてくるや、早速友だちになってくれないかと言ってきた。

いきなりだなと思いつつも、彼女の少し震えていた声で彼女も緊張していることが伝わってきた。

そう言えばタカメケンコウソウも自分が好きな神ゲーマーに遭遇した時はこんなガチガチに緊張していたことを思い出した。

と言うことは彼女にとってもこのことはやはり大事なことなのだろう。


答えはもう決定している。


「いいよ」


私の答えを聞くと顔を綻ばせて、「やったあ!」と言って飛び跳ね始めた。

子供っぽいなあと思いながらも、頬が緩むのを感じた。


「そうだ、せっかくだしこのまま街をぶらつかない?」



「そうだね。ちょっとしたことなんだけど、あなたってタカメーー」



「ごめん、ちょっとゲームの連れに連絡するからちょっと待って」


私が了承した返事をすると、彼女はタカメケンコウソウと同じでせっかち屋なので私の言葉を遮ったことにも気づかずに、携帯を高速でタップし始めた。


「これでよし」と言って、タップする手を止めると私の携帯が震えた。

取り出して見てみると、通知画面にSNSのプレビューが表示され、タカメケンコウソウが『あの子と友だちになることに大成功! 遊びに行くことになったからちょっと遅れる』とメッセージを送ってきたのがわかった。

やっぱりこの子はタカメケンコウソウだ。

きっとこれから歩く街は今まで歩いたどの街よりも楽しいことがわかった。


私と十和田は2人で街に繰り出した。

楽しかった。

きっとこんな楽しい日がこれからずっと続いていくのだろうと私はそう確信した。






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