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忘れえぬ染め跡  作者: 咲原かなみ
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各小説投稿サイト版あとがき

 ここから先、物語の核心に触れる記述があります。本編未読の方はご注意ください。


 『忘れえぬ染め跡』を読んでくださり、誠にありがとうございます。

 あとがきでも触れましたが、この作品は『群青に失う』唯一のスピンオフ小説です。

 執筆を始めたのは2013年10月で、初稿を完成させたのが2019年入ってすぐ。自分でもびっくりするぐらいの難産でした。悩み苦しみ、スランプをひたすら繰り返し、本当に終わるのかな……と思いながらキーボードを叩いていた日々が、今は何だか懐かしいです。


 そもそも、なぜこんなにも完成に時間がかかってしまったのか。

 理由はいくつかあります。その言い訳兼執筆秘話を、ここで少しさせてください。


 まず、その最たるひとつめ。「一人の女の子が、いくつもの初めてに出会いながら、少女から大人になっていく」という物語のテーマにかこつけて、今までやったことのない執筆スタイルに挑戦したいと思い、プロット(執筆の指針となる構成表。いわば物語の設計図のようなもの)をあえて作らず書いていったこと。

 結論を言うまでもありませんが、これは本当にやってはいけないことでした。

 最初と要所となる途中経過とラストのみ決めて、あとは頭の中にある構想やイメージだけを頼りに書くという、基礎なしで家を建てるようなやり方をしたせいで、書いてみたい展開がいくつも浮かんでは、果たしてどれを選ぶのが正解なのかが分からなくなってしまい、生来の遅筆さにさらなる拍車がかかる結果となりました。

 おかげでプロット作りの大切さが、これでもかというぐらい身に沁みました。世の中にはプロットなしでも書ける方がいらっしゃると聞きますが、わたしは逆立ちしてもその域には至れないことが分かりました。ひたすら猛省です。懲りました。もう二度としません。


 理由ふたつめ。真冬の雪国が舞台だったからか、秋冬にしか書き進められなかったこと。

 物語の季節に引っ張られて書けなくなるという、初めて陥るタイプのスランプでした。どれだけ足掻いても、春夏は1行も書けない。冷房で部屋を極限まで冷やしても、わたしの脳は真冬の雪国にトリップしてくれず、これには我ながらほとほと困りました。

 なので、3年目以降はもう諦めて、春夏のうちはデータを一切開かず、代わりに秋冬の間に集中してがっと書き進めました。他作品では、物語と現実の季節にずれがあっても普通に書けていたのに、なぜ今作ではこんなにも頑なに書けなくなってしまったのか。きっと季節に関係なく書けていたら、執筆期間を最低でも1年か2年は短縮できたのではないかと、今でも時折ちらりと思ったりしています。


 そして、理由みっつめ。雪花がものすごく、ものすごーく難しかった。

 「何が?」「どこが?」と訊かれても、うまく答えられません。だけど雪花はわたしにとって、ものすごく書きにくいキャラクターナンバーワンでした。

 今回執筆するに当たって、雪花というキャラクターを、前作『群青に失う』にはない角度から改めて深く掘り下げていく作業をしました。そうした結果、それまで気付いていなかった複雑さがどんどん溢れてきて、「君、実はそんな子だったの!?」「今までそんなん言った(orした)ことなかったじゃん!」といろいろびっくり。書けば書くほど、突き詰めていけばいくほど、雪花の知られざる内面がぽろりぽろりと明らかになっていって、作者であるわたしのほうが、なぜか翻弄されまくってしまうという為体でした。

 「自分で作った物語やキャラなのに何を言ってるの?」と思われるかもしれません。ですが、にわか物書きをしていると、そういう不思議な感覚に陥ることが時々あるのです。

 音を上げたわたしは、あくまで作者という立場から物語やキャラを俯瞰して書くという、ある種の客観的姿勢を軸にした普段の書き方を途中からやめました。そして、雪花の人格そのものを自分の深くまで下ろして、指先まで彼女の感覚になりきるような意識で書いていきました。

 いわゆる憑依型と呼ばれる役者さんって、演じる時いつもこんな感じになるのかな。そんなことを頭の片隅で思いながら、自我を捨てて他者に埋没していくように、身も心もひたすら雪花になった気持ちで物語を紡ぐのは、想像以上に過酷な作業でした。執筆中は「持っていかれる……!」と何度呻いたか分からず、書き終わった後は毎回消耗が激しすぎてぐったりしていたほど。

 でも逆に言うと、そこまでしないと雪花は書けませんでした。それぐらい雪花は繊細な子で、難しいからこそとても愛着のあるキャラになりました。にわか物書きとして滅多にない挑戦をさせてくれた彼女を、最後まで描き切れて本当によかったです。ラストで雪花が積年の思いを語るシーンがありますが、そこを描きたくて書き始めた物語でもあったので、辿り着けた時は嬉しかったと同時に心からほっとしました。


 物語を書き終えるまでに時間がかかった分、時代もいろいろ移り変わっていきました。

 携帯電話はガラケーからスマホが主流になり、メールよりLINEを交わす頻度のほうが断然高くなりました。グループ間でのやり取りも、何年か前まではメーリングリストがよく使われていたけれど、今は恐らくグループLINEのほうにかなりの軍配が上がっていると思います。作中で登場する寝台特急も、今ではほぼ廃止されてしまいました。

 全体的に少し前の時世で描いているため、現代とは若干齟齬のある部分がございますが、全ては物語の時代設定によるものと、作者があまりに遅筆だったせいとご容赦いただけましたら幸いです。


 そんな感じで、大袈裟でなく魂を削るような思いで書いた今作、皆様にはどのように映ったでしょうか。少しでも何か響くものがあったなら、書き手としてそれ以上の喜びはありません。よろしければ、コメントなどでご意見・ご感想をお気軽にお寄せください。

 決して短いとは言えない物語を、最後まで読んでくださったあなたに、改めて心からの感謝を。ありがとうございました。また次の作品でお会いできますように。



咲原かなみ


2022年3月20日

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