第1章~第2話~ 過去と未来
前世の記憶を取り戻したエリサ。前世で読み進めていた本は、現在エリサが暮らしているルイビスを舞台にしたものだった-・・・。
前世の記憶を取り戻したエリサは一瞬混乱した。
(日本のS県で暮らしていたはずなのに-・・・。今ここに、ルイビスにいるのは夢?)
しかし、ルイビスで過ごした11歳までの記憶も鮮明にある。
ふいに「輪廻転生」という言葉が心に浮かんだ。図書館で読んだ、さまざまな宗教の歴史について書かれた本に出てきた単語だ。
(そうか、15歳の夏の終わりに私の人生はいったん終わったんだ。そして、転生して今ここにいる-・・・。)
エリサは里彩で、里彩はエリサなのだ。その事実がすとんと胸に着地した。
気を失っていたのは一瞬だったらしい。ピンと背筋を伸ばし椅子に座っていたエリサの体勢は崩れていなかった。
(ここは、私が死んでしまったあの時から、数年後、数十年後の世界なのかしら・・・?)
少し考えて、おかしな点がいろいろとあることに気付いた。
今エリサが生きている世界には、インターネットなど、前世では存在した技術や文明が一部欠けている。逆に、前世で見たことも聞いたこともないような技術や文明が存在する。
1日、1週間、1月、1年といった暦の概念など、共通している部分もあるので、かけ離れた世界線とも思えなかったが-・・・。
(前世でルイビスという国は実在しなかったし、ルイビスで「日本」を耳にしたことも無い・・・。いわゆる異世界、へ転生したのかしら・・・。)
現実離れした現実に少し呆けてしまう。しかしながら、エリサはルイビスという国名に聞き覚えがあった。15歳の里彩が図書館で読み進めていた本―――通常、図書館の本には分類コードのシールが貼られているが、あの本には何も貼られておらず、書棚の片隅に放置されていた。すりきれた表紙からタイトルと作者名は読み取れず、紙は薄い茶色に変色していた。「廃棄予定の本なのかな?廃棄される前に読んじゃおう。」と手に取ったあの本は、ルイビスという国を舞台としていた。
物語は、主人公のマリオ・ローデンスの姉が学園内で殺されたところから始まる。マリオの姉は、希代の才色兼備令嬢と謳われるほど、飛び抜けて美しくあらゆる学問に秀でていた。公爵家の生まれで身分も高い彼女は、未来の王妃と噂され、正式な婚約は交わされていなかったものの、事実上第一王子の婚約者として扱われていた。しかし、第一王子が在籍する名門・シュワルツ学園に入学したその年に、彼女は何者かに殺されてしまう-・・・。
マリオは、あまりに優秀すぎる彼女に劣等感を抱き、内向的な性格に育った少年だった。険悪ではないものの、自ら積極的に彼女と関わろうとはしなかった。葬式で涙を流す彼女の学友達や両親の姿を見ながら、姉の死をあまり悲しめていない自分にショックを受ける。悲しめるほど、姉のことを知らなかった。知ろうとしなかったのだ-・・・。
自身を変えるため、姉のことを知るため、姉を殺した犯人を捜すため、マリオはシュワルツ学園に入学することを決めた-・・・。
(そうだわ、あの本に描かれていたルイビスの文化、政治模様は、まさに私が暮らしているルイビスのそれで-・・・)
「神の使い」に選ばれた時、「さすがは希代の才色兼備令嬢」と周囲が囁いていたのを耳にして、自分はそんな風に呼ばれているのかと驚いたことを思い出す。
(そして、主人公の姉の名は-・・・)
マリオの姉の名はエリサ。―――エリサ・ローデンス―――
(私・・・、15歳でまた人生の終幕を迎えてしまうの?)
神鏡は、気に入った者に未来を見せると言われている。
エリサは、過去の―――前世の里彩の記憶を取り戻すことで、未来の―――エリサの運命を知ったのだ。
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