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第1章~第1話~ エリサの目覚め

エリサは、ルイビス(国)の11歳の少女から最も優秀な者として選出され、気に入った者に未来を見せると言われている神鏡の元に導かれた。

神鏡の中にエリサが見たものは、自身の前世の記憶だった-・・・。

薄明かりの灯された部屋に大きな鏡が4つ、細いひし形になるよう配置されている。そのひし形の中には椅子が2つ置かれている。


先ほどその部屋に入ったのは3名。11歳の少女と、11歳の少年と、神官である。神官は薄いグレーの髪に白っぽい装束を纏っており、若い青年のようにも、壮年の者のようにも、はたまた少女のようにも見えた。11歳の少女・エリサは、神官の艶やかに真っ直ぐ伸びた長い髪を見て、薄いグレーというよりも、銀色という表現が似合う美しい髪だ、と感じた。

(神官様をこんなに近くで見たのは初めて・・・。近寄りがたい、でもどこか安心する、不思議な空気をお持ちだわ・・・。)


エリサがその部屋にいるのは、「神の使い」して選ばれたからだ。

ルイビスは、国土面積は大きくないものの、様々な植物と水に恵まれた、比較的豊かな国である。例年、年の終わりに、11歳の少女から1名、11歳の少年から1名、最も優秀とされる者が選出され、神殿に招かれる。


神官がエリサと少年を椅子に座るよう導いた。

「これは、ルイビスの初代国王であるレオ・ルートが水の神から譲り受けたとされている神鏡です。神鏡は気に入った者に未来を見せると言われており、神殿では、穢れがもたらされぬよう、悪意のある者が持ち去らぬよう、長年この神鏡を守り続けています。

ルイビスの未来ある、才能ある少年少女に、ルイビスの輝く未来を作る力を、そして、ルイビスの危機を覆す力を。水の神よ、どうかお力添えください。」

神官が言葉を発すると、エリサの目の前にあった神鏡に変化が訪れた。水面を伝わる波のように、神鏡の表面に円が描かれたのだ。エリサは驚き、静かに目をみはった。左の神鏡からも、右の神鏡からも、円の真ん中からポツリと一粒の水滴が出て、エリサの目の前で合わさった。少し大きな水滴となったそれは、垂直に地面へ落ち、今度は地面に円が描かれた。エリサはその波にのまれるような感覚を一瞬覚え、気を失った。


*****


「なぁ、そこにいるのって、あの有名な子じゃないか?全国テストで1位っていう・・・」

「あぁ、前間(まえま)って子だろ?1年生の。特別進学校って訳でもないウチの高校では前代未聞の成績らしいな。真面目そうではあるけど、意外とガリ勉!って感じの見た目じゃないな。」

3年生の男子達は声を抑え気味にしていたが、視線を感じた里彩(りさ)はふと顔を上げた。パチリと里彩と男子達の目が合う。

聞こえたのかな、と気まずそうな表情を浮かべる男子達に対して、里彩はきょとんとした顔を一瞬見せた後、ふわりと微笑みペコッと会釈した。

その笑顔はズキュンと男子達の心に刺さった。「やばい!!!めちゃくちゃ可愛い!」と男子達はヒソヒソ喋り合う。

里彩はアイドルや女優のようなルックスではないが、異性ウケはかなり良かった。クリッと大きい訳ではないが、横に広めの垂れ目。顎くらいの長さに切りそろえられた、サラサラの黒髪。骨細の、華奢な体型。常に上がり気味の口角は柔らかい雰囲気を作り、校則違反無しのきちんとした制服の着こなしは清廉な印象を周囲に与えていた。

そんな里彩と男子達のやりとりを、少し離れたところから美晴(みはる)は若干呆れた顔で眺めていた。

「里彩!」

美晴が声をかけると、里彩の表情がパァッと明るくなる。

「美晴!」

(嬉しそうな顔するなぁ・・・。いつもニコニコしてるけど、さらに笑顔。こういうところが可愛いんだよね。)

「ごめんお待たせ、帰ろっか」

「うん!」

おお、可愛い子が増えたぞ!と男子達は色めき立ったが、美晴がギロリと軽く睨むと、固まってしまった。里彩とは対照的に、美晴はアイドル顔の正統派美少女だ。猫っぽいつり目気味の大きな瞳。ポニーテールに纏めているくるくるとした長い茶髪。スラリとした手足に小さい顔。本来より短くカットしたスカートと短めのソックスは脚の長さを際立たせ、完璧に配置された顔のパーツは凜とした印象を作っていた。


「里彩さぁ、あんなこっち見てヒソヒソ話してる奴なんか、愛想良くしてやる必要ないよ。」

「うーん、でも先輩っぽかったし、悪口言われてるような感じもしなかったから。」

(優しいというか、呑気というか・・・。)

確かにさっきの男子達はめちゃくちゃ嫌な感じの奴ら、という訳ではなかったが、おっとりと話す里彩に美晴はやきもきしてしまう。優しげな雰囲気で異性ウケの良い里彩は、いつか嫌な奴やヤバい奴につけ込まれそう、と思ってしまうのだ。里彩は意外としっかりしているし、過保護だな、勝手に心配しすぎ、とは美晴も自覚しているのだが・・・。

「そう? ところで最近暗くなるの早くなってきたし、先に帰ってても良いよ?勉強は家でもできるじゃん。」

「えー、だからこそだよ!美晴一人で夜に帰るより二人で帰った方が安心じゃない。それに、図書館だと気晴らしに本も読めるから、家でやるより気分転換できるんだ。」

放課後、里彩は図書館で勉強し、美晴はバスケ部の練習に励んでいる。里彩も以前はバスケをしており、小学校のミニバスチーム、中学校のバスケ部では、里彩と美晴はチームメイトだった。現在の里彩はどの部活にも所属していないが、昔から良かった成績は中学3年生~現在の間にグングン伸び、今では全国トップクラスだ。

勉強の息抜きが読書、という里彩の知的さ?賢さ?に美晴は感心してしまう。美晴は活字が苦手(漫画は可、ライトノベルはNG)で、息抜きといえば動くこと、食べること、寝ることだ。


ふと美晴は思う。共通点の少ない私たちは、幼なじみでなかったら、友達になっていたのだろうかと。幼なじみでなく、ただのクラスメートだったら、ただの・・・。少し想像してみたが、里彩との思い出があまりに多すぎて、上手くイメージできなかった。しかし、特に根拠なく美晴は思った。きっとどんな出会い方でも友達になっていただろうと。幼なじみだからって、10年近く友人関係が続く訳ではない。ウマが合うから、好きだと思う、尊敬できるところがあるから、10年近く関係が続いているのだ。

こんなこと、気恥ずかしくていまさら里彩には言えないけれど。


「それなら良いけど・・・帰ってから家でも勉強してるんでしょ?里彩が勉強嫌いじゃないのは知ってるけど、この間の全国テストで1位だったんだし、勉強時間減らしちゃっても良いんじゃない?」

里彩の勉強時間のことを、美晴があれこれ言うのは過干渉なんだろうと思いつつ、尋ねた。

美晴は、里彩が最近いつもと違うようで気がかりだったのだ。里彩は昔から勉強ができたし、苦じゃない―――むしろ好きなようだった。でも、ナメクジを可愛いと言って手に載せたり、ものすごくしょうもない親父ギャグにはしゃいだりする、ちょっと変わった子でもあった。最近の里彩は純然たる優等生という感じで、品行方正に振る舞い、いろいろな委員会や生徒会に参加し、ナメクジを手に載せることも、しょうもない親父ギャグを言うことも、無い。里彩の勉強好きは、元々の気質もあると思うが、楽しく勉強を教えてくれる、里彩の両親の存在が大きかったんじゃないか、と感じていた。でも、里彩の父親と母親は、今はもういない。

「ん~、でも国公立の医学部はやっぱり難関だし、ちょっと気を抜くとガタッと成績落ちちゃいそうで、怖いんだよね。」

一瞬、美晴の空気が止まる。

「医学部・・・?里彩、医者になるの?」

「うん、そのつもり。できればS大の医学部に行きたいと思ってるんだ。」

「S大医学部って、そりゃ難関だけど―――」

どうしてS大なの?里彩ならT大やK大だって受かるはずなのに―――、そう尋ねかけた次の瞬間、その答えらしきものに美晴は思い当たった。

小さい頃から一緒に過ごしてきたけれど、里彩が医者になりたい、なんて初めて知る事だった。里彩は虫や植物が好きだから、昆虫学者や花屋さんになりたいと言われていたら、驚かなかったかもしれない。里彩は本が好きだから、司書や物書きになりたいと言われていたら、驚かなかったかもしれない。でも、里彩が医療職の大人に憧れたり、医学に興味を持ったりする様子は、美晴の知る限り無かった。そして、S大医学部は、S県に住む私たちの家から最も近い国公立の医学部のはずだ。また、S大は県民生の場合、入学金か安くなる。つまり、交通費も学費も、一番安く済むのがS大―――・・・。

「・・・里彩はどうして医者になりたいの?源治さんに勧められたの?」

「ううん、おじいちゃんは何も言ってないよ。でも、おじいちゃんの病院の跡を継がないと、と思って。」

カッとこめかみが熱くなった。源治が里彩に医者になるよう勧めたのではないと、美晴も分かっていた。源治は、礼儀や学業に関してかなり厳しく、気難しいところもあるが、里彩に進路を強制するような人ではない。

「そこは、継がないと、じゃなくて、継ぎたい、じゃないの?」

思わず語調が強くなる。美晴の苛立ちを感じ取った里彩は、少し驚いているようだった。

「里彩は、医者になりたいんじゃなくて、ならなきゃって思ってるんでしょ?S大を目指すのは、金銭面で源治さん達に遠慮してるからじゃないの?ずっと続けてたバスケをやめたのも-・・・。みくびらないでよ。源治さんも、清子さんも、あたしも、里彩の-・・・」

「美は・・・」


里彩が美晴の名前を呼びかけたその時、グラリと世界が揺れた。ゴオオッと低く唸るような音が聞こえ、地面が激しく揺れる。その場に立っていられなくなる。

「なに・・・っ 地震??!」

里彩と美晴は、へたりこんだ姿勢で必死に近くの電柱にしがみついた。今まで経験したことのない揺れだった。何かが折れる、崩れる、ぶつかる音と、人々の叫びとが重なり、里彩の耳に入ってきた。そして視界に、何かが動く様子が入った。

(何・・・?何か動いた・・・?動物?壊れた塀や割れたガラス・・・?)

違う、影だ。美晴の頭上数mのところにある、看板の影-・・・。

「美晴!!危ないっ!!!!」

美晴に覆い被さるように飛び出した里彩の視界は、そこでブラックアウトした。


*****


目を覚まし、里彩は-・・・、いや、エリサは、日本で暮らしていた前世の記憶を取り戻した。そして気が付いた。かつて図書館で読んでいた本の舞台がルイビスで、エリサも登場人物として登場していたことを。物語の初期に死んでしまうことを。


初めての投稿です。楽しんでいただければ嬉しいです(_ _)♪

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