ゲーム開始①
街を歩けば至るところで同じゲームが宣伝されている。『クロスアンリアル』というタイトルのゲーム。AR技術を駆使しすることで¨現実と非現実の境界線を壊すことに成功した¨と話題になった。【セミ・リアル】と名付けられた技術革新がこの大ヒットゲームの人気を支える根幹の1つになっている。そのブームは他のゲームの追随を許さず全国大会が開催されるほど流行っていた。
天国まで続いているかと思うほど高いビルが整然と並ぶ大通りを友人と並んで歩く片谷陽一も今日、デビューする予定である。
「陽一、届いたか?クロスアンリアル」
正面から歩いてくる人に道を譲った三島広樹は陽一の隣に戻り聞いた。
「ああ、今朝届いた。まだ開封してないけど」
販売からもうすぐ2年となる。販売路線がようやく安定してきたとはいえ、いまだに品薄の状態が続いている。2週間前に幾度目かの追加販売の受付があり、やっと手に入れる事が出来た。
「あの現実と非現実が入り交じった感じはマジでスゲェ! 学校と家を往復するだけの退屈な日常が一瞬でファンタジーな世界になるんだ! 陽一も絶対ハマるぞ!」
クロスアンリアルの魅力を熱弁していた広樹が足を止めたのは家電量販店の前。
「どうした?」
「見てみろよ」
ショウウィンドウに並べられた大型テレビで去年の全国大会の様子が映されている。ゲームとテレビの両方の宣伝を兼ねて流しているのだろう。3人1組でのチーム戦、その一回戦の映像だ。ティラノサウルスを連想させるモンスターとマンモスを彷彿させるモンスターが交戦している映像。それを見て広樹が拳を強く握りしめた。
「陽一、絶対全国大会に出場しようぜ!」
広樹の目は輝きワクワクが抑えられないといった表情だ。
「まだ箱から出してすらないのに……。気が早くないか?」
広樹からの誘いならなるべく断りたくない陽一だが、まだゲームに触れてすらいない状況で猛者の集う全国大会を目標にするのは早計だと思う。例え実力者の広樹とチームを組んだとしてもだ。
「良いんだよ! ¨目標はでっかく¨だ! それに全国制覇とか言わないだけマシだろ?」
陽一は掲げた広樹の手のひらに見た。どうしても全国に行きたいのなら実力のあるメンバーを探した方が早い。それなのに誘ってくれた。広樹の友達思いな部分には感謝し、応えたいと陽一は思う。
「ゲーム、あんまり得意じゃないからな!」
広樹の手のひらを陽一は叩いた。
「知ってる!」
広樹がニコニコと笑い、陽一も諦めと嬉しいさを足した顔をしている。陽一と広樹は新たな約束を交わし帰路を歩きだした。