夢観探偵
夢を観る探偵
俺は夢を観ることができる。
正確にはすべての人間の夢を見ることができる。
夢は人間の本質がよく出る。
夢を観ればすべてがわかる。
そんな俺のことを人はこう呼ぶ。
『夢観探偵』と……。
【依頼内容】
都会は空気がまずい。実にまずい。だが便利は良い。
コンビニも近い、パチンコ麻雀カラオケゲーセン、キャバクラ、風俗。
綺麗なモノから醜悪のこびりついたものまで何でも近くにある。
俺は今日もこの街で日課になりつつある、浮気調査を続行中だ。
ターゲットは、三輪孝。某中堅企業の専務取締役。年齢は四十半ばで、趣味はお姉ちゃんと遊ぶこと。依頼者は奥様の三輪良子さん、社長様で年齢内緒。使途不明金を洗っているうちに旦那様にたどり着いてしまったと。
なら、それでお縄を頂戴とすればいいのだが、どうにもこの奥様には許せないことがあるらしい。それが愛人の存在。孝さんはアレだ婿養子というやつで、いうなれば他人のフンドシをがっつりと締めていらっしゃる方なわけだ。
それで会社の金で姉ちゃん囲えばね……。奥様だいぶ怖い顔してたからな。まぁ、そんなわけで色々伝手を辿られて、とうとう俺に依頼が来たってわけだな。
「洋二さん、何一人でしゃべってるんですか?」
「んぁ?あぁ小波渡ちゃん。ほらプロローグ的なアレ?大事なのよ?」
釈然としない顔でいるこの子は小波渡由美。平たく言えば助手だな。お年は二十代前半。髪の毛は多少色抜きの茶色系。服装は動きやすいジーパンにTシャツ、上にはデニム系のを一枚羽織っている。髪型はポニーテールな。昔関わった件で半ば強引に俺の事務所で働き始めちゃった娘。別に恩とかいいんだがな。俺が好きでやったことだから。
あ、それと俺の名前な、言い忘れてたよ。名前は中田洋二。目下、四十への足音を聞きつつある、女なし、金なし、才能のみ溢れるそんなおっさんだ。まぁ容姿なんて知りたくもないだろうけど、一応な?こういうの作品化するとき大事らしいぜ。髪は短めでちょと整髪料何ぞ塗ってあげている。服装はユニクロメインで安上がりに、動きやすさ重視の軽めのスラックスに、Yシャツ、ネクタイは好きじゃない。羽織ってるのはお安いジャケット。色々あると汚れるし破れるからね。
眼鏡は伊達だがこれは、変装も兼ねている。嫌いなものはレーズン、あと牡蠣は好きだったが、昔あたって怖くなって生は食えなくなった。タバコはチェーン同然だったが、今は吸っていない。腕っぷしはまぁまぁある方だ。昔、やばい師匠に教わったからな。アレは地獄だった。
「まぁ何でもいいですけど、ほら、あの人です。あれが今回のターゲットです。もうすぐ依頼者と喫茶店に入り、コーヒーを飲みます。それに例のを仕込んでもらいました。私達はそのすぐ裏手の席でスタンバイします」
今回のお仕事は正直言えば、楽なもんだ。なにせ依頼者が実に協力的だ。こちらでターゲットを気絶させたり仕込んだりしないで済むからな。依頼者の、あの精鍛なお顔がまるで般若の様になる様は、なんというか本当ご愁傷さまだったな。あー怖い。さて、お薬仕込んでもらえばこちらはいつでも行けるからな。所定の位置につくとしますか。
【喫茶:明けの明星】
依頼者とターゲットが座った席の裏手、ターゲット側に背中を向けて、俺たちも座る。ターゲットの視界に入るのはこの後の認知の問題でよろしくない。ちなみに、チョット余裕かましてたら、危うく四人組のおばちゃんに席とられそうだったから焦ったわ。危ない危ない。
夫婦の他愛のない会話が続くなか、ごく自然な流れでお薬がターゲットのコーヒーの中に沈んでいく。ターゲットは全く気付いていない。この奥様やるなぁ。その気になれば旦那のこと、軽く毒殺できるんじゃないか?いやぁ怖い怖い。今回、奥様にお渡ししたのは、特別な製法でできている即効性の睡眠薬。これが俺の仕事の鍵にもなる。
依頼人が小波渡ちゃんへ目で合図を送る。来たばかりのブレンドを啜る俺にも小波渡ちゃんから合図が来る。暖かいコーヒーが……。もうひと口、飲もうとしたら咳払いされた。はいはい、わかりましたよ。さてそれじゃあ、ちょっと行ってきますかね。
さてここでおさらいだ。俺の今回の依頼は愛人の特定だ。実は俺に依頼される前にも何社か依頼されたらしい。ところが、これがまぁ、それらしいのは見つけたんだが、決定打にかけてしまい、うまく躱されたらしくて尻尾も掴めない。グーの音もでなくなっちまった同業者がつい口を滑らした。それが俺のこと。ここまでOK?いいかな?
じゃぁいきましょうか、夢の世界へ……。
※
【喫茶:明けの明星:夢の世界:第一層】
お薬飲んですっかり夢の世界にいるターゲットと呼吸を合わせる。一、二、三……。俺の意識がふっと抜けて、別の世界に行き、ゆらゆらとした扉が見えてくる。その頃、俺の体は無防備な状態で、喫茶店のソファーにもたれて眠っている。
夢の世界は何層かに分かれているもので、隠したいこと程、必ず深いところにあるもんだ。まずはこの扉を開けないといけない。
扉は普通の人には開けられない。簡単なことだ本人じゃないからだ。本人ですら正しく扉を開けられる奴なんていやしない。アレだ、好きな夢だとか夢の続きだとか、そうホイホイと見れないだろ?入口は多種多様あって、夢はどの入り口から入るかでだいぶ変わっていく。そういうもんだからだ。まぉ俺もこうなってから初めて知ったんだけどな。
簡素な木製の普通の扉。このターゲットである旦那の象徴みたいなもんだろうかね。入口には鍵がかかっている。だが俺には鍵が意味をなさない。
『鍵の存在を俺は許さない』
ちょいと厨二病みたいだが、こうするとあら不思議、鍵が嘘のように消えてなくなる。鍵のない扉なんてほらな?スッと開くわけだよ。おっと、あんまりないけどここで気をつけなきゃいけない。罠ってやつだな。
罠はようはこの夢の持ち主のセキュリティーってところだ。狡猾だったり、慎重だったりすると結構仕掛けられているものだ。入口は余裕だが中身は複雑なんて言う奴もなかには居たりするからな。
罠は……はい、ありました。警報ってやつだな。侵入者があった場合に大音量で知らせるってやつだ。そうそうもうちょい補足しとかないとな。夢ってやつには番人とかが居る。これは大なり小なり必ず居る。こいつらに出くわすと結構厄介だ。
戦えばいいだろうって?オイオイ、あんまり簡単に言わないでくれな。夢ってのは相手のテリトリーなんだよ。このテリトリーでの絶対的優位者は夢の主人たるターゲットなんだよ。だからなにも用意してないでいくと、すこぼっこにされて最悪こちらが廃人にされちまう。だからおいそれとはバトれないわけだ。わかった?ただ、相手の情報を可能な限り抑えていて、苦手なモノやトラウマようは相手が御しきれないものがあれば話はだいぶ変わって来るけどな。
さてさて、中はっと……、あら会社だわ。第一層で会社か。それよりも心を占めている大きなものが下にあるってことかねぇ。
会社の入り口には受付がいる。受け付けは微笑んでいるお面をかぶったような顔で対応を続けている。何もいない空間へ声をかけてお辞儀をしている光景は何とも異様な光景だな。
この夢の住人はお面をかぶっているらしい。そして胸には会社のバッチか。スーツは肩が凝るんだがなぁ……。まずは会社に入らないとな。俺は顔の前に手を持っていくと仮面を、そのまま体を撫でるようにして、スーツを胸ポケットを指ではじくと会社のバッチをつくって中へと入っていく。
受付がこちらへ仮面の微笑みを向けてお辞儀をする。エレベーターが何基かあり、俺はそちらへ向かう。警備員が一瞬こちらを見るが、すぐに他所を向く。どうやらクリアしたようだ。先に奥様から色々聞いておいて正解だったな。エレベーターの案内板をみて第一層の目的地である、専務室へと向かう。
専務室の入り口に到着。途中仮面の社員とすれ違うも軽い会釈のみで自然と抜けていける。自由な社風です(笑顔)とか頭に浮かび吹き出しそうになるが、ここはこらえる。
専務室の扉を軽くノックする。もしも中に専務が居たら、ちょっと別の方法をとらないといけない。数秒待つが返事はない。ノブを回すが、扉は開かない。さて賢明なる皆様は先ほど俺が入口の鍵を消したことを覚えているだろうか。そう消せるのだが、夢の入り口と中ではその難易度が随分と変わるのだよ。なのでここは無理をしたくない。でだ、これの登場。
今回の依頼者は奥様そしてこの会社の社長様だ。社長様は現実の世界でその会社での権限をすべて持っている。もちろんこの扉を開く権限もだ。そして俺はいまこの社長の代行で会社に来ている。っということは?
『社長代行の権限でマスターキーを作成、マスターキーを使用し、すべての扉の解放を可能とする』
このように簡単に開くことができます。え?じゃあ入り口でもやればいいじゃないかって?いやそれはまた別の話なんだよ。入口で社長代行ですなんていってみな?重役かもしくはそれに付随するような奴らがわんさか来ちまうだろ?そうしたら相手にばれちまうよな?それは愚考ってもんだろ?だからやらなかったわけだ。最小限の影響で進めないとな。あんまり派手にやれば夢の持ち主に感づかれて番人さんいらっしゃーいってことになるからな。それにこれは認知の問題でもあるから、会社以外だとうまくいかなかったりもするね。
さてお邪魔しますよっと。はぁーいい部屋だねぇ。調度品も品のある良いもので揃えられているし。実に落ち着いた良い部屋だ。さて、感心している場合じゃない。次の層への入り口を見つけないとな。意識を落ち着けて周囲を見渡す。夢の入り口ってやつには特徴がある。歪んでいたり風が吹いていたり、臭いがしたり、光がさしていたりと他とは少し違った何かがある。さらに言うのであれば、ほんの少し不自然で違和感が。
あったあった、これだな。専務室の机の上に合った写真立て。何も映っていないくせに置いてある。これだな。さてこれをこうしてと、俺は無造作に写真立てに腕を突っ込むと罠を探す。どうやらここにはないらしいな。そしてそのまま頭を突っ込む。物理的には不可能だが、俺の頭はするりと中へと入っていき、そのまま体も入っていった。
【夢の世界:第二層:マイホーム】
目の前にあるのはどうやらご自宅のようだ。たしか都内一戸建て、地下一、上三お庭もついてワンちゃんもいる。ごく平凡的な金持ちハウスだったかな。壁は浮気を疑うこともできない程真っ白で、屋根は清んだ青色。実に清潔なマイホームだ(棒読み)。
さて次の入り口はどこだろうな。会社で専務室は予想しておいたがマイホームか。まぁ普通に考えれば自室か。第一層は会社の中でのテリトリー。第二層は自宅での自分のテリトリーか。確か、ターゲットの部屋は二階の奥の部屋だったな。一応自宅での探索の許可は奥様から普通にもらっていたし、現実の世界でも調べたからな。
さて当たり前のようにお家へ侵入。旦那様はいらっしゃいますかねぇ……。一階から二階へと移動する途中でそっとリビングを見る。リビングでは彼の愛すべき家族が描写をされていた。
三輪家の家族構成は奥様、旦那様、子供が男女で二人、それにだいぶ早くに連れを亡くした奥様のお母さまがいらっしゃったかな。奥様はつり目眼鏡で逞しい体に鼻から強く息を吐き、血走った目でいらっしゃると。子供二人は男の子がぶっ壊れたラジオで、女の子は洗濯物をつまんで持ってしかめっ面をしている前髪パッツンだけと。外の犬は首輪だけが鳴いている。
『せめて人間は人間で描写して欲しいものだなぁ……あれじゃぁ化け物だろ』
何とも言えない顔で俺は二階へと移動する。途中さりげなくワイヤートラップがあり、これにも警報があったので触れないように慎重に移動する。意外にもそろそろ核心に触れそうかな?
二階の奥、書斎兼自室。軽くノックするも返答なし。どうやらまだ確信には届かないらしい。意外に深いな。さて、お部屋拝見ですよ。
書斎というくらいなので本棚があり、机がある。有名どころからマイナーどころまで資料含めて書籍がずらっと並ぶ。現実も同じだったからな本当に読書家なんだろう。そして現実同様に、さらに奥にも扉がある。この扉の向こうが寝室になっている。
まずは書斎だ。専務室と同じように意識を整えて落ち着けて違和感を探す。じっと辺りを観察する。目は閉じない。違和感がない。ここじゃないな、なら奥か。
奥の扉、鍵穴はあるが鍵はかかっていない。だが罠はある。警報と侵入阻止の為のニードルだな。ちょっと危なくなってきたな。ここからは権限ではどうにもできない。痕跡を残さないように注意しつつ罠の解除を行う。これは俺の経験がモノを言う。
『罠を実体化』
ドアノブに警報センサーと繋がっているコードを発見。触れると通電が起き、鳴る仕組みのようだ。要は通電させなきゃいい。
『絶縁体の作成』
絶縁体を仕込んで、通電しないようにして、ドアノブにある警報を無効化に成功。これで扉を開けられるが、今度はニードルだ。
ニードルの射出の仕組みをよく見る。扉を開けると鍵穴から射出。射出は一回のみ。目的は侵入者へのダメージで警報はなし。っということは射出させてしまえば打ち止めになるタイプだな。ならこうしてしまえばいい。
『盾、小の作成、右腕に装備』
右腕の盾を鍵穴に付けると扉を開けた。ニードルが盾に小気味よく当たり小さく音がする。盾をみると小さいが固めのとがったニードルがしっかり刺さっている。くわらばくわらばだな。
寝室。クローゼットあり、小さな机、椅子、ベッド、ベッドの下に収納スペースあり。さて色々怪しいが、一応現実の世界でも調べているのだが、俺は真っ先にクローゼットへと意識を向ける。扉を開け、中に集中。かかっているスーツは俺のと比べてブランド品ばかりだな。いや俺だって、買えないわけじゃないんだよ?ただ性に合わなくてな。いやそんなことはいい、もう一度意識を集中し直す。
『これか……』
思ったよりもこの中では安い方のスーツの胸ポケット。そこから、妙に色っぽい臭いが漂っている。俺は胸ポケットの中を探る。そこには最近珍しい箱型のマッチがあった。現実で調査した時あがった候補の一人がいるキャバクラの名前がそこにはある。
キャバねぇ……。たしか明美ちゃんだったかな。お顔は上の中、髪は肩口で短めに、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んで、お客を転がすのがうまいタイプの子だったな。潜入調査した時に明美ちゃんの対抗の聡子ちゃんから聞いた話だけどな。まぁ行ってみるか。
マッチ箱を開けて腕を突っ込む。罠なし……か。逆に胡散臭いな。まぁいいか入って違ってたら抜けてくればいい。罠なし鍵なし、ずいぶん不用心ではあるが、第三層へと俺は入っていった。
【夢の世界:第三層:キャバクラ】
全体的にピンクでライトがチカチカしている。そういや何気に場末っぽい感じのキャバだったなぁ。もうちょい落ち着いた感じでも良いと思うんだよね。薄暗いのはこの手のお店の当たり前。女の子は白い感じで化粧臭い。
「ヤダー……ふふふ」
「ははは、いいじゃないかいいじゃないか」
おっと、居ましたよ?ターゲット様。ってどこのお代官様だよ。キャバの世界の夢って……今あなたの前には現実の世界奥様いらっしゃるんですけどね。すごいものだ、ある意味豪胆だな。
気が付いたら俺の横に女がいた。酒を注いでくれているらしい。席はターゲット様のすぐ裏手。お話がよく聞こえます。マンションがーとか今夜はーとかバックガーとか、クルマガーとか。あぁこれが使途不明金かねぇ……。ちなみに俺の横の子はお顔のない真っ白な仮面の子である。お胸は立派である。よく見ればここの女の子、みんな胸が立派だ。まぁちょっとだけ頷ける趣味だ。変に気取られないように内容を聞き、俺の意識のメモに話を残す。
夢の中での会話は実際の世界での会話をなぞっているものになる。ようするに嘘がない。このやりとりもすべて実際にあったことをなぞっている。まぁ旦那様はハナの下伸ばして楽しそうだが。さてこれで終了かな。戻るとするか。
俺は仮面の子にトイレに行くと告げ、第三層を抜けて出た。お胸もうちょい……いやこんなのバレた日には小波渡先生になぜか怒られるからな。うん、我慢だな。
【夢の世界:第二層:書斎奥寝室】
さて、証拠も挙がったので帰るとするかと、寝室を後にしようとしたとき、ふと俺は後ろ振り返った。なんだろう……この感覚は……あの時のようだ。なにか見落としている。そうだ、俺は何かを見落としている。この部屋に何かまだある。俺の意識がそう言っている。
なんだ?何を見落とした?考えろ、考えろ俺。ゆっくりと部屋を見渡す。クローゼットは見た。クローゼットからは未だに甘い匂いが漂っている。本当これ見よがしに漂っている。なんだ?なんでこんな分かりやすく漂っているんだ?二階に上がる階段にワイヤー仕掛けて、扉に警報、ニードル……こいつには結構な悪意と殺傷能力もあった。なのになぜこんなにタネがすぐわかるんだ?
もう一度意識を集中する。待て、そういや奥様は使途不明金だけで愛人の存在を見抜いたのか?何か他に言ってなかったか?俺はゆっくりと奥様の依頼時の事を思い出す。そういや依頼時の話をしていなかったな。
依頼は俺の事務所で受けて、依頼者である奥様が直接いらっしゃった。小波渡ちゃんが最初相手をしているのを俺が観る感じ。ある程度話を聞いてから俺登場。詳細を改めて聞いて依頼を受けた。その依頼内容を今思い出しているというわけだ。
『……からの紹介で……使途不明金が……忌々しくも跡を残して……残して……愛人を……』
ん?残して?どこにだ?そう考えていると、別のところから違和感を感じ始めた。どうやら俺は認知をごまかされていたらしい。やるな婿養子。違和感の正体、それはベッドだった。
認知をした俺は、その瞬間からベッド全体から化粧の匂いとむせ返る様な、行為の際に漂う臭いを感じるようになった。
『これか!』
ベッドの中に腕を突っ込む。瞬間感じる本格的な罠の数々。そして厳重な鍵。ここかよ……。なんだこの厳重さは。罠がの全てが喰らえば致命傷間違いなしのものばかりだな。冗談も過ぎるぞこの罠。どんだけのものを隠してるんだこれ。
『罠を実体化』
キッツいなぁこれ。いやぁやばかったわ。気が付かないで帰ったら本当やばかったわ。まぁ実際のところ明美ちゃんだって、なんならクロもクロだけどな。だがあの様子じゃアレはダミーだな。まさか、アレだけの金をダミーにしてしまうくらいに本物はヤバいのか。
一つ一つ俺の命がかかっているので丁寧に外していく。命もそうだが何よりも外していることをターゲットに気づかれてはダメだ。気づかれれば番人が来る。こんな深いところで番人に来られた日には最悪だ。勝てる気がしないからな。それこそ一巻の終わりだ。
ようやく最後の罠を解除を完了する。いやぁニードルは当たり前、ガスにマヒに最後は爆弾ですよ。死なば諸共じゃねぇか!あんなん爆発したら自分もやばいだろうに。本当に何を抱えてんだよ。このターゲットはよ。
ここをこうして、あーしてどうだ、いやこうでこうか、クハー厳しいなオイ!
慎重に慎重に俺は鍵を開けていく。かなり重たい音をたてて鍵が開く。開いた先からは今までを凌駕するほどの深い闇と臭いが漂ってくる。さて……闇の奥の真相を観せてもらいますか。
【夢の世界:第四層:真相の闇】
扉の奥からは香の匂い。深い闇をまとった煙と共に香が漂う。そして紫色に怪しく照らされた、ベッド寝室。ベッドの上では男女が一糸纏わぬ姿で貪りあっている。十八禁間違いなしの光景が眼前で繰り広げられている。音、匂い、空気どれもが官能的であり、退廃の極みだ。
貪りあっているのは、三輪孝と予想もしていない人物だった。明美ちゃんでも、もちろん奥様でもない。年は三輪よりも二十?いやもっと上なのか?それもそうだ、俺の目の前で俺の存在すら見えないまま、男女の営みを続けているのは、三輪幸子。そう、奥様のお母さまであり、孝の義母だ。
これには俺もちょっと参った。参ったしちょっと色々きつい。二人は枕語りでどんどんお話をしてくれた。出会いから、情事に至った経緯。明美ちゃんはやっぱり隠れ蓑で、二人の関係をカモフラージュするためのモノだった。
使途不明金であまりに言うようなら、厳重注意をして役職を取り上げ、幸子の所持している会社で修行のし直しをする。そんな予定も立てていたらしい。一人で今の家を出させて、同時に幸子も家を出る。二人で家を出て別に既に用意してあるマイホームでめくるめく日々を過ごす。そんな計画だったらしい。
俺の心のメモもメモリー満杯になりそうだよ本当に。さて、ばれないうちに、戻りますか。語った後、第何戦かわからない、終わらないバトルに突入していく二人を後に俺は第四層を抜けて、そのまま現実へと還っていった。
【喫茶:明けの明星】
現実に戻った俺はまず、冷め始めていた珈琲を急いであおるように飲んで、小波渡ちゃんに依頼主へサインを出させる。
依頼者に渡した薬は俺にしか作れない特殊な薬だ。どう特殊かというと、これだけ深い眠りについているのに、耳元でキーワードを言うと目が覚めるという特性を与えたものだ。キーワードは……。
「洋二さん大丈夫です?顔真っ青ですよ?」
「あぁ……ちょっとした悪夢を見たからな……」
俺たちはコーヒー二杯分の料金をレジで払うと外へ出た。午後の日差しが妙に気持ちいい。背をぐっと伸ばして深呼吸をする。本当に悪夢だった。他人様の恋模様、情事なんて他人様の勝手なんだろうけど、アレはちと受け付けなかったな。俺はそのまま事務所に戻って小波渡ちゃんにアレの話をしたところ、俺と同じような顔になって、そのあと報告書を書き終わってからしばらく二人で可愛い動物が沢山映っている映像を見て癒された。
【後日談】
俺の報告書を見た奥様は瞬間で、能面の小面みたいなった後、即、般若と化していた。まさか実母が愛人とは思っていなかったせいもあったのか、一瞬小面で止まったのはそのせいだろう。
奥様はすごかった、書斎のベッドを本人の居ない隙に交換し、DNA鑑定かけて、別宅を不動産資料から割り当て、探り当てた。バレないようにとわざと明美ちゃんの方に網をかけ、段様にはわざと明美ちゃんのことを匂わせて釘を刺す。
そして二人を泳がせて、その完全なる証拠を掴み、最後には二人を放逐した。家もなく金もない状態で。望みどおりに文字通り新しい生活を送って差し上げていた。二人が今後どうなるかは知らないし俺には興味はない。
俺には結構な金額とお礼状が届いた。思ったよりも良い仕事になったようだ。内容は悪夢だったが。おそらくこれは、口止め料も込みだろうな。さて、報酬も入ったし、家賃振り込んでラーメンでも食いに行くか。そう思っていたら、事務所兼、自宅の扉が開いて小波渡ちゃんが入ってきた。
「洋二さんどうやら依頼みたいですよ?」
やれやれ、どうやらラーメンはお預けになったらしい。依頼人はどんな人だろうな。普通の依頼か、それともあっちの依頼か……。
「ようこそ中田探偵事務所へ、まずはお話を伺いましょう。さぁ中へどうぞ……」
※
俺の名前は中田洋二。
歓楽街の裏路地の古いビルの屋上で探偵事務所をやっている。
浮気調査、犬探し、浅いところから深いところまで、何でもやっているが、実は俺には、あまり公にできない、ある能力がある。
それは……夢を観ること……だ。
寝る前に思いつき、そのままの勢いでガッと逃がさないように書いてみました。
どうも久しぶりです。十四年生です。
いやぁお前、他の作品書けよという言葉が聞こえてきそうですが、すみません。
本当最近書けなくて、本当。
なのでこんなんも書く人なんだって思ってもらえると嬉しいかなと思います。
一応短編にしましたが、また気が向いたら書いてみようかと思っています。
感想等ございましたら是非是非よろしくお願いします。
あとなんか評価方法変わったらしいので、ぜひ星ぬってやってくださいまし。
では。十四年生でした。