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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三色の鯉たち

作者: MAI

最後まで書こうとしたんだけれど、

持ち前の持続性の無さの所為で書く事が無くなった作品。

途中でやる気が失せたから中途半端なのも致し方無し。


三色みいろこい」と読みます。

三人の子供と、

「鯉」=滝登りを連想して「成り上がり」という意味で付けました。


後書きにこの作品のメモや設定案(予定だったものも含めて)を載せて置きます。


三色(みいろ)(こい)たち


 その貧民街(スラム)には生きる子供たちから慕われ、同時に畏れられる三人の子供が居た。

 一人を【技の黒】。闇夜に紛れる黒髪に、静寂を宿した薄い青の瞳が特徴的な男児。足が速く、手先が器用であった為に、盗みの実行を任せられた人物。

 一人を【力の赤】。火色に染まる赤髪に、勇気を纏った輝く金の瞳が印象的な男子。力が強く、頑丈であるが為に、争い事を任せられた人物。

 一人を【知の青】。海を思わせる青髪に、冷徹を帯びた深い青の瞳が印象的な男児。地頭が良く、臆病で狡猾だった為に、参謀を任せられた人物。

 各々は生まれて直ぐに親と死別した所為で名を授けて貰えなかったが故に、色で区別された。


 三人は貧民街(スラム)にて頭角を現し、餓鬼たちを纏める長へと格上げされる。教養の無い餓鬼たちにとって、生きる為には知恵が必要であり、力が必要だった。であれば、狡賢い青が、力の強かった赤が長を任せられるのも必然と言える。

 そうなれば何故黒は長足り得たのか。それは、その姿と特技の有用性からである。知を宿し、手先が細かく、足が速い。餓鬼でこれだけの能力が有れば、盗みを日常的に働くと想定した時、その有用性は明確になって来ると思える。


 これだけの能力が有りながら、三人は当初貧民の餓鬼たちには受け入れられていなかった。何故か。それは(ひとえ)に彼らが余所者(よそもの)だったからである。

 黒は戦争に()って滅びた男爵の令息であった。赤は地方で名の知れた傭兵の息子だった。青は亡国の宰相の息子であった。三人は理由は違えど孤児になり、運命の様に出会った。

 三人が初めて巡り合った時、生き延びる事に必死だった故に、(あざむ)き、力で当たり、逃げ回った。しかし、何時しか互いの有用性に気が付き、手を取り合った。三人の違う特性を組み合わせ、利用し合った時、勝てないモノは殆ど無いと(さと)ったから。

 それからである。()ず、目に見えて一日に食べれる量が増えた。これは、青の知略が嵌まり、黒の器用さと素早さのお蔭であると言える。

 二つ目に、安全性が上がった。正確に言うと、黒と青の二人の、であるが。体格も良く力の強かった赤が護衛を努める事で、暴力集団を撃退できるようになったからである。これは黒と青の(もたら)した食料が赤に体力を付けさせ、体重が乗ってこなければ実現できなかった。

 そんな三人組の生活が少数に知れ、恩恵を(あやか)ろうと下に付くと言い寄って行った人たちもいるが、現状得られている物は三人の分だけであり、何よりも、自分たちを(ないがし)ろにしてきた者たちを助けたいとは思わなかった。ただ、もう少し生活に余裕が出来て来た時は、戦力的な意味でそれも良いかもしれないと思った。

 これは、三人が組み始めて半年が過ぎた頃の出来事である。この頃にはもう三人組の事は貧民街(スラム)の餓鬼たちに知らない者はいないと言うほど知れ渡っていた。

 それは少しの切っ掛けだった。黒が都内の商業区の路地裏を歩いていた時の事。一つの寂びれた武器屋の裏口を通った時の事である。黒が其処を通る時、偶然にしても店主と遭遇したのである。罵声の一つでも浴びせられるのではと身構えていた黒だったのだが。可笑おかしなことに、ガタイの良い店主は黒を憐みの籠った眼差しで見つめた後、抱えていた箱から短剣を取り出し、此方(こちら)に差し出して来たのである。お世辞に黒の恰好――何処かで拾ってきた黒い布で身体を覆っている――は良いとは言えない。店主を不思議なモノを見る目で見てしまった黒は仕方が無いだろうに思う。

 店主は黒が短剣を受け取らないと見ると、言い訳する様に捲し立てた。

「警戒するなとは言わんが、信用はして貰いたい。金の事を心配してるのなら気にするな。金を取ろうとは鼻から思っておらんし、払える事を期待していない。何、この短剣は売れ残って廃棄する予定だった(しな)だ。大した痛手にもならん。何よりも、お前には短剣(これ)を遣るだけの価値が有ると判断した。お前は――いや()()()()()、きっと将来大物に成る。言うなれば先行投資だ。――だから、気にせず貰っとけ」

 店主は黒に短剣を押し付けると、箱を持ったまま何処かへ消えて行った。黒は男の背を、行った先を熱心に見つめ続けた。

 (やが)て我に返った黒は、授けられた短剣を手に、二人の許へと帰って行った。


 短剣を貰ってからの事である。何時もは他人(ひと)を騙して金を得ていた青が、大通りにて他人の金を掠め取っていた黒が、赤と揃って貧民街(スラム)を出て行ったのである。それを見張っていた数人の餓鬼が仲間に知らせれば、此処を去るのではないかと大騒ぎである。

 一方、出て行った三人組はと言うと、近隣に在る森へと来ていた。モンスターの溢れるこの世界で、モンスターを定期的に狩って売る事が出来れば、生活が安定し、少しの余裕が出来るだろうと考えた。しかし、最初の内は前よりも収入が落ちるだろうとも考えた。確かに盗みは安定しなく、何よりも危険が伴う。しかし一発当てた時の利益は少なくない。だが、三人組は遣り過ぎたのだ。流石に対策を立てられ始めている。黒が黒一色な為に多く活動する夜の時間帯の警備が厳しくなった。都内の公共施設の壁には必ずと言っていい程青髪の少年に対する注意書きが張ってある。最初はそれ程影響は無かったのだが、次第に住人が理解し始め、何よりも慣れ始めた。黒と青が居る日常に? 違う。では何に? それは――()()()()()()()()()()()()

 だから、鞍替えするのである。盗みから狩りへと。

 貧民街(スラム)で学んだ事は狩りに少なからず流用できる。例えば警戒心を常に持つ事。荒くれ者が跋扈(ばっこ)する貧民街(スラム)()いて、警戒は怠るべきではない。(あぶ)れ者は日々を生きる事に必死だ。他人の死か自分の生かを比較した時に選ぶのは必ず自分である。誰しも人間は自分が可愛い者であり、特別だと思いたいのである。そんな人が何をしてくるかなど、分かったものではない。それを回避する為にも、常の警戒心は必要不可欠なのだ。それは戦場に於いても同じである。貧民街(スラム)で人が一番油断する時は勝つことを確信した時だと学んだ。周囲の安全を確認し安心した瞬間だと学んだ。何よりも、この世に絶対は無いのだと知った。

 三人組は何時もの様に――いや何時も以上に警戒しながら森を進む。人間相手は此処まで警戒する事は滅多に無いのだが、相手はモンスター。まず話が通じない。必要以上に警戒が強くなることに越したことは無い。結果としてそれが命を繋ぐことに繋がるかもしれないから。

 隆起した木々の根が足場を悪くし、生い茂る葉が視界を悪くする。自分たちが鳴らす足音以外の音を聞き漏らさない様に、そして相手に自分たちが居る事が悟らせない様に慎重に行動する。特に黒を護るようにして進む。唯一の武器を持つ短剣を万が一にでも失くせば、獲物を殺す事が出来なくなる。何よりも、獣に襲われた時に対抗することが出来なくなる。三人は理解しているのだ。たった一本の短剣が自分たちの生命線であると。

 葉が日光を遮る為に、木漏れ日でしか光を確保できない、先の見えない闇の中を進む。この時になって何故松明を持って来なかったのかと思ったが、松明を作る為の木の棒は有れど、油が無いと思い直す。

 三人が森に入ってから暫らく経って。黒が僅かな音を耳に捉えた。自分たち以外の何かが居ると理解した瞬間、鞘に収まった剣を素早く滑らす。二人に知らせる必要性は無い。この三人。過ごして来た期間は短いが、経験した質は高い。黒が態々(わざわざ)事を伝えること無くとも、二人は瞬時に悟ってくれると信じているのだ。

 三人は目配せし、獲物に向かう事を確認し合った。慎重に音の発生源へと耳を澄ませる。音の鳴り方的に考えれば此方に気付いて無さそうではある。音は無警戒に、此方へと順調に近付いて来る。三人は顔を見合わせると、頷き合い、付近の草叢や木の裏へと身を潜めた。臭いで気付かれない様にと、念の為に身体を地面に擦り付け、自然の臭いを染み込ませておく。それを見た二人も真似をした。

 軈て、草を掻き分けて姿を現したのは猪であった。しかし、普通の猪ではないと三人は理解した。何故ならば、猪の身体からは赤黒い気が立ち上り、目が赤黒く濁っているからである。

 これは一般的に魔獣と呼ぶ。空気中に漂う魔力――通称魔素によって身体を侵され、細胞が活性化する。魔素に染まった身体から溢れ出る魔力の濃度は、人間に害を齎し、(さなが)ら瘴気である。魔素に脳を支配され、思考を掻き乱し、正常な判断を出来ない様にさせる。それが魔獣化。目が赤黒く濁るのは魔素が頭まで到達している証である。

 多分だが、魔獣は此方に気付いている。魔力よって強化された嗅覚が、人間の隠し切れない臭いを逃す筈がない。この魔獣は知っていて尚此方に近付いた。それが意味する答えは、自分たちの事を取るに足らない相手だと理解しているから。

 魔獣が力を籠めやすくする為に右足で地面を擦り付け、足に慣らす。突進の構えを取れば、頭部と脚部の魔力が一層濃くなり、他の部分の魔力が薄くなった。今更逃げようなどとは誰も考えない。背後を見せた時が死だと分かっているから。勝機と言えば、魔獣が攻撃の姿勢を取った時。攻撃部位へ魔力が移動し、他の部分の魔力が薄くなったこと。攻撃力と引き換えに防御力が下がったという事だろうか。

 今は考えている場合ではない。攻撃の軌道を見極めるのだ。正確に。でなければ、死ぬ。果たして猪が身体を向けた先は――赤だった。三人の中で一番強そうだったから先に処理して置きたいと考えた故の行動か、それとも体が大きく引き締まっているから一番美味しそうで量が多そうだと考えた故の行動か。

 魔獣が地面を強く蹴って赤へと突っ込む。蹴った地面が足型に僅かに凹んでいる。魔力で強化された身体能力が有るからこそ為し得た痕。赤が必死に避けようと身体を動かし始めるが、到底間に合わない。そう理解した赤は腰を落として魔獣を受け止める姿勢を取った。

 魔獣は勢いを加速させ、赤と激突した。口元から覗かせた小さな牙が赤の腹部に突き刺さり、血が滲み出て服を赤く染める。肝心の赤は、腕と脚の筋肉を膨れ上がらせて、押されていはいるものの魔獣の突進を辛うじて受け止めていた。突いた足は地面に減り込んでおり、地面に巡らされている木の根が引っ掛かっていなければ今頃は木に押し潰されていた。受け止めきれている理由はそれだけではない。それだけだったならば上体が持って行かれている。赤の足と腕には薄らと黄色の膜が張っている。恐らく、気付いているのは黒と青だけ。赤は魔獣を受け止める事に精一杯で気を配れない為。魔獣は彼らを(ただ)の獲物としか見ていないが為に。

 赤が士気を上げる為に雄叫びを上げる。

 魔獣が何時までも赤を潰せない事に苛立って吠える。

 赤が気合を入れる為に咆哮を轟かせる。

 生き残る為には魔獣を殺さなければならない。その為のチャンスは多分今の一度きり。このチャンスを放って置いたら死ぬ。赤の叫びが、黒に勇気を与えた。だが――。

 ――汗が止まらない。手汗で濡れた右手を短剣ごと握り締める。

 ――足が枷を付けられた様に重い。震える足を無理矢理にでも前に出す。

 ――命を絶つことに恐怖が湧く。自分が生きる為に、皆で帰る為に。

 魔獣が此方に意識を少し向けるがもう遅い。自分たちを取るに足らぬ相手だと油断していたのが仇となったな。残念だったな魔獣。自分たちは――お前を殺せるぞ。

 魔獣の首回りは太く、とても断ち切れそうにない。心臓なんて以ての外。次に魔獣を一撃で殺せる箇所は脳。しかし、魔力に覆われていて持っている短剣では脳に届きそうにない。だが。

 頭部の魔力で覆われている部分と覆われていない部分の境目に()()()短剣を突き刺す。魔力が少ない部分を突き破り、斜めに入った刃は、濃度の高い魔力に守られた部分の奥に在る脳へと到達した。骨を断ち、肉を裂く確かな感覚。

 本来であれば魔力の薄い部分にも突き刺さりそうになかった短剣がである。刃が魔力を突き破った理由、それは。人間、死を目の当たりにすれば何でもできる。である。その証拠に、黒が握る短剣には黄色い膜が張られていた。

 魔獣の力が急速に失われて行き、軈て力無く横たわる。同時に緊張感が解け、赤は圧倒的な疲労感と負担からその場に倒れ込んだ。黒も刺さった短剣を引き抜き、地面に座り込んだ。

 数分の休憩を経て、黒が静かに立ち上がる。傍では青が赤の介抱をしている。黒は(おもむろ)に魔獣へと近付くと、短剣を引き抜いて解体をし始めた。短剣は解体用では無い為解体作業には向かないのだが、現在持っている刃物は短剣だけなので仕方が無い。

 後ろに居る青が目を見開いて驚いている様子が黒に伝わっているが、殺した魔獣を持って帰らなければ収入が得られない。

 殺してから何分も経っている為、今頃から血抜きを始めても遅く、例え今から血抜きを始めても日が暮れてしまうだろう。だから卸す素材は血による影響が少ない毛皮と、口から覗く牙だけ。肉は剥ぎ取った毛皮の内側で(くる)んで少量だけ持ち帰り、数日の食料にし、余った物は干し肉にして保存する。

 数十分掛けて魔獣を解体し終わった黒は、既に目を覚ましている赤と青と話し合って帰る事にした。戦利品を右肩で担ぎ、もう片方の肩で青と一緒に赤を支えながら進んで来た道を戻る。森の外側を沿って探索していたので幸い早くに森を抜けることが出来た。空が茜色に染まり始めており、暗くなる前に赤を気にしながら急いで帰らなければならない。

 都は広大な面積がある為探すのは苦労がない。それでも、目測で結構な距離が離れており、日没頃までに貧民街(スラム)に辿り着くか着かないかと言ったところ。

 貧民街(スラム)の餓鬼たちは見た。夜の帳が下り始めた頃、例の三人組が猪を担いで貧民街(スラム)に戻ってくるところを。


 その頃から三人の犯行が無くなって行った。代わりに見受けられるのは三人組の少年たちが数日に一度だけ、獣の死体を運び込む姿。

 日々を追うごとに三人組の服装が整い始め、生活が充実して行っている事が窺えるようになる。最初は買い叩かれていた素材も、信用を得始めたのか次第に値段が通常へと戻り始める。公共施設に張られた注意書きも数が減り始め、住人の警戒心が薄まり始める。

 貧民街(スラム)に居る間では再び売り込みが始まっていた。三人が貧民街(スラム)で名を知れ始めた時のを第一波だとすれば、今回の売り込みは差し詰め第二波と言ったところか。

 前から決めていた通り、現状生活に少しの余裕があるので何人かは引き入れていく。ただ、以前よりも少し余裕が持てて来ているだけの為、引き入れる人物は厳選する。何の役にも立たない人物など要らない。ただ飯に有り着こうとしても無駄。足を引っ張ろうとしても無駄。

 判断基準は、戦闘能力が有るか。又、有力な情報を持っているか。知識があるか。の計三つ。更に引き込む上限は六人から九人。何故かと言えば、最初から大人数を引き入れても管理が難しい為。また、赤、青、黒に三人ずつ、又は二人ずつ分配出来る為である。

 それを踏まえた上で、来る子供を厳選して行く。そして最終的には、青に二人、黒に三人、赤に四人と合計八人を選んだ。青に二人しかいないのは、貧民街(スラム)に知的な人物が少ない為。赤が四人と多いのは貧民街(スラム)には暴力的な人が多い為である。

 人材の厳選に四日を費やした翌日。黒は短剣を貰った恩を返そうと、二人にお金と短剣を持ち出す許可を貰ってから例の武具屋へと向かっていった。あの日貰った短剣は、毎日手入れをして、使った日は人一倍手入れをして、目の細かい石で研いで持たせ、大切に使ってきた。本当に、短剣(これ)が無ければ、今は無かったと思っている。

 軈て目に入るのは商業区の大通りに面した立派な面構えの店。今までは其処に存在すると言う知識と、裏からしか見ていなかったが為に、その大きさに圧倒された。

 気圧(けお)されながらも中に入ると、武器や防具が綺麗に羅列された棚が、店内中に広がっていた。出入り口直ぐは通路になっており、正面にはカウンターが設置されている。そのカウンターには、何時か見た大柄の男性が腰かけており、此方に気付くと歯を煌めかせた。

 何時かの時は日が差し込まない路地裏での事だったので大柄な事だけしか分からなかったのだが。左目に付けた片眼鏡(モノクル)や、二メートルに届きそうな身長、筋骨隆々の肉体。日に焼けた肌と、スキンヘッドの頭を持った大柄の男性は、(まさ)しく工房の親方と言った風貌だった。

 何時までも出口で突っ立っている黒を見兼ねて、親方が近付いて来る。

「何時かの短剣を()れて遣った奴じゃねぇか! こんな所に如何(どう)した?」

「短剣の恩を返しに来た」

 そう言って袋に入った硬貨を押し付ける黒。

 それを受け取った親方が。

「律儀な奴だなぁ。金は()らねぇって言ったのによぉ。それに……」

 袋を開けて中身を確認した親方が何かを呟いてから言った。

「(足りねぇんだよなぁ。まぁ、誠意は伝わったって事で……な。)確かに。金は受け取った」

 親方が金を受け取ったことを、短剣の金が足りたと勘違いして一人安堵している黒を、何か思い付いたように話し掛ける。

「そういやお前……祝福の儀は受けたか? ……いや、そもそもお前歳幾つだ?」

「分からない。自我が出来た時には貧民街(スラム)に居たから」

「そうか……。なら、ちょっと視てもいいか?」

 何を視るのかは分からないが、害になるモノではないと信じて、黒は静かに頷く。了承を得た親方は片眼鏡(モノクル)に魔力を流し、片眼鏡(モノクル)の――魔道具に宿る能力を発動させた。

 片眼鏡(それ)は解析の力を宿す魔道具。実用性があり、最も有名である効果を持つ、希少な魔道具。親方の持つ魔道具は遺憾無く効果を発揮した。親方が解析を指定した物は、黒の内蔵する魔力の年代。貧民街(スラム)で育った者に教養を身に着ける場所が無い故に、魔力の使い方を知らなかった孤児の黒だからこそ出来る芸当。魔力は生まれた時から誰でも保有している為に、魔力を魔法や魔術として放出する事を知らなかった黒は、生まれた時のままに残っている魔力を解析出来た。

 魔力を使う為には、魔力が貯まる入れ物の栓を開ける必要がある。でなければ赤ん坊の頃に、自我が薄く制御が出来なくて魔力を常に垂れ流しにし、気絶を繰り返していた。それは、他の力――例えば闘気でも同じことである。あの時は命の危機的状況であったが為に、火事場の馬鹿力と似たような現象が起き、本来は適当な手順を踏んだ上で開ける栓を、無理矢理()じ開けた。ただ、無理矢理栓を抉じ開けた反動で、翌日に黒と赤は苦しむ事になったが。

 解析をし終わった親方が、解析内容を明らかにする。

「……誤差が有るのかも知れんが、お前は八歳だな」

 黒は高価な魔道具を自分に使っていることにも驚いたが、自分の年齢が分かる事にも驚いた。

「じゃぁ、次の質問だ。祝福の儀を――いや。さっきの顔を見る限り知らんな」

「さっきから言ってる祝福の儀って何?」

「ああ、祝福の儀ってのはな。神から祝福を授かる儀式の事だ。貰える祝福は人によって違ったりして、神が個人の経験を視て、個人に合う祝福を授けて呉れるとも言われている。更に言えば、人によって貰える祝福の数も変わってくる。それが必ずしも良いって訳でも無いがな。この祝福の儀を受けれられるのは七歳からって法で決まってる。何故七歳からかってぇと、強力な祝福の力に人が耐えられないからだ。それが耐えられる様に成るのが、大体七歳からってことだ」

 黒は頻りに納得したように頷いている。

「じゃあ、少なくとも七歳には成っている俺が祝福を授かっていないのは――ましてや、祝福自体を知らないのは可笑しなことだと」

「いや、可笑しなことじゃねぇ。悲しい事に、親を早くも失った子は大抵祝福の事を知らない奴が多い。そう言う奴は大人に成ってから授かりに行く奴も少なくないからな。寧ろ、早く知っといた方が、祝福の制御の練習に使える時間が多いから良い。前に張ってあった張り紙を見る限り、お前には仲間がいるんだろ? 早いとこ知らせに行って、授かっちまうのが良いんじゃねぇか? ――あ、でも知らせる前に此処に来い。七歳に成ってないと儀式受けられないからな。(つい)でに身形(みなり)も整えて遣る。そんな汚い恰好じゃ、教会に入れて貰えんかもしれん」

 黒は親方の優しさに感動して泣きそうになるのを堪えて、柄にもなく決意した。この恩は生涯忘れることなく、親方に恩を報いることが出来る様な、立派な人に成ると。そんな決意を胸に、快く店を出て行こうとした――ところで。

「あああ! 忘れてた。お前さん、その短剣をちょっと見せてみろ。状態を見て遣る。帰るのはその後にしとけ」

 この後、短剣が酷い状態だと言われ、これから先どうすればいいのかと内心焦る黒。しかし親方、仲間を連れて来る間に直しておいてくれると言う。

 三人組が親方に返し切れないほどの恩が加算された瞬間だった。

 

 その後、親方の店で三人で行き、身体を洗われて、新しい服を着せられてから祝福を授かる場所だと言う教会へと赴いた。その時にこんな一幕があった。

「お前ら、そう言えば名前なんて言うんだ。呼ぶ時に不便で仕方ねぇ」

 三人は顔を見合わせると、自分たちには名前が無い事を言った。

「そうか。……なら俺が名前を付けて遣る。……黒髪の奴がクロード。赤髪の奴がアーカイン。青髪の奴がブルームだ」

 三人組は名前を持った。安直な名前だが、三人にとって名前を呉れたくれた。それだけで、三人は何かに満たされた気持ちで一杯だった。

 その時に二人の年齢も解析して貰ったのだが、(アーカイン)は九歳で、(ブルーム)は八歳だった。三人揃って祝福の儀を受けられることに喜んだ。

 教会では、正面に掲げられた神像に一人ずつ祈りを捧げて行った。その時に、神が祈りに応えたように天から光の粒子が降り注いだことが、三人にとって驚きだった。

 何時もの住処に帰った後、三人は授かった祝福の内容を知らせ合った。祝福の内容は時に切り札に成り得るから、信頼出来ない奴には隠すか、嘘の内容を伝えろと親方に教わった。親方は信頼出来るし、長い付き合いに成りそうだから嘘偽りなく教えた。親方は困ったようにしていたが、嬉しそうな表情もしていた。

 (クロード)の授かった祝福は二つ。一つ目が【神出鬼没】。気配を自在に消したり、出したりと、自由に操る事が出来る祝福。二つ目が、【明鏡止水】。常に平常を保てるようになり、精神的な攻撃が効き難くなる効果がある。

 (アーカイン)は一つ。【勇猛果敢】と言う(アーカイン)らしい名称である。効果は、自分から進み出て人を護ったり、強敵に攻撃したりする時――つまり勇気を出して行動した時、力の増強や、頑丈さの向上、又自然治癒力も上がる事。

 (ブルーム)も一つ。【解析鑑定】と言う汎用的で実用的な祝福。効果は、物の価値や性能、又は未知の物体の解析を行えると言うモノ。

 祝福のお蔭で、黒――クロードは隠密向きな体系に、アーカインは近接戦闘向きに、青は後衛向きな方向で進めて行くことに決まった。当面の目標は、祝福の制御と、祝福に合った戦闘方法の確立である。


 戦闘方法の確立。それが今後の目標である。実践の前に三人で意見を出し合い、案を出しては消していき、内容を詰めていく。

 クロードの祝福は【神出鬼没】と【明鏡止水】。アーカインの祝福は【勇猛果敢】。ブルームの祝福は【解析鑑定】。色々な案を出したのだが、答えは最初から決まっていたような気がした。クロードは暗殺者兼斥候。アーカインは戦士。ブルームは情報収集。魔法の適性が有る場合は変わって来るが今のところはこれで決定。

 戦闘方法も決まって、三人が実践に移ろうとした時、黒が何かを思い出した。そして赤へ問い掛ける。

「赤、闘気を使った時の感覚、覚えてるか?」

「……無我夢中だったし、その後ぶっ倒れたから詳しくは無理だが、少しは覚えてるぞ」

「なら、その感覚を覚えてる内に習得した方がいいな」

「確かに、その通りだ。青には悪いが、俺も良く分かってない。教えるのは暫らく待っててくれ」

黒:ノワール/クロード

赤:ルージュ/アーカイン/

青:マーリン/ブルーム/ニール


黒:無属性/水属性/風属性/闇属性(闇>無>風>水)

赤:無属性/火属性/地属性/雷属性(無>火>地>雷)

青:無属性/水属性/氷属性(水>氷>無)


黒:俊足/器用

赤:剛力/頑丈

青:知的/狡猾


黒:闘>魔>聖

赤:闘>魔>聖

青:魔>闘>聖


黒:黒髪/青眼

赤:赤髪/金眼

青:青髪/青眼


黒:短剣/投擲/格闘/隠密/魔法/気法/魔纏

赤:格闘/投擲/魔法/気法/魔纏

青:杖棒/短剣/魔法/気法/罠術


黒:滅びた貴族の令息。他国の侵略に対抗した結果、追っ手から逃げ延びた。

赤:一部の地域で名の知れた傭兵の息子。戦争に行った父の背中が最後の姿。

青:滅びた国の宰相の息子の一人。従者の囮のお蔭で逃げ切ることが出来た。


白:名前不明の黒を兄と慕い、妹と自称する女の子。何時の間にか居なくなり、何時の間にか帰って来ては有益な情報を渡してくれる。白髪に赤の瞳をしている。消えては出て来るその性質から、黒の下についている。多分【神出鬼没】、【情報収集】の技能を授かる。


黒:神出鬼没:気配を自在に操る事が出来る。

  明鏡止水:常に平常を保つことが出来る。精神攻撃が効き難くなる。

赤:勇猛果敢:敵対者と対峙する時、力と頑丈さ、治癒力が増す。勇気を得る。

青:解析鑑定:物体を解析鑑定し、情報化する。


日:日が昇り沈んで、次の日が昇った時が一日の終わりであり、同時に新しい日の始まり。

曜日:無⇒火⇒水⇒風⇒地⇒氷⇒雷⇒光⇒闇⇒無…

一週間:九日

一か月:満月から次の満月まで

一年:九か月

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