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超人類   作者: 味ぽん
序章
3/5

決別

 扉を静かに内側に開いた。室内は薄暗く、埃っぽい。もう何年も使われていないからか扉はサビサビで、耳障りな音を立てる。

「淳太ー、いるか?」僕の声は狭いこの室内に吸い込まれていく。

「淳太!」

「あぁ?うるさいなぁ」室内の奥から眠そうな声が聞こえてきた。

「どうした?」室内の電気をつける。

 室内には跳び箱やバスケットゴール、野球ボールなどがある。それらに囲まれるようにして淳太が立っていた。

 僕は淳太を突き飛ばした。彼はバランスを崩してマットの上に倒れた。

「寝起きの俺にこんなことしてくれるなんて、いい度胸してんなぁ」淳太は今にも僕に飛びかかりそうだ。

「テメェ!今まで寝てやがったのかよこんな非常時に!!俺達と合流するって言ったじゃねえかよ!」

 僕が怒鳴り散らかすと、彼は頭を掻いて言った。

「最近のソリトンは手強くなってきたよなぁ」

「意味が分からん」

 彼はまた頭を掻き、面倒臭そうに右腕を差し出してきた。健康的な肌色の色とは不釣り合いに、緑色の血管のような模様が浮き上がっている。

「これは?」僕が問うと、彼は跳び箱に腰掛け、何でもない風に言った。

「“麻酔薬“だ」

「麻酔薬!?」

 僕ら超人類の体質や細胞は、人間とは当然違っている。人間からしたら劇薬だと感じるものが超人類には効かない。麻酔薬などを盛られたところで、僕らには何の支障もない。

 そんな超人類に効く麻酔薬を開発したというのか。

「こいつを見てみろ」いつの間にかパソコンの前に立っていた淳太がディスプレイを指差す。そこには複数の画像が表示されていた。 

 どこかの研究所と思われる一面白色の室内、職員と思われる白衣の人間達が、ベッドに縛り付けられた“者達“を解体していた。

 全裸に剥かれた死者達は皆一様に苦悶の表情を浮かべている。中には幼い少年少女の姿もあった。

 そして一枚だけ、職員の一人を隠し撮りしたものが、職員の白衣にはデカデカとこう書かれていた。“SORITON“

 「で、どうしたんだ?今度はこっちが質問する番だ」椅子にもたれ掛かった淳太が言う

 僕は少し落ち着き、彼に今まで起こった事を説明した。七海が消えた事も。

「ソリトンの連中ますますやる事が過激になってきた。一人の超人類相手にビル一つ吹き飛ばす様なミサイルをぶっ込んできやがった」

「あー、そういえば最近、この近くで立て篭もった奴がいたなぁ」

「それで…」僕は少し間を置く。

「それで?」淳太が聞き返す。

「七海がどこかに消えちまった」

 それを聞いた淳太は、目を大きく見開き、嬉しそうに言った。

 「それは本当か?消えちまったのか、あの女」

 僕の中で何かがぷつりと切れた。僕は彼に飛びつき、鋭い刀となった腕を倒れ込んだ彼の首に向ける。

「おいおい、何でそんなに切れてんだ?」淳太は表情一つ変えない。「お前、俺達の目的を忘れちまってんじゃねえの?」抵抗する事もなく、彼は静かに言った。

「…」僕は答えない。

「あの女が来てからだぞ?俺らの居場所を特定されたり、ミサイルを落とされたのは」彼は両手から真っ赤な網を打ち出し、僕を天井に張り付けた。

「七海がスパイだったとでも言うのかよ!」

「その可能性も捨てきれない」

「ふざけるな!」

 淳太は張り付けられている僕を見上げ、「少し頭を冷やせ…」とだけ言い、出て行った。


 しばらくは何も無い日々が続いたと思う。と言っても、相変わらず毎日のように新たな超人類達が捕らえられているのは変わらないが。

 僕は今日も、ビルの屋上から地上を見下ろしていた。先週のミサイルの事など忘れてしまったかのようにいつも通りの光景。

 相変わらず捕らえられて行く超人類達は両腕に機械をつけられて、装甲車に入れられて行く。その中の一人に目が止まった。僕と同じぐらいの歳だろうか。他にも同じ奴はいるが。黄色い帽子をかぶった少年は、どうやら隊員と揉み合っているらしい。隊員は、持っていた銃を構え、少年を撃つ体制だ。

 一方彼は銃口が向けられたのが分かると、回れ右をして逃げ出した。彼の背中に銃口は向けられている。街は一斉に緊迫モードである。 

 僕はビルから飛び降りた。周りの景色が急速に上へ登って行く。たった数秒の内に僕は地面へと到達した。地面が割れ、凄まじい音が鳴る。目の前には銃を構える隊員。こちらには全く気づかない。二人のうち左の方の隊員を連れて行くことに決め、頑丈な軍服の裾を掴むと、もといたビルに戻るようにジャンプした。

 景色の急激な変化にようやく気づいた隊員は足元を見ながら叫んでいる。

「な、何をする!?放せ!!」

「え?話していいの」僕は隊員を放した。

「ぎゃー!!!」真っ逆さまに落ちて行く。

再び彼をキャッチして、ビルの屋上に戻る。

「何が目的だ?」震える声で隊員が言う。

「お前たちの所に七海雫って子が連れてかれただろう?居場所を教えろ」隊員の胸ぐらを掴みながら言う。

 生まれたての小鹿のように震えながら隊員は言った。「それには答えられない」と。さっまで生にしがみついていた必死な表情とは裏腹に、その目は諦めの目をしている。訳が分からず、今度はこちらが動揺してしまう。

「何故、答えない?」

「殺せよ」彼はただ微笑する。それは自殺する人間と同じ顔だった。

 どういう事だ。七海の名前を出した時のこいつの反応は。何が起きているんだ。彼女は無事なのか。

 僕は右手を振りかぶった。隊員は目を閉じてその時を待つ。右手を振り下ろす。彼の首の裏に手刀をうち、気絶させた。殺せなかった。僕に殺しなんて無理だ。

 隊員の服を見るに、隊の隊長らしい。胸元のファスナーから、無造作に捻じ込まれたであろう紙が一枚はみ出していた。どうやら何かボールペンで走り書きしてあるらしい。

 隊長をその場に寝かせ、そのメモを読んだ

 『七海雫を見つけ次第すぐに殺せ』 

 なんだこれは。七海雫。何故。何故紙で。何があった。雫。雫。雫。

 横で夢心地に浸っている隊員をもう一度起こそうとした時だった。地上がやけに騒がしい事に気が付いた。街の人間が何やら慌しく逃げ回っている。先程隊員をさらったのは見られていただろうが、それにしても騒ぎが大きすぎでは無いだろうか。  

 増援が来たようで、複数人の隊員が市民をかき分け、僕の前方にあるビルに照準を合わせている。ビルにはまだ人が残っている。職員や客が入り口から我先にと外に出ようとしている。

 その時、入り口手前にいた人間が消えた。隊員も、その光景をビデオ撮影です撮影していた市民も、唖然としているなか,僕はビルの中で巨大な影が動くのを見た。

 それは手だった。真っ黒に焦げたような巨大な手が、何かを無数に外に放り投げる。建物内から逃げようとしていた人間達の生首が宙を舞い。集まっていた群衆の中に消えた。

 集まっていた群衆はすぐさま叫びながら散り、あとは物好きだけが残った。

 先頭にいた隊員から少しずつ前に出て行く。先頭の隊員が室内に入ったと同時に、物凄い轟音が鳴り響いた。それは、声だった。人間の叫び声としか思えないおぞましい声。

 「あああああああああああああああ!!!」

 大勢の隊員達と野次馬共が一斉に後退し始めた時、今度は物凄い音を立ててビルが崩れ始めた。お腹の中の赤ん坊が暴れて腹が裂けるみたいに、徐々にヒビが入って行く。

 中から現れたのは、、、、人間だった。

 まるで栄養失調とでも言うくらい痩せ細って、骨にそのまま皮を付けた様な不気味な身体つきが気持ち悪い。更に拍車をかけるように巨人の顔面は、殆ど骨が剥き出しで、僅かに張り付いた肉が所々にある。

 ギロリと、巨人の濁った目玉が足元の人間を見下ろす。隊員達はすぐさま発砲した。だが、やはりそんな物は効きやしない。

「あああああああああああああああ!!!」巨人は叫び、反撃を始める。巨大な手に何人もの隊員が捕らえられてヤツの口に放り込まれて行く。

 僕はケータイを取り出すと、カメラモードに切り替えて複数枚の写真と動画を淳太に送信した。すぐに既読が表示されて、彼からビデオ通話の招待。表示を押して通話モードに。

 「こりゃ一体どうなってやがるんだ?」開口一番に淳太が言う。

「そんなの僕が聞きたいよ。急に現れたんだ。ビルの中でスタンバっていたわけじゃないと思う。奴が現れるまで騒ぎは起こっていなかったし」

「変身でもしたのか?」

 淳太の言葉に僕は黙る。超人類いなのか。あれが。

 僕の沈黙を淳太が破った。

「まあ、何だろうとこのまま放置して、そいつが人間共を減らしてくれるのを待つか」彼は平然とそんなことを言う。

「殺さなくてもいいだろ。まだ他にも方法があるはずだ。人類全てを超人類にする方法があるはず」

「ねえよそんな物は。完全に人間が消えるまで俺たちに居場所はない。七海の奴に何を吹き込まれたのかは知らないが、最近のお前の言動はおかしい。邪魔するのなら消えて貰って構わない」

「お前は平気で人間を殺すってのか?自分の目的の為なら」僕は語尾を強くして言った。

「当たり前だろ?忘れたのか?奴ら人間共は俺たちを迫害し続けてきたんだぞ?力を使ってもいないのに、超人類だと分かればまるでゴミを捨てるかの様に社会から切り捨てる。

 それでも力を使う事も出来ずに影に隠れながら生きている奴らもいるんだ。なら、力を使える俺たちが動くべきだろ。人間を消して俺たち超人類だけが生きる世界にするしかないのさ」淳太はそう言い捨てた。

 家族の顔が頭を過ぎる。皆んな泣いてくれた。どうか連れて行かないでくれと、彼らは懇願してくれた。今彼らに会ったらどんな反応を示すんだ。分からない。いや、考えたく無い。

 そんなはずない。彼らが僕を拒絶するなんてあり得ない。そう自分に言い聞かせて来たが、実際は怖いのだ。変わってしまった僕を見た時の彼らの反応が、怖くて仕方がない。

 「嘘だろ…あいつ施設に入れられたんじないのかよ」「この化け物が!」「何で来たの!?」僕を軽蔑の眼差しで見つめながら蔑む家族、友人達の声を夢で何度も見るようになった。僕にはもう居場所が無いのか。待て待てネガティブになっているだけだ。ソリトンの奴らを倒して、家族に会いに行く。そこで確かめてやる。

 「じゃあな」一言だけ言い、通話を切った。巨人が目の前に立っていたのもあるが、同時に淳太との関係を完全に断つためでもあった。長ったらしく話してても、どうせ丸め込まれるだけだから。

 「さぁて、やろうか」


 巨人の動きは、その馬鹿でかい身体からは想像も出来ない程速かった。一瞬で目の前に現れた巨大な拳に、僕は「へぇ?」という間抜けすぎる声を出し、正面からもろにそれを食らってしまった。

「!!!」何とか殴られる瞬間に身体を硬化させたとはいえ、その凄まじい衝撃に耐えられず、後方のビルの室内までぶっ飛ばされた

 窓ガラスを割り、真っ暗なオフィスの床に転がる。

「あ…ああぁ」全身に激痛が走り、転がったまま立つことができない。頭がぐらんぐらんと揺れている。

 「は…あ…!!」拳に力を込めて、ガタつきながら何とか立ち上がる。その時。

 「あああああああああああああああ!!!」あのおぞましい叫び声が、さっきいたビルの向こうから聞こえる。

 地面が連続的に揺れる。それとともに響く地面を踏み締める音。叫び声。

 轟音を鳴らして、目の前のビルが崩れ去った。落ちて行くビルの破片の中から現れたのは巨人だ。叫びながらこちらに走ってくる。

「ちくしょう…」その場に崩れてしまった。身体全身が震えている。

 拳を握り、何とか立ち上がる。迫りくる黒い影は、段々と大きくなって行く。心臓の鼓動が早まる。恐怖感がこみ上げてくる。

「うぉぉぉ!!!」僕は叫び声、両腕に力を集中させた。火事場の馬鹿力なのか、いつもよりも大きなブレードが生成された。そのまま奴に向かって地面を蹴った。

 ビルの窓を飛び越えて高さ100メートルの空中に投げ出された僕を待っていたのは、奴の巨大な拳だった。


 

 



 




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